最初期の人工知能研究者が考えたこと
n 知能とは…おそらく “記号処理” に本質がある
n コンピュータは “数” という記号を処理して計算
n コンピュータで,知能を実現できるのでは!?
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※ 論理回路の塊で,論理演算できる。
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記号処理に知能の本質???
n 記号処理 = 論理的な演算
u 例: ソクラテスは人,人は死ぬ,ソクラテスは死ぬ
n なんで?
u なぜ,記号処理が知能の本質だと考えたのか??
u 例えば…
p 人間が高度な知能を持つとして,その他の動物との違いは?
• 言葉をもっている!!!言葉をしゃべれてエライ!
• 言葉=記号
u いろいろな実体を記号(概念)に変換して,
操作できる能力,それこそが知能なのでは?
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すごーい
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ヨハネによる福音書
n 例によって,おそらくはキリスト教文化の影響も
n ヨハネによる福音(冒頭)
u 日本語では ”はじめに言葉ありき” と訳される
p Logos = 神の言葉,真実,真理,論理,理性,概念
神様(ヤハウェ)が そう言うんなら,間違いない!
※ 著者は別に,キリスト(ユダヤとかイスラムなども含む)教徒 ではないです
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鳥の視点 と 虫の視点
n 前掲の宗教的・文化的背景は,問題の捉え方に影響
u 一神教的な世界観では,神はすべてを見渡せる
u 東洋的な世界観では,様々な視点が混合する
p 当然,どちらが優れているという話ではない。優劣は場合による。
u 人工知能についても,神の視点(鳥の視点)から見て
構築するか,虫の視点(環境内部)から見て構築するか
というので,アプローチが全く異なる可能性
環境を外から眺める
神・鳥の視点
環境を内部から眺める
虫の視点
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物理記号仮説(記号主義)
n すべての知的作業の本質は記号操作にある
…という作業仮説,記号主義とも呼ばれる
u 色や形などの物理量はうわべのものであって,
それらを捨象し,カテゴリー化した後の記号が本質
u この記号操作によって,高度な知的処理が可能!
作業仮説 :
本当かどうかは知らんが,その検証のためにも,とりあえず仮に
そうだとして・考えて,やってみよう…という,暫定的な仮説
…っていう気がする。多分そう。
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コンピュータで記号処理?
n コンピュータは AND,OR,NOT を組合わせて処理
u 論理的な処理がいろいろできる装置
u 知能が記号の論理的処理だとすると,
この論理的な処理ができる機械で当然,模倣できる
u まぁすぐに人間同等は無理でも,チェスみたいに,
完全に論理的に話が進むところならすぐできるハズ!
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ここから下は,当時の研究者が考えたであろう事
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記号接地問題
n 体を持たないAIにリンゴは理解できるか?
u 概念(記号)としてのリンゴが理解できたとして,
目も耳もないAIは,真にリンゴを知っているといえるか
• …でも,そもそも「真のリンゴ」とは…リンゴのイデアって何?
n 人間は様々な情報をうまく抽象化(記号化)して
処理をしている
n 抽象化された情報と,実体を対応づけること
=記号接地
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将来補足
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推論
n 知識を元に新しい結論を得ること
n 三段論法も推論
u 知識1: 人間は死ぬ
u 知識2: ソクラテスは人間である
u 結論 : 知識1&2 → ソクラテスは死ぬ
n 論理学は推論のための基礎
u AならばB,AかつBならばC…のような演算規則
u これを用いて,知識を操作していくと推論できる
操作自体は,後述する探索とほぼ同じ
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推論の種類
n 推論にも種類が
u 演繹(De-duction)← 記号処理系はこれ
p 既存の知識・ルールを組み合わせて行って結論を得る
u 帰納(In-duction) ← 機械学習系はこれ
p 観測された事実や事例をまとめ上げていって結論を得る
u アブダクション(Ab-duction)
p 仮説形成とも。観測された事象を説明する仮の理論を考える
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環境・外部
内部
Deduction
内から外へ
Abduction
外から内へ
Induction
ぐるぐる
かけ算・⾜し算
のイメージ
公約数・因数分解
のイメージ
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どのようにすれば推論できるか?
