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ベイズ的方法に基づく 統計的因果推論の基礎 早稲田大学 データ科学センター 堀井 俊佑

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自己紹介 堀井 俊佑 (ほりい しゅんすけ) 早稲田大学 データ科学センター 准教授 専門分野:統計的因果推論,統計的学習理論, 符号理論、情報理論 AI・データ利活用研究会 2 第5章〜第7章 第2章〜第3章 第2章〜第3章

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 3

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講演の裏テーマ • 構造的因果モデルは難しくない • 傾向スコアを使わないと因果推論できないというのは誤解 • 線形モデルでは因果推論できないというのは誤解 • 因果効果のベイズ推定では傾向スコアが必須ではない理由 • 以下の内容については本講演では扱いません – 因果探索 – 操作変数法 – 差分の差分法 – 回帰不連続デザイン AI・データ利活用研究会 4

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 5

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因果とは • “Causality”の語義:「結果と原因の関係」および「何事にも原因があると する原理」 AI・データ利活用研究会 6 引用:Oxford Dictionaries • 因果推論の問題:「ある行動Aを起こしたときにYに何が起こるか?」 • 多くの統計学の教科書における因果の取り扱い – 相関と因果の違いに関する注意喚起にとどまるものが多い • 「アイスクリームの消費が多い時期は水死者数も多い」という相関関係は「アイスクリームを食べたこ とが原因で水死者が増えた」という因果関係を意味しない もう一歩先へ

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因果推論問題の例 AI・データ利活用研究会 7 例 • ECサイト(インターネット通販サイト)の一部のユーザーに対して広告メールを送 り,メールを送ったユーザー・送らなかったユーザーそれぞれについてその後のECサ イトでの使用額を調べた.広告メールは効果があるといえるだろうか?また,その 効果はどの程度だろうか? ユーザー No. メールの有無 𝑻 使用額 𝒀 1 1 0 2 0 14900 3 1 48200 ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 0 広告メールの送付が売上に与える効果 処置変数𝑇が結果変数𝑌に与える効果を 求めたい. 𝑇 = 0:メールなし, 𝑇 = 1:メールあり 𝑇:処置変数 𝑌:結果変数 ※ 安井翔太「効果検証入門」(技術評論社)の例を 一部変更

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因果推論の難しさ AI・データ利活用研究会 8 因果効果(?)のプリミティブな推定方法 1 𝑖: 𝑇𝑖 = 1 ෍ 𝑖:𝑇𝑖=1 𝑌𝑖 − 1 𝑖: 𝑇𝑖 = 0 ෍ 𝑖:𝑇𝑖=0 𝑌𝑖 メールを送った人の 平均使用額 メールを送らなかった人の 平均使用額 メールを送った人の平均使用額:237.86 メールを送らなかった人の平均使用額:54.28 「メールを送ること」の「使用額」への効果(?)は 237.86-54.28=183.58 ?

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因果推論の難しさ AI・データ利活用研究会 9 • 広報メールは顧客の過去の購買履歴データを元に送付するかどうかが決められて いる ユーザー No. メールの 有無 𝑻 使用額 𝒀 昨年の使用額 𝑿𝟏 最後の購入から の経過月数 𝑿𝟐 1 1 0.0 82800 5 2 0 14900 3000 9 3 1 48200 34700 3 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 0.0 51500 1

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因果推論の難しさ AI・データ利活用研究会 10 • メールの有無で層別した「昨年の使用額」と「最後の購入からの経過月数」のヒ ストグラム メールを送った顧客は優良顧客である可能性が高く,そもそもメールを送 らなくても使用額は大きかったかもしれない

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因果推論の難しさ AI・データ利活用研究会 11 メールなし グループ メールあり グループ メールを受け 取らなかった 顧客が,メー ルを受け取ら なかった場合 の使用額の期 待値 メールを受け取った顧客 が,メールを受け取った 場合の使用額の期待値 プリミティブな推定方法 での推定対象

