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自動潅水システムの遠隔監視と UECS の活用 〇眞崎 康平 1),中村 真理 1) 1) 株式会社 B&B Lab. 〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神2丁目5−28 西通りセンタービル 6F 要旨 自動潅水については, 農業人口の減少や高齢化に伴う人手不足により高いニーズがある. 新規設備については 補助金の活用が容易であり導入が進みつつあるが, 既設のビニールハウスに対しては補助金の適用が難しく, 導 入が遅れているのが現状である. また, 工事の部材費および人件費が導入費用の大部分を占めるため費用負担が 大きく, さらにシステムに不具合が発生した場合には潅水が滞り, 収量低下や全滅といった重大な被害を招くお それがある. このような開発および保守上のリスクが, システムやサービスの開発, 導入の障害となっていること が明らかとなった.本報告では, 遠隔監視が可能な自動潅水システムの開発を行い, 生産現場への導入および運用 において明らかとなった課題と, それらの課題解決に至るプロセスについて報告する. キーワード 自動潅水, 遠隔監視, スマート農業, ユビキタス環境制御システム(UECS) 緒言 自動潅水のニーズについては, 土壌水分などの環境計 測データを用いた最適潅水による収量増大や品質向上も 生産者の関心を集めているが, 喫緊の課題としては潅水 管理にかかる労力負担が大きく, 省力化へのニーズが高 い. 図 1 自動潅水導入導入圃場例(福岡県) 一例として, 図 1 に本報告で取り上げる導入圃場の事 例を示す. 導入前は 16 箇所の手動バルブを, 収穫後など のタイミングで順次開閉し潅水する必要があり, 1 箇所 5 分の潅水でも合計約80 分, 作業全体では2 時間近くを要 する負担の多い作業となっていた. しかし, 既設設備で あることから補助金の活用が困難であり, 市販の自動潅 水システムも高額なため導入は見送られてきた. 本報告の導入事例では, 以下の 3 つの工夫により低コス ト化を図り, 福岡県内のアスパラ農家 2 軒への導入と実 運用を実現した. 1. 低コスト化を意識した潅水コントローラの開発 2. DIY 工事が可能な DC24V 駆動の電磁弁の採用 3. 安価な中国製電磁弁の活用 本報告では, 上記 1 の潅水コントローラの概要と, 実際 の運用時に明らかとなった課題, および遠隔監視と組み 合わせた場合の課題解決について述べる. システムの概要 本報告で導入したシステムの外観を図 2 に示す. 図 2 自動潅水コントローラ及び、現地の設置状況 開発した自動潅水コントローラは, 最大 16 個の電磁 弁制御, 潅水ポンプ制御, 送水端圧力を検出するための

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圧力センサインターフェイス, システムの電源電圧およ び消費電流のモニタ, Ethernet インターフェイスを搭載し ている. WiFi ルータと併用することで, タイマー潅水の パラメータ設定をスマートフォンやタブレット端末から 行うことが可能である. また, 稼働状況は自動潅水コントローラからMQTT プ ロトコルを用いて農場ネットワーク内の LTE ルータを 介し, クラウド上の可視化システムに送信することで遠 隔監視を実現している. 稼働状況の遠隔監視 図 3 に、潅水システムの可視化の例を示す。 図 3 潅水コントローラの稼働状況及び 環境センシングデータのクラウドでの可視化例 クラウド側では, 自動潅水に関して以下の要素をモニタ している. ・バルブおよびポンプの制御指令 ・システム電圧, 消費電流 ・圧力センサの指示値 本システムでは, 自動潅水動作に加え, 手動スイッチ盤 による手動操作も併用している. また, 工事の進捗の都 合により, 本報告の段階では全16 か所中8 か所のみの導 入に留まっているが, 圧力センサの指示値および消費電 流のモニタ結果から, 手動バルブ操作の状況も遠隔で推 定可能であることが確認されている. 図 4 潅水稼働時の水圧の推移 図 4 に潅水システム稼働時の水圧推移を示す. 導入当 初(2 月 10 日〜2 月 18 日)は水圧が十分に上がらず, 潅 水チューブでムラなく潅水できる圧力が得られなかった. その後, ポンプ下流に設置されたストレーナーをユーザ が洗浄した結果(2 月 25 日以降), ムラなく潅水可能な レベルまで圧力が回復していることがデータから確認で きる. また, バルブおよびポンプ制御はコントローラか らは行われていないものの, 消費電流の推移からモータ 制御用の電磁接触器が手動スイッチにより作動し, その 結果として圧力変化が生じていることがモニタされてい る. これにより, 自動化未導入箇所における手動弁操作 も遠隔で推定可能であることが明らかとなった. ユビキタス環境制御システムとの連携 ここまでで潅水コントローラ単独での動作について述 べたが, 本節ではユビキタス環境制御システム(UECS) を併用した場合の潅水遠隔監視の活用について述べる. 土壌水分や日照量に応じた潅水量最適化については, 既 に各社で製品化が進んでいるため詳細は割愛するが, そ の際に必要となる流量の計測には課題がある. 流量計に よる直接測定は可能であるものの, 流量計のコストや保 守, さらに圧力損失といった導入上の障害が存在する. これに対し, 各ハウスの電磁弁直後, 潅水ホース手前に 圧力センサを設置し, UECS ネットワークを介して圧力 データを取得する方法が考えられる. この場合, 潅水コ ントローラ側で取得した送水端圧力との差分により管路 内の圧力損失を実測できる. 流量は圧力損失の平方根に 比例するため, 事前に較正を行うことで流量推定が可能 となる. 圧力センサは流量計に比べ安価かつ設置も容易 であり, また潅水ホース手前の圧力情報は潅水状況の把 握や, フィルタ, 潅水ノズルの保守にも有用である. し たがって, UECS 対応の圧力センサノードの開発と, その 有用性の検証が今後の課題である. さらに, 現状の潅水ポンプは ON/OFF 制御であり, 複数 ハウスのバルブを手動で開閉して圧力調整を行っている が, ポンプにインバータ制御を導入することで, 圧力調 整の自動化が可能になると考えられる. インバータは工 場ラインのリユース品が 1 万円前後で入手可能であり, RS485 等の汎用プロトコルに対応したインバータ制御用 UECS ノードの開発も有効と考えられる. また, 稼働状況の監視については, 利用者が関心を持つ のは「正常に動作しているか否か」の情報である. よっ て, 圧力推移などから正常稼働を判定し, LPWA 等の安 価な無線ネットワークを用いてクラウド経由で, LINE 等 の一般的なメッセンジャーによる通知を行うことが現実 的である. この機能を実現するためには, UECS ネットワ ーク内のデータから稼働情報 (正常/異常/健全度等) を生 成し, LPWA 等を介してクラウドに送信するゲートウェ イの開発が有効と考える. 謝辞 本報告の開発にあたり, ご協力いただいた福岡県三潴 郡大木町の熊丸様には, 数々のご指摘とご助言を賜り, この場を借りて深く謝意を表する.