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CV・CG・ロボティクスのための リー群・リー代数入門 東北大学 未踏スケールデータアナリティクスセンター 鏡 慎吾 Spatial AI Network 勉強会, 2025.2.19

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行列指数関数による座標変換のパラメータ表示 (例1) 地図上の点は,画像への投影に先立って,世界座標系 からカメラ座標系 へ変換される. これはカメラ姿勢を表す 行列 の左からの乗算 で行う. (中略) 行列 は回転成分と並進成分を含んでおり, 3 次元剛体変換の集 合であるリー群 の元である. (中略) カメラ姿勢の変化は のカ メラ運動行列 を左から乗算することによって表現される: ただしカメラ運動も の元であり,指数写像を用いることで 6 次元ベク トル によって最少のパラメータで表示できる. Klein and Murray, Parallel Tracking and Mapping for Small AR Workspaces, Int'l Symp. Mixed and Augmented Reality (ISMAR 2007) 2 / 38 W C 4 × 4 E ​ CW p ​ = jC E ​ p ​ CW jW E ​ CW SE(3) 4 × 4 M E ​ = CW ′ ME ​ = CW exp(μ)E ​ CW SE(3) μ

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行列指数関数による座標変換のパラメータ表示 (例2) 射影変換行列 はリー群である 群に属して いる. この群に付随するリー代数を と呼ぶ. こ の代数はトレースがゼロである 行列からなる. (中略) をリー代数 の基底とする. に属する行列 は以下のように書き表せる: に属する射影変換 のうち の近傍にある ものは以下のようにパラメータ表示できる: Benhimane and Malis, Homography-based 2D Visual Tracking and Servoing, Int'l J. Robotics Res., 2007. 3 / 38 G(x) SL(3) sl(3) 3 × 3 A ​ , A ​ , … , A ​ 1 2 8 sl(3) sl(3) A(x) A(x) = ​ x ​ A ​ . i=1 ∑ 8 i i SL(3) G(x) I G(x) = exp(A(x)) = ​ ​ (A(x)) . i=0 ∑ ∞ i! 1 i

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なにがなんだかわからない 辛うじて読み取れること 剛体変換や射影変換はリー群なるものの一種らしい それらをパラメータ表示する方法として指数写像と いうものがあるらしい リー群にはリー代数というものが付随するらしい リー代数には基底があるらしい まずはこのあたりの言葉の意味を掴めるところまで, その後もう少し深いところまで理解を進めたい 4 / 38

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(この図は後のページで再掲します) 本日のお話 回転,剛体変換,射影変換などの座標変換の集合は,リー群と呼ば れる曲がった空間の構造を持つ リー群には,リー代数と呼ばれるベクトル空間が付随する リー群とリー代数を行ったり来たりすることで,曲がった空間の問題 を真っすぐな空間の問題に置き換えて扱いやすくできる cf. 時間領域 周波数領域,代数 幾何 行列指数関数によりリー代数はリー群へ写される リー代数 (ベクトル) を使って座標変換をパラメータ表示できる リー代数にはいろいろな定義のしかたがある 1. リー群の単位元における接ベクトルの全体 2. 指数写像によりそのリー群にマッピングされるベクトルの全体 3. リー括弧積が定義されたベクトル空間 5 / 38 ↔ ↔

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自己紹介 リー群・リー代数の専門家ではないし,バリバリ応 用しているわけでもない 自分自身が馴染み深いのは画像追跡への応用 当初全く理解できずに苦しんだ記憶がある.どのよ うに折り合いをつけたか, その勘所を伝えたい 関連記事等: CV・CG・ロボティクスのためのリー群・リー代数入門 – swk’s log はてな別館 https://swkagami.hatenablog.com/entry/lie_00toc ロボット工学のためのリー群・リー代数入門, 日本ロボッ ト学会 第141回ロボット工学セミナー, 2022.8.12. ロボット工学のためのリー群・リー代数入門, 日本ロボッ ト学会誌, 2023. https://doi.org/10.7210/jrsj.41.511 Kagami+, SIGGRAPH 2018 (Emerging Tech.) Kagami+, ISMAR 2019 (IEEE Trans Vis Comput Graph) Kagami+, SIGGRAPH 2020 (Emerging Tech.) 世界!オモシロ学者のスゴ動画祭3, NHK総合, 2022.4.29 6 / 38 0:00