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因果推論の難しさ AI・データ利活用研究会 12 メールなし グループ メールあり グループ メールを受け 取らなかった 顧客が,メー ルを受け取ら なかった場合 の使用額の期 待値 メールを受け 取った顧客が, メールを受け 取らなかった 場合の使用額 の見込額 メールを受け取った顧客 が,メールを受け取った 場合の使用額の期待値 プリミティブな推定方法 での推定対象 本当に推定したい量

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問題点の振り返り AI・データ利活用研究会 13 • 例ではそもそも『推定対象』が定義されていない 定義されていないものを推定することはできない • 因果推論を統計的に扱うためには,『因果効果』の数学的定義が必要 • 因果効果を数学的に定義するための代表的なフレームワーク • Neyman-Rubinの潜在反応モデル • Pearlの構造的因果モデル 2つのフレームワークを例を通じて紹介 ※ 部分的に人によって定義や説明が異なることがあるので注意

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 14

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Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 15 • 処置変数𝑇𝑖 :0か1の2値をとる • 結果変数𝑌𝑖 • 𝑇𝑖 の値に応じて,𝑌 𝑖 (0)と𝑌 𝑖 (1)という2つの確率変数の存在を仮定 例 • 広告メールの有無と使用額 ユーザー No. メールの 有無 𝑻 𝒀(𝟎) 𝒀(𝟏) 1 1 0 10000 2 0 15000 20000 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 5000 7500 𝑌 𝑖 (0):ユーザー𝑖にメールを送らなかったとき の使用額 𝑌 𝑖 (1):ユーザー𝑖にメールを送ったときの使用額

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ユーザー No. メール の有無 𝑻 𝒀(𝟎) 𝒀(𝟏) 𝒀 1 1 0 10000 10000 2 0 15000 20000 15000 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 5000 7500 7500 Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 16 • 仮定 (一致性):結果変数𝑌𝑖 は𝑇𝑖 = 0のとき𝑌 𝑖 (0)と等しく,𝑇𝑖 = 1のとき𝑌 𝑖 (1)と等しい ⇒ 𝑌𝑖 = 𝑇𝑖 𝑌 𝑖 (1) + (1 − 𝑇𝑖 )𝑌 𝑖 (0)と表せる 例 • 広告メールの有無と使用額 𝑌 𝑖 (0)と𝑌 𝑖 (1)はどちらか一方しか 観測できない 因果推論の根本的な問題 (Holland) Individual Treatment Effect: ITE 𝑌 𝑖 (1) − 𝑌 𝑖 0 , 𝑖 = 1, … , 𝑛 集団レベルの平均的な 因果効果推定

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Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 17 • 仮定 (一致性):結果変数𝑌𝑖 は𝑇𝑖 = 0のとき𝑌 𝑖 (0)と等しく,𝑇𝑖 = 1のとき𝑌 𝑖 (1)と等しい ⇒ 𝑌𝑖 = 𝑇𝑖 𝑌 𝑖 (1) + (1 − 𝑇𝑖 )𝑌 𝑖 (0)と表せる • 当然成り立つように見えるが、あくまで『仮定』 • 例えば、ユニット𝑖の結果変数が他のユニットの影響を受けないことが暗に仮 定されている ⇒ ワクチンの効果を調べるような問題では成り立たない可能性 Remark

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Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 18 • 処置変数𝑇𝑖 :0か1の2値をとる • 結果変数𝑌𝑖 • 𝑇𝑖 の値に応じて,𝑌 𝑖 (0)と𝑌 𝑖 (1)という2つの確率変数の存在を仮定 例 • 広告メールの有無と使用額 ユーザー No. メールの 有無 𝑻 𝒀(𝟎) 𝒀(𝟏) 1 1 0 10000 2 0 15000 20000 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 5000 7500 𝑌 𝑖 (0):ユーザー𝑖にメールを送らなかったとき の使用額 𝑌 𝑖 (1):ユーザー𝑖にメールを送ったときの使用額 𝑌1 (0), … , 𝑌𝑛 (0)はi.i.d.で分布ℙ0 に従い, 𝑌1 (1), … , 𝑌𝑛 (1)はi.i.d.で分布ℙ1 に従うと仮定