n 例えば現在であれば,プログラミング言語の Prolog などを
用いて,記号処理ができるが…
n 1950年代の計算機は,基本的に電卓の状態
u 単純な問題であれば,“こうなったらこう” という状態を
あらかじめ書き下すことはできる
p オセロであれば,そもそも石を置ける場所は限られる
p この状態の時,ココに石を置くと,相手はココに置ける …も,あらかじめ分かる
u であれば,推論そのものが難しくても,状態を書いておいて,
その中から適切なモノを選び取らせれば,行動は模倣できる
p いつか,状態そのものの演算(推論)ができるとして,結局,あり得る状態から
適切なモノを選び取る…という行動は必要になる
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推論そのものと並んで,探索も主要なテーマとして扱われた
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探索
Start
Goal
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探索
Start
Goal
A
C
D
G
B
E
H
F
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探索
Start
Goal
A
C
D
G
B
E
H
F
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木構造(Tree) : 2分木 binary-tree
root
A
C
F
K
B
G
L
J
M
D
I
E
H
Node
Edge
終端のNodeはLeafともいう root
ひっくり返すと木のように見えるので,
Tree(木,木構造)と言う名前
情報工学における基礎的かつ
重要なデータ構造の一つ
AI分野でも多用される
線でつながっている上のNodeを親,
下のNodeを子という。
ここでは2分木のみを示したが,子が2人以上のものや,
トライ木,赤黒木など,様々なタイプの木構造が存在
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探索:幅優先探索
Start
Goal
A
C
D
G
B
E
H
F
>
親は一人なので,Goalを見つけたら,
親をたどっていけば正解がわかる
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探索:深さ優先探索
Start
Goal
A
C
D
G
B
E
H
F
>
親は一人なので,Goalを見つけたら,
親をたどっていけば正解がわかる
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グラフ
A
B F
C
D
E
G
Node と Edge の集合で表現できるデータ構造
無向グラフと有向グラフ,循環路の有無で扱いがことなる
要素間の関係性や,状態遷移の表現に用いる.“グラフ理論”や“ネットワーク解析”などで扱う
A
B F
C
D
E
G
無向グラフ 有向グラフ
最短経路の探索などにはこのグラフ表現を用いる
著名な最短経路の探索手法は ダイクストラ法
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このどこが知能なのか??
n 一つには歴史的背景
u 探索問題は AI 研究の初期課題
p ENIAC 誕生は1946年頃
p AI という言葉ができたのは1956年
• 探索がブームになったのは1950年代〜70年代
u コンピュータは,いまの電卓に当たるイメージ
p 弾道計算など,四則演算を高速に行うことがメイン
p そうした視点に立った場合,こうした問題を自動的に解く…
ということも,十分に先進的で知的なタスクだった
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このどこが知能なのか??
n 人間も似たような行動をとる …こともある
u 将棋などゲームの定石
u スポーツにおける戦略
u 格闘技(主に武道)における型
p “こう来たらこうする”という一連の遷移パタンについて,
反復練習することで無意識的に出せるようにする
p その分の演算リソースを先読みを含めた対応策に割ける
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このどこが知能なのか??
n 単純なロボット的なものも作成できる
u 例えばお掃除ロボットを考えると…
p この位置はすでに通過したか?
p 前方に進むことができるか?
など,いくつかの条件の組み合わせで実現できる
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単純な探索の限界
n オセロや将棋も探索で解けるのではないか?
u と,考えるのは自然な流れではある
u が,実際には難しかった… なぜか?
