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構成概念はこうせい! 心理学者が測っているものは何か 1 ೔ຊ৺ཧֶձୈճେձ ެ։γϯϙδ΢Ϝ 話題提供者 小杉考司(専修大学) いまこそ心理測定学を 研究法と統計法の架け橋 αɹΠɹίɹϝɹτɹϦɹΫɹε

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自己紹介 • 名前;小杉考司(こすぎこうじ) • 専門;心理統計,統計モデリング 2 書籍購入 サイト↓

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心理学において「測定」はすごく大事 • データ解析のプロセスは手続きを全て書き下せる=客観性,再現性が 担保されていることが,科学としてとても重要! • その前に,心理測定,すなわち何をデータにするかについてを考えな いと後続の話が全て根幹から崩れ落ちます ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ 3

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お題;心理学者が測っている ものはなにか • この問いには「理論」と「方法」の2側面から答えられるが,えて してこの両者を混ぜて答えがち。これが惨憺たる現状の一因。 • 理論的な説明は杓子定規な感じで,「現実的にはそれほど 理想的にはいかない」という言い訳がいつも成り立つ • 方法論的な説明はHow toの解説になり,何をしてるのか わからなくても実践できてしまう • 心理測定学は研究法的側面と統計法的(数理的)側面をあわ せもっており,方法論の礎になるこの「学」が授業などで展開 されていないという構造的問題を指摘します 4 ҎԼɼ৺ཧई౓ʹݶఆ͓ͨ͠࿩ʹͳΓ·͢ɻ

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理論的に考えてみる • 「心理学者が測定しているもの」=「心」である,というので は解像度が低すぎる • 「心」はもちろん,そのほかの多くがスーツケースワード • 心理学の領域は生理ー知覚ー認知ー人格ー社会ー教育ー 臨床と幅広く,全員が同じ「心」を想定していないから, 「心理学者は測っているものは何か」「心を測定するとは いかなることか」という問いが,実はすでに違うものを指 していて,議論になっていないことが少なくない 5

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あなたにとっての (測定したい) 心とは何ですか

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「心」のモデル 8 ຊೳత൓ԠʀJGˠ%P ֶश൓ԠʀJGˠ%Pˠ5IFO ख़ߟʀJ%5ύλϯͷൺֱ ಺লతࢥߟʀهԱΛؚΊͨൺֱ ࣗݾ಺লతࢥߟʀ಺লͷ಺ল ࣗݾҙࣝʹؔ͢Δײ৘ʀଞऀࢹ఺ ຊೳతͳߦಈγεςϜ Ձ஋؍ɼݕӾɼཧ૝ .ϛϯεΩʔ ʮϛϯεΩʔത࢜ͷ೴ͷ୳ݕʯڞཱग़൛ΑΓ ܹࢗ ൓Ԡ ߦಈ ݴޠ

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社会のモデル 9 個人の内からでるも 他者システムの外郭まで 心は閉じたシステム (オートポイエーシス) 同じと見做しうる言語・行動を通じて互いに 「合意した」と表現する = 客観的or間主観的に「一致」とする ࢀߟ ౻ᖒ౳ ʮιγΦϯཧ࿦ͷίΞʯ ๺େ࿏ॻ๪

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10 ࣾձతʹҰகͨ͠ର৅ ࣾձతଶ౓ͷԾఆ ㅟ ㅟ • 態度は対象がある • 態度は正と負がある • 極端な態度を取る人は 少なく,中庸的態度が 一番おおい ෯E ΧςΰϦͷई౓஋ZE ີ౓ͷࠩZ 測定の モデル ਖ਼ن෼෍ΛԾఆ͢Δ

