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1986年のイノベーションと 創造性を再考する 1 86

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1 86 川口 恭伸 かわぐち やすのぶ Twitter: @kawaguti YesNoBut株式会社 代表取締役社長 アギレルゴコンサルティング株式会社 シニアアジャイルコーチ 一般社団法人スクラムギャザリング東京実行委員会 代表理事 一般社団法人 DevOpsDays Tokyo 代表理事

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1 86 1986年 2024年

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1 86 機動戦士Zガンダム 富野由悠季/サンライズ http://www.z-gundam.net/

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1 86 1979-80年 機動戦士ガンダム 1980-81年 伝説巨人イデオン 1981-82年 ザブングル 1982-83年 聖戦士ダンバイン 1983-84年 重戦機エルガイム 1985-86年 機動戦士Zガンダム 1986-87年 機動戦士ガンダムZZ

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1 86 1979-80年 機動戦士ガンダム 1980-81年 伝説巨人イデオン 1981-82年 戦闘メカ ザブングル 1982-83年 聖戦士ダンバイン 1983-84年 重戦機エルガイム 1985-86年 機動戦士Zガンダム 1986-87年 機動戦士ガンダムZZ

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1 86 1979-80年 機動戦士ガンダム リアルロボット路線(兵器)の幕開け ファンが駆動するガンプラブーム サウンドトラック 映画化

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1 86 1985-86年 機動戦士Zガンダム ガンプラブームを受け 複数人のデザイナー起用 エルガイムの天才永野護→ 離脱 より複雑なストーリー、鬱展開 本格的なBGM

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1 86 1986-87年 機動戦士ガンダムZZ 引き続き続編作成を要請され 若手に任せる方針に。 コンセプトは 「ガンダムが出る話」(えっ)。 そして、映画の企画が動く。

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1 86 建設的な対話と 理解の反復プロセス 三宅なほみ

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1 86 人が複雑な物理装置(例えば ミシン)を理解しようとする とき、人は反復的に作業を進 めます。その装置を「理解し た」と主張するポイントにい くつか到達するようです。

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1 86 しかし、それぞれの理解は不 完全で、新たな理解が必要と なり、結果として、彼らは異 なるレベルを横断しながら、 理解していることと理解して いないことの間を循環するこ とになります。

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1 86 本研究では、理解の反復性を捉 えるためのフレームワークを提 供します。本研究では、ミシン の仕組みを理解するために建設 的な相互作用をしている3組の 人々を観察することで、これら の点を議論し、説明しています。

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1 86 理解のための反復的な探索に加 えて、話し手がどのような空間 からミシンを見ているように見 えるかという概念的な視点も重 要でした。

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1 86 この概念的な視点(C-POV) は、彼らの言語使用に反映さ れていました。このC-POVは、 理解しているときは安定して いて、理解していないときは 頻繁に変化しているように見 えました。

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1 86 理解にはレベルがある https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1207/s15516709cog1002_2 Constructive Interaction and the Iterative Process of Understanding (建設的相互作用と 理解の反復プロセス) 三宅なほみ 1986 0. ミシンは縫うものだ 1. 上糸と下糸が結びつく 2. 下糸は上糸の輪をまたぐ 3. 輪がボビンの周りを回る 4. ボビンの構造は空間を与える 5. ホルダはカラーに固定される

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1 86 人は、「特定」「提案」「確認」 のステップを踏んでいるときは、 その現象を理解していると思って いるのではないでしょうか。 「わからない」と感じるのは、 「探索」「批判」「疑問」のス テップを踏んでいるときだけです。

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1 86 特定 疑問 探索 批判 提案 特定 疑問 確認 理解してる 理解してる 理解してる 理解してる してない してない してない してない

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1 86 大雑把に言うと、 レベルnの機能に対してレベルn +1のメカニズムで説明がつくと 理解した気になり、 レベルnの機能に疑問を感じてそ のメカニズムを探し始めると理解 していない気になる ということです。

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1 86 ミシンのような物理的な装置につ いて話すとき、どの視点からミシ ンを見ているのかを推測すること ができる言葉があります。 このような「視点」は、 「C-POV」(Conceptual Point of View)と呼ばれています。

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1 86 針の動きをイメージしているとし ます。この現象を2つの視点から 表現することができます。

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1 86 機械の下を見ている場合は、 「針が下に行って上に来 る」と表現し、 機械の中で上を見ている場 合は、「針が下に来て上に 行く」と表現します。