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リー群 7 / 38

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まずは 3 次元回転から 回転行列 の集合は 群である 積について閉じていて結合則を満たす: 単位元がある: すべての元に逆元がある: 9 次元空間の中の 3 次元多様体であり,各点で接平面が定まる 行列を 9 次元ベクトルとみなす 絵としては 3 次元空間内の 2 次元多様体で我慢してください このように群であり滑らかな多様体である集合をリー群と呼ぶ 左からの乗算で 3 次元ベクトルに作用する 群演算としての乗算と,群作用としての乗算は区別して考える 8 / 38 R = ​ ​ ​ ⎝ ⎛r ​ 11 r ​ 21 r ​ 31 r ​ 12 r ​ 22 r ​ 32 r ​ 13 r ​ 23 r ​ 33 ⎠ ⎞ 3 × 3 R (R ​ R ​ )R ​ = 1 2 3 R ​ (R ​ R ​ ) 1 2 3 RI = IR = R RR = −1 R R = −1 I 3 × 3

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いろいろなリー群 (1/2) 復習: 回転行列とは,直交行列のうち行列式が 1 のもの が直交行列とは: (各列ベクトルが長さ 1 で互いに直交) 直交行列の行列式は 1 (鏡映なし) または (鏡映あり) : 特殊直交群 (Special Orthogonal Group) n 次元回転行列の集合 「特殊」は行列式が 1 のものにつく 丸括弧の中の は次元 : 直交群 回転だけでなく鏡映も許した集合 9 / 38 A A A = T AA = T I −1 SO(n) n O(n)

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いろいろなリー群 (2/2) : 特殊ユークリッド群 (Special Euclidean Group) ( : 回転行列, : 次元並進ベクトル) 普通は同次変換で考えるのが便利: この同次変換行列の行列式は 1 : ユークリッド群 上記の を (回転に限らない) 直交行列にとったもの : 特殊線形群 (Special Linear Group) 行列式が 1 である 行列の全体 : 一般線形群 正則行列の全体 なぜかこれだけ General (一般) の G をつける 10 / 38 SE(n) x = ′ Rx + t R n × n t n ​ = ( x′ 1 ) ​ ​ ​ ( R 0T t 1 ) ( x 1 ) E(n) R SL(n) n × n GL(n) n × n

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リー代数 11 / 38

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リー群に付随するリー代数 曲面は扱いが難しい e.g. 非可換性: 一般に 曲がってない平面で代用できるといろいろ楽 リー群の単位元における接空間を,それに付随する リー代数 (または対応するリー代数) と呼ぶ リー群 に付随するリー代数を (小文字のフラク トゥール体) で表す 単なる線形近似? そうではなく, の任意の元から の元への対応が 得られる 曲面上の問題を平面上で考えることができる 曲面の性質を平面で考えることができる          12 / 38 R ​ R ​ = 1 2  R ​ R ​ 2 1 G g g G

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リー代数 = リー群の単位元における接空間 単位元における接ベクトル: で単位元 を通 る曲線 の での微分: 注) 行列を 次元ベクトルと同一視してい ることを思い出す 単位元における接空間: あらゆる の集合 よく接平面の絵を描いて理解するが,接点を原点 に取り直している点に注意する リー代数はベクトル空間である 接ベクトルの和は接ベクトル.接ベクトルのスカ ラ倍も接ベクトル ベクトル空間だから,適当に基底を選んでその線形 結合として表せる          13 / 38 t = 0 I A(t) t = 0 (0) = A ˙ ​ ​ ​ dt dA(t) ∣ ∣ t=0 n × n n2 (0) A ˙