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Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 19 𝑌1 (0), … , 𝑌𝑛 (0)はi.i.d.で分布ℙ0 に従い, 𝑌1 (1), … , 𝑌𝑛 (1)はi.i.d.で分布ℙ1 に従うと仮定 例 • 広告メールの有無と使用額 ユーザー No. メール の有無 𝑻 𝒀(𝟎) 𝒀(𝟏) 𝒀 1 1 0 10000 10000 2 0 15000 20000 15000 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 5000 7500 7500 ℙ0 ℙ1 E[𝑌(0)] E[𝑌(1)]

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Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 20 𝑌1 (0), … , 𝑌𝑛 (0)はi.i.d.で分布ℙ0 に従い, 𝑌1 (1), … , 𝑌𝑛 (1)はi.i.d.で分布ℙ1 に従うと仮定 例 • 広告メールの有無と使用額 ユーザー No. メール の有無 𝑻 𝒀(𝟎) 𝒀(𝟏) 𝒀 1 1 0 10000 10000 2 0 15000 20000 15000 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 5000 7500 7500 ℙ0 ℙ1 E[𝑌(0)] E[𝑌(1)] 定義(平均処置効果(ATE)): E 𝑌 1 − E[𝑌(0)] ※ これはあくまで因果効果の統計的な定義の1つ

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Neyman-Rubinの潜在反応モデル AI・データ利活用研究会 21 Remark • 以下のように定義することも 母集団 サイズ:𝑁 標本 サイズ:𝑛 それぞれに 𝑌 𝑖 (0)と𝑌 𝑖 (1) ATE:1 𝑁 σ𝑖=1 𝑁 𝑌 𝑖 (1) − 𝑌 𝑖 (0) • (非ベイズ的な設定では)𝑌 𝑖 (0), 𝑌 𝑖 (1)は 定数 • 本講演では前ページの定義で話を進める ※ 詳細はG. W. インベンス, D. B., ルービン, (星野 崇宏 (監修, 翻訳), 繁桝 算男 (監修, 翻訳)), 「統計的因果推論(上・下)」, (朝倉書店)を参照

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プリミティブな推定方法の問題点 AI・データ利活用研究会 22 • 大数の法則から 1 𝑖: 𝑇𝑖 = 1 ෍ 𝑖:𝑇𝑖=1 𝑌𝑖 − 1 𝑖: 𝑇𝑖 = 0 ෍ 𝑖:𝑇𝑖=0 𝑌𝑖 ↓ E 𝑌(1) 𝑇 = 1 ↓ E 𝑌(0) 𝑇 = 0 E 𝑌(1) 𝑇 = 1 − E 𝑌 0 𝑇 = 0 ≠ E[𝑌 1 ] − E[𝑌(0)] セレクションバイアス 一般的に

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ランダム化比較試験 AI・データ利活用研究会 23 • 𝑇𝑖 が𝑌 𝑖 (0), 𝑌 𝑖 (1)と独立の場合: E 𝑌(1) 𝑇 = 1 = E[𝑌 1 ] E 𝑌 0 𝑇 = 0 = E[𝑌(0)] プリミティブな推定方法で(𝑛が十分大きければ)ATEの推定が可能 • 𝑇𝑖 を他の変数とは無関係なランダムな確率変数とすれば,𝑌 𝑖 (0), 𝑌 𝑖 (1)とは独立になる – 例えば,コインを投げて表が出たら𝑇𝑖 = 0,裏が出たら𝑇𝑖 = 1とする • このような𝑇𝑖 の割り当ての方法をランダム化比較試験(RCT)という

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ランダム化比較試験 AI・データ利活用研究会 24 • ランダム化比較試験は統計的因果推論において強力な方法 • 実際にはコスト的・倫理的な理由により実施できない場合も多い – 例1:広告メールをランダムに送るということは,広告メールを送っても購入額が増えそうにない 顧客にもメールを送ることになり,コスト増につながる – 例2:有害な可能性の高い行動を被験者に強要することは,倫理的に許されない(例:喫 煙の強要) ランダム化比較試験ができない場合にATEを推定するには?