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1 86 描写が「針が上下に動く」となる と、概念的な目の位置が遠くなり ます。 このように、ダイクシス動詞と前 置詞の組み合わせで、概念的な目 の位置を明確に示すことができる のです。

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1 86 ダイクシス動詞 直示 (ちょくじ、英: deixis /dáɪksɪs/) とは、文脈に依存して指 示対象が決まる表現の言語使用であ る。使用対象の言語表現は直示表現 (英: deictic expression) と呼ばれ る。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B4%E7%A4%BA

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1 86 モブ作業する時も • 画面共有 • いま見ているところ • やろうとしていること を言語化するのが重要 C-POV

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1 86 被験者と過去の経験 表2 機械装置の経験 ミシンの経験 ペアA ペアB ペアC 被験者 A1 被験者 A2 被験者 B2 被験者 C2 被験者 C1 被験者 B1 豊富 ふつう ふつう 豊富 少ない 少ない ミシンを分解した経験がある 少しあるが、不可能な機械 だと考えている ほんの少しある たくさん縫ったことがある 今回の縫製問題が気になっている 縫ったことがある

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下向きの批判は、評価的な批判とい うよりは、「不満」と考えたほうが いいかもしれません。批判する側が 提案されたメカニズムを理解できな いということなのでしょう。しかし、 重要なのは、これらの批判によって、 より理解力のある相手が、メカニズ ムを探し続けなければならなくなっ たということです。 「わからない」というフィードバックが重要 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1207/s15516709cog1002_2 Constructive Interaction and the Iterative Process of Understanding (建設的相互作用と 理解の反復プロセス) 三宅なほみ 1986

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教育心理学概論 新訂 (放送大学教材) [全集叢書] 三宅 芳雄(著)、三宅 なほみ(著) 経験から固めた「経験則」 (素朴理論) 学校で教える原理原則 科学的概念 自分で考えて言葉にすると はじめてつながる より適用範囲の広い、 抽象度の高い知識

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教育心理学概論 新訂 (放送大学教材) [全集叢書] 三宅 芳雄(著)、三宅 なほみ(著) 経験から固めた「経験則」 (素朴理論) 学校で教える原理原則 科学的概念 自分で考えて言葉にすると はじめてつながる より適用範囲の広い、 抽象度の高い知識 わかりやすい説明が生む バブル型理解

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教育心理学概論 新訂 (放送大学教材) [全集叢書] 三宅 芳雄(著)、三宅 なほみ(著) 経験から固めた「経験則」 (素朴理論) 学校で教える原理原則 科学的概念 自分で考えて言葉にすると はじめてつながる より適用範囲の広い、 抽象度の高い知識 わかりやすい説明が生む バブル型理解 ポプテピピック (C) 大川ぶくぶ, 竹書房

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1 86 1986年 2024年

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1 86 ドラゴンクエスト 堀井雄二、エニックス チュンソフト https://www.nintendo.co.jp/titles/ 50010000043036

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1 86 はなす じゅもん つよさ どうぐ かいだん しらべる とびら とる http://kawaruseikatu.blog.fc2.com/blog-entry-46.html

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1 86 新しい 新製品開発のゲーム 竹内弘高、野中郁次郎

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1 86 ペースが速く、競争が激しい今日、商用 製品の新製品開発の世界では、スピード と柔軟性が不可欠です。新製品の開発に おいては、従来のように順番に開発して いくだけではうまくいかないことが多く なっています。日米の企業では、ラグ ビーでボールがチーム内でパスされ、 チームが一丸となってフィールドを移動 するように、ホリスティックな手法を用 いています。

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1 86 このホリスティックな アプローチには、 「不安定性の組み込み」 「自己組織化されたプロジェクトチーム」 「開発フェーズの重複」 「マルチラーニング」 「微細なコントロール」 「学習の組織的伝達」 という6つの特徴があります。

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1 86 さらに重要なことは、この新し いアプローチがチェンジエー ジェントとして機能することで す。 つまり、古くて硬直した組織に、 創造的で市場主導型のアイデア やプロセスを導入する手段とな るのです。

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1 86 新製品開発におけるゲームのルールは 変わりつつあります。多くの企業が、 今日の競争市場で優位に立つためには、 高品質、低コスト、差別化という基本 的な要素だけでは不十分であることに 気づいています。また、スピードと柔 軟性も必要です。