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の場合 の各軸まわりの回転に対応する曲線を微分する 軸まわり: 軸, 軸まわりも同様に: の任意の元は で表せ る を基底としたときの座標 とみなせる 14 / 38 SO(3) x, y, z x R ​ (t) = 1 ​ ​ ​ ​ ​ , J ​ = ⎝ ⎛1 0 0 0 cos t sin t 0 − sin t cos t ⎠ ⎞ 1 ​ ​ ​ = dt dR ​ (t) 1 ∣ ∣ t=0 ​ ​ ​ ​ ​ = ⎝ ⎛0 0 0 0 − sin 0 cos 0 0 − cos 0 − sin 0⎠ ⎞ ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛0 0 0 0 0 1 0 −1 0 ⎠ ⎞ y z J ​ = 2 ​ ​ ​ ​ ​ , J ​ = ⎝ ⎛ 0 0 −1 0 0 0 1 0 0⎠ ⎞ 3 ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛0 1 0 −1 0 0 0 0 0⎠ ⎞ so(3) x ​ J ​ + 1 1 x ​ J ​ + 2 2 x ​ J ​ 3 3 J ​ , J ​ , J ​ 1 2 3 (x ​ , x ​ , x ​ ) 1 2 3

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wedge 演算子と vee 演算子 がリー代数の基底のとき, と はしばしば同一視される ベクトル と座標 を同一視するのと同じ 両者の間の変換を演算子 と で表すことがある (本によってマチマチ) この変換をわざわざ明示しないことも多い (数学書ではそれが普通) 本講演では以下のように統一する: (vee 演算子.ベクトル化するから v) (wedge 演算子.v の逆さま) 15 / 38 {M ​ } k X = ​ x ​ M ​ ∑ k=1 n k k x = (x ​ , x ​ , ..., x ​ ) 1 2 n T x ​ e ​ + 1 1 x ​ e ​ 2 2 (x ​ , x ​ ) 1 2 ∧ ∨ x = X∨ X ​ ​ ​ Murray+1994, Bullo+2010 ​ = x = ∧ x Lynch+2017 ​ = [x] Hartley+2004, Szeliski 2010 ​ = [x] ​ × x = X∨ X = [x] ​ ∧

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指数写像 16 / 38

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左不変ベクトル場 「どうして単位元における接空間だけを考える?」 → それだけで他の元における接空間も定まるから リー群 上の曲線 で と なるものを考える 適当な を左からかけて を 作ると, 上の曲線になる で微分して, の における接ベクトル は 単位元における接ベクトル を 1 本選べば,任意 の点 において, が接ベクトルの 1 本となる これにより 上に定まるベクトル場を左不変ベクト ル場と呼ぶ          17 / 38 G A(t) A(0) = I, (0) = A ˙ X B ∈ G C(t) = BA(t) G t = 0 C(t) B (t) = C ˙ B (0) = A ˙ BX X B BX G ​ ​ I X ​ B ⟼ B ​ BX ⟼ B

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指数写像 を適当に取り左不変ベクトル場に沿って進 む その解は は曲面上から離れられないので,任意の と に対して をぐるりとあらゆる方向に取ると, はリ ー群の単位元のまわりを覆いつくす 逆に, のとき, は単位元における接ベクトルだから          この写像 を 指数写像と呼ぶ ( を とも書く) 18 / 38 X ∈ g (t) = B ˙ B(t)X, B(0) = I B(t) = exp(tX) B(t) X ∈ g t ∈ R exp(tX) ∈ G X exp(tX) exp(tX) ∈ G ​ exp(tX) ​ ​ = dt d ∣ ∣ t=0 X X ∈ g exp : g → G exp(X) eX

