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オープンソースと コミュニティが すべての産業を食べ尽くす 高須正和 スイッチサイエンス国際事業開発 ニコ技深圳コミュニティ共同発起人 开源社(中国オープンソースアライアンス) 早稲田ビジネススクール 大公坊創客基地(iMakerBase) ガレージスミダ研究所

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物理的な社会、モノ、人間、工場 インターネット クラウド (情報) IoT, カメラ、センサー IoT, ロボット 考えていること:情報処理とハードウェア 情報処理はすごいパワーがあるが、人間がハードウェアなので、 多くのサービスは物理世界とやり取りする必要がある 情報とフィジカルとのやりとりをするハードウェアたち

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考えていること:コンピュータとそれ以外 コンピュータ的じゃない産業はコンピュータに置き換わる 要因1:ほとんどの電化製品はコンピュータに置 き換わる。 すでに置き換わったもの:カメラ/音楽プレイ ヤー/テレビ/ビデオ/電話機 要因2:ほとんどの産業は「コンピュータシステ ム」に置き換わる すでに置き換わったもの:流通/広告/マーケティ ング/金融

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「ものづくり白書」(日本)は量産効率の話だが、 「中国製造2035」は発明/イノベーションの話 そもそもなぜ、 イノベーティブな製品が必要なのか? 中国の製造業は、 なぜイノベーション重視・効率軽視を続けるのか? 答:コンピュータにより、製品と製造業が変わっている

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設計を早くモノに変えて売らなければ、ムーアの法則に巻き込まれて、アイデアの 価値がなくなる コンピュータとは? 「中央にCPUがあって、周りにInput/Outputがあり、他に記憶媒体などがある」 スマホ、デジカメ、ドローン、掃除ロボ、配膳ロボなど、 コンピュータサイエンス的には「同じもの」といえる これまでコンピュータがくっついていなかったものにコンピュータ化することで 多くのイノベーションが生まれている ムーアの法則=プラットフォーム全体が進化するので、 同じ製品で何十年も稼ぐのが難しい (10年使えたアナログカメラと2年で買い替えるiPhone) 性能が上がったからできることで、(音声認識、常時接続) 新しいサービスや製品が(音楽ストリーミングや自動運転)

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日本と深圳の「製造業」という概念の違い ムーアの法則以前と以後 Source:[Guerilla Production Tactics] by ‘bunnie’ Huang 深圳では、川上・川下や系列という考えがなく、大企業でも下請けや、社員5人でも最終製品という企 業が多く存在する。 同じビデオ録画機を開発するのでも、「フルスタックな大企業」が1社系列ですべてを賄った時代から、 設計・ツール・量産・OS・開発ボードを別々のプレイヤーが担う時代へ。 ムーアの法則下では、個別の分野に特化して開発を高速化しないと、半導体の進化速度に置いて 行かれる

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タブレットをくっつけるとなんでもロボットになる (多くのコミュニケーションロボットがそう) コモディティ化された技 術でも、市場投入され、 フィードバックを受ける ことで進化していく Version1 = 猿真似 Version1.1 Version1.2・・・・ Version10は?

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コモディティ化された部品を組み合わせて起こるイノベーション タブレット+ホバーボード(セグウェイもどき)+スマートスピーカー =ロボット この受付ロボットMandyは銀行など に数千台販売され、 今は第6世代目になっている。 -受付用の大きいスピーカー -目の前の人間を特定するための 超音波センサー など、やってみて必要になった機能 が付加されて洗練されていく

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そして、その完成品も他人のビジネスの商材として売られる =別のイノベーションの材料になる これをMITのバニー・ファンは「公开(GongKai)」と呼んだ

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公开(GongKai)から开源(KaiYuan) 中国オープンソース開発の盛り上がり そして製品の高度化 公开=ムーアの法則を背景に自然発生的に始まった知財公開が、 开源=イノベーションのために設計された世界共通のオープンソースに 半導体チップやそれを統合した製品も深圳で開発され、高度化が進む 中国の半導体エコシステムを 「自分の目でちゃんと」見てみよう

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ニセAirpodsこと「华强北4代」イヤホンとは 67元(1300円)程度 (ホンモノは27,800円) Airpodsの発売以後何度もバージョ ンアップしてこれで4代目 淘宝や华强北の電気屋などで販 売中 「イヤホン」などの製品名で Aliexpressやamazonなども