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11 心理測定のモデル • 個人を潰して項目間相関にし,次元性を 算出する(共通意味空間の基底) • この空間に個人を射映することで個人 差を数量的に表現したと考える AAACrHichVE9T9tQFD0YKDTQEmCpxAAiSssUXSMQCAkJwdIJQUggIoki2zyDhb9kO5HA8sjCH2BgAqkDYoWJsUv/QAd+QsUYJBYGrh1LVRu1udbzve+8c+57R1d1TcMPiB77pP6BwXdDw+8zI6MfPo5lxyd2fafpaaKsOabjVVTFF6Zhi3JgBKaouJ5QLNUUe+rxRny+1xKebzh2KThxRd1SDm1DNzQlYKiRna7pnqKFchRuRjXVCvejL520Gqdi1MjmqEBJzHQXclrkkMaWk31ADQdwoKEJCwI2Aq5NKPD5q0IGwWWsjpAxjysjOReIkGFtk1mCGQqjx/w/5F01RW3exz39RK3xLSYvj5UzyNNPuqE2/aBb+kWv/+wVJj3it5xwVjta4TbGzj/tvPRUWZwDHP1W/UehMrs3L/YWQMdy4slgj26CxG61jr51etHeWSnmw890TU/s84oe6Ts7tVvP2rdtUbxEhgcl/z2W7mJ3viAvFmh7Ibe2no5sGFOYxRzPZQlr+IotlPneM9ziDvdSQSpJVaneoUp9qWYSf4SkvwFkqZ7G 1 N Z0Z = R = AA′  + D2 ;標準化されたスコア ;相関行列 ;因子負荷行列 ;誤差の因子負荷行列(対角) Z R A D

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構成概念の「接地」 12 ݱ࣮ੈք ֓೦# ֓೦" ֓೦$ ࿦ཧత݁߹ Պֶతମܥ ݱ৅ੈք ܦݧత݁߹ʢૢ࡞తఆٛ౳ʣ ؍࡯Մೳͳࣄ෺ɾࣄ৅ ݱ࣮ੈքͱՊֶతମܥͱͷؔ܎ʢ຤Ӭढ़࿕ ʮࣾձ৺ཧֶݚڀೖ໳ʯ౦ژେֶग़൛ձ

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構成概念はこうせい • 構成概念は「共通意味空間の基底」とみなしてもよいかもしれ ないが,少なくとも「心の中」ではなく「言語空間構造」の記述で あるから,個々人の属性や心的要素を記述するものではない。 13 ֓೦" ֓೦#

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理論的に言えること • 尺度作成の根本は学力検査,態度調査 • 社会の側に基準(正誤,個人差に対する仮定)がある • 「正規分布する」,すくなくとも何らかの理論的分布に従う,ということ が明らかにされていなければ適切な尺度化(数値化)はできていない • 個人の内部に関する要素の同一性(局所均質的構成概念の仮 定;Borsboom(2005))が満たされないものは,カテゴリの度数を数え上 げることさえ限定的な意味しか持ち得ない • 本当はわからないけどこのカテゴリに反応したという意味で「同じ」とみ なす,という無機質な解釈なら可能 • →リッカートのような得点化は原理的に無理 • →因子分析のようなデータ生成メカニズムを扱うモデル化は不適切 ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ ㅟ 14

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「理論」が求められている • 社会心理学の理論が弱い • 個人と社会(内と外)を分ける明確なアイデアがなく,社会的 刺激に反応する個人の内的プロセスを「態度」としてしまっ たのではないか。(ex.社会的態度の感情的側面) • 次第に 感情>感想>お気持ち>心,のように徐々に解釈が 緩んでいったのでは? • 「方略」「思考」「イメージ」「評価」「動機」「〜感」はどの要素? • 個人内心理学をしたいのであれば,尺度化の理論はまだない • 我々は心の中を測れてはいない • そもそも個人の主観的経験を言葉でまとめること自体が可 能なのかという哲学的,原理的議論からやり直そう 15

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LLM/場面想定法/国語 • 大規模言語モデル(LLM)はテキスト化された世界がかつて ないほど多く含まれているから,言語空間を分析するので あればLLMは優秀な被験者であり,もしかして母集団 • 状況を詳細に記述した条件下での反応パターンを測定する 場面想定法はいわばアナログなLLM • 「この時の筆者の気持ちを答えよ」は国語か心理学か • 「人間/社会とは常に開かれたシステムであり,無限に言語 と意味を生成する」のであれば,心理学は科学かSFか 16 ͝ΊΜͳ͍͞ɼ͜Ε΋εʔπέʔεϫʔυ