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リー代数 = 指数写像でリー群にうつるもの となるような の全体を と定義してもよい の基底 を使って と表すと, は リー群 の元を表すためのパラメータとして使える 注: 指数写像は全射とは限らない.一般には,あくまで から の単位元 の近傍への写像である 19 / 38 exp(tX) ∈ G X g g {X ​ } i X = ​ p ​ X ​ ∑ i i i (p ​ , p ​ , ...) 1 2 G g G I ​ ​ ​ ​ ​ ​ G ​ ⏐ ↑ exp g ​ ⏐ ↑ ∧ Rn ∋ ∋ ∋ exp( ​ p ​ X ​ ) = exp([p] ​ ) i=1 ∑ n i i ∧ ​ p ​ X ​ = [p] ​ i=1 ∑ n i i ∧ p リー群の行列表示 リー代数の行列表示 リー代数のベクトル表示

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指数写像 (行列指数関数) の定義・性質 定義: 多くの公式が指数関数と共通 特に微分が簡単: 積法則は可換性に要注意: ならば 基本的な微分方程式の解として現れる: の解は の解は の解は は の各固有値の指数関数の積 したがって (「特殊〇〇群」を考えるときに重要) 20 / 38 exp(X) = I + X + ​ X + 2! 1 2 ⋯ + ​ X + k! 1 k ⋯ ​ exp(tX) = dt d X exp(tX) = exp(tX)X XY = Y X exp(X) exp(Y ) = exp(X + Y ) ​ p(t) = dt d Xp(t) p(t) = exp(tX)p(0) ​ P(t) = dt d XP(t) P(t) = exp(tX)P(0) ​ P(t) = dt d P(t)X P(t) = P(0) exp(tX) ∣ exp(X)∣ X e e ⋯ e λ ​ 1 λ ​ 2 λ ​ n ∣ exp(X)∣ = e = λ ​ +λ ​ +⋯+λ ​ 1 2 n etr X

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の場合 一般に について (直交) だから: のとき, , より (歪対称行列) (特殊) だから: より 歪対称行列はこれを満たす 逆に, が歪対称なら かつ であることも確認できる よって, は 歪対称行列全体の集合 の場合: から , なので改めて やはり , , を基底に取れることが確認できる の場合も同様に, 21 / 38 SO(n) A(t) = exp(tX) ∈ SO(n) A A = T AA = T I (t)A(t) + A ˙T A(t) (t) = TA ˙ O t = 0 A(0) = I (0) = A ˙ X X = T −X ∣A∣ = 1 e = tr X 1 tr X = 0 X A A = T AA = T I ∣A∣ = 1 so(n) n × n n = 3 X = ​ ​ ​ ​ ​ = ⎝ ⎛x ​ 11 x ​ 21 x ​ 31 x ​ 12 x ​ 22 x ​ 32 x ​ 13 x ​ 23 x ​ 33 ⎠ ⎞ − ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛x ​ 11 x ​ 12 x ​ 13 x ​ 21 x ​ 22 x ​ 23 x ​ 31 x ​ 32 x ​ 33 ⎠ ⎞ x ​ = ii 0 x ​ = ij −x ​ ji X = ​ ​ ​ ​ ​ = ⎝ ⎛ 0 x ​ 3 −x ​ 2 −x ​ 3 0 x ​ 1 x ​ 2 −x ​ 1 0 ⎠ ⎞ x ​ J ​ + 1 1 x ​ J ​ + 2 2 x ​ J ​ 3 3 J ​ 1 J ​ 2 J ​ 3 n = 2 X = ​ ​ = ( 0 x −x 0 ) x ​ = ( 0 1 −1 0 ) xK

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座標変換とリー群・リー代数 22 / 38

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共通事項 定数ベクトル を,時変の変換行列 で運動させることを考える: 時間微分して を消去すると ここで の場合を考えると よって は以下の微分方程式に従う: 23 / 38 p ​ 0 A(t) p(t) = A(t)p ​ 0 ​ (t) = p ˙ (t)p ​ A ˙ 0 p ​ 0 ​ (t) = p ˙ (t)A(t) p(t) A ˙ −1 A(t) = exp(tX) ​ (t) = p ˙ X exp(tX) exp(tX) p(t) −1 p(t) (t) = p ˙ Xp(t)