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ホンモノのiPadとつなげて検証

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分解してみる:チップはわずか4つ(AirPodsは21個) スピーカー 接触センサのかわり 銅板で静電気を感知 マイコンを使わない イヤホンをケースに接続 させるマグネット イヤホンをケースに接続 させるマグネット バッテリ 充電接点 タッチ制御IC クロックジェネレータ タッチ検出ボタン MEMSマイク 裏面:メインSoC

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Engineering的な工夫 イヤホンのなかみは 左右でまったく同じPCB, まったく同じBOM(部品) 唯一、2つセットの 充電端子部分を 入れ替えることで 左右の違いを出している。 (ファームウェアも別) 部品調達や製造をラクに する工夫 ちゃんと、値段と性能を織り合わせる 設計ができている 「人件費が安いから安い」ではない! 2つセットの部品を、AB/BAで入れ替える

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ニセモノ(600円のニセイヤホン)でも、ホンモ ノと部分的に遜色ない効果を、ホンモノと全然別 のやりかたでできている 人件費が安いから安い ではなく、技術で安くし ている 仲間と深センの力を借りて、もっと深く分析して みる

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マーキングの消されたメインチップ 山崎さん(解析仲間)がサイズとピンで チップ候補特定 AD6973Dかも?

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中国の方案公司がAD6973Dチップデータシート公開中 Comfidencialと書いてあるけど公開URLにおいてあるからこの会社が Jieliから許可されたんだろうそうだろう ・ワンチップでBT5.1、マイク接続、AACデコードなどができる ・バッテリ制御、ボタン制御機能もある ・GPIOによる接触センサなどもワンチップで可能、部品点数 を減らせる ・製品にBT5.3とあったのはウソ? > BT5.1だけど、Macや iPhoneが5.1しか対応してないから関係ない ・空間オーディオないぞ > イコライザを適当に変えてそ れっぽく見せてる ブランドでごまかせる! 引用:ラーメン発見伝(C)河合単 久部緑郎/小学館

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深センの解析屋の力を借りて、 マーキング消されたチップを開封しよう タオバオにはチップ開封、FIP(チップ内断線の 修理)、ファームウェア抜き出しなどをやる専門 の解析屋が何軒もいる (住所聞くと深圳华强北とか龙岗とか) チャット機能で見積もりとって発注 300元(6000円)、失敗したらカネ は返す (日本だと数十万かかるし、 そもそも初見では頼めない)

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300元を払って中3日、チップ写真が届く ボンディングのパッド やトランジスタが少な すぎる SiP(System in Package) の小さいほうのチッ プ? 「もうちょい調べてくれ、 これはメモリっぽいが、 MCUのはずだ」と依頼

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←パーフェクトな研磨でSoCの中身を分析 届いた写真 SoCの上にフラッシュメモリ ワイヤーボンディングも 想像できる (これで成功報酬で6000円)

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テカナリエレポート517号 JIELI PB08576とMCUは完全に一致 (フラッシュメモリは違う)これはドンキで2000円で売ってる

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テカナリエレポート517では多くの100円ショップTWSイヤホン (2000円程度)が分解され、今回はドンキのFUGU TWEに搭載され ているJIELI BP08576と同じマイコンだが、フラッシュメモリは違うの で、SoCとしては別物

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ニセAirpodsからわかること -ドンキで2000円で売ってるTWSイヤホンとニセAirpodsは親 戚のようなもの -中国の設計力と深センのエコシステムは「数万円のものを数 千円に」することができた(ムーアの法則を正しく作用させ ている) -設計屋、解析屋、製造屋などの厚みから、この分野ではまだ 先がありそう

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コピー品づくりとイノベイティブな製品づくりの関係 コピー品,後追い品=マーケットがすでにある製品 -売れることはわかっている -ゴールが見えるぶん、開発しやすい -ホンモノほど高くは売れないが、黒字を出しやすい 合理的な意思決定が可能 イノベイティブな製品=マーケットがない -ゴールが見えない -当たると大きい -ハズレを覚悟した意思決定が必要

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AIやソフトウェアの側から オープンソースを活用した ビジネス概説 (産業とコンピュータの話ここまで 40%)

