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行政のオープンネスとフェアネス ーデジタル庁でDXに取り組む 『民間採用人材』の視点からー 大橋 正司 デジタル庁デザイナー、人間中心設計専門家 関 治之 デジタル庁プロジェクトマネージャー、一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事 本資料はCC BY-SA 4.0で公開します 2022年4月24日 日本アーカイブズ学会 2022年度大会 発表資料

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政府や自治体の行政事務のデジタル化 ● 平成28年官民データ活用推進基本法 ○ データを活用した政策立案 ○ オープンデータ公開 ○ クラウドサービス活用 ● 令和3年 デジタル庁発足 ○ 関と大橋は、民間出身の人材としてデジタル庁に勤務 ● 紙資料やPDF、Word文書のような文書形式にとらわれない、様々な情報をどのよ うにマネジメントし、アーカイブすべきか?

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行政実務のデジタル化の進展によって何が変化しているか ● 従前から、デジタル化されている行政情報は多い ○ ほとんどの文書はWordやExcel等のエディタを使って作っている ○ メールで組織内外と、やりとりをしている ○ このようなツールのアーカイブについてはこれまでも議論されてきた ● リモートワーク前提の働き方があたりまえに ○ 非同期で仕事をするためには、様々な情報にアクセス可能である必要がある ● 独立したファイルとして保管できないようなデジタル情報が増加 ○ チャットツール、Wiki、ナレッジシェアツールなど ○ 対話的、流動的であることが特徴 ■ 対話的:コメント機能やスレッドでの会話、絵文字のリアクションなど ■ 流動的:常にアップデートされ、組織の境目も曖昧

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動的、かつ膨大な情報をどのようにアーカイブするのか? ● チャットツールの利用 ○ 非同期コミュニケーション、フラットな情報共有(オープンチャンネル)、検索機能、 ファイル添付など様々な利便性がある ○ 気楽な雑談から重要な政策レベルの意思決定まで、多様なやりとりがされている ● どこまで記録すべきか? ○ 気楽な雑談などの日常レベルの会話が記録され、将来的に公開される可能性 ○ 発言の萎縮効果や、プライバシー保護への配慮も必要では ○ アーカイブするとした場合、どの単位で、どう記録を取るべきか?

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Slack デジタル庁内でもSlackを活用。 雑談用のチャンネルやチーム内の情報 共有、プロジェクトやサービスに関する情 報、カルチャー浸透、オンボーディング、 ヘルプデスクなど様々な用途で使われて いる。 絵文字によるリアクションなども多用 「デジタル改革共創プラットフォーム」で は、3000人以上の自治体職員とデジタ ル庁職員がやりとりをしている 画像はSlack社のサイトより引用: https://slack.com/intl/ja-jp/features

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内製化により生み出される情報はどう管理するか? ● システムの内製化が進んでいる ○ 内製化:エンジニアやデザイナーを直接雇用し、開発に携わること ● 従来の意思決定とは別の種類の電子データが増えている ○ 仕様書だけで全てが決まるわけではない ○ UIコンポーネントのデザインツール( Figma等)上のデータやコメント ○ GitHub 等のソースコード管理ツール上で交わされるバグ報告、機能提案、課題管理等の情報

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UIデザインツールと コメントの例 Figma のようなUIデザインツール上で は、コメント等を通じてデザイン上の意思 決定のためのコミュニケーションが可能

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GitHubコメントの例 GitHubの 「Issues」において、デジタル庁 エンジニアが仕様の変更について記述し ている。 これに対し、一般エンジニアから技術的 仕様などについてコメントが行われ仕様 が変更される場合がある。 一般エンジニアからも要望や提案が入る ことがあり、取り入れられることも。 https://github.com/cocoa-mhlw/coco a/issues/840

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民間とのやりとりの方法も増えている ● デジタル庁アイデアボックスなど、 パブリックコメントとは別の手段から送られた意見 ● Twitter 等を通じて発信した情報やリプライデータ ● Youtubeなどのオンラインのライブ動画に寄せられたコメント等

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デジタル庁アイデア ボックス デジタル庁の政策に対して、国民がオー プンに意見を言えるウェブサイト 意見募集中のテーマに対して、ユーザー 登録を行うことで自由にコメントができる。 ユーザー同士のコメントも可能。 https://digital-agency.ideabox.cloud/

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複雑な参照関係・依存関係を 持つデータをどう管理するか ● プライバシーポリシーやコピーライトポ リシー、ウェブアクセシビリティステート メント、利用規約、ガイドラインなど、相 互参照関係も含めて意味を持つ情報 ○ 文書間での参照関係、バージョン違いの管 理 ○ ISO 、W3C などの文書を参照している、な ど

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様々な外部コミュニティとのやりとりをどう記録するか? ● 外部との対話的なコミュニケーションが増えていく ○ デジタル改革共創プラットフォーム( Slack)での自治体職員とのやりとり ○ クローズドな GitHub やSlack 上での委託先開発者個人とのやり取り ○ 一般開発者とのGitHub上でのやりとり ○ デザインコミュニティとの Figma上でのやりとり ● 膨大な情報を、どこまでどう保存すべきか? ● 真正性、信頼性、完全性、使用性等の担保は? ● 保存したとしても、適切に検索ができるか? ● プライバシーの保護は? ● 著作権や知的所有権の扱いは? ● オープンソースの依存ライブラリは管理すべき? ○ 依存先も常にアップデートされる

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これまでの枠組み ● 文書管理の適正の確保のための取組について(平成30年7月20日) ○ 電子的な行政文書について文書管理者が一元的に管理できるよう、 所在情報が的確に把握できる仕組みを構築すること ● 行政文書の電子的管理についての 基本的な方針(平成31年3月25日) ○ 原則として電子媒体を正本・原本として管理すること ○ 新たな国立公文書館の開館時期 (2026年度)を目処として、本格的な電子的管理に移行する ● 「行政文書の管理に関するガイドライン」改正(令和4年2月7日) ● デジタル庁「行政文書管理規則」改正(令和4年4月1日)