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の場合 の元は, を任意の実数として と書けた 運動 は に従う.つまり角速度 の等速円運動である 余談 なので, の定義と と のテイ ラー展開を利用することで と表せる は虚数単位 と同様のはたらきをしており, が等速円運動なのも納得がいく 24 / 38 SO(2) so(2) ω X = ω ​ ​ = ( 0 1 −1 0 ) ωK ​ = ( x(t) y(t) ) exp(tωK) ​ ( x0 y0 ) ​ = ( (t) x ˙ ​ (t) y ˙ ) ωK ​ = ( x(t) y(t) ) ​ ( −ωy(t) ωx(t) ) ω K = 2 −I exp(tK) cos sin exp(tK) = cos(t) + sin(t)K K i exp(tK)

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の場合 の任意の元は と書けた として, の作用による運動は, つまり, を角速度ベクトル (向きが回転軸,大きさが角速度) とする運動になる はこれが のときなので, の向きを回転軸,大きさを角度とし て回転した姿勢を表す よって の任意の姿勢を表せる (いわゆる回転ベクトル表現) 実際の計算は (行列指数関数を直接計算するよりも) ロドリーグの公式によるのがよい 25 / 38 SO(3) so(3) ω ​ J ​ + 1 1 ω ​ J ​ + 2 2 ωJ ​ 3 p = (x, y, z)T R(t) = exp(t ω ​ J ​ + ω ​ J ​ + ω ​ J ​ ) = { 1 1 2 2 3 3} exp(t[ω] ​ ) ∧ ​ ​ ​ (t) p ˙ = [ω] ​ p(t) = ​ ​ ​ ​ ​ p(t) = ​ ​ ​ ∧ ⎝ ⎛ 0 ω ​ 3 −ω ​ 2 −ω ​ 3 0 ω ​ 1 ω ​ 2 −ω ​ 1 0 ⎠ ⎞ ⎝ ⎛ω ​ p ​ − ω ​ p ​ 2 3 3 2 ω ​ p ​ − ω ​ p ​ 3 1 1 3 ω ​ p ​ − ω ​ p ​ 1 2 2 1 ⎠ ⎞ = ω × p(t) ω exp([ω] ​ ) ∧ t = 1 ω SO(3)

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の場合 で単位元を通る 3 本の曲線を用意する: 回転: x, y 方向の並進: それぞれ で微分すると よって の任意の元は以下のように表せる: として, 指数写像 による運動は以下の微分方程式に従う: のときは 固定点 まわりで角速度 の等速 円運動 のときは等速並進 と をうまく選んで で の任意の 姿勢に至るようにできる 26 / 38 SE(2) t = 0 ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛cos t sin t 0 − sin t cos t 0 0 0 1⎠ ⎞ ​ ​ ​ ​ ​ , ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛1 0 0 0 1 0 t 0 1⎠ ⎞ ⎝ ⎛1 0 0 0 1 0 0 t 1⎠ ⎞ t = 0 ​ ​ , ​ ​ , ​ ​ . ( K 0T 0 0 ) ( O 0T e ​ 1 0 ) ( O 0T e ​ 2 0 ) se(2) ω ​ ​ + ( K 0T 0 0 ) v ​ ​ ​ + x ( O 0T e ​ 1 0 ) v ​ ​ ​ = y ( O 0T e ​ 2 0 ) ​ ​ ( ωK 0T v 0 ) p(t) = (x(t), y(t), 1)T ​ ​ ​ (t) p ˙ ​ ( (t) x ˙ ​ (t) y ˙ ) = ​ ​ p(t) ( ωK 0T v 0 ) = ωK ​ + v ( x(t) y(t) ) = ωK ​ + ​ K v {( x(t) y(t) ) ω 1 −1 } ω =  0 ω ω = 0 ω v t = 1 SE(2)

