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日本記号学会 情報技術とプラグマティズム研究会 2024.10.8

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論点提起② 「Viewのインデキシングをめぐって」 谷島貫太(二松学舎大学)

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写真とインデックスindexの関係を再考したい この問題提起でやりたいこと:

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写真とインデックス

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「いかなる写真も、光の反映を感光性の表面に転写した物理的痕跡の結果である。写真 はそれゆえ、一種のイコンつまり視覚的類似性であり、対象に対し指標的関係を持つ。」 ロザリンド・クラウス「指標論I」(『アヴァンギャルドのオリジナリティ』,p.309) 写真における〈真正性〉や〈参照性〉を位置付けるものとしてのインデックス 「写真、特にスナップ写真は非常に有益である。というのは、それらは表意している対象に ある点でまったくよく似ているということをわれわれが知っているからである。しかしこの類 似性というのは、写真が一点一点物理的に自然と対応するよう強いられるという状況のも とで作られたという事実によるものである。そういう点で、それらは記号の第二のクラスつま り物理的結合による記号のクラスに属する。」(CP2.281; パース1986: 35)

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問題意識: メディア研究におけるインデックス概念は 写真という事象を理解するにはあまりにも限定的ではないか?

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一枚の写真:

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•A line of dom e-shaped tufa rocks culm inating in a large pyram id-shaped tufa rock in Pyram id Lake, Nevada. https://www.loc.gov/resource/cph.3a23367/

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- Plate 91 from: Geological exploration of the fortieth parallel / U.S. Army Corps. of Engineers ; Clarence King, geologist in charge. [Washington, D.C., 187-?]. - Title from item. - Published in: Framing the West: The Survey Photographs of Timothy H. O'Sullivan / Toby Jurovics, Carol M. Johnson, Glenn Willumson, and William F. Stapp. New Haven: Yale University Press, 2010, plate 10. - Exhibited: "Framing the West : The Survey Photographs of Timothy H. O'Sullivan" at the Smithsonian American Art Museum, Washington, D.C., February-May 2010. Medium (アメリカ議会図書館サイトによる説明) 19世紀後半の地質調査の一環として撮影された写真

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真正性や参照性を担保する写真のインデキシカルな機能は 物理的な痕跡性だけでは十分には機能しない 「写真はアジェにおいて、歴史のプロセスの証拠物件となり始める。このことが写真の隠れた政治的意義と なる。こうした写真はすでに、一定の意味で受け取られることをもとめている。心の赴くままに観想をめぐらす ことは、それらにはもはやふさわしくない。それらは見る者を不安にする。見る者は、それらに近づくにはある 一定の道を探さなくてはならないと感じる。そうした者のためにこの同じ時期に、道しるべを立て始めるのが 写真入り新聞である。(略)ともかくここではじめて写真には説明文が不可欠となった。」ヴァルター・ベンヤ ミン「複製技術時代の芸術作品」(『ベンヤミン・コレクション1』,p.600)」 「写真は記号の自律性の崩壊の前触れだ。写真を取り囲む無意味性は、テクストを添加することによっての み満たされうるのである。」クラウス『指標論I』(『アヴァンギャルドのオリジナリティ』,p.312) 写真イメージのインデックス性と 言葉によるインデキシングの組み合わせ

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クラウスの「写真の言説空間」での写真比較 前者の写真を石版印刷によって複製したのが後者 前者の写真が美術史における風景写真の系譜の中で扱われてきたのに対し 後者は地質学のレポートのなかで取り上げられた

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・「美学的言説空間」: 美的観点から評価されべきものとして写真を提示 二つの異なった言説空間への写真のインデキシング/投錨 ・「地質学的言説空間」: 地質学的観点から評価されべきものとして写真を提示 写真イメージが持つ意味は、どの言説空間/アーカイブに インデキシングされるかによって決まる 写真の物理的な痕跡性のみを独立させて扱うことは、写真の理解をメ タにインデキシングする言説空間の多元性を抹消してしまう

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立体写真stereographと 眺望view

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ところでティモシー・オサリバンの写真は 19世紀には立体写真としてのみ流通していた なのでオサリバンの写真は、立体写真が可能とする視覚的な経験 という文脈に差し戻して理解される必要がある ただこの論点は今回のセッションではスルー

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立体写真のアーカイブ装置 立体写真は多くの倍、立体眺望図stereo viewを 多数掲載した目録として出版された 何かを表現する作品を集めた作品集ではなく、 眺望viewの体系的なアーカイブ 一枚の写真は、メタデータを介して アーカイブのシステム内の特定の地点にインデキシングされる

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Viewのアーカイブ装置とそのオペレーション 特異な眺望をアーカイブ化していく、というプロジェクトが あらかじめ記録されるべき眺望を目録化し、そこに写真を 追加していくオペレーターとして写真家は機能する 出版会社による権利管理が写真家の作家性に取って代わる アーカイブによるインデキシングの関数としての写真家

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オペレーションのための文化技術 「最後に眺望は、この特異性、この焦点を、世界の一つの複合的表象、一種の完璧な地形 図集成のなかに、一つの瞬間として登録する。というのも「眺望」が保たれた物理的空間は つねに一つのキャビネットだったのであり、その引き出しにはある地理学的体系の全体が目 録化され保管されていたからである。ファイル・キャビネットは、壁やイーゼルとは別物である。 それはもろもろの情報断片の保管および相互参照、さらにはそれらをある知の体系の特定 の格子(グリッド)を通じて照合できるようにするものである。立体眺望図用の手の込んだ キャビネットは、公立図書館の設備であったのと同様に、19世紀の中流家庭の調度品の一 つでもあったが、それは地理学的空間の複合的表象を構成する。眺望の空間性、その強烈 な深度は、その主題もまた空間である、より抽象的な体系の感覚的モデルとして機能する。 眺望と土地測量とは相互規定的であり相互相互連関的である。」クラウス「写真の言説空 間」(前掲書,p.210) 構造化されたファイルキャビネットが、立体写真をめぐる 写真的実践のオペレーターとして機能する

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脱線: Carte de Visiteのオペレーションと文化技術 CVの交換という実践が盛んであったとするなら、必ず集められたCVを整 理するためのアルバム的なものがあったはずだし、またそれらのアルバムを しまうためのキャビネット的なものもあったはず。さらには大量のCVを分類 するための原初的なメタデータセットも。これらのインデキシングのシステム に後押しされてCVをめぐる実践が成立していたと想像される。

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Viewをアーカイブ化するという プロジェクトの系譜 立体写真の目録を出版することを目的とした出版社が多く作られたが その多くは~view社という名前を冠したという この系譜の現代版は間違いなくアレではないだろうか

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Google Street View

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世界のすべてのViewをアーカイブ化する このグリッドを埋めていくオペレーターがGSV車であり すべてのViewはこのグリッドのなかにインデキシングされていく https://www.google.com/streetview/how-it-works/

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そしてGoogleが撮影したviewに加え、一般人が撮影した viewも合わせて蓄積されていくことで、Googleのデータ 資本主義の資本の一部になっている

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まとめ インデックス概念を多元化した上で、写真がどのようなインデキシ カルな実践のなかに組み込まれているか、という観点から写真を捉 えることで、見られるものとしての写真だけではなく、処理operate されるものとしての写真をより解像度高く理解できるようになるの ではないか?