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1 86 この変化は、企業が新たな売上と利益 の源泉として新製品を重視しているこ とに反映されています。 例えば、3M社では、発売後5年未満の 製品が売上の25%を占めているといい ます。1981年に米国の700社を対象 に行われた調査では、1970年代の5 分の1から1980年代には新製品が利 益の3分の1を占めるようになるという 結果が出ています。

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1 86 このようにスピードと柔軟性が重視 されるようになると、新製品開発の 管理方法も変わってきます。 米国航空宇宙局(NASA)の段階的プ ログラム計画(PPP)システムに代 表されるような、従来の「駅伝」的 な製品開発アプローチは、スピード と柔軟性の最大化という目標と相反 する可能性があります。

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1 86 それよりも、チームが一丸と なってボールを回しながら ゴールを目指す、ラグビーの ようなホリスティックなアプ ローチの方が、今日の競争力 のある要求に応えることがで きるでしょう。

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1 86 これまでの製品開発プロセスは、機能別のスペ シャリストが次のグループにバトンタッチする 駅伝のようなものでした。コンセプト開発、 フィージビリティ・テスト、製品設計、開発プ ロセス、パイロット・プロダクション、ファイ ナル・プロダクションというように、プロジェ クトが順々に進みます。 この方法では、マーケティング担当者が顧客の ニーズや意識を調べて製品コンセプトを作り、 研究開発担当者が適切なデザインを選び、生産 担当者がそれを形にするというように、機能が 専門化・細分化されています。

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1 86 ラグビー・アプローチでは、 選び抜かれた多分野のチーム メンバーが、最初から最後ま で一緒に仕事をすることで、 製品開発プロセスが生まれま す。製品開発プロセスは、高 度に構造化された段階を踏む のではなく、チームメンバー の相互作用から生まれます。

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1 86 例えば、エンジニアのグループは、 フィージビリティテスト(第2段階) の結果がすべて出る前に製品の設計 (第3段階)を始めるかもしれません。 あるいは、後から得た情報により、 チームは決定を見直さなければならな いかもしれません。しかし、それで終 わりではなく、繰り返し実験を行いま す。これは、開発プロセスの最も遅い 段階でも同じです。

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1 86 図表1は、従来の製品開発における直線 的なアプローチと、ラグビー的なアプ ローチの違いを示しています。逐次的 なアプローチは、NASA型のPPPシス テムに代表されるタイプAと呼ばれるも のです。重複アプローチは、隣接する フェーズの境界でのみ重複が発生する タイプBと、複数のフェーズにまたがっ て重複が発生するタイプCに分けられま す。富士ゼロックスではタイプB、ホン ダやキヤノンではタイプCの重なりが観 察されました。

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1 86 NASA型 富士ゼロックス ホンダやキャノン

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1 86 このようなアプローチは、新製品を迅 速かつ柔軟に開発しようとする企業に とって不可欠です。 直線的なアプローチから統合的なアプ ローチへの移行は、試行錯誤を促し、 現状を打破します。 これは、組織内のさまざまなレベルや 機能において、新しい種類の学習や思 考を刺激します。

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1 86 同様に重要なのは、このよう な製品開発戦略が、より大き な組織の変化の要因となるこ とです。 この取り組みが生み出すエネ ルギーとモチベーションは、 大企業全体に広がり、時間の 経過とともに生じた硬直した 状況を打破し始めます。

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1 86 本稿では、製品開発プロセスの管理に新 しいアプローチを採用している日米の企 業を紹介します。富士ゼロックス、キヤ ノン、ホンダ、NEC、エプソン、ブラ ザー、3M、ゼロックス、ヒューレット・ パッカードなどの多国籍企業を対象に、 製品開発プロセスの管理に新しい取り組 みを行っている企業を紹介します。そし て、6つの具体的な製品の開発プロセスを 分析しました。

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1 86 •中型複写機「FX-3500」(富士ゼロックス、1978年導入 •個人用複写機「PC-10」(キヤノン、1982年 •1200ccエンジン搭載のシティカー(ホンダ、1981年 •PC8000パーソナルコンピュータ(NEC、1979年 •一眼レフカメラ「AE-1」(キヤノン、1976年 •アメリカでSure Shotと呼ばれていたレンズシャッターカメ ラ「オートボーイ」(キヤノン、1979年

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1 86 https://global.canon/ja/c-museum/ product/film102.html キャノン AF35M (オートボーイ) Sure Shot https://global.honda/jp/news/ 1982/4820920.html ホンダ シティ

