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規制緩和後の 生活交通確保に対する 学説と自治体の姿勢の展開 ミニマム保障と利便性向上の概念的曖昧さと政策目的の希薄化 何玏(芝浦工業大学、一般財団法人計量計画研究所) 1

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背景 2

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3 地域公共交通を なんとかする 地域公共交通で なんとかする

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4 国交省地方運輸局作成の事実上の地域公共交通計画例 公共交通産業の外側の地域課題の解決コミットメント無し。 ――例)交通弱者アクセシビリティ改善、都市交通混雑緩和

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地域公共交通計画の特徴 5 地域公共交通=ローカル公共交通の改善効率化ゲームと化している のはなぜなのか ➡「3領域」の混淆に問題がある 交通計画の教科書で学んだこと ⚫ 交通計画の目標は「交通機関の姿」ではなく「街と暮らしの姿」 ⚫ 趨勢値からあるべき姿へのバックキャスティング 国土交通省都市局2022「都市・地域総合交通戦略のすすめ(令和4年改訂版)」より作成 ⇔地域公共交通は、標準的な交通計画のあり方と異なった発達をしている。

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地域公共交通計画の特徴 6

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地域公共交通の 3領域 7

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もともと分かれていた 生活支援の交通 都市の交通 8

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地域公共交通概念の類型化 行政用語「地域公共交通」≒不採算で公的関与が必要な公共交通 9

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地域公共交通概念の類型化 行政用語「地域公共交通」≒不採算で公的関与が必要な公共交通 不採算公共交通は、目的も手段も異なる2領域に分かれる 10

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地域公共交通概念の類型化 行政用語「地域公共交通」≒不採算で公的関与が必要な公共交通 不採算公共交通は、目的も手段も異なる2領域に分かれる 11

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地域公共交通概念の類型化 行政用語「地域公共交通」≒不採算で公的関与が必要な公共交通 不採算公共交通は、目的も手段も異なる2領域に分かれる 12 政策領域 生活支援交通 都市交通 主に発揮させる 公共交通の役割 代わりに運転する人が いること まとめて運ぶこと 取組の基本路線 (代表的な考え 方の例) • マイカーの削減は目 指さない。 • マイカーを自由に使 えない住民の活動機 会の確保のために、 個別的な輸送サービ スを供給する。 • 利便性の高い公共交通 サービスの供給により、 マイカーを削減する。 • あわせて、マイカーを 自由に使えない住民の 活動機会の確保を図る。 対象とする区域 過疎地 都会

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地域公共交通概念の類型化 行政用語「地域公共交通」≒不採算で公的関与が必要な公共交通 不採算公共交通は、目的も手段も異なる3領域に分かれる 13 ① ② ③

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地域公共交通概念の類型化 行政用語「地域公共交通」≒不採算で公的関与が必要な公共交通 不採算公共交通は、目的も手段も異なる3領域に分かれる 14 求められる 計画手法 目的達成型 現状改善型 目的達成型 政策領域 ③生活支援交通 ②利便性向上のための 公共交通 ①都市交通 主に発揮させる 公共交通の役割 代わりに運転する人が いること 両方 まとめて運ぶこと 政策課題 マイカー利用=OK 公共交通による交通弱 者の生活の足の確保 ③を大きく上回る。ま とまった非充足移動 ニーズの存在 自動車交通過多の弊害 渋滞、公害、スプロー ル化 政策手段 生活に不可欠な必要最 低限度のサービスの確 保。 一定 の効 率性 を持つ サービスの確保。 独立採算ベースのサー ビス水準に対する公的 資金を使った底上げ 依拠する 経済概念 公正 行政裁量、費用対効果 に対する納税者の受容 性限界 効率 対象とする区域 中山間地 郊外 都市部

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地域公共交通概念の類型化 15 行政用語「地域公共交通」は 異なる交通政策の領域を十分区別せず。 政策目的の曖昧化 最大公約数的な 「公共交通の活性化、改善効率化」 への収斂

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領域を分ける必要性 16

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公共交通への公的関与 17 ① ② ③

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②と③で政策手法を変える必要性 18 理想 ② ③

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②と③で政策手法を変える必要性 19 ② ③

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②と③で政策手法を変える必要性 20 現実 ② ③

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②と③で政策手法を変える必要性 21 現実 ② ③

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②と③で政策手法を変える必要性 22 現実 ② ③

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②と③で政策手法を変える必要性 23 理想 ② ③

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① ② ③ 効率性の捉え方の違い 最適サービス水準が外から与えられる領域 vs. 公共交通自身の収支率でサービス水準が決まる領域 24 「持続可能な公共交通」という言葉の「正しさ」と「おかしさ」も 領域を分ければ説明可能

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地域公共交通政策の現場の風景 ⚫ 国庫補助は、最低限の足の確保を装いながら、実態としては輸送量 150・平均乗車密度5(2)という中量輸送に重点が置かれていて、そ れが成り立たない領域が放置 ⚫ 最低限保証すべきサービス水準の規定が無いまま、収支改善の名の 下に廃線・減便・曜日運行・デマンド化を強いられていて、高齢者 より実は高校生の通学が脅かされている ⚫ それ無しでは動けない人だけが乗れば良い生活交通の「利用促進」 に行政や住民が疲弊してしまう ②と③で政策手法を変える必要性 25 国の政策が②③を混同しているため、③の領域で②の手法を使わざる を得ない矛盾に自治体が直面する。