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具体例: 中国PingCAP社 日本やアメリカでも採用が多い SaaSデータベース 技術はオープンソース開発 サービスはSaaS(従量課金)

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中国PingCAP社の分散型データベース TiDBは、米Square,日Paypayほか、 様々な国で採用されている

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TiDBは 2022,23年、「今後使用したい(聞いてみたい)データベース」 TOP20

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中国PingCAP社のビジネスモデル TiDB, TiKABなどの自社オープンソースソフトを核にしたSaaS,PaaS 自社で大規模データセンターを提供するDeNAやクラウド業者など、投資 ができる会社はTiDBを自前で構築する →自前で構築しても、開発コミュニティへの貢献は必要 開発イベントではプラチナsponsorなどを務め、 事例を積極的に共有する(リクルートのためもある) DBの改善への投資をコストセンターと考える会社はPingCAP社に月額課 金する 投資家からみると、成⾧速度が早く、貿易戦争の影響も受けない魅力的な 企業に見える

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オープンソースソフトウェアと収益 オープンソース企業と投資

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再確認: オープンソースソフトウェア(OSS)による開発とビジネス ソースコードを公開し、どの開発者でもコードの改善やカスタマイズ が行われる開発方式 改善案を本体にどう統合するか、改善結果がどのぐらいシェアされ るかは様々な方法がある #中国オープンソース

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オープンソースによるソフトウェア開発: 自社だけの開発でなく、世界中の開発力を利用できる 結果、同じ分野で「業界一位の独占ソフトと、それ以外のOSS」という構 造はよく見られる 現在はパッケージ販売やCPU課金の時代が終わりをつげ、 OSSのクラウドサービスVSプロプラエタリのクラウドサービスという構造

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大前提:技術開発/民間企業サイド ソフトウェアはますます多様になっている オープンソースはプロダクトの開発力を上げ、シェアを広げる開発手法と して採用されている 米中を問わず、大手ソフトウェア会社は自社で開発したソフトを、より開 発力を上げる/シェアを広げるためにLinux Foundation等に寄贈している 中国では2010年代後半から、ソフトウェア企業の実力がついてきたこと から、オープンソースへのコミットが増え始め、2020年代のプロジェク ト多数に繋がった 大前提:政府と米中貿易戦争 2021年からの14次五カ年計画でオープンソースの促進が組み込まれる 企業から始まった動きが、政府にも広がり、全面的な後押しが始まってい る。中国から世界への貢献も多いが、中国社会全体での理解はまだまだ。

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オープンソースビジネスについての よくある誤解 1.中国とアメリカはデカップリングされている。 国営中華企業とインテルやCISCOやアメリカの 通信業者が一緒に仕事することはありえない 2.オープンソースのソフトウェアは儲からない 3.オープンソースの開発はボランティアで行わ れている

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OpenInfra FOUDNATION (世界のクラウドを支えてる OSS財団) プラチナスポンサー アリババ、Facebook マイクロソフト、ファーウェイ テンセント ゴールド・スポンサー インテル、CISCO、Tモバイル NEC、 ZTE,中国移動,中国電信,中国 聯通 https://openinfra.dev/members/

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資金調達が大きいOSS企業/ソフトウェア Company Project Founder Round Date Amount クラウドDB LinuxカーネルのOS 組み込みOS クラウドDB Chrome OSフォークのOS K8Sフォークなどを活用して いるクラウド企業 Apache Kylin OLAPエンジン (データ可視化) Apache APISIX APIゲート ウェイ AI用クラウドネイティブDB

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オープンソース投資を得意とするファンド 云启资本 投資実績はPingCAP, Zilliz, Jina AI, TigerGraph, Graviti, Cloudchef, 数睿数据、德风科技、智齿科技、擎朗智能、元戎启行、新石器、一起な ど、 プラットフォーム機能を中心に様々なオープンソース企業へ 「OSSはシェア拡大を加速するので、VCにとっても良い」

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会社の成長とコミュニティの成長を同期させる (つまり、普通に戦略持って仕事する。戦略がオープンなだけ) -大きくなるごとに社外の開発者支援 -マニュアル、サポート -開発者大会 -多言語化 -外部のOSS団体をサポート -企業間提携 -Amazonみたいな大手に競合サービス を作られたときに、開発者がどっちの味 方になるか(最近よくあるテーマ) -アメリカでもDockerやHeroku,日本(人が シリコンバレーで投資されてる)でも Treasure Dataなどの例があります