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の場合 6 本の曲線 (回転 3 本,並進 3 本) を微分して , , , , , よって の任意の元は 指数写像による運動は          または をツイストと呼ぶ の動きはスクリュー運動として知られる のうち回転軸と直交する成分だけ考えると の 場合と同じ.それに回転軸方向の並進が加わる と をうまく選んで で の任意の姿勢に至 るようにできる 27 / 38 SE(3) ​ ​ ( J ​ 1 0T 0 0 ) ​ ​ ( J ​ 2 0T 0 0 ) ​ ​ ( J ​ 3 0T 0 0 ) ​ ​ ( O 0T e ​ 1 0 ) ​ ​ ( O 0T e ​ 2 0 ) ​ ​ ( O 0T e ​ 3 0 ) se(3) ​ ​ ​ ​ = ⎝ ⎛ 0 ω ​ 3 −ω ​ 2 0 −ω ​ 3 0 ω ​ 1 0 ω ​ 2 −ω ​ 1 0 0 v ​ 1 v ​ 2 v ​ 3 0 ⎠ ⎞ ​ ​ ( [ω] ​ ∧ 0T v 0 ) ​ = ( (t) x ˙ 0 ) ​ ​ ​ ( [ω] ​ ∧ 0T v 0 ) ( x(t) 1 ) (t) = x ˙ ω × x(t) + v ​ ( ω v ) ​ ​ = [( ω v )] ∧ ​ ​ ( [ω] ​ ∧ 0T v 0 ) x(t) v SE(2) ω v t = 1 SE(3)

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の場合 3 次元空間内の平面から平面への透視投影 は 行列 によって表せる: (平面射影変換,ホモグラフィ変換) は定数倍を除いて等しいの意味 第 3 要素が 1 になるように正規化することで「奥行きで割 る」効果が表現されている つまり にはスカラ倍の任意性がある (都合 8 自由度) に制約して 1 自由度減らす → 行列式 1 という条件は積を取っても逆を取っても保たれる ので,群として扱える 付随するリー代数 は,トレースが 0 の 行列の全体: 28 / 38 SL(3) 3 × 3 H ​ ​ ​ ≃ ⎝ ⎛x′ y′ 1 ⎠ ⎞ H ​ ​ ​ ⎝ ⎛x y 1⎠ ⎞ ≃ H ∣H∣ = 1 H ∈ SL(3) sl(3) 3 × 3 ​ ​ = ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛p ​ 1 p ​ 4 p ​ 6 p ​ 2 −p ​ − p ​ 1 8 p ​ 7 p ​ 3 p ​ 5 p ​ 8 ⎠ ⎞ p ​ ​ ​ ​ ​ ​ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ 1 ⎝ ⎛1 0 0 0 −1 0 0 0 0⎠ ⎞ 2 ⎝ ⎛0 0 0 1 0 0 0 0 0⎠ ⎞ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ 3 ⎝ ⎛0 0 0 0 0 0 1 0 0⎠ ⎞ 4 ⎝ ⎛0 1 0 0 0 0 0 0 0⎠ ⎞ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ 5 ⎝ ⎛0 0 0 0 0 0 0 1 0⎠ ⎞ 6 ⎝ ⎛0 0 1 0 0 0 0 0 0⎠ ⎞ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ + p ​ ​ ​ ​ ​ ​ 7 ⎝ ⎛0 0 0 0 0 1 0 0 0⎠ ⎞ 8 ⎝ ⎛0 0 0 0 −1 0 0 0 1⎠ ⎞

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注意 これらの例を通して,リー代数の元に 2 つのとらえ方がある ことに注意したい: 角速度や速度としての解釈 接ベクトル (微分) としての直接的な意義 姿勢を表すパラメータとしての解釈 指数写像でリー群に対応付けられることによる意義 一般に全射とは限らない ( は全射ではない) 指数写像が全射になる場合も, 微分は単位元にお いて行うようにすると計算しやすい: 例えば反復計算による最適化をする場合, 反復ごとに 座標系を取り直して常に単位元における微分を使うの がコツ 29 / 38 SL(3) ​ exp(p ​ X ​ + ⋯ p ​ X ​ ) ​ ​ = ∂p ​ k ∂ 1 1 n n ∣ ∣ p=0 X ​ k