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共変量 • 多くの場合,処置変数𝑇と結果変数𝑌以外にも,これらと関係があると考えられる変数が 存在する AI・データ利活用研究会 25 例 • 広告メールの有無と使用額 ユーザー No. メールの有無 𝑻 昨年度の購入額 𝑿𝟏 直近購入日からの 経過月数 𝑿𝟐 𝒀(𝟎) 𝒀(𝟏) 1 1 5000 3 0 10000 2 0 15000 10 15000 20000 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 𝑛 1 10000 1 5000 7500 • 本講演では,このような変数を共変量とよぶ – 全ての共変量をまとめて𝑿と書く

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強い意味での無視可能性 • 処置変数𝑇が以下の条件を満たすとき,𝑇は強い意味で無視可能であるという (他にもUnconfoundedness仮定と言ったりする) AI・データ利活用研究会 26 𝑿が与えられた元で,𝑇と(𝑌 0 , 𝑌(1))が条件付き独立 確率密度関数でいうと 確率変数の独立性を表す記号 • 処置の割付けは観測される共変量𝑿のみに依存するという仮定 • 𝑝(𝑡|𝒙)を傾向スコアという

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強い意味での無視可能性 • 強い意味での無視可能性条件が満たされていると以下が成り立つ. AI・データ利活用研究会 27 潜在反応を含まないので,原理的にはデータから推定可能 • 条件付き期待値がwell-definedであるためには以下が必要(Positivity条件) 0 < 𝑝 𝑇 = 1 𝒙 < 1, ∀𝒙 s. t. 𝑝 𝒙 > 0

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その他の因果的な量 • ATEは処置変数𝑇が結果変数𝑌に与える平均的な効果の大きさ • 𝑇が𝑌に与える効果が共変量𝑿に依存する場合,以下のような量も興味の対象 AI・データ利活用研究会 28 定義(条件付き平均処置効果(CATE)): CATE 𝒙 = E 𝑌 1 − 𝑌 0 |𝑿 = 𝒙 • 𝑇が強い意味で無視可能な割り当てならば, 潜在反応を含まないので,原理的にはデータから推定可能 ※ E 𝑌 𝑖 (1) − 𝑌 𝑖 0 |𝑿 = 𝒙 をITEと呼ぶ人もいる(が、査読でツッコミが入ることが多い)

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潜在反応モデルのまとめ • (𝑌 𝑖 0 , 𝑌 𝑖 1 , 𝑇, 𝑿)はi.i.d.で𝑝(𝑦 0 , 𝑦 1 , 𝑡, 𝒙)に従う • 𝑌𝑖 = 𝑇𝑖 𝑌 𝑖 (1) + (1 − 𝑇𝑖 )𝑌 𝑖 (0) • 強い意味での無視可能性: • Positivity:0 < 𝑝 𝑇 = 1 𝒙 < 1, ∀𝒙 s. t. 𝑝 𝒙 > 0 AI・データ利活用研究会 29 仮定 • ATE: • CATE: 推定対象

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 30

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Pearlの構造的因果モデル AI・データ利活用研究会 31 因果ダイアグラム 構造方程式モデル 𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 はそれぞれ独立な 平均0の確率変数(錯乱項) 𝑔𝑋1 , 𝑔𝑋2 , 𝑔𝑇 , 𝑔𝑌 は何らかの関数

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Pearlの構造的因果モデル AI・データ利活用研究会 32 因果ダイアグラム 構造方程式モデル 非巡回有向グラフであることを仮定 𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 はそれぞれ独立な 平均0の確率変数(錯乱項) 𝑔𝑋1 , 𝑔𝑋2 , 𝑔𝑇 , 𝑔𝑌 は何らかの関数 左辺の確率変数は右辺の式に従って『生成 される』と考える (等号の代わりに←を使うこともある) 構造方程式モデルでは変数間の局所的な因 果関係が仮定に入っている

