VTO
AMBIGUOUS
MINDS
BEHAVIORISM STUDIES AND MORE KASUMIGASEKI
v.201812
Slide 2
Slide 2 text
はじめに
n あつかうこと
u 行動主義心理学や行動経済学など,いわゆる
「行動科学」「行動的意思決定」の歴史まとめ
u 行動心理学・経済学に閉じずに,
人間行動のおもしろ法則についての簡易まとめ
n スタンス
u 正確性よりわかりやすさを優先
2
Slide 3
Slide 3 text
分野の概観
3
AMBIGUOUS
MINDS
Slide 4
Slide 4 text
行動**の系譜
n 行動心理学,行動経済学,行動科学など,
「行動**」というタイプの学問がいろいろ…
n 出自は
n まず心理学を俯瞰して,行動主義にいたるまでの
流れを理解することが重要
4
行動主義心理学
Slide 5
Slide 5 text
心理学を取り巻く諸問題
n 心理学は科学たり得るか?
u 人間の「心」は外から見えず,触れない
u 結局「構成概念」でしかない…
p 構成概念:
• これこれこういう風に考えると・こういうモノがあるとすると,
これこれの行動は理解できる・しやすいね。というもの。概念。
• 本当にそういうモノが存在するかどうかは確認できない。
u 確認も,検証もできないものを“科学”として
扱うことはできるのか?
5
Slide 6
Slide 6 text
科学と因果関係と心理
n 科学はある意味で因果関係を明らかにする取り組み
u ある入力と出力の間にどういう関係があるのか?
を,論証可能な客観的な事実で積み重ねる
u 論証・検証ができないものは科学では取り扱えない
u 人間も物理的な機構を持ち,物理世界に存在する以上
自然法則や因果関係から独立した存在ではないはず
u 人間の行動にも何かの因果関係がある
u 内面的な何か(心理)によって決められる…のでは?
6
Slide 7
Slide 7 text
自由意志と決定論
n 心理学であつかう“心理”はそもそも存在するか?
n 我々は自由意志を有しているか?
u 自由意志: 我々は自身の行動を自身で統制できる
u 決定論: 我々は自身の行動を自身で統制できない
u 素朴な疑問:
p 今日,何を着て出かけるか,何を食べるか,自分で決めている
p 自由意志は当然存在するのでは??
7
Slide 8
Slide 8 text
自由意志?
n ヒトの意志は本当に自由か?
n 「今日はこの服を着よう」
u そもそも,所有している服から選ぶ
p その際に,今日,どこに行くか,誰に会うかも考慮する
• 官僚が国会で説明するのにTシャツ,ビーサンはない
u そもそも,嫌いな服は基本買わないはず
p 好きであっても,お金がないと基本的には入手できない
u 好き嫌いは,過去の経験から成立しているはず
p 何を見て,何を聞き,何をしたか,etc.
8
「自由だ」と感じているだけで,
本当は行動は環境で規定されているのでは?
Slide 9
Slide 9 text
自由意志は検証できるか?
n 背理法的に,“決定論的でない”ことで,できそう
u 決定論的:環境要因で行動が定まる
n 内的・外的なあらゆる環境要因が同じ状況下で,
人は異なる決定を行いうるのか?
u 行えれば,自由な意志はある
u 行えないなら,行動は環境で決まるので決定論的
n …が。
u “内的・外的なあらゆる環境要因が同じ状況”は,
そもそも作りようがない(まず時間の流れが不可逆)
9
論証・検証ができない = 科学じゃないかも?
Slide 10
Slide 10 text
決定論は検証できるか?
n 物理環境上で活動する以上,物理法則に支配され,
したがって,自然界の因果関係から独立ではない
u この部分は,自由意志の有無とは無関係に成立
n 決定論は環境によって行動が決まると想定
u 特定の状況下で,確実に特定の行動が起きるなら,
自然法則と同じように因果律があるので科学っぽい
p 心理学を科学と同じ枠組みで扱うことができる
n 全く同じ「特定の状況」は不可能だが…
u 決定論の場合は,入力(原因)と出力(結果)に主眼が
あって,内的過程はあまり重要ではない
u ある程度,統制できるので物理実験と似た感じで行ける
10
自由意志を検証するよりはハードルが低そう
Slide 11
Slide 11 text
認知科学の命題
n 心はタブラ・ラサ(白紙のノート)か?
