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同時多発位置差攻撃に対する効果的なブロック戦術を、戦術トレンドの変遷を踏まえ思考してみる 〜リードブロックにおいて反応すべき選択肢を適切に減らす方法〜

同時多発位置差攻撃に対する効果的なブロック戦術を、戦術トレンドの変遷を踏まえ思考してみる 〜リードブロックにおいて反応すべき選択肢を適切に減らす方法〜

日本バレーボール学会 第25回大会 一般研究発表(2020/03/08)にて発表したスライドです。

(バレーボール研究, 22(1), 73, 2020)
http://jsvr.org/archives/pdf/issue/22/jsvr22pp73-83.pdf

動画解説版は現在作成中(お待ち下さい)

Toshiki WATANABE

February 12, 2023
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Transcript

  1. 背 景 ‣ 現在のブロック戦術の基本は、リードブロックである。 ‣ リードブロックでは、セットの行方を確認してブロックに 跳ぶため、攻撃選択肢の数とブロック反応時間との間に、 Hickの法則が成り立つと考えられている。 “Hickの法則” ‣

    現在の標準アタック戦術である 同時多発位置差攻撃に相対する 場合、ブロッカーが反応すべき 「選択肢=4」ゆえ、ブロック 反応時間は0.4秒以上もかかる ことになってしまう?! ʰӡಈֶशͱύϑΥʔϚϯεʱʢେमؗॻళʣ Ϧνϟʔυɾ̖ɾγϡϛοτஶɾௐࢬ޹࣏؂༁
  2. ‣ セッター位置に隣接するスロットからのクイック(Aまた はCクイック)の場合は、セットアップからボールヒット までの経過時間が0.3〜0.4秒程度と報告されている。 ‣ 1st テンポの助走動作で、4人のアタッカーが攻撃参加する 同時多発位置差攻撃に対して、リードブロックで対応する のは ʰόϨʔϖσΟΞվగ൛7FSʱʢ೔ຊจԽग़൛ʣ

    のは、テンポの概念から 考えても理論的に不可能 であり、2019年時点で 同時多発位置差攻撃に対 抗できるゾーンブロック 戦術は、いまだ確立して いない。 ੢ത࢙Β  ੈքҰྲྀஉࢠηολʔʹΑΔίϯϏωʔγϣϯ߈ܸͷτεٕज़ʹؔ͢Δݚڀ όϨʔϘʔϧݚڀ    ڮݪ޹തΒ  όϨʔϘʔϧஉࢠੈքτοϓϨϕϧνʔϜͷઓज़ϓϨʔʹؔ͢Δݚڀ όϨʔϘʔϧݚڀ   
  3. 1990年代〜2006年頃まで、各国が繰り出していた「4人攻撃」 は、現在の同時多発位置差攻撃とは違って、 SLOT  6 5 4 3 2 1

    1 2 3 4 5 6 7 8 D E 2 1 0 A B C 7 6 5 4 3 6 7 0 1 2 3 4 5 E D C B A ◎ S 前衛MBがマイナステンポで助走し、他のアタッカーが1st ないしは2nd テンポで助走するパターン セッターが向いた側のスロット3ヶ所と、背中側のスロット 1ヶ所(スロットC)から攻撃を仕掛けるパターン 2nd 1st 1st 3ヶ所 1ヶ所 minus TEMPO SLOT が主流であった。
  4. 結 果 《 イタリア男子 》 ‣ 1990年代のイタリアは、バンチシフトを徹底して用いる ゾーンブロック戦術を採用していた。 SLOT 

    6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 6 7 0 1 2 3 4 5 E D C B A ◎ S LB CB RB ‣ 相手のセッター位置に 隣接するスロットから のクイックに対して、 バンチで構える3人の ブロッカーがリードで 反応し、3枚ブロック を形成していた。 ‣ クイック以外にセットされた場合は、センターブロッカー はリードで反応、もしくは二度跳びで対応していた。 《 バンチシフト 》
  5. 1990年代のイタリアから得られるヒント 1990年代のイタリアは、相手のクイックに対し、ブロッカー3人 がバンチシフトからコミットせずに対応できており、 SLOT  6 5 4 3 2

    1 1 2 3 4 5 6 6 7 0 1 2 3 4 5 E D C B A ◎ S LB CB RB ①ブロッカーは「クイック にセットされるかどうか」 をまずは見極め、 ②クイックに上がれば3人 がその場跳びでジャンプ ⇒「クイックに上がらない」と判断できた時点で改めて、他の3人 のアタッカーを選択肢に入れる、という二段階の反応をしていた、 と考えられる。 《 バンチシフト 》
  6. 結 果 《 ブラジル男子 》 ‣ 2000年代のブラジルは、相手コートのレフト側に片寄る デディケートシフトを徹底して用いるゾーンブロック戦術 を採用していた。 SLOT

