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1 73万⼈のクリエイターを抱えるサービスが、 「画像⽣成AIを使ってTシャツを作る機能」を リリースする覚悟を決めた話 SUZURI事業部 プロダクトマネージャー 牧⼭ミルテ

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2 ⾃⼰紹介 SUZURI事業部 プロダクトマネージャー 牧⼭ ミルテ Mirute Makiyama 新卒でCtoCのスタートアップにディレクターとして⼊社。 以降エキサイト株式会社、Radiotalk株式会社を経て、 2020年11⽉よりGMOペパボ株式会社に⼊社。 現在はオリジナルグッズ作成‧販売サービス「SUZURI byGMOペパボ」のプロダクトマネージャーとして従事。 ● X(Twitter) : @_mmakiyama

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4 今⽇伝えたいこと: 「逆⾵のなかでも、チャンスを逃さずやりきることの⼤切さ」

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5 アジェンダ 1. スリスリAIラボについて 2. リリースまでの3つの壁 3. リスクとどのように向き合ったか 4. リリース後の各所の反応 5. まとめと学び

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1. スリスリAIラボについて 6

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1. スリスリAIラボについて ● 画像⽣成AIを⽤いて簡単なテキストか ら画像を⽣成 ● ⽣成した画像でそのままグッズを作成 ‧購⼊することができるiOSアプリ限定 機能 ● グッズは⾮公開‧⾃分買いのみ可能 7 スリスリAIラボとは

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1. スリスリAIラボについて ● ChatGPTをはじめとする⽣成AIサービスの認知があがり、世間でもAIを活⽤したサービスや機 能がどんどん⽣まれている時期 ● ペパボにおいても、「AIへの取り組みを全社的に率先して進める⽅針」が社⻑から共有された り、ペパボのミッションでもある「⼈類のアウトプットを増やす」をAIを使って実現するため の全社的な開発合宿が開催されるなど、会社としてもAI活⽤に⼒を⼊れていた ● テキスト⽣成AIの機能はだいぶ浸透する中、画像⽣成AIを活⽤するケースはまだ少なかった ● こうした流れの中、アプリチームで何かアウトプットを増やすことに寄与できることはないか 考える中、画像⽣成AIを活⽤した機能(スリスリAIラボ)の案がでた 8 スリスリAIラボの案が生まれた当時の状況(23年3月頃)

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1. スリスリAIラボについて 9 スリスリAIラボを通じて実現したかったこと ● ⾃分の頭にあるアイディアを形にし、それをTシャツにするという体験を通じて、 「アウトプットすることの楽しさ」を感じてもらう ● 「絵が描けないからグッズは作れない」と思っている⼈に、SUZURIでグッズを作 るおもしろさを体験してもらうためのハードルを下げる 画像⽣成AIの活⽤は新たにアウトプットする⼈を増やす⼤きなチャンスであり、 「ものづくりのハードルを下げる」というサービスの提供価値とも確実にマッチしていた。

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1. スリスリAIラボについて 10 10 ※23年11⽉末現在 「画像生成AI」という特性上、さまざまな「壁」があり、 それを突破するための「覚悟」が必要だった

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2. リリースまでの3つの壁 11

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12 2. リリースまでの3つの壁 壁1:既存ユーザーの感情 壁2:炎上リスク 壁3:事業部の温度感 ・SUZURIというサービスを成立させてくれている方々の大半はイラストレーター ・画像生成AIに対してネガティブな感情を持たれている方も多い ・トレンドには定期的に「画像生成 AI」というワードが飛び交う ・たいていが他社企業の画像生成 AIの取り扱い方に対する批判 ・近隣界隈のサービスが一律で画像生成 AIを禁止するといった状況を鑑みて、クリエイターを多く抱える サービスだからこそ「画像生成 AI」そのものに対して当初は事業部としても慎重姿勢だった

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13 無理かも😢 2. リリースまでの3つの壁

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● ⼀旦やめて、もう少し画像⽣成AI界隈の議論が落ち着いた頃に再度チャレンジする? ● クリエイターにとって作業が楽になったり、何か補助となるような機能を考え直す? 考えたこと SUZURIだからこそ実現できる価値提供と、AIの波による空前のチャンスを⽬の前にしつつ、 「炎上するかもしれない」という理由で諦めることへの葛藤との戦い 2. リリースまでの3つの壁 新たな視点を求めて、CTOに相談してみた

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15 2. リリースまでの3つの壁

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16 覚悟を決めました 2. リリースまでの3つの壁

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3. 壁とどのように向き合ったか 17

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3. 壁とどのように向き合ったか 壁1:既存ユーザーの感情 18 SUZURIが創作活動を軽視している / イラストはAIによって代替可能だと思って いる といった誤解が⽣じないよう、「つくること」にリスペクトを持った コミュニケーション設計にする