u ヒトの心は経験によって形成されるのか?
u それとも先天的に与えられるのか?
n 唯物論と随伴現象
u 脳も物理的機構で,心もその機構の出力のひとつ
u したがって,心も物理的な運動のひとつ
…という見解
n 行動主義は,タブラ・ラサや,
唯物論・随伴現象との親和性が比較的高い
11
Slide 12
Slide 12 text
人間の認知情報処理に関する振る舞い
n 基本は3種類:入力・演算(処理)・出力
12
f(x)
入力 演算 出力
Slide 13
Slide 13 text
認知情報処理モデル
13
入力(外部からの光)
演算
出力「ネコかわいい!」
(猫と認識)
Slide 14
Slide 14 text
判断を伴う何かは大抵同じ構造
n 入力,演算,出力は基本の要素
n このレベルであれば,何らかの判断をするものは
種類にかかわらず,全部同じ形で書き出せる
14
Slide 15
Slide 15 text
コンピュータの基礎構成要素
n 基本は3種類:入力・演算(処理)・出力
15
f(x)
入力 演算 出力
Slide 16
Slide 16 text
コンピュータの基礎構成要素
n 基本は3種類:入力・演算(処理)・出力
16
入力
演算
出力
Slide 17
Slide 17 text
情報処理と情報通信
n 情報通信:入力=出力
n 情報処理:入力 = 出力
17
/
Slide 18
Slide 18 text
人間の認知情報処理に関する振る舞い
n 基本は3種類:入力・演算(処理)・出力
18
f(x)
入力 演算 出力
心理学・認知科学が解き明かしたい部分
Slide 19
Slide 19 text
心理学の成立
n 心理学
u 人間の心理(心と行動)を扱う学問分野
n 1879年 独の哲学者ヴントが心理学研究室を設置
u それ以前にも心理学の論文を出していたが,一般的に
学問分野としての「心理学」の成立はココとされる
n ヴント
u 医学部出身
u 内観法&要素還元主義(・構成主義)
p 心の構成要素を明らかにしていく
p 構成要素がわかれば,それを組み合わせて心ができる
19
Slide 20
Slide 20 text
ヴントのアプローチ
n 内観法&要素還元主義(・構成主義)
u ある刺激を与えたときに,何かを感じたかを
被験者に語ってもらうようなアプローチ
u 上記の方法で色んな刺激についてのデータを沢山集める
u 色んな刺激に対する反応はどれも心の要素
u 心の要素を集めて,要素間の関係を明らかにし,
その法則に沿ってくっつけたら,心が完成!
20
※ 構成主義を明確に打ち出したのはヴントの弟子ティーチェナー
Slide 21
Slide 21 text
要素還元主義
n 自然科学の基本
n 細かく要素に分けていって理解する
u 物質は分子の塊で,分子は原子の塊で,原子は…
21
(7)社会学的/政治学的水準 全体論的
(6)社会心理学的水準
⇒
(5)心理学的水準
⇒
(4)身体的/筋運動的水準
⇒
(3)生理学的システム
⇒
(2)生理学的単位の水準
⇒
(1)神経学的 還元主義的
Rose,1976を元に改編
心理学と説明の水準
ヴントへの批判
n ゲシュタルト心理学
u ばらばらの音符を突き詰めていっても音楽はできない
u 個々の要素ではなく全体感(ゲシュタルト)が大事
n 行動主義心理学
u 内観って,「それ,あなた個人の感想ですよね?」
u よくわからない不確かな「内面」じゃなくて,factが大
事
23
全体は部分の総和に勝る;アリストテレス
Nullius in Verba
n 言葉によらず
u ラテン語
u 英 王立協会の標語
p “これは権力の支配に抵抗する、
そして実験によって決定づけら
れた事実の訴えによるすべての
陳述を確かめる、フェローたち
の決心の言葉である。”
p 実験・客観重視という意味で,
わかりやすく科学と行動主義の
親和性を表している
• 王立協会設立は1660年
• 行動主義宣言は1913年
27
@ 英 王立協会
撮影したときには意味はわかっていなくて,
後で調べたらいい言葉だった J
Slide 28
Slide 28 text
行動主義への批判
n 徹底的行動主義の場合は,f(x)は全く考慮しない
n あくまで,入力と出力のみを議論
n 思考のプロセスなど内的要素が見過ごされている
u 行動だけでは意味はわからない
p “思い切り歌う”という同じ行動であっても,カラオケ屋さんで
行うのと,通勤電車内で行うのでは,意味が異なる
• 最近では,脳波計測なども可能なため,徹底的なアプローチであっ
ても,もしかしたら大丈夫…かも?