     6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 0 1 2 3 4 5 E D C B A ◎ S LB CB RB ‣ スロットCからの攻撃 に対してデディケート からレフトブロッカー とセンターブロッカー がリードで反応して、 2枚ブロックを形成し ていた。 《 デディケートシフト 》
  7. 結 果 《 ブラジル男子 》 ‣ スロットC以外のスロットにセットされた場合は、 ‣ スロット1からの攻撃に、レフトブロッカー(LB)が ‣

    スロット2のビック・パイプに、センターブロッカー(CB)が ‣ スロット5からの攻撃に、ライトブロッカー(RB)が SLOT  6 5 4 3 2 1 1 2 3 6 7 0 1 2 3 4 5 E D C B A ◎ S LB CB RB 「1対1」で対応している ように伺えた。 3ヶ所 1ヶ所
  8. 考 察 ‣ ヒトがなんらかの刺激に対して反応する際、刺激が提示されてから 反応が生じるまでの時間は、刺激の数や反応後の課題の内容により 変化する。1つの刺激に対する反応時間( 単純反応時間 )より、 複数の刺激がある場合の反応時間の方が、一般に長くなる。 ‣

    刺激が多数ある場合、1つだけに反応してそれ以外には反応しない 場合の反応時間( 弁別反応時間 )と、各刺激ごとに別々の反応を する場合の反応時間( 選択反応時間 )があり、前者に比べて後者 の方がさらに長くなることを、Dondersは報告している。 ‣ またHenryらは、反応後の課題が複雑になるほど、反応時間が長く なることを報告している。 Henry, F.M, and Rogers D.E.(1960): Increased Response Latency for Complicated Movements and A “Memory Drum” Theory of Neruromotor Reaction. The Research Quarterly, 31, 448-458 Donders, F.C.(1969): On the speed of mental processes. Acta Psychologica, 30, 412-431 単純反応時間 < < 弁別反応時間 選択反応時間 単純反応時間 弁別反応時間 選択反応時間
  9. 考 察 相手の「4人攻撃」に対抗する際、 ‣ 1990年代のイタリアは「 クイック と それ以外 」の2つに弁別 することで、反応すべき選択肢を減らすとともに、クイック以外

    の攻撃に対して、一段階目では反応しないようにすることで、 0.3〜0.4秒で打たれる当時のマイナステンポのクイックに対する 反応時間( に相当)を短縮するのに成功していた、 と考えられる。 ‣ 2000年代のブラジルは「 スロットCからの攻撃 と それ以外 」 の2つに弁別することで、反応すべき選択肢を減らすとともに、 スロットCにセットされない場合は、セットの行方を判断せずに その場跳びでジャンプすることでプレーを単純化し、クイックに 対する反応時間を短縮するのに成功していた、と考えられる。 弁別反応時間 反応すべき選択肢を適切に減らせていたか?
  10. 今 後 の 課 題 2010年代に入ると、同時多発位置差攻撃にも質的な変化が伺える ようになり、具体的には、 ౉ลणن ࠤ౻จ඙ ख઒উଠ࿕

      ຊ౰ʹ଎͍τε͸ඞཁͳͷ͔ʁ όϨʔϘʔϧݚڀ    Photo by FIVB 《 World Cup 1999 》 《 World Cup 2019 》 クイックの助走・踏切の タイミングが遅くなり、 セットアップからボール ヒットまでの経過時間が 0.5秒を超えるクイック が増えてきている。 そのため、「クイックに上がらない」という判断を早い段階で行う ことが、容易ではなくなった。
  11. SLOT  6 5 4 3 2 1 1 2

    3 4 5 6 7 8 D E 2 1 0 A B C 7 6 5 4 3 6 7 0 1 2 3 4 5 E D C B A ◎ S 1st 1st 2ヶ所 2ヶ所 こうした2010年代以降に生じた、同時多発位置差攻撃の質的変化 にも関わらず、World Cup 2019 男子大会でデディケートシフト が再びトレンドとなってきており、ブロック戦術の世界のトレンド について、今後も継続的に研究していく必要があると考える。 セッターの背中側2ヶ所の スロットから、アタッカー が攻撃参加するパターンが 増えており、デディケート して相手セッターが背中側 にセットするのを見極めら れても、選択肢が絞れなく なっている。 さらに、4人のアタッカーが助走に入るスロットの組み合わせも、 従来から変化が生じ、 https://note.com/suis_vb/n/n72efe9a63a19ɹhttps://note.com/suis_vb/n/n6d7ee9f13497 1st 1st