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方法論としてはどうか

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方法論的に語られること • 尺度作成の手順と諸注意(ノウハウ) • 構成概念の明確化,尺度項目の準備,サンプリング,ワーディン グ,倫理的配慮,翻訳するときの標準的手順 • 尺度水準,信頼性と妥当性 • 因子分析(探索的,確認的)の様々なオプション • 語られないこと • 態度理論(=リッカート法はなぜカテゴリに数字を振れるのか) • 因子分析の数理的意味;相関行列の固有値分解など • 因子分析以外の多変量解析的アプローチ 18

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小塩編(2024)心理尺 度構成の方法,誠信書房 • ちゃんと書いてる本が出た • 等現間隔法,シグマ法にもちゃんと 言及している! • 正規分布の仮定を強調している! • BorsboomからCOSMINまで幅 広く理論・実践をカバーしている! 19 分布の仮定がピュアすぎること,因 子 分析以外のモデルに 言 及していないことなど マニアには物 足 りない部分もありますが今のところ最良の 一 冊。

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改めて数値化の根拠 • 学力検査,社会的態度,性格検査は反応パターンが一義的 • 学力検査は正答・誤答についての共通見解がある • 社会的態度は正規分布すると仮定する(ただし態度対象 が社会通念的に「一致した意味」を持っているべき) • 性格検査は正規分布すると仮定する(ただし「言語の用 法・意味のパターン」と考えるべき) 20 カテゴリを数え上げ(蓄積),分布から数値化できる

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方法論的に取りうる対応 • 尺度作成の手順としては,項目作成→EFA/CFAで終わることが多 いが,加えて標準化まで進めること • 大規模調査に基づく得点分布の報告,数値化の手続き・プロ フィールなど類型化の手続きを規定して,報告するべき • 毎回のEFA/CFAは得点が相互比較できないので推奨されない • 潜在変数間関係(構造方程式)は,その変化量で議論する • 理論空間での変化を現実世界での変化にしっかり接地させる • 応答性(意味のある変化とは何か)についてしっかり考える 21

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方法論的に取りうる対応 • 因子分析で取り出せるのは,静的構造にすぎない • 静的;一時的に止まっている,あるいは安定的で変化しない 状態にある何かであること • 構造;複数の機能(はたらき)の背後にある共通した枠組み (仕組み)であること 22 言い換えると,「時間的・概念的に不安定」であったり,「共通して いない個別性の高いもの」は測ることができない

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方法論的に取りうる対応 • 非計量多次元尺度構成法をもっと活用しましょう • 項目間相関でも個人間距離でもデータにできる • 測定モデルではない;距離関係を反映したモデル空間上での可視化 を目指したもの • 古くから個人差モデル(INDSCAL等)が提案されており,個人の内 的世界の共通するところ・しないところが明示的にモデル化されて いる • クラスター分析ももっと活用しましょう • 用途が個人差の分類にあるのなら,測定モデルを介さなくても十分 23 ωοτϫʔΫ෼ੳ΋͍͍ΑͶʂ

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1. 外的基準で数量化でき,それに対応する尺度である→心理尺度 である必要はないが,ラフな近似としての意味があるかも? 2. 反応パターンが一義的でそれに対応して直接意味のある数値化 ができる→テスト理論 3. 反応パターンが一義的で,反応カテゴリの集積が確率分布に従う と仮定できることから,尺度値が数値化できる→態度理論/因子 分析モデル 4. 反応パターンが一義的だが,確率分布が仮定できない→測定モ デルを止める。MDS,クラスタリング,パターン分類へ 5. 反応カテゴリが一義的でなく,程度の評価は個人ごとに異なる→ 非計量MDSの3相モデルなど積極的に個人差をモデル化する 6. 反応カテゴリに個々人の意味が付与されており,その人にしかわ からない→測るという目的に合致しない 24 ৺ ཧ ई ౓ ͷ ར ༻ Մ ೳ ੑ

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まとめ • 理論的に;尺度を使う前にちょっと落ち着いて考えよう • 古い論文を読むと,Paper and Pencilで得られるものは本質 的でなく精度の低い近似値でしかないという扱いを受けていた • 発展したのは統計モデルにすぎない • 方法論的に;因子分析を使う前にちょっと落ち着いて考えよう • スコアの分布とその意味についても考察・報告するようにしよう • 非計量MDSやクラスター分析も検討しよう • 制度的に;研究法でも統計法でもない心理測定学を教えよう 25