28
Slide 29
Slide 29 text
行動主義いろいろ
n 徹底的行動主義(行動分析学)
u f(x) として心を認めない
u 心理学の研究対象はあくまで行動のみとする
p スキナー
n 方法論的行動主義
u f(x) の中に心はあるかもしれない
u ただし,それを推定するのには行動データを用いる
p 関連用語:操作主義
29
行動主義 新行動主義
徹底的
方法論的
行動経済学 = 経済学 + 心理学?
n いわゆる「行動経済学」は,人間の心理的なモノも
考慮して,経済行動を理解しよう 的なニュアンス
n 心理学 != 行動主義心理学 なので,学術的には
単に「心理要素も考える経済学」ではダメ
n “行動主義的に経済学を捉える”の方が正確?
32
Slide 33
Slide 33 text
経済学は行動を捉えていなかったのか?
n “経済”は貨幣などの財を扱うので,
心理モデルと違って,ある程度行動が追えるし,
それらを見てモデルを立てているのでは???
u 数式もガンガン使うし,ものすごく科学っぽい雰囲気
n 構成主義心理学でも行動を一切みない訳ではない
n 経済も複雑で中身がよくわからないという面では
心理モデルなどと類似する部分も
33
Slide 34
Slide 34 text
合理的経済人
n 社会は複雑であるが故に,“仮定”をおいて議論
n 合理的経済人
u “人は(客観的に見て)合理的に行動する”という仮定
p ある特定のスマホを購入するとして,その機種の取り扱いのある
世界のあらゆるお店の値段を比較し,コスト最小のモノを購入
n もちろん…
u 手計算の時代は,むしろこのくらいでないと無理
p データを観測するのも,記述するのも,分析するのも大変
• ヒトが万能の神を模して作られている以上,本質的にはヒトは誤らない,or
神ならこうなさる…といった文化・宗教観的文脈も?
u ただし仮定が強いので乖離もそこそこ…
34
Slide 35
Slide 35 text
行動経済学
n 余り仮定をおかずに,実際に観測される行動から
モデルを立てよう という様な経済学(…多分)
n 人間の行動には何らかの理由
u なぜその行動を取ったのか?も,モデルで重要
u 行動主義心理学は,行動からモデルを構築
u 経済行動も人間行動の一部なので使えるところがある!
35
Slide 36
Slide 36 text
限定合理性
n ヒトは認知的な限界などから,
限定的な合理性しか有し得ない
u あらゆる選択肢を列挙して比較することは不可能
u 確保できたリソース(情報や記憶容量などもろもろ)の中で,
=限定された条件の中で,合理的な選択を行う
u H.サイモン※の提唱した概念
p 最初期の人工知能研究者
• 政治学者・認知心理学者・経営学者・情報科学者
• ノーベル経済学賞,チューリング賞などを受賞
36
Slide 37
Slide 37 text
限定合理性を通じて見る世界
n 世界には不可解で非合理的な選択があふれている
n 一見,不可解であってもヒトを含む動物が主体的に
意思決定する時,そこには根拠や理由があるはず
u 各主体にとっては不可解なことはなく合理的
u おかしく見えるのは,限定条件が異なるから
n 同じ条件下であれば,自分も同じ行動をするかも?
u 決定論的,行動主義的な世界観
37
※ あくまで本資料執筆者の認識
Slide 38
Slide 38 text
補足:非対称戦
n 相手も自分と同じように考える …わけではない
u 限定合理性の観点では,主体ごとに条件が異なる
u 自分の物差しで「相手もこう考えるだろう」では,
見誤る可能性が高い
u 「異なる条件」は無数に存在し得るので,
対応を予め網羅することは不可能
38
適者生存:
強いものではなく,変化に適応したものだけが生き残る
Slide 39
Slide 39 text
人工知能と心理学・行動主義
n 人工知能研究における基礎的・哲学的探究は
多くの部分で心理学と重なる
n 教師あり機械学習のアプローチは行動主義的
u 処理部分のアルゴリズムは存在するモノの,データから,
入力と出力のパタンを学習させモデルを構築
n 計算社会科学などの動きも,行動主義の系譜の中に
位置づけることは難しくなさそう
39
Slide 40
Slide 40 text
知能とは:知能のありか(還元主義・心身問題)
n 魂(意思・意識)はどこにあるのか?
u 人体も一つのマシンなので,どこかにあるはず
p 足の小指の先などではないし,肘の裏とかでもなさそう
u 脳にあるとして,脳のどこか?
p 脳から部品を自由に取り外しできるとして,どこまで減らせる?