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業務利便性を犠牲にせず、適切に情報を管理する必要 ● デジタル庁では、プロジェクト制を導入している ○ 様々な人がプロジェクトに関わる ○ 兼任も多く、入れ替わりも激しい ● 情報が部署やプロジェクト内でサイロ化してしまうと、 情報へのアクセスコストが上がり業務上の効率が著しく下がる ○ 組織内での情報の透明化、フラット化が必要 ○ 合わせて、検索しやすく、再利用しやすく、構造化された情報の整備が重要 ● 利便性をあげつつ、情報を適切に管理する必要がある

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デザイナーやエンジニアの観点で眺めると ● JIS X 0902-1:2019(ISO15489) 情報及びドキュメンテーション―記録管理 ○ 記録管理のプロセス ○ 真正性(Authenticity)、信頼性(Reliability)、完全性(Integrity)、使用性 (Usability) ● ISO 30300:2020 シリーズ(Information and documentation — Records management — Core concepts and vocabulary) ○ 記録を管理するための組織運営のありかた ○ ステークホルダー、コミットメント、プロセス及びシステムアプローチ、改善

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ユーザビリティ? ● JIS Z 8521:2020 のユーザビリティの定義的な受け止め方 ● JIS X 0902-1:2019 のユーザビリティの定義的な受け止め方 満足:システム、製品又はサービスの利用に起因するユーザのニーズ及び期待が満たされている程 度に関するユーザの身体的、認知的及び感情的な受け止め方

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• 資料提供招請 • 一般競争入札の入札公告( WTO対象) • 指名競争入札の入札公示( WTO対象) • 随意契約に関する公示 • 一般競争入札の入札公告( WTO対象外) • 指名競争入札の入札公示( WTO対象外) • 公募型プロポーザル情報 • オープンカウンタへの参加募集情報 • 情報システムに係る新たな調達・契約方法(技術的対話) 一定の期間検索でき、提示され、読み取ることができるが ...

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● WTO政府調達協定(Agreement on Government Procurement:略称GPA) ○ 1億2000万円以上の調達(意見招請などが必要になる)

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委員会 審議会 検討会 懇談会 会議 研究会 有識者会議 ワーキンググループ 協議会 部会 審査会 意見交換会 検討会議 連絡会 タスクフォース 会合 分科会 幹事会 有識者会合 調査会 プロジェクトチーム 検討チーム 懇話会 関係者会議 勉強会 報告会 政策会議 推進会議 総会 連絡会議 チーム 連絡協議会 公聴会 判定会 関連審議会 諮問会合 関係者ヒアリング フォーラム 賢人会議 省議 ワーキングチーム 懇親会 検討部会 円卓会議 コンソーシアム 実務者会議 アドバイザー会議 参与会 ● それぞれ何なの? ● 根拠法あり?なし? ● 階層表現は? ● 持ち回り開催って何? (なんで議事録ないの?) デジタル社会推進会議と デジタル社会構想会議とが連携し デジタル社会推進会議幹事会の下に デジタル社会推進会議副幹事会があり さらにデータ戦略推進 WGと その下にサブワーキンググループがあって

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● ドメインエキスパートによって開発され、 ドメインエキスパートなら、使いやすい ● 相互運用性に乏しい ● ドメインエキスパートによって開発されるが、多 様なステークホルダーにとって、使いやすい= ヒューマンリーダブル ● 相互運用性、アクセシビリティを意識。

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利用者視点の品質と開発者視点の品質 ● SQuaREシリーズ ○ 利用者視点と開発者視点を分離 ● 利用時の品質 JIS X 25010:2013(ISO/IEC 25010:2011)(2018確認) 
 東 基衛,”システム・ソフトウェア品質標準 SQuaRE シリーズの歴 史と概要”, SEC Journal Vol.10 No.5(2015), p21を引用 


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● JIS Z 8530:2019 人間工学ーインタラクティブシステムの人間中心設計 ○ 使いやすいシステムを実現するための推奨プロセスを定めたもの。 ● ISO 9241-220 シリーズ(Processes for enabling, executing and assessing human-centred design within organizations) ○ 組織内での人間中心設計を可能にし、実行し、評価するためのプロセス 利用状況の 把握と明示 ユーザー要求事項の 明示 ユーザー要求事項を 満たす設計案の作成 要求事項に対する 設計の評価 プロセスの企画

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デジタル社会における文書管理 文書管理意識の向上 システムのデザイン(使いやすさ) 担保する技術(プラットフォーム) 組織的な戦略(マネージメント) ワークプロセス

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文書管理技術(プラットフォーム・フォーマット) ● Drupal + Markdown の採用 ● ウェブアクセシビリティの向上 ● 自治体間や各国間との 相互運用性の確保 ○ 政府相互運用性フレームワーク( GIF) ○ DCATの採用 ○ ベンダーロックインの防止 将来的にはGIT等による厳密な更新管理

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まとめ ● 行政事務のデジタル化、及び内製化によって、様々なプラットフォーム上で対話的 かつ流動的な情報が爆発的に発生するようになった ● これらの情報をどのようにアーカイブし公開すべきかが問われている ● 業務の利便性を損なわず、適切に文書を管理・公開するためには、国際標準を見 据えたルール整備はもちろん、組織戦略、システムデザイン、プラットフォームとそ れを実現する技術的側面までを踏まえた議論が必要 ● 研究者や技術者、デザイナー、行政担当者との対話を通じ、あるべき姿を議論して いきたい