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今はオープンソースビジネス4.0というべき時代 (OSS=オープンソースソフトウェア) 解説 ビジネスモデル ユーザの要求 代表的なプロジェクト スケーラブルでクラウドネイティブのシ ステムは、OSSベースのもの以外を見 つけるのが難しくなる スケーラブルで コストパフォー マンス クラウドネイティ ブ,OSS前提 MongoDB ,Datablicks等 のPaaS OSS4.0 2015-Now OSSのほうが巨大な開発チームとして 優れたSaaSが適用できるケースが増 えはじめる OSSが直接ソ リューションを 提供する ソフトウェアから開 発エコシステムに Cloudera ,Confluent ,Kaf ka 等のSaaS OSS3.0 2005-2015 LAMP(Linux ,Apache ,MySQL , PHP)に よるwebシステム時代 OSSだけでシステムが構築できる(棲 み分け) 技術情報をサ ポートとして有 償提供 Enterpriseなエンジ ニア(大規模なソ フトウェア) RedHat , MySQL OSS2.0 1995-2005 オープンソース黎明期 プロプラエタリソフトウェアへの対抗と してのOSS 開発者が増加し始める なし パーソナルなエン ジニア GNU/Linux OSS1.0 ~1995 ※COSCON21での陈昱(云启资本)などの資料をもとに筆者作成

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オープンソースファウンデーションの役割: Open Source Initiative Free Software Foundation Apache Software Foundation Linux Foundation などなど オープンソースソフトウェアライセンスの認証、イベントの開催、普及活動 「こうしたドキュメントを整理すべきだ」などのガバナンスの整備 権威あるFoundationは、予算や理事の選挙、議事録などもオープンになって いる必要がある 近年はCNCF(Cloud Native Foundation)など、新しいFoundationが多く誕生して いる。ソフトウェアが「それぞれクラウドネイティブのシンプルなサービスの集 合体」になるにつれて、複数のソフトウェアをまたいで企業と開発者を繋ぎ、 エコシステムを大きくしていくのがFoundationの役割

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世界的なFoundationに中国会員が増えている 基金会=Foundation 項目=プロジェクト(リポジトリ)

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Open Atom Foundation 中国政府工信部が設立 Linux FoundationやApache Software Foundationなどと同様の機能 -ちゃんとしたオープンソースを褒める(ニセモノをとりしまる) -プロジェクトの進め方、ドキュメントの品質などを指導、インキュベート -法律家を雇ってライセンスを整備し、普及させる(裁判所がGPLやApacheなどのライセ ンスをちゃんと使えるように -公的機関や学校でOSSの活用を促進する (ただし、実際のサイトはまだガタガタ。たぶんサービスよりも「声がけしたこと」に 意味がある)

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中国発のオープンソースライセンス Mulan Permissive Software License v2 (MulanPSL - 2.0) Apache, MITなどに似たPermissiveと呼ばれるゆるい形のライセンス アメリカOpen Source Initiativeの認可済みの国際ライセンス 特徴 1.英語/中国語併記、同一の内容を持つ(国際取引で使える) 2.Apacheライセンスにある「特許取ろうとしたら無効」に加えて、行政手続きについて 記載がある(中国は三権分立が甘く、行政は裁判抜きで執行できる)

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中国政府・大企業が オープンソースへの注力を開始 2020年以降

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中国ビジネスへのオープンソースの浸透 OSSの浸透と言うよりも、世界のクラウドネイティブの流れに中国の大企業は乗ってきている また、ハードウェア含めた規格標準化/透明化とオープンソースソフトウェア/ハードウェアは歩調 を合わせている 企業 とても多くの中国企業が、スタートアップ・大企業といった規模を問わず、 製造・サービス・金融といった分野を問わず、企業戦略としてオープンソースに注力 アリババ等は社内に「オープンソース推進室」を設置 オープンソース技術を核にしたユニコーンも 政府/公的機関 オープンソースのライセンスを中国の法的機関で使えるようにする 中国発のOSSライセンスが米OSIの承認を取得、世界的なライセンスに オープンソース運動を支援する公的な財団を設立 コミュニティ もともと活発だったコミュニティが、オープンソースが商売になったことで進化 フルタイムでOSSのコードを書くプロが増加 学生のうちからOSSの文化に触れる若者が増えている