• のこった切り離しできない部分が魂や意識になるのでは
u 要素分解だけで,知能や意識,魂に迫れるか?
p 音符ひとつひとつの構造がわかれば,良い曲が作れるか?
• ゲシュタルト心理学的な立場
n 心と体は不可分か?
u 脳を自由に好きな体に移植できる,脳だけでも生きられ
るとして,そこに宿る意識は??
40
Slide 41
Slide 41 text
知能とは:記号接地問題
n 体を持たないAIにリンゴは理解できるか?
u 概念(記号)としてのリンゴが理解できたとして,
目も耳もないAIは,真にリンゴを知っているといえるか
• …でも,そもそも「真のリンゴ」とは…リンゴのイデアって何?
n 人間は様々な情報をうまく抽象化(記号化)して
処理をしている
n 抽象化された情報と,実体を対応づけること
=記号接地
41
潜水艦は泳げない?
人には人の,機械には機械の知能があるのでは?
Slide 42
Slide 42 text
知能とは:フレーム問題
n 問題に関連する情報の境界線(フレーム)を
定めることは実は非常に困難
n 「隣の部屋にあるリンゴをとってきて」
u 部屋とは?リンゴとは?とってくるとは?
u その行為に,室温や湿度,明るさは関係ある?ない?
u 部屋に入るのに障害物(壁やドア)は壊していい?
u どうやったら壊せる?もしくは壊さず入るには?
…などなどなどなど
42
人間は“なぜか”必要な情報だけをうまく取り出し,
行動をすることができる
※ やっかいなことに自身が動くと相対的に環境の見え方も変わるので,常に上記の問題が繰り返される.
Slide 43
Slide 43 text
知能とは:中国語の部屋
n 知的に見える=知的か?
u 行動主義的には知的であるといってもいいかもしれない
n 中国語の部屋
u 密室の中に,中国語が一切しゃべられない人がいる
u スゴイ辞書があって,中国語のこの文字が来たら,この
文字を返す.というのが一瞬で出てくる
u 密室内の人はこの辞書を持っていて,中国語の質問に答
えてくれる
p 意味はわかっていないが,とにかく辞書で対応する文字列を探し
て返しているだけ
u 外から見たら,中の人は中国語を理解している
43
Slide 44
Slide 44 text
人工知能と心
n 人工知能学者 堀浩一による定義の例
u 心とは何か?意識とは何か?
p 答: どちらも、下位要素の相互関係の総体である。
心も意識も「もの」として独立に存在しているのではない。 心
や意識という上位の存在は、下位の要素の関係の総体として出現
し、かつ下位の要素の間の関係を支配する。
n 堀を始め,人工知能学者らを中心に「一人称研究のすすめ: 知能研究の新
しい潮流」といった書籍も発刊されている
n 知能や心を“作る”という取り組みの中では,行動主義の他,内観法も重
視されていると言う例
44
要素還元・構成主義
Slide 45
Slide 45 text
心理トリビアいろいろ
45
AMBIGUOUS
MINDS
Slide 46
Slide 46 text
返報性
n ヒトは何か良いことをしてもらうと,
それとおなじことをお返ししたくなる傾向がある
n 例
u 挨拶をされると,挨拶を仕返してしまう。
u お菓子をもらってから頼まれごとをされると,
依頼を断りづらい(お菓子の借りを返したい。)
u 家族の話など自己開示されると,自分も家族の話など
自己開示をしてしまう。
46
Slide 47
Slide 47 text
公平性の追求:負の返報性
n 自分が損をするとしても,相手に得をさせない
と,いう行動をとる傾向がある
n 設定
u 10万円を2人で分ける
p ランダムに,分ける係と最終決定係に割り付け
p 分ける係:10万円の分配額を好きに決める
• 自分が9万円,相手に1万円など
p 最終決定係:分配額に従うかどうかを決める
• 従えば分配額通りにもらえる。従わないと2人とも分配なし。
n 結果
u たとえ1円でもゼロ円よりましなのに,額が不均衡だと
オファーを断る被験者が多い
47
(最後通牒ゲーム)
Slide 48
Slide 48 text
一貫性とコミットメント