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決めたこと 19 「完成した作品」 という扱いにしない ⾃分だけで楽しめる 機能にする 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 20 名称の⼯夫 あえて「ラボ」というワードを使い、 「創作活動」ではなく、 「あくまで実験である」「試してみる」 というニュアンスをつけることで、 イラスト制作と同列の⾏為としない⽴ち位置にした 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 21 機能の⼯夫 ⾮公開‧⾃分買い専⽤とすることで、 収益を得る要素をなくし、 かつ、他のイラストと並んだり、⼀覧ページ がAI作品で埋まらないようにした 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 22 実際にクリエイターに聞いてみる 懇親会など直接SUZURIクリエイターの⽅とお話しできる機会に、機能のプロトタイプを ⾒せて率直な感想をヒアリング。 「SUZURIはたくさんのグッズがあるからこそ、AIで欲しいものを作るのではなく、 マッチングを優先してほしい気持ちがある」 → この意⾒をきっかけに、「絵が描けなくても理想のTシャツが作れる」ではなく 「アイディアを形にする」といった実験的ニュアンスのアプローチに変更。 3. 壁とどのように向き合ったか

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壁2:炎上リスク 23 多くのクリエイターが何に対して不快感‧不安感‧危機感を持っているのかを 咀嚼して⾔語化し、そうした気持ちに対して適切に対応できるようにする 3. 壁とどのように向き合ったか

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決めたこと 24 SUZURIのスタンスを ⾔語化する 権利侵害‧悪⽤の 余地を最⼩限に 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 25 「SUZURIのAI憲章」を 社内向けドキュメントとして作成 画像⽣成AIに限らず、AIに対してSUZURIは どう考えているのかを⾔語化することで、 外部へのアウトプットや問い合わせに対す る回答などの思想を⼀貫させる 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 26 権利侵害リスクを最⼩限にする⼯夫 ‧ユーザーができることは「テキスト⼊⼒(上 限100⽂字)」「スタイル選択」と最⼩限にし つつ、いかに楽しい体験を提供できるかを重 視。 ‧⼊⼒されたプロンプトはDBに保存、⾃分買 いの注⽂が⼊った際は類似性‧依拠性を確認で きる体制に。 3. 壁とどのように向き合ったか

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壁3:事業部の姿勢 27 なぜ今やるべきなのか、考えられるリスクは何か、リスクに対してどのように対処 するのか、について⽬線を合わせ、ステークホルダー全員と同じ⽅向を 向ける状態にする。 3. 壁とどのように向き合ったか

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決めたこと 28 雰囲気で妥協しない 「意⾒を通すこと」を ⽬的にしない 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 29 完成物のイメージを合わせる 実際にどんな機能になるのかイメージの共 有をすることで、ユーザーがどのような使 い⽅をするのかの解像度をあげる 3. 壁とどのように向き合ったか

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実際にやったこと 30 画像⽣成AIをめぐる議論について、 解像度を揃える 議論の論点、炎上事例と要因、他社の対 応となぜその対応なのかを整理‧説明 し、全員の前提知識を揃えた上で、公平 な議論ができる状態へ 3. 壁とどのように向き合ったか

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31 既存ユーザーの感情の壁 炎上リスクの壁 事業部の温度感の壁 無事に乗り越えリリースへ... → 機能の⽴ち位置を明確にし、考えうる最適解を出せた → SUZURIとしてのスタンスや、懸念事項への対策体制が整った → 同じ⽅向を向いて、ここからどう進めていくかを話せる状態に 3. 壁とどのように向き合ったか

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5. リリース後の各所の反応 32

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33 33 リリース後の反響 ● 少なからずネガティブな意⾒もあったが、⼤半はSUZURIユーザー以外 の声だった ○ もちろんユーザーの⽅からの不安の声もあったため、そういったご意⾒は真 摯に受け⽌めた ● クリエイターの中には楽しんで使ってくださる⽅も多く、⼼配していた 退会数等にはほとんど影響はなかった 5. リリース後の各所の反応

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5. リリース後の各所の反応 34 34 リリース後の反響 ※23年11⽉末現在。機能のリリースは23年7⽉。 作られたイラスト   3万枚 グッズ作成数    2,000個 メディア掲載     57件 引用元 :https://news.yahoo.co.jp/articles/63013d1941dfc25515c607880aee36ae85109bfc https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC038FM0T00C23A8000000/

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5. リリース後の各所の反応 35 35 社内の反響 壁を乗り越えた点が評価され、 GMOグループで開催されているAI開発の コンテストで⽉間‧四半期優秀賞を獲得

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36 “ SUZURIのように、開発チームが強いからこそできる スリスリAIラボのような新しい取り組みを今後も期待している” 印象的だったあるクリエイターさんのひとこと 5. リリース後の各所の反応

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37 今後について 5. リリース後の各所の反応 ● AIはクリエイターの「代替」となる存在ではなく、あくまで⼈間の創作 活動を⽀援していくための⼿段 ● AIを積極的に活⽤していくことで、さまざまなハードルや負担を軽減し たり、新たな出会いを創出し、世の中の創作活動がもっと活発になる世 界を作っていきたい

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6. まとめと学び 38

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39 • 冷蔵庫の中⾝だけで料理をしようとしない • 外に⽬を向けると、思わぬところから⾷材を持っ てきてくれる⼈がいることもある • まわりの⼈を巻き込みながら、チャンスを逃さ ず、⾃分が信じたことをやりきっていきましょ う!

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40 We’re hiring! SUZURIではエンジニアと デザイナーを積極採⽤中です!