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Pearlの構造的因果モデル AI・データ利活用研究会 33 因果ダイアグラム 構造方程式モデル 因果ダイアグラムは非巡回有向グラフ(DAG)であることを仮定 𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 はそれぞれ独立な 平均0の確率変数(錯乱項) 𝑔𝑋1 , 𝑔𝑋2 , 𝑔𝑇 , 𝑔𝑌 は何らかの関数 左辺の変数の親ノードに相当する変数が右辺の関数の引数

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Pearlの構造的因果モデル AI・データ利活用研究会 34 因果ダイアグラム 構造方程式モデル 非巡回有向グラフであることを仮定 𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 はそれぞれ独立な 平均0の確率変数(錯乱項) 𝑔𝑋1 , 𝑔𝑋2 , 𝑔𝑇 , 𝑔𝑌 は何らかの関数 因果ダイアグラムは同時分布の因子分解構造を与える: 𝑝 𝑢, 𝑥1 , 𝑥2 , 𝑡, 𝑦 = 𝑝 𝑢 𝑝 𝑥1 𝑢 𝑝 𝑥2 𝑢 𝑝 𝑡 𝑥1 , 𝑥2 𝑝(𝑦|𝑥1 , 𝑥2 , 𝑡) 各因子の分布は関数𝑔𝑋1 , 𝑔𝑋2 , 𝑔𝑇 , 𝑔𝑌 や錯乱項𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 の分布により決まる

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Pearlの構造的因果モデル • 注意:構造方程式モデルにより確率分布が規定されるが,確率分布から構造方程式 は一意に定まらない AI・データ利活用研究会 35 違うモデル 確率分布: 𝑋 𝑌

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 36

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 37 介入後の分布: 𝑡の親ノード

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 38 介入後の分布: do記法を 含まない

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 39 介入後の分布: 傾向スコア

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 40 介入後の分布: 定義(平均因果効果(ACE)): 通常の確率分布の周辺化と同様,

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 41 介入後の分布: 定義(平均因果効果(ACE)): 通常の確率分布の周辺化と同様, do記法を含まない形で 書ける

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Pearlの構造的因果モデル • 系の外からの介入により𝑇 = 𝑡としたときに以下が起こることを仮定 – 構造方程式における𝑇の式が𝑇 = 𝑡となる • 因果ダイアグラムにおいて𝑇のノードに向かう矢線が消失 – 𝑇以外の式に変化は生じない(自律性) AI・データ利活用研究会 42 介入後の分布: 定義(平均因果効果(ACE)): 通常の確率分布の周辺化と同様, Remark • 文献によって𝑝do 𝑇=𝑡 (𝑦)を因果 効果や介入効果と言ったりする • Pearl自身がそのように書い ている • 個人的には介入分布 (interventional distribution) とかのほうが分かりやすいよう に思う

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Pearlの構造的因果モデル • 𝑝do(𝑇=𝑡) (𝑦)を定義どおり計算するためには、すべての変数間の関係性を知っている必要 がある AI・データ利活用研究会 43 変数集合𝒁が(𝑇, 𝑌)についてバックドア基準を満たすならば 𝑝do 𝑇=𝑡 𝑦 = ∫ 𝑝 𝒛 𝑝 𝑦 𝑡, 𝒛 𝑑𝒛 定理([Pearl, 1995]) • 𝑇, 𝑌, 𝒁の間の関係性のみから計算(推定)可能 • バックドア基準を満たす変数の集合は複数存在 • 𝑇の親ノードの集合はバックドア基準を満たす • 本講演ではバックドア基準の詳細は割愛 • 直感的な考え方 ⇒ 林岳彦「はじめての統計的因果推論」(岩波書店) • 詳細な理論 ⇒ Pearlら(訳: 落海浩)「入門統計的因果推論」(朝倉書店)、宮川雅巳「統計的因果推 論:回帰分析の新しい枠組み」(朝倉書店)、黒木学「構造的因果モデルの基礎」(共立出版)