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1 86 Built-in Instability 内蔵された不安定さ トップマネジメントは、大まかな目標や戦略的な方向性を示 すことで、開発プロセスをスタートさせます。明確な新製品 のコンセプトや具体的な作業計画が提示されることは少ない。 しかし、プロジェクトチームには大きな自由度が与えられ、 非常にチャレンジングな目標も設定される。例えば、富士ゼ ロックスのトップマネジメントは、従来とは全く異なる複写 機を要求し、FX-3500のプロジェクトチームには、ハイエ ンドラインの半分のコストで生産でき、かつ同等の性能を持 つ機械を2年間で開発するように指示しました。

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1 86 Built-in Instability 内蔵された不安定さ (続き) トップマネジメントは、会社にとって戦略的に重要な プロジェクトを遂行するために、プロジェクトチーム に大きな自由を与え、非常に難しい要求を設定するこ とで、プロジェクトチームに緊張感を与えています。 あるホンダの開発担当役員は、「2階にメンバーを配 置して、はしごを外して『飛べ』と言っているような ものだ。創造性は、人を壁に押し付け、極限までプ レッシャーをかけることで生まれると思います」。

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1 86 Self-organizing Project Teams 自己組織化されたプロジェクトチーム プロジェクトチームは、既成概念にとらわれない「情報ゼ ロ」の状態に追い込まれることで、自己組織化の性格を帯び てきます。この状態では、曖昧さや揺らぎがあふれています。 プロジェクトチームは、まるでスタートアップ企業のように、 率先してリスクを取り、独自のアジェンダを展開していくよ うになる。プロジェクトチームは、スタートアップ企業のよ うに、イニシアチブとリスクを取り、独自のアジェンダを持 ち始めます。

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1 86 Overlapping Development Phases 重複する開発フェーズ 自己組織化されたチームには、独特のダイナミズムやリズム があります。研究開発担当者は最も時間軸が長く、生産担当 者は最も時間軸が短いというように、それぞれのメンバーが 異なる時間軸でプロジェクトをスタートさせるが、納期に間 に合わせるためには、それぞれのペースを同期させる必要が ある。また、プロジェクトチームは「情報ゼロ」の状態から スタートするが、やがて各メンバーが市場や技術コミュニ ティに関する知識を共有するようになる。

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1 86 Overlapping Development Phases 重複する開発フェーズ (続き) その結果、チームが一つの単位とし て機能するようになるのです。そし て、ある時点から個人と全体が切り 離せなくなる。個人のリズムと集団 のリズムが重なり合い、まったく新 しい鼓動(リズム/rhythm)が生まれ てくる。その鼓動が原動力となって、 チームは前進する。

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1 86 しかし、鼓動の速さは発達の段階によって異なります。初期 の段階で最も勢いがあり、終盤に向かって先細りになってい くようです。キヤノンのPC-10開発チームのメンバーは、 このリズムを次のように表現しました。 “どんなコンセプトにしようかと考えているときは、頭の中 でいろいろな方向に向かって候補が出てきます。しかし、低 コストと高信頼性を両立させようとするときには、さまざま な視点を統合しようとする頭が働く。差別化しようとする人 と、統合しようとする人がいると、対立が起こりがちです。 このリズムを作って、次の状態に移るタイミングを見極める のがコツです。”

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1 86 シーケンシャル・アプローチまたはリ レー・レース・アプローチでは、プロジェ クトはいくつかのフェーズを段階的に経て、 前のフェーズの要件がすべて満たされてか ら次のフェーズに移行します。このチェッ クポイントにより、リスクをコントロール することができます。しかし、この方法で は統合の余地がほとんどありません。ある フェーズでボトルネックが発生すると、開 発プロセス全体が遅延したり停止したりし ます。

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1 86 ホリスティックあるいはラグビー・ア プローチでは、フェーズがかなり重な るため、開発プロセスで発生する振動 やノイズをグループで吸収することが できます。ボトルネックが発生すると、 当然、ノイズのレベルは上がります。 しかし、プロセスが急に止まることは なく、チームは自分たちの力で前進す ることができます。

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1 86 刺身のシステムでは、プロジェク トメンバーだけでなく、サプライ ヤーとの交流も盛んに行われてい ます。FX-3500チームは、プロ ジェクト開始当初から彼らを招待 しました(最終的にモデルの部品 の9割を生産しています)。お互 いに相手の工場を定期的に訪問し、 常に情報チャンネルをオープンに していました。