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2021年発表の5カ年計画にもオープンソースソフトウェア・ハードウェ アの記載がある 第14次五か年計画15章 「デジタル経済で新しい優位性をつくろう」 完善开源知识产权和法律体系,鼓 励企业开放软件源代码、硬件设计 和应用服务 オープンソースの知財管理を完全な ものにし、 企業がソフトウェアのソースコード、 ハードウェアの設計をオープンにす ることを奨励する

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多くの企業がオープンソース担当・専門家の 採用をしている 開源社(中国オープンソースアライア ンス)のサイトに並ぶ 「オープンソース関連採用」 例:アリババクラウドではオープンソース 関連でブランドを強化したい。有名OSSの コミッタ、広報などを優遇します

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たとえばDidi(中国ライドシェア大手)では Didiのオープンソース技術責任者が語る 3つのメリット 1.技術的影響力の拡大 2.オープンソースをやることで、ドキュメントをわかりやすく 書くなど、社内全体の技術に対する文化が良い方に変わ る 3. コミュニティに関わる文化が社内全体に広がる -現在55のプロジェクトをGitHubで公開 -OSS(Didiのプロジェクトに限らず)に良い貢献をしたエン ジニアを社内表彰 -主要なOSSFoundationに寄付 -データを研究者に開放 70以上の論文、数十の高校の授 業でデータが使われる

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開源社(KaiYuanShe China Open Source Alliance) 中国最大のオープンソースアライアンス 中国オープンソース年度報告 中国語と日本語で発行中 米Apache software Foundationと共催 中国オープンソース大会COSCON`20(China Open Source CONference 2020)and Apache Roadshow -1億5700万ビュー(オンライン) - 542 職種1,173 組織

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開源社の正式メンバーは現在100名程度 アリババ、テンセント、Huawei等の大テック企業、政府関係、大学 関係者などによる互選 高須は現在唯一の国際メンバー 高須正和氏は、中国のオープンソースコミュニティに深く関 わる国際的な友人であり、开源社の最初の、そして現在で も唯一の外国人正会員となっています。 毎年開催される「オープンソース・ハードウェア・フォーラム COSCON」に参加して以来、オープンソース協会が発行する 「中国オープンソース年度報告」の日本語版を翻訳するな ど、オープンソースコミュニティの普及に積極的に取り組ん でいます。 様々な国際的なオープンソースイベントで、开源社をア ピール。 また、オープンソースのコミュニティグループや毎 年開催されるオープンソースカンファレンスでは、積極的に 中国語を学び、中国語でコミュニケーションをとっています。 开源社の国際協力大使とも言えるでしょう。

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課題と可能性 中国オープンソース

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最大の課題は中国語の通じる範囲 AIや汎用DBなど、英語圏でも盛んな分野は英語での開発が優先される(そのほうが参 加者が増えるため)が、中国のサービスに関連したものだとコミュニケーションがほ ぼ中国語になる(東京都新型コロナウィルス対策サイトの開発がほぼ日本語になるの と同じ) また、FPGAやRISC-Vなどのチップ開発、組み込み OSなどのハードウェアに近い部分はそもそも開発の 主体が中国なので、より中国語中心で開発される傾 向がある (中国語と語彙をだいたい共有してる国は日本を含 めて韓国・ベトナム・タイなどがあるが、その中で 漢字の読み書きができるのは日本だけなのでちょっ とラッキー) 喋れれば、「外人だから」という扱いはされないで す。中国人同士でも知人しか信用しないので

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中国オープンソース現状と今後の可能性 まだまだ金の匂いで加速が始まったばかりで、コミュニティというよりもそれぞれの企業の色が 濃い中国オープンソースだが、急速に伸びている 企業 銀行員や役員が若いせいか、金融系からの参加も多く、近年までまともな金融システム がなかったためレガシーが少ない。そのためブロックチェーンの活用などに積極的 組み込みについては他国をリードする可能性が大きい 政府/行政 -マトモな知財保護とオープンのやり方を一緒に進めるのは効率がいい -米企業がOSSで大成功しているやり方をうまくマネしそう(日本は全然マネできてない) -英国Micro:bitやRaspberryPiみたいなマネもやれるのでは? ユーザーコミュニティ 若いし意識が高い これまで成長経験しかないので、まっすぐにいいことをやってる

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日本での理解 「謎の半導体NVIDIA」と日経が言っていたのは 2017年。 オープンソースのビジネスが日本で話題になるの はいつ頃だろう?