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②と③で政策手法を変える必要性 なぜ③の領域を②の政策体系で代行しようとする? (なぜミニマム領域で「一定のボリュームの需要」を目印に公共交通 存廃を判断しようとする?) ⚫ 都市部・郊外平野部ではODが複雑で、生活に必要不可欠なサービス を行政が具体的に特定することが一見難しい ⚫ やろうと思えば生活に必要不可欠なサービスを行政が具体的に特定 できる場合でも、自治体の規模が大きいとそこまで手を回そうとし ない。(政令市の山間部等) ⚫ 代理指標としての「使ってもらえるということは必要性あり、使っ てもらえないということは必要性無し」 26 これを乗り越えるための 各種アクセシビリティ指標

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②と③で政策手法を変える必要性 ②と③で本来異なる政策イメージ ⚫ 赤字補填=延命措置、改善効率化=根治療法とのイメージがあるが 27 ②利便性向上の ための公共交通 不断の改善効率化努力による、同じ財政制約・同じ収支率の 下でのサービス拡大 ③生活支援交通 生活に必要不可欠な公共交通を特定し公的資金で維持する • 日本離島航路:指定路線 • 韓国:30戸以上の集落への路線バス供給 • スイス:人口100人以上の集落への路線バス供給 • オーストリア:人口250人以上の集落へのバス4往復供給 • 南信州公共交通:通院と高校生通学の保障 =活動機会の保障とそのための負担との組合せの社会選択 ③を②で代行す る場合 生活に必要不可欠な公共交通が、維持を認められる採算性範 囲内に入り続けるように、不断に改善効率化努力を行う。 低収支領域での収支改善努力はキリがなく、根治療法に ならない

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Appendix 28

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論文本編の紹介 規制緩和後の生活交通確保のために自治体が果たすべき任務に照らし て、20年間の地域公共交通政策の展開を明らかにした。 29 第2章 • 生活支援交通領域の自治体の任務の整理 • 公共交通分野に特有の「連携と協議」の存在意義の整理 第3章 • 国・自治体の公共交通維持に対する考え方を分析 • 利便性向上を目的とした政策体系が支配的になっていること を明らかにした。 第4章 • 規制緩和後の自治体の公共交通政策や,地域公共交通活性化 再生法に基づく行政に影響を与えた主な学説を分析 • ②の領域を想定した、既存サービスの改善効率化を積み上げ る形の学説が発達してきた経緯を明らかにした。 第5章 • 地域公共交通の行政領域・学説のもとでは、①~③が区別さ れず、②の領域に最適化された政策手法・学説が全面的に適 用されている問題があることを示した。

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近年の地域公共交通活性化再生政策 30

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自治体の行動の分析 分析内容 ⚫ 採用している公共交通維持基準 なぜ公共交通維持基準か ⚫ その自治体(国)の公共交通政策の目的が読み取れる ⚫ 採用しているミニマム観が読み取れる 31

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自治体の行動の分析 維持対象による分類 32 維持基準の 類型 例 メリット デメリット 適用 一定量の需要 があるサービ スの確保 • 収支率30% • 平均乗車密度 5人 • そこそこの利 用度・効率性 のある公共交 通を特定でき る。 • 利用度・採算 性は低いが生 活に不可欠な 交通を特定で きない。 • 維持基準が低 すぎると、浪 費的サービス が出現する。 ②の領域向き ③には不向き 生活に不可欠 なサービスの 確保 • 人口250人以 上の集落には、 通学・通院・ 買い物のため の路線定期輸 送を供給する • 利用度・採算 性は低いが生 活に不可欠な 交通を特定で きる。 • 維持基準を広 くしすぎると 納税者の納得 が得られない。 ③の領域向き

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自治体の行動の分析 ②と③を区別する必要性 ⚫ ②は一定の効率性のある公共交通を確保するという考え方をとるた め,効率は悪いが必要不可欠な公共交通は存続を肯定できず,条件 不利地域の必要最低限度の公共交通は確保されないこととなる. ⚫ 一方,②で③を代行するために維持対象となる効率性水準を下げる 対応をすると,効率の悪い追加的サービスに無差別的に補助をする こととなり,②の領域で浪費が発生する. ⚫ これらのことは②と③とでは根本的に依拠する経済概念が異なるこ とに起因しており,両者は切り分けて対応するべきである. 33

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自治体の行動の分析 分析結果 34 多くの自治体は、②の政策領域に適した行動をとっている。

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昨今の自治体の公共交通維持に関する姿勢 ミニマム確保という政策目的が希薄化してきた経緯 35 詳説① コミバスの流行と 非効率なコミバスへの問題意識の高まり 詳説② コミュニティ主導の取組に対する 期待の高まり 詳説③ 地域の努力・輸送成績を 公共交通維持の要件とする考え方の出現 詳説④ 「協議の場」での「関係者の話し合い」を 重視する立場の出現

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昨今の自治体の公共交通維持に関する姿勢 現状に至る経緯 ⚫ 公共交通向けの国→地方財政移転の拡充を背景に、自治体運営バス の導入がブームとなった ⚫ 一方、当時の自治体運営バスには目的が曖昧なものや費用効率性に 劣る安易なものも少なくなかった ⚫ 同時期、現場に密着した住民主導の枠組みでサービス設計を行った 地域から費用効率性の高い事例が生み出され、注目された ⚫ 「ミニマム確保への責任を自治体が果たしつつ、住民の意見も取り 入れて費用効率の高い選択肢を採用する」という話ではなく、 「自治体がやると費用効率が劣るので、住民にミニマム確保を委ね たほうが効果的だ」 「既存事業者を入れて費用効率的なサービス設計をする創意工夫自 体が大事だ」 とでもいえる論理の交錯化が進行した 36

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昨今の自治体の公共交通維持に関する姿勢 37