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1 86 富士ゼロックスのやり方が「刺 身」だとすれば、Hondaの「重 ね合わせ」は「ラグビー」です。 ラグビーチームのように、 Hondaではプロジェクトのコア メンバーが最初から最後まで一貫 して、すべてのフェーズの組み合 わせを担当します。

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1 86 オートボーイのプロジェクトは、 フェーズが重なりながら進行していき ました。キヤノンの設計者は、自分の 設計したものが自分の思い描いたもの になっているかどうか、常に気を配っ ていました。生産担当者は、設計者の 縄張りに入り込んで、生産規模の経済 性に合致した設計になっているかどう かを確認した。

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1 86 オーバーラップ方式にはメリットとデメ リットがあります。スピードと柔軟性の向 上はハード面でのメリットです。しかし、 このアプローチには、人材管理に関するソ フト面でのメリットもあります。オーバー ラップ方式は、責任感や協調性の共有、関 与やコミットメントの促進、問題解決への 集中力の強化、自発性の促進、多様なスキ ルの開発、市場環境への感度の向上などの 効果があります。

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1 86 より明確なデメリットは、集中的な プロセスを管理しなければならない ことです。プロジェクトチーム全体 とのコミュニケーション、サプライ ヤーとの緊密な連絡、いくつかのコ ンティンジェンシープランの準備、 サプライズへの対応などが問題とな る。また、この方法では、グループ 内に緊張感や対立が生じてしまう。

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1 86 あるプロジェクトメンバーが言った。 「開発部門の人間が、“100のうち 1が良い”と思えば、それは明らか に進めて良い兆候だ。しかし、生産 部門の人間が “100点満点中1点が 悪い”と考えれば、最初からやり直 さなければならない。この認識の ギャップがコンフリクトを生むので す」。

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1 86 また、フェーズが重なることで、従来 の分業の概念がなくなります。分業が うまく機能するのは、経営者がタスク を明確に定義し、プロジェクトメン バー全員が自分の責任を理解し、個々 に評価するAタイプのシステムです。 一方、B・Cタイプでは、「共有型分 業」といって、プロジェクトのどの部 分にも責任を持って取り組むことがで きるようになっています。

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1 86 Multilearning マルチラーニング プロジェクトチームのメンバーは、外部の 情報源と緊密に連絡を取り合っているため、 市場の変化に迅速に対応することができる。 チームメンバーは、試行錯誤を繰り返しな がら、検討すべき選択肢を絞り込んでいく。 また、幅広い知識と多様なスキルを身につ けることで、さまざまな問題を迅速に解決 できる多才なチームになります。

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1 86 PC-10の設計担当者は、「先輩や同僚は 本当によく勉強しています。上司や同僚は 本当によく勉強していて、読んでいる本の 数では私は太刀打ちできません。そこで私 は、時間があればデパートのおもちゃ売り 場に行って、何時間も滞在します。何が売 れているかを観察したり、おもちゃに使わ れている新しい仕掛けをチェックしたり。 それが後々のヒントになるかもしれませ ん」。

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1 86 また、グループレベルでの学習も積極的に 進めています。例えばホンダでは、コンセ プト開発の段階でプロジェクトが行き詰っ たとき、シティのプロジェクトチームのメ ンバー数名を3週間ヨーロッパに派遣しま した。彼らには「ヨーロッパで何が起きて いるか見てきなさい」とだけ言われた。そ こで彼らが出会ったのが、数十年前にイギ リスで開発された小型車「ミニクーパー」 で、これが彼らのデザイン哲学に大きな影 響を与えたのです。

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1 86 企業レベルでの学習は、全社的な運動 やプログラムを確立することで達成さ れます。例えば、フジゼロックスでは、 TQC(トータル・クオリティ・コント ロール)運動をベースに、企業のメン タリティを変えていった。TQCは、 「品質と生産性の同時向上」、「市場 志向」、「コスト削減」、「業務の簡 素化」に対する組織全体の感性を高め ることを目的としている。

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1 86 Subtle Control 微細なコントロール プロジェクトチームは自分たちだけで動いていま すが、コントロールされていないわけではありま せん。不安定さや曖昧さ、緊張感がカオスになら ないように、マネジメントは十分なチェックポイ ントを設けている。一方で、創造性や自発性を損 なうような厳格なコントロールは避けている。そ の代わりに、「自制心」「同調圧力」「愛情によ るコントロール」など、総称して「微細なコント ロール」と呼ぶことにした。