n ヒトはいったんコミットメントを表明すると,
あとで意見を変更することを避けやすい
n 例
u 「辛いものが好き」と行った後,自分の好きなレベルを
超えたものすごく辛いお菓子を勧められても,それを
断りにくい
u 「100円貸してほしい」と言われて承認した後,
「やっぱり1000円いる」と言われても断りにくい
48
Slide 49
Slide 49 text
Asheの同調実験
n ヒトは,それが明らかに間違いとわかっていても,
多数派の意見に同調してしまう傾向がある
n 設定
u 3本の異なる長さの線A,B,Cと,1本の教示線がある。
u 教示線とおなじ長さの線を答える。
u 参加者8人中7人はサクラで,あきらかな間違いを選択。
n 結果
u 被験者50人の1/3が,サクラとおなじ間違った選択。
49
Slide 50
Slide 50 text
価値割引
n すぐにもらえる報酬は,後からもらえる報酬より
よりよく見える(価値が高い)傾向がある
n 設定の例
u 今すぐもらえる1万円と,10年後にもらえる10万円※。
前者を選ぶ人の方が多い。
n 応用など
u 明らかな長期的利益であっても,目先の利益を追求する
現象をうまく説明できる.
p ex.麻薬中毒:明らかに体に悪いのでやめたいが,やめられない
50
(※ 価値調整済み)
Slide 51
Slide 51 text
価値割引 contd.
n 価値は線形で低減する訳ではないのがポイント
51
t
価値
A B
ア
イ
u ア:お酒をのむことで得られる楽しさ
u イ:お酒をのまない場合に得られる健康
n Aの区間では,イの価値が高いと認識して,飲まないつもり
n Bの区間では価値割引で選好が逆転し,お酒を飲む
※ 低減曲線のきつさは,年齢とともに穏やかに
Slide 52
Slide 52 text
プロスペクト理論
n ヒトは損の価値を過大にみつもる
n 古典経済学の視点
u 1万円をもらう嬉しさと,失う悲しさは釣り合う
p 価値は同じなので,自然な仮説に見える
n 実際
u 1万円を失う悲しみは,もらう嬉しさを上回る
52
損 得
価値
損する場合は価値が急落
得する場合は価値の上昇は
緩やかにしか行われない
Slide 53
Slide 53 text
勝者の呪い
n 一度,競争がはじまってしまうと,
その競争から降りることは難しい
n 設定
u 100ドル札を1ドルからオークション
u 一番高値のヒトはその値段で競り落とせる
u 2番目に高値のヒトは,その値段を払う必要はあるが
100ドル札はもらえない(払い損)
n 結果
u 価格が100ドル以上になっても,上位2名の競争が続く
53
Slide 54
Slide 54 text
フレーミング(枠組み効果)
n いわゆる“常識”・“マインドセット”の活用が暴走し,
正しい判断を曇らせてしまうことがある
n 設定
u 珍しい病で600人が死ぬ。どの計画を採用するか?
p A:確実に200人助かる。
p B: 1/3 の確率で600人助かるが,2/3 の確率で誰も救われない。
p C:確実に400人死ぬ。
p D:1/3 の確率で誰も死なず,2/3 の確率で600人死ぬ。
n 結果
u A,Bを提示した場合7割がAを,C,Dでは8割弱がDを選択
p 意味的には,A=C,B=Dなのに,言い方だけで逆の結果に
p A,Bは「利益枠組」,C,Dは「損失枠組」
54
Slide 55
Slide 55 text
提示順序と印象
n どの順番で情報が提示されるかで,
同じ情報でも,受ける印象が異なる
n 例題
u A:明るい、素直、頼もしい、用心深い、短気、嫉妬深い
u B:嫉妬深い、短気、用心深い、頼もしい、素直、明るい
n 解説
u A,Bともに単語のセット(全体の情報)は同じ
u だが,うける印象は大きく異なる
55
Slide 56
Slide 56 text
連言錯誤
n ヒトは簡単に間違える
n 設定
u リンダは独身で、とても頭がよくはっきりとものを言う
性格です。大学では哲学を専攻していて、人種差別や民
族差別などの社会問題に深く関わりました。
n 問題
u リンダの職業はどちらである可能性が高いでしょうか?