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2023年3月、訪日時の反応 経産省多田事務次官、外務省清水中国全権公使、総務省5Gワーキンググループなどと 今回話したような情報のサマリを共有した -一番ピンと来ていたのは経産省 -概要は理解できていたのは清水公使 -総務省組は、「特許料以外のビジネス」という概念がいまいち伝わっていない (SaaSみたいな概念がわからない、オープンと権利放棄の違いが把握しづらい) ようだった -産業用ロボットを扱っている部署などでは、オンライン化とオープン化(DX化とオープン化)は ほとんど同じ意味なので、取り組んでいかないとマズイのだけど、 今のところ担当省庁、部署などがうまく見つからない

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詳しくは:主だった中国の白書やレポートを日本語訳しています https://github.com/kaiyuanshe/CNOSSTranslationJP/tree/main/tr anslation

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2022年度中国オープンソースリーダー33名に選出 自己紹介: 中国深セン在住、オープンソースを活用したハー ドウェアビジネス (最後10%ぐらい自分の話)

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高須正和 事業/研究/コミュニティの、3つの役割 深圳ほか世界各地のパートナーを開拓し、先進的な開発ツールを輸出入・共同開発、投資,企業間 提携などを行う。 事業:スイッチサイエンス グローバルビジネスデベロップメント 研究/布教:早稲田ビジネススクール招聘研究員/非常勤講師 「深圳の産業集積とマスイノベーション」 ニコ技深圳コミュニティ Co-founder,開源社ほか、様々なコミュニティ 事業=仕組みになっていて利益を生むもの 事業開発=事業を作ること 研究や布教=講演や執筆などで少しはお金になるけど、 基本的には仕組みになりづらいもの 2008~11年間で39都市107回のメイカーイベント参加 ほか、浜野製作所のガレージスミダ研究所 主任研究員、 中国の投資会社iMakerBase,Heroad Fundの顧問など コミュニティ=社会的な価値が生まれる前、 事業や研究でもできないところをやる 面白ければ仲間が増えるし、熱が冷めると終わる

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深圳で手掛けているプロジェクト M5Stackシリーズ ESP32シリーズを採用しているIoTプロトタイプツールキット この分野のデファクトスタンダートになる勢いで普及中 myCobot, DirectDriveTechモーターなど 深圳Elephant Robotics社のmyCobotロボットアーム、 Feetech社, DirectDriveTech社などのアクチュエータ類など Intelligentなアクチュエータ、センサー類の進化が激しい SpinQ社 デスクトップの量子コンピュータ NMR(磁気共鳴)方式により、常温動作が可能なオールインワンの量 子コンピュータ。日本での販売価格は118万円 世界で一般販売している量子コンピュータは同社のシリーズのみ

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M5Stackシリーズの大成功 ・社長ジミー・ライは、もと中国南方電網のエンジニア ・しょっちゅうスマートメーターを開発している間に、 「多くのメーターに共通する機能を製品にしよう」と思 いついて起業 ・社長室に専用の部品ボックスと作業台を起き、プロト タイプを自分で作る。いつも身の回りには試作品が転 がっている ・Arduino IDEが利用可能で、IoT開発に必要なwifi/BTをあらかじめ備えたESP32シリーズの CPUを採用した開発ボード。日本でもArduinoを置き換える勢いで普及が進んでいる ・画面、バッテリ、ボタン、Grove,GPIOなどを備え、安価(1500-5000円程度) ・毎週1つ以上の新ハードウェア/センサー類を発表し、拡張性が高い オープンソースハードウェア(部品リスト,ピン番号などの 開発に必要な情報があらかじめ公開されているハードウェア) 買ってくれば使える。ソリューションを開発する上でM5Stack社の取引開始稟 議書、審査や許可が要らない。必要な情報はオンラインで公開されている