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1 86 1. グループの力関係の変化を見ながら、必 要に応じてメンバーの増減を行い、プロジェ クトチームにふさわしい人材を選ぶ。"先鋭 化しすぎた場合には、年配の保守的なメン バーを加える」(ホンダ幹部)。"プロジェ クトのメンバーは、長い時間をかけて慎重に 選びます。プロジェクトのメンバーは、長い 時間をかけて慎重に選びます。ほとんどの人 は、共通の価値観のおかげで仲良くやってい ますよ」。

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1 86 2. 富士ゼロックスのように、 オープンな職場環境を作ること。

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1 86 3. 現場に出て、お客様や販売店 の声に耳を傾けるようにする。 富士ゼロックスの技術者は、 「設計者は安易な方法を取りた くなることがあるかもしれませ んが、お客様の話を聞いて、そ の要求を満たす方法を考えてみ ることもあります」と言う。

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1 86 4. グループの業績に応じた評 価・報酬制度を確立する。 例えば、キヤノンはPC-10プロ ジェクトで開発した製品の特許 をグループで申請した。

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1 86 5. 開発プロセスにおけるリズム の違いを管理すること。前述し たように、リズムは初期段階で 最も勢いがあり、終盤に向かっ て先細りになっていきます。

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1 86 6. ミスを許容し、予測する ホンダの技術者たちは、"1%の成功率は 99%のミスによって支えられている "と 口癖のように言っている。研究開発を担 当するブラザーの幹部は、「若い技術者 が多くのミスをするのは当然だ。大切な のは、そのミスを早く見つけて、すぐに 修正することです。そのために試作のサ イクルを早くするなどの工夫をしていま す」。

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1 86 7. サプライヤーの自己組織化を促進する。 設計の初期段階でサプライヤーを巻き込 むことは正しい方向への一歩です。しか し、プロジェクトチームはサプライヤー に何をすべきかを指示することは控えな ければならない。Xerox社が発見したよう に、サプライヤーは問題を説明され、部 品をどのように供給するかを決めること ができれば、より良い結果を出すことが できる。

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1 86 Transfer of Learning 学習の伝達 学んだことを次の新製品開発プロジェクトや 組織内の他の部門に伝えることは日常的に行 われている。調査したいくつかの企業では、 キーパーソンを後続のプロジェクトに配属す ることで、"浸透 "させていた。あるホンダの 役員は、「工場が稼働し、初期のクレームが 解決したら、プロジェクトチームを解体し、 数人でフォローします。限られた有能な人材 しかいないので、すぐに別の重要なプロジェ クトに回すのです」。

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1 86 しかし、制度化は行き過ぎると、かえっ て危険をもたらします。過去の名言を伝 えたり、成功事例をもとに標準的なやり 方を確立することは、外部環境が安定し ているときには有効です。しかし、環境 の変化に伴い、そのような教訓はすぐに 通用しなくなります。

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1 86 いくつかの企業では、古いレッ スンをアンラーニングしようと しています。アンラーニングを 行うことで、開発チームは外部 環境の現実を把握することがで きます。また、少しずつでも改 善していくための足がかりにも なります。

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1 86 Some Limitations いくつかの制限事項 注意すべき点があります。 製品開発へのホリスティッ クなアプローチは、すべて の状況でうまくいくとは限 りません。また、いくつか の制限があります。

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1 86 開発期間中、プロジェクトメンバー 全員が並々ならぬ努力をしなければ なりません。ピーク時には100時間、 それ以外の期間は60時間という月単 位の残業を記録することもあります。

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1 86 革命的なイノベーションを必要とす る画期的なプロジェクトには適用さ れないかもしれません。この制限は、 バイオテクノロジーや化学分野で特 に当てはまるかもしれません。 航空宇宙産業のように、プロジェク トの規模が大きく、対面での議論が 制限されるような巨大プロジェクト には適用されないかもしれません。

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1 86 また、製品開発の指揮を執るのが 天才で、その天才が発明を行い、 明確な仕様書を下の人間に渡して、 それに従わせるような組織には適 用されないかもしれません。

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1 86 これまでの事例を 見て感じたのは、 若くてがむしゃらで 夢中な人たち。 1986年

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1 86 多くの学びと 試行錯誤を繰り返して 次のものを つくっていければ 2024年