p 銀行員の窓口係
p 政治活動を行っている銀行の窓口係
n 解説
u 後者は条件が増えるので,その分確率が落ちるはずだが,
多くの場合に後者が選ばれる
56
Slide 57
Slide 57 text
パタン抽出の魅惑
n ヒトはパタンのないところにもパタンを求める
n 設定
u 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21 という数列の規則を答える
n 正解
u 一つ前の数字より大きい
n 結果
u 多くの人がフィボナッチ数列など,より複雑で高度な
パタンを回答してしまう
57
Slide 58
Slide 58 text
ランダムネスの知覚
n ヒトが思うランダムは,意外と非ランダム
n 設定
u AとB,どちらがランダムか?
p A: 010001111010011100010
p B: 010101110010101100010
n 結果
u 数学的にはAの方がランダムだが,Bが多く選ばれる
n その他
u ランダム性にかかわらず,統計的な判断について,
ヒトの直観は間違うことも多い
u ランダムなのに,パターンを見出すことも…
58
Slide 59
Slide 59 text
弱い紐帯の強さ
n グループ内で交換される情報は,
ほとんどが互いに知っている情報
n 有益な情報は,少し遠い知り合いからもたらされる
n 解説
u コミュニティの社会調査では,就職に有用な情報は,
多くの場合,普段よく合うヒトではなく,すこし遠い
知り合いからもたらされる
u 別の合意形成に関する調査では,グループ内で交わされ
る情報は基本的に相互に知っているものばかり
59
Slide 60
Slide 60 text
全体は部分を上回る?
n 多くの場合,グループでの作業は
最も優秀な成員の成果を上回らない
n 解説
u グループ作業ではコミュニケーションコスト大
u グループの方が優秀
p 成員の成果を足し合わせたものが全体の成果になるような,
労働集約型の課題
p 量や,大きさを推測するような課題
u グループでなくても良い・ない方が良い
p 知識集約型の課題の多く
• 論理的に正しい解を求めるような課題
• よいアイデアを抽出するような課題
60
Slide 61
Slide 61 text
さらに学ぶために
61
AMBIGUOUS
MINDS
Slide 62
Slide 62 text
心理学とその周辺
n 論争のなかの心理学
―どこまで科学たりうるか
u 新曜社 (2006/5/1)
n 心理学・入門
--心理学はこんなに面白い
u 有斐閣 (2011/4/9)
62
Slide 63
Slide 63 text
いろいろ
n 心理学が描くリスクの世界 第3版:行動的意思決定入門
u 広田 すみれ他;慶應義塾大学出版会; 第3版 (2018/1/23)
n 行動経済学入門
u 多田 洋介;日本経済新聞出版社 (2014/7/16)
n 世界は感情で動く : 行動経済学からみる脳のトラップ
u マッテオ・モッテルリーニ;紀伊國屋書店 (2009/1/30)
n 予想どおりに不合理: あなたがそれを選ぶわけ
u ダン アリエリー;早川書房 (2013/8/23)
n 人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか
u トーマス・ギロビッチ;新曜社 (1993/6/1)
n 影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか
u ロバート・B・チャルディーニ;誠信書房; 第三版 (2014/7/10)
63
Slide 64
Slide 64 text
補足
64
AMBIGUOUS
MINDS
Slide 65
Slide 65 text
行動主義で正解?
n 自由意志はあるのか,ないのか?
n 行動主義の方がより正解に近いのか?
n 様々な知見はどこまで正しいのか?
n 実用上は,どちらかに立場を固定する必要はない
u ある場面では行動主義,ある場面では内観法,という
使い方をしても別に問題はない
u 便利な方を使えばそれでOK
p 方法論的行動主義+内観法くらいがバランスがよさそう
65
回答:わからない
免責&License
n 免責
u 内容その他について,完全無保証です
n License
u クリップアートや,一部の画像
p 別に著者が存在しますので,改変等の際には,
それぞれのライセンスに準じてご利用ください
p クリップアートのライセンス
• http://www.chojugiga.com/terms/
• http://icooon-mono.com/license/
u その他の部分(文字部分のほとんど)
p 著作権の放棄はしませんが,再配布,改変,配信等ご自由に!
71