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今日はどんなイベント? ② 「情報技術とプラグマティズム」研究会 情報技術とプラグマティズムが交叉する地点で記号をめぐ る問いを考える ① 「セミオトポス再訪」 日本記号学会の過去の大会/叢書で取り上げたテーマをめ ぐって改めて考えてみる 〇 二つのコンテクスト

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セミオトポスとは?

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2014年5月24日(土)、 5 月 25 日(日) 日本記号学会第34回大会「ハイブリッド・リーディング Hybrid Reading」 2016年8月刊行 阿部卓也/日本記号学会編『ハイブリッド・リーディング : 新しい読書と文字学』 新曜社

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阿部卓也著『杉浦康平と写植の時代』 は記号論に何を提起しているのか? 本日のテーマ:

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論点提起 谷島貫太(二松学舎大学)

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二つの論点 ① テクノロジーと記号の身体 ② プラグマティズムと記号の流通

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論点①:テクノロジーと記号の身体

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記号の身体性 記号には身体(ボディ)がある(p.75,76) 「日本の活字は欧文と違って、伝統的にどの文字もボディの形が正方形で統一されている。」 「ボディが正方形だという特性によって、日本語の活字組版は、縦組みの場合でも横組みの場合でも、いわ ゆるベタ組だけでラインがそろうし、一行あたりの文字数はつねにおよそ一定になるなど、視覚的な秩序が 生まれやすい利点がある。」 「カタカナは漢字の一部分を暫定的に借用して代替するために生まれた文字なので、起源からして、形に 欠落や不完全性を孕んでいる。また形状的には、垂直/水平でも円弧でもなく、斜めの線が基本になって いるという際立った特徴を持つ。(「タ」、「ク」、「ノ」、「ミ」などの文字を想起して欲しい)そのためカタカナ 活字の組み班で正方形ボディをベタ組みすると、斜めの線と斜めの線が連続することになり、視覚的に非 常に大きな、不自然な空隙ができる。」 ☞ 日本語の活字と欧文の活字は身体性が異なる ☞ 漢字、ひらがなとカタカナとでは、身体と心の関係が異なる

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記号の身体はなぜ見えないのか? 現象(紙の上に現れるもの)レベルの身体ではなく 記号を現実のものとして生産していくマトリックスレベルの身体だから ・記号トークンの生成マトリックス:字母、写植文字盤、歯車 後者のマトリックスを明らかにするために、個人的/集合的な 無意識(構造)ではなく印刷工房やデザイナーのアトリエや 文字ビジネスの企業の実践を歴史的に検証したのが 『杉浦康平と写植の時代』と言えるのではないか ・意味の生成マトリックス:構造/(集合的)無意識 記号論は前者のマトリックスしか 考えてこなかったのでは?

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記号論は、意味を生成するマトリックスだけでなく 記号の身体のマトリックスにも目を向ける必要が あるのではないか? 提起①

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記号の身体と操作可能性 このマトリックスレベルの身体(ボディ)の物質性が 記号の操作可能性を条件づける 記号の表現はその身体性が課す条件の 制約内での冒険でしかありえない 新たな記号テクノロジーの登場により記号の身体が変容すると、 その身体の操作可能性の条件も変容し、それまでにあり得なかった さまざまな表現の冒険の可能性が解放される 活字から写植への記号身体の変容が解放した 表現のポテンシャルを最大限探索した冒険者としての杉浦康平

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同書、227頁 同書、39頁 杉浦康平制作のポスター 「ストラヴィンスキー特別演奏会」 権利処理への配慮から画像省略 杉浦康平制作のポスター 「〈間〉展」 権利処理への配慮から画像省略

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文字の身体とイメージの身体 金属活字の時代には文字の身体と イメージの身体は切り分けられていた 写植によって一つの身体に 文字とイメージを一元的に操作することが可能になる ※ただし記号の身体性は操作可能性の相関物であり 写植の内部でも操作可能性が変容していくのに応じて 記号の身体も変容している

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同書、330頁 同書、211頁 写真印字の地紋を活用した、杉浦康平による 雑誌表紙デザイン(1964年) 1976年版『百科年鑑』の「世相」頁 権利処理への配慮から画像省略 権利処理への配慮から画像省略

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同書、346頁 写研のPR企画「思考作誤 てのひらサイズのWONDER WORLD」(1986年)で 戸田ツトムが提案した、文庫本のリニューアル案(左)、およびその文字指定(右) 権利処理への配慮から画像省略

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論点②:プラグマティズムと 記号の流通

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文字環境が写研のフォントに席巻される という事態はなぜ可能となったのか?

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同書、283頁 同書、284頁 ゴナ書体のファミリー ゴナ書体が使用された JR駅構内のサイン 権利処理への配慮から画像省略 権利処理への配慮から画像省略

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「当時の写研のビジネスモデルは、簡単に言えば「書体デザインの魅力を重要な競争力 の源にして、機械(専用システム)の販売で利益を上げる」というものだった。ユーザーを 自社のエコシステムに囲い込むことは、このモデルの根幹だった。金属活字の時代とは比 較にならないほど簡便になった(個人事業も可能な規模になった)とはいえ、システムの 導入に多大なコストがかかる以上、一度写研のシステムを導入したユーザーは、容易に は乗り換えができない。それでも、人気の高い写研フォントを使うための代替手段が存在 しない以上、そのシステムには価値があり、皆、それでなんとかやろうとする。当時の専用 システムの価格は、アマチュアの気軽な参入を許さない、写植専業者のプロフェッショナ ル性を守るものだったと同時に、重い金銭負担でもあった。」,p.316 みなが写研のフォントを使う/使わざるを得ないような エコシステムが構築されていた 「文字資本主義」の覇者としての写研

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〈生産された記号は流通して初めて力を発揮する〉 〈誰のもとにも届かなかった記号は存在しなかったのと同じ〉 記号のプラグマティズム的テーゼ 写植技術という新たな身体によって生産された記号は、写研という 経済的主体による経済的成功によって現実に多くの人々の文字環 境を書き換えていった

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記号論は、記号の生産体制(記号の身体性)に加えて 記号の流通体制(≒貨幣の動きとのカップリング)を ちゃんと考慮しなければいけないのではないか 提起②

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『杉浦康平と写植の時代』の プラグマティズム 「届ける」(≒買ってもらう)ためのプラグマティックな努力 ・ブックデザイン ・物語的構成 ・「人間」への焦点化 ・インタビューイ―とのネットワークetc… 書物を「作る」ことのマクロなデザイン