組み合わせが爆発するから
円盤3枚のハノイの塔でも状態は27通り
64枚だと最短の遷移だけに絞っても…
264 通り = 18,446,744,073,709,551,616 通り
= 1844京6744兆737億955万1616 通り
ゲームでは相手の動作もあるので,
先読みしつつベストな手を探す必要…だが,
探索するのに莫大な時間が…
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ボードゲームの複雑さ
n オセロ : 10^30 10^60
n チェス : 10^50 10^120
n 将棋 : 10^70 10^220
n 囲碁 : 10^160 10^360
盤面の数 探索木
盤面の広さ,駒の数,動きの種類,とった駒を再投入できるか?などで変化
囲碁は石(駒)の数が多く,配置自由度も高い上,盤面も広いので難しい
※ 宇宙にある水素原子の数は 10^80 個と見積もられている
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数え上げの困難さ:組み合わせ爆発
n 単純な経路探索は
なかなか大変…
u どのくらい大変か,
ちょっと見てみましょう
u パタンの組み合わせは
容易に爆発!!!
u ただの紙も 42回 折ると
月に届く厚さになる…
https://www.youtube.com/watch?v=Q4gTV4r0zRs
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数年前,囲碁とAIが話題になったような…?
n いくつかのブレイクスルーを経て,最近ようやく
この問題を解決できるようになったと言うこと
u 取り得る状態を列挙して,有利そうな手を取るのは同じ
u すべて列挙するわけではなくて,良い感じの手…
というのを学習することで,全探索を回避する
ここではいったんここまで
詳細は別の回で説明
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トイ・プロブレム
n 初期のAI研究においては,迷路やハノイの塔など
ごく単純化された条件下での問題を扱った
n 単純化された問題 = トイ・プロブレム
u いきなり複雑な条件は扱えないので,
簡単な例から考えていくのは,問題を解く上での定石
u しかし,初期のAIはこの段階を超えることができず,
“知能”の難しさ,複雑さが明らかとなった
Toy:おもちゃ
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トイ・プロブレムの成功例
n トイ・プロブレム とはいえ,成果を上げたものも
u STRIPS ( Stanford Research Institute Problem Solver )
p 前提,行動,結果 という3要素で 仮想ロボットの動作を実現
• ロボットが自動的に動作計画を立てることを“プランニング”という
p 仮想ではあるが,いろいろな動作を実現できた
u 積み木の世界 SHRDLU(シュルドゥル)
p 仮想空間上に配置された 積み木 を操作させることができた
• 人「ブロックの上に,四角錐はおけるか?」,AI「Yes」
• 人「四角錐の上に,四角錐はおけるか?」,AI「No」
…といった対話形式で,積み木を操作させたり説明させられた
= 対話的にAIにプランニングを実行させることができた
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SHRDLU と Google
n SHRDLE の 開発者
u SHRDLE を 開発したのは スタンフォード大学の
テリー・ウィノグラード 博士
u この ウィノグラード博士 の 教え子 ラリー・ペイジ が
後に Google を創業することになる
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まとめ
n 初期のAI研究では推論・探索などに注目があった
u 具体課題:迷路やハノイの塔,積み木など
u 探索木などを用い望ましい状態への遷移を探索
p 遷移のパタンを自動で組み立てること=プランニング
u トイプロブレムは解けたが,少し複雑になると破綻
p チェスや将棋,囲碁は解けなかった…
• 組み合わせ爆発に伴う計算量の増加に対応できなかった
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同時代の関連研究
n 自動翻訳も最初期に取り組まれたものの一つ
n 精密な文法書と,辞書さえあれば簡単にできそう
u 多義語の存在や,構文解析の複数解釈可能性…
p 核: 原子核? 細胞核? 核心的利益? 議論の核?
p 黒い目の大きな女の子
• 目が大きくて黒い女性 の 子供
• 目が黒くて 体が大きな 女の子
• 黒目の部分が大きい女性 の 子供
• 体の大きな女性 の 黒い目をした子供
• etc.
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明らかになった課題
n 限定された環境下では,
単純な探索でもそれなりに問題を解くことができる
n 少し複雑になってくると計算量の問題から,
うまくは機能しなくなってくる
u そもそも複雑な問題を扱えてこその知能なのでは?
n コンピューターが極めて高価な時代,
できるだけ実用上の問題を解きたい…!!!
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