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M5Stack成功の原因・今後エンハンスしていくこと ■良いコンセプト(アイデアを最短で現実化、オープンで、いつも手に入るハードウェア) -ソリューションを開発する上でM5Stack社の取引開始稟議書、審査や許可が要らない -必要な情報はオンラインで公開されている ■良い製品企画(現役エンジニアならではの優れた製品企画) -プロトタイプ開発を圧倒的に早くするオールインワン(バッテリ,LCD,ボタン,無線) ■良い製造(深圳ならではの開発・製造力) -プロトタイプから工場のDXまで、様々な用途に対応するセンサー、周辺機器 -1000個単位のフレキシブルな自社製造ラインと、深圳で設計開発することによる サプライチェーンが可能にする超高速な製品開発(毎週1つ以上新製品発売) -手頃な値段で、いつも手に入る ■良いコミュニティ ユーザーの支持やフィードバックが生んだコミュニティ より高速な開発・製品拡大のために、ユーザを開発に参加させていく

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オープンソースの世界では Community Over Code と呼ばれている。コード(製品)そのものよりも、それを更新し続ける開 発コミュニティ(企業かもしれない)に価値がある 我々はWindowsにもMacにもAndroidにも、「この先もアップデートし続 けてくれて、使えるだろう」という見込みでお金を払っている。 ハードウェアの世界でも、特に開発用ハードウェアでは、 Community Over Productが成立する。 開発者は、「みんなが使っていて、支持していて、今後も安定的に売ら れて、更新され続けて、自分の物にできるHardware」にお金を払う 「なんでもぜんまい」や「SpinQ」も、お金のいくぶんかはコミュニティに 対して払われているのではないか? そういう製品が増えるのではないか?

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今後はコミュニティベースの製品開発、ビジネス開発を 例.MSX0 Stack もちろんMSX(西さん)の プロジェクトだが、 M5Stackとしてもシナジー だせるようにしたい BasicでIoTというのは意 味がある どちらのユーザも増える 方向に行くとうれしい

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今後はコミュニティベースの製品開発、ビジネス開発を 例.Atom Mate for toio - M5Stackとtoioを組み合わ せて使ってるユーザが多い ことから、 SONY田中章愛さんからの オファー - toioのUIFlow対応 - toio上にM5 Matrixを載せる ハードウェア開発 - (今のところ)日本限定

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今後はコミュニティベースの製品開発、ビジネス開発を 例.ATOMFLY 2.0 M5Stackでお蔵入りになっていたプロジェク ト(ファームウェアなし販売だった)が、日本の エンジニアの力で復活 -日本で飛ばせる、100g未満の室内向け,技 適等Okのドローン -国際高専の伊藤恒平教授が、飛行制御の 授業で使えるように -ファームウェアはオープンソース(ほぼ伊藤 先生が開発)

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ニコ技深圳コミュニティ 現在Facebook上で3300人を超えるメンバーを集める技術コミュニティ エンジニア・起業家・研究者などがオープンにプロジェクトや意見交換を行い、 これまでに紹介したような提携や投資、研究活動を行っています。 2015年時点で、「英語圏含めて、もっとも詳細な深圳のイノベーション解説」 (野村総研総合研究所)と言われています

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中国に欠けがちなものと我々(≒日本)の価値 -ビジネスが盛り上がってるので、お金にならないこと への動きが鈍い (だから、オープンソースや先鋭的な開発ボード等、イノベーティブな分野での 僕らの活動が重宝されている) -だいたいの仕事が中国人で片付くため、グローバルさ、ダイバーシティに欠ける (アメリカの企業や大学は世界一が集まるが、中国の大学はそうならない ただし、この点では日本はもっと悪くて日本人で固まりがち) (だから国際的なコミュニティである僕らの活動が重宝されている) 日本の多くの組織が 「オールジャパンで予算つけて中国に対抗」のように、 さらにアンチイノベーションでドメスティックな戦略をとりがち それで良いことはなにもない。 手を動かす人はみな、人類を前進させるための仲間です。

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どうもありがとうございました。 自分の活動の詳細はこちら 「プロトタイプシティ」 「メイカーズのエコシステム」 「ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ」 「ハードウェアハッカー」にて。 連絡先: 高須正和 [email protected] Twitter: @tks Facebook: https://fb.me/takasuinfo WeChat:takasumasakazu