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構造的因果モデルのまとめ • 𝑌𝑖 , 𝑇𝑖 , 𝑿𝑖 は仮定した構造方程式モデルにより生成される • 自律性:介入により𝑇を固定したときに,系の𝑇以外の部分に変化は生じない • Positivity:0 < 𝑝 𝑡 𝒙 < 1, ∀𝑡, ∀𝒙, s. t. 𝑝 𝒙 > 0 AI・データ利活用研究会 44 仮定 • ACE: • 𝑇が連続型の場合: 推定対象

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 45

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構造的因果モデルにおける潜在反応 AI・データ利活用研究会 46 𝑌は𝜺 = (𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 )から 確定的に決まる ⇒ 𝑌(𝜺)と書く 𝑌は𝜺′ = (𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑌 )と𝑡から 確定的に決まる ⇒ 𝑌 𝑡 (𝜺′)と書く 𝑌(𝑡)の分布は𝜺′の分布から決まる もし𝑇 = 𝑡だったら・・・

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構造的因果モデルにおける潜在反応 AI・データ利活用研究会 47 𝑌は𝜺 = (𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 )から 確定的に決まる ⇒ 𝑌(𝜺)と書く 𝑌は𝜺′ = (𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑌 )と𝑡から 確定的に決まる ⇒ 𝑌 𝑡 (𝜺′)と書く 𝑌(𝑡)の分布は𝜺′の分布から決まる もし𝑇 = 𝑡だったら・・・ • 𝑇 = 𝑡となるような𝜺に対して、定義から以下が成り立つ: 𝑌 𝜺 = 𝑌 𝑡 (𝜺′) ⇒ 構造的因果モデルにおける一致性

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構造的因果モデルにおける潜在反応 AI・データ利活用研究会 48 𝑌は𝜺 = (𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑇 , 𝜀𝑌 )から 確定的に決まる ⇒ 𝑌(𝜺)と書く 𝑌は𝜺′ = (𝜀𝑈 , 𝜀𝑋1 , 𝜀𝑋2 , 𝜀𝑌 )と𝑡から 確定的に決まる ⇒ 𝑌 𝑡 (𝜺′)と書く 𝑌(𝑡)の分布は𝜺′の分布から決まる もし𝑇 = 𝑡だったら・・・ • 𝑇 = 𝑡となるような𝜺に対して、定義から以下が成り立つ: 𝑌 𝜺 = 𝑌 𝑡 (𝜺′) ⇒ 構造的因果モデルにおける一致性 • 潜在反応モデルにおける一致性は仮定 • 構造的因果モデルにおける一致性は構造方程 式と自律性から導かれる定理

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構造的因果モデルにおける潜在反応 AI・データ利活用研究会 49 変数集合𝒁が(𝑇, 𝑌)についてバックドア基準を満たすならば 定理([Pearl, 2000]) • 構造的因果モデルにおいては、強い無視可能性も、構造方程式と自律性から導かれる 定理 • この定理を拠り所に、傾向スコアを用いた因果効果推定(後述)で、傾向スコアのモデ ルの変数選択にバックドア基準を用いるというアプローチが考えられる • Morgan, Winship(訳: 落海浩)「反事実と因果推論」(朝倉書店)では社会科学への応用について詳 しく書かれている

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 50

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メタな視点から見た統計的因果推論 AI・データ利活用研究会 51 母集団分布 𝑝(𝒗) 𝒗1 , 𝒗2 , … , 𝒗𝑛 i.i.d. 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定

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メタな視点から見た統計的因果推論 AI・データ利活用研究会 52 潜在反応モデルにおけるATE推定 母集団分布 𝑝(𝒗) 𝒗1 , 𝒗2 , … , 𝒗𝑛 i.i.d. 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定