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リー代数の構造 リー代数が単なるベクトル空間だとするなら,なぜリー群の曲面的な構造を内包し得るのか? 30 / 38

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交換子積 に対して以下の点 を考える ( と が可換なら は単位元のまま動かないが, 非可換のとき 上の曲線であり で単位元を通る): 行列指数関数の定義を代入して展開すると, ( の1次の項が現れないことに注意.3次以上は省略) パラメータを と取り直して を作ると, は単位元における 接ベクトルであり に属する          よって を任意に取ったとき も に属することが要請される と書き,交換子積と呼ぶ 31 / 38 X, Y ∈ g P(t) X Y P(t) G t = 0 P(t) = exp(tX) exp(tY ) exp(−tX) exp(−tY ) P(t) = I + t (XY − 2 Y X) + ⋯ t s = t2 Q(s) = P( ​ ) t ​ (0) = Q ˙ XY − Y X g X, Y ∈ g XY − Y X g [X, Y ] = XY − Y X

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交換子積の解釈と性質 と 非可換のとき, と がどのくらい異なるかを表すのが 可換ならば 以下の性質は直接計算により示すことができる: 歪対称性: 双線形性: ヤコビの恒等式: これら3つを満たす積 をリー括弧積と呼ぶ.交換子積 はその具体例 リー括弧積が定義されたベクトル空間をリー代数とみなすことができる (詳細は省略) 32 / 38 X Y XY Y X [X, Y ] = XY − Y X [X, Y ] = O [X, Y ] = −[Y , X] [c ​ X ​ + 1 1 c ​ X ​ , Y ] = 2 2 c ​ [X ​ , Y ] + 1 1 c ​ [X ​ , Y ] 2 2 [[X, Y ], Z] + [[Y , Z], X] + [[Z, X], Y ] = O [x, y] [X, Y ] = XY − Y X

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交換子積のご利益 事実: と が零元に十分近いとき以下が成り立つ (ベイカー・キャンベル・ハウスドルフの公式) 省略されている高次の項もすべて と とそれらに交換子積を繰り返し適用したものの線形和で表せる つまり,リー代数 の交換子積の挙動がわかれ ば,対応するリー群 の積の挙動がわかる リー代数はベクトル空間だから,適当な基底 について交換子積の関係を列挙しておけば, あらゆる元どうしの交換子積の挙動がわかる ∵ 交換子積は双線形 33 / 38 X Y exp(X) exp(Y ) = exp X + Y + ​ [X, Y ] + [X, [X, Y ]] + [Y , [Y , X]] + ⋯ { 2 1 12 1 ( ) } X Y g G

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の例 の基底として を取る (3 次元ベクトル空間の標準基底 の相互間のベクトル積の関係と同じになっている) 34 / 38 SO(3) so(3) J ​ , J ​ , J ​ 1 2 3 J ​ = 1 ​ ​ ​ ​ ​ , J ​ = ⎝ ⎛0 0 0 0 0 1 0 −1 0 ⎠ ⎞ 2 ​ ​ ​ , J ​ = ⎝ ⎛ 0 0 −1 0 0 0 1 0 0⎠ ⎞ 3 ​ ​ ​ ​ ​ ⎝ ⎛0 1 0 −1 0 0 0 0 0⎠ ⎞ ​ ​ [J ​ , J ​ ] 1 1 [J ​ , J ​ ] 1 2 [J ​ , J ​ ] 2 3 [J ​ , J ​ ] 3 1 = [J ​ , J ​ ] = [J , J ​ ] = O 2 2 3 3 = −[J ​ , J ​ ] = J ​ 2 1 3 = −[J ​ , J ​ ] = J ​ 3 2 1 = −[J ​ , J ​ ] = J ​ 1 3 2 e ​ , e ​ , e ​ 1 2 3

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の例 特殊ユニタリ群 : 次ユニタリ行列のうち行列式が 1 のものの集合 つまり , (ただし は共役転置) と同様の議論により, の元は歪エルミートでトレースが 0: よって の元は一般に , , を基底とすると, つまり と は同じ構造を持つ を虚数単位 で割るとパウリ行列になる 35 / 38 SU(2) SU(n) n QQ = H Q Q = H I ∣Q∣ = 1 QH SO(n) su(n) S = H −S, tr S = 0 su(2) ​ ​ = ( ih ​ 3 h ​ + ih ​ 2 1 −h ​ + ih ​ 2 1 −ih ​ 3 ) h ​ ​ ​ + 1 ( 0 i i 0 ) h ​ ​ ​ + 2 ( 0 1 −1 0 ) h ​ ​ ​ 3 ( i 0 0 −i ) S ​ = 1 ​ ​ 2 1 ( 0 i i 0 ) S ​ = 2 ​ ​ ​ 2 1 ( 0 1 −1 0 ) S ​ = 3 ​ ​ ​ 2 1 ( i 0 0 −i ) [S ​ , S ​ ] 1 1 [S ​ , S ​ ] 1 2 [S ​ , S ​ ] 2 3 [S ​ , S ​ ] 3 1 = [S ​ , S ​ ] = [S ​ , S ​ ] = O 2 2 3 3 = −[S ​ , S ​ ] = S ​ 2 1 3 = −[S ​ , S ​ ] = S ​ 3 2 1 = −[S ​ , S ​ ] = S ​ 1 3 2 su(2) so(3) S ​ , S ​ , S ​ 1 2 3 i

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単位クォータニオンの例 単位元 を通る 3 本の曲線を選んで,単位元における微分を取る: を基底に取ると, 36 / 38 q(t, ω ​ , ω ​ , ω ​ ) = 1 2 3 cos ​ + 2 t (ω ​ i + 1 ω ​ j + 2 ω ​ k) sin ​ 3 2 t i = 2 j = 2 k = 2 −1, ij = k, jk = i, ki = j ω ​ + 1 2 ω ​ + 2 2 ω ​ = 3 2 1 1 q ​ (t) = 1 cos ​ + 2 t i sin ​ , ​ ​ (0) = 2 t q ˙1 ​ i 2 1 q ​ (t) = 2 cos ​ + 2 t j sin ​ , ​ ​ (0) = 2 t q ˙2 ​ j 2 1 q ​ (t) = 3 cos ​ + 2 t k sin ​ , ​ ​ (0) = 2 t q ˙3 ​ k 2 1 u ​ = 1 ​ i, u ​ = 2 1 2 ​ j, u ​ = 2 1 3 ​ k 2 1 [u ​ , u ​ ] 1 1 [u ​ , u ​ ] 1 2 [u ​ , u ​ ] 2 3 [u ​ , u ​ ] 3 1 = [u ​ , u ​ ] = [u ​ , u ​ ] = 0 2 2 3 3 = −[u ​ , u ​ ] = u ​ 2 1 3 = −[u ​ , u ​ ] = u ​ 3 2 1 = −[u ​ , u ​ ] = u ​ 1 3 2

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まとめ 剛体変換や射影変換はリー群の一種 リー群 = いたるところで接平面が定まる滑らかな群 リー代数 = リー群の単位元における接空間 交換子積 (より一般にはリー括弧積) について閉じたベクトル空間 基底に関して交換子積を調べ上げることで構造が定まる 指数写像 = リー代数からリー群への自然な対応 指数写像により,リー群の単位元近傍に扱いやすい「目盛り」を入 れられる 37 / 38

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参考文献 佐武 一郎: リー群の話, 日本評論社, 1982. 示野 信一: 演習形式で学ぶリー群・リー環, サイエンス社, 2012. Richard M. Murray, Zexiang Li, S. Shankar Sastry: A Mathematical Introduction to Robotic Manipulation, CRC Press, 1994. Kevin M. Lynch, Frank C. Park: Modern Robotics: Mechanics, Planning, and Control, Cambridge University Press, 2017. John Stillwell: Naive Lie Theory, Springer, 2008. 鏡 慎吾: ロボット工学のためのリー群・リー代数入門, 日本ロボット学会誌, 2023. 38 / 38