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力学の基本原理を用いたオーバハンドパス における合理的ルール構築の検討 三村泰成 鶴岡工業高等専門学校 Discussion of rational rule construction in overhand pass using basic principle of mechanics 1

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はじめに  バレーボール(Volleyball)という競技とは?:  「ボールを地面に接地させずに打ち返す」という競技  オーバーハンドパス  「打ち返す」という現象ではない?  ルールでも明示されていない? (両手でボールヒットする?) • 「オーバーハンドパス」という力学現象を明らかにする • 力学を用いてルールを提案する. 2 • 『持っているかどうか』の判別をする方法がこれまでない. • カテゴリによっては,大きな大会で反則を取られていないケースもある. • チームはルールに従った行動をとるので,選手育成に悪影響がある. 問題 目的

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ボールが跳ね返るとは? 3 ボールが床でバウンドして跳ね返る挙動(概念図) 離床 最大変形 着床

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ボールが跳ね返るときの床反力 4 弾性反発 接地時間は約 0.01 秒 1m程度の高さから静かに落と して反発した時 ボールをたたきつけて反発した 時

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弾性反発現象の分類 5 time time time (床で)跳ね返る 打ち返す 突く(先端で打ち返す) time ボール以外の弾性体で跳ね返す 弾き返す Volley ??

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オーバーハンドパスとは? 6 • ボールの弾性反発? • 身体部位で弾き返す? • キャッチ&スロー? 日本バレーボール協会,コーチングバレーボール基礎編,大修館書店,(2017)

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ラファエル・オリベイラ選手 https://youtu.be/71tGWES43gw http://www.volleyball-movies.net 7

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アンダーハンドパス 8 ボールが変形している!! ボールの弾性反発 30fps 240fps 接触時間: 0.01667秒 (4/240)

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オーバーハンドパス 9 30fps 240fps 接触時間: 0.0833秒 (20/240) “volley” ではないが,ここまでを Good とするようである. ボールはほとんど変形しない!! 身体側で弾性反発を実現

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高速キャッチ&スロー 10 30fps 240fps 肘が屈曲方向に動く 接触時間: 0.1542秒 (37/240) もはや弾性反発とは 言えない!!

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高速キャッチ&スロー時の肘関節の屈曲 11 ボールタッチ後に肘関節が屈曲側に動く!

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接触時間の比較(概算) 12 0.01秒~0.03秒 アンダーハンドパス オーバーハンドパス 高速キャッチ&スロー 0 0.1 0.2 キャッチ&スロー 0.08秒~0.14秒 0.12秒~0.2秒 0.2秒~ 時間での判別は困難!!

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オーバーハンドパスの動作解析 13  (1)手の“ばね”を活かす  (2)手の“ばね”を、身体の“力”で活かす Makita et al.,(2015), the 25th Congress of the Int. Society of Biomechanics, AS-0165. ボール接触時の床反力 縄田, 日本バレーボール学会 第21回大会2日目(2016/03/20) 肘の伸展

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直上突きパス(できるだけ肘を固定) 14 30fps 240fps 接触時間: 0.1333秒 (32/240) “突いていると感じる” オーバーハンドパス. 実際には手首の弾性反発であり,ボールは 変形しない.

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玉突き現象 15 手 体 幹 下肢 上腕 前腕 手首 縄田, 日本バレーボール学会 第21回大会2日目(2016/03/20) 突きパス オーバーハンドパス 手 体 幹 下肢 上腕 前腕 手首 肘 肩 肘関節は 伸展方向 に動く! 屈曲方向に動くと バネを活かせない!

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突きパスの 3DCAD モデル 16 初期状態 バネの力で体幹を加速 ゴムの塊 炭素鋼

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「床反力」と「手とボールの接触力」 17 バネ反力 両足 接触力(両手とボール) ボールの速度

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オーバーハンドパスに関するルールの提案 18 オーバーハンドパスは,ボールではなく,身体の弾性エネルギを利 用した弾性反発である.弾性エネルギの蓄積&解放には,手指関 節に付随する筋腱複合体を主に利用する. 力学現象 オーバーハンドパスのとき,ボールが接触してから肘関 節は屈曲方向に動いてはならない. 屈曲方向に動いた場合は,「キャッチ」の反則と見なす. ルール ボール接触時に肘関節は伸展しないと バネを活かすことができない!!

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今後の課題 19  多くの選手を使った動画撮影,計測,検証.  信頼性を向上するには,信頼性のあるデータが必要である.  今回のルールを多くの審判が理解し,判定に利用できるかの 検証も必要である.  力学モデル:  「突きパス」を実現できるロボットの製作.  オーバーハンドパスを実施できる「義手」,「装具」の製作. 人工物を用いて力学現象を実現できれば, 「動作の力学モデル」の信頼性が向上する n 数が必要

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ジャンプ動作との比較 20  スクワットジャンプ ≒ ゆっくりキャッチ&スロー  垂直跳び(反動をつけてジャンプ)≒ 高速キャッチ&スロー  リバウンドジャンプ ≒ オーバーハンドパス 「オーバーハンドパス」という動作感覚は, バレーボール以外で経験することは少ないかもしれない.

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まとめ  「オーバーハンドパス」という力学現象を明らかとした.  筋腱複合体を用いた「弾性反発」であることを示した.  3DCADモデルを製作し,力学モデルを検証した.  「肘の伸展・屈曲」に着目することで,「オーバーハンド・ パス」と「キャッチ&スロー」を判別できることを示した.  新たな「ルール」を提案した.  「力学現象」を示すことで,合理的なルールを 規定できることを明らかにした. 21

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資料 22

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動作を習得できる環境とは? マクロスケール: 身体全体で行われてる仕事 ミクロスケール: 各部位が行う仕事 メゾスケール: 簡略化したモデルが行う仕事 • 身体中で起きている現象? • 形,負荷のタイミング,...? • 外から教えることは不可能! 選手自身が感じて, 自分自身で学習できる 環境 を整備する. 過剰な関節 過剰なアクチュエータ 過剰に変形する • マルチスケールで観察が必要! • 何が起きてほしいのか? • 何を感じてほしいのか? 思考錯誤,試行錯誤 23