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メタな視点から見た統計的因果推論 AI・データ利活用研究会 53 構造的因果モデルにおけるACE推定 母集団分布 𝑝(𝒗) 𝒗1 , 𝒗2 , … , 𝒗𝑛 i.i.d. 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定

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メタな視点から見た統計的因果推論 AI・データ利活用研究会 54 母集団分布 𝑝(𝒗) 𝒗1 , 𝒗2 , … , 𝒗𝑛 i.i.d. 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定 • 一般的な統計的推測の話と同じ • Ψ(𝑝)が『因果的な量』と見なせるかどうかは 仮定(と哲学)による

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プラグイン型の推定 AI・データ利活用研究会 55 母集団分布 𝑝(𝒗; 𝜽) 𝒗1 , 𝒗2 , … , 𝒗𝑛 i.i.d. 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定 • 分布𝑝(𝒗)をパラメトリックな分布𝑝(𝒗; 𝜽)によ りモデル化 • 𝜽を何らかの方法(例:最尤推定)により 推定し෡ 𝜽を得る • Ψ(𝑝(𝒗; ෡ 𝜽))により推定する すぐに考えられる推定方法 分布のクラスが複雑な場合や,𝜽が高次元・ 無限次元のときなどに望ましい性質(例えば 不偏性)を持たないことがある

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ATEの推定量 AI・データ利活用研究会 56 • (強い意味での無視可能性が成り立つときの)ATE: 回帰による推定量 • 条件付き期待値をE[𝑌|𝑿, 𝑇] = 𝜇(𝑿, 𝑇; 𝝃)によりモデル化 例えば線形回帰ならば,𝜇 𝑿, 𝑇; 𝝃 = 𝜃𝑇 + 𝜷⊤𝑿 適当な条件のもとで最小二乗推定量がATEの不偏推定量

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ATEの推定量 AI・データ利活用研究会 57 • 傾向スコア𝑝(𝑇 = 1|𝑿)が既知ならば はATEの不偏推定量 • 実際には𝑝(𝑇 = 1|𝑿)は未知なので,何らかのモデル(例えばロジスティック回帰モデル) 𝑝(𝑇 = 1|𝑿, 𝝎)を仮定して𝝎を推定 – 𝝎の推定量ෝ 𝝎が一致性を持てば,IPW推定量はATEの一致推定量 IPW推定量 [Horvits and Thompson, 1952]

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ATEの推定量 AI・データ利活用研究会 58 • 回帰による推定量 ⇒ E[𝑌|𝑿, 𝑇]をモデリング・推定 • IPW推定量 ⇒ 𝑝 𝑇 = 1 𝑿 = E[𝑇|𝑿]をモデリング・推定 AIPW推定量(Doubly Robust 推定量) いずれも,条件付き期待値の一致推定量が必要 • E 𝑌 𝑿, 𝑇 , E[𝑇|𝑿]のいずれかの推定量が一致性を持っていればAIPW推定量はATEの 一致推定量 • AIPW推定量は局所セミパラメトリック有効性を持つ [Robins+, 1994]

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ATEの推定量 AI・データ利活用研究会 59 • 回帰による推定量 ⇒ E[𝑌|𝑿, 𝑇]をモデリング・推定 • IPW推定量 ⇒ 𝑝 𝑇 = 1 𝑿 = E[𝑇|𝑿]をモデリング・推定 一方がどちらかより優れているという訳では無い • 傾向スコアを使った手法が好まれるのは、E[𝑌|𝑿, 𝑇]よりもE[𝑇|𝑿]の方が推定しやすいと考 えられているから? (個人的な推測) • 例えばノンパラメトリック推定をするならば、関数が滑らかな方が推定しやすい Remark

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ATEの推定量 AI・データ利活用研究会 60 Double/Debiased Machine Learning (DML) • 𝑌, 𝑿, 𝑇の間の関係を次のようにモデル化 𝑓, 𝑔は未知の非線形関数 • 詳細は後述するが,E[𝑌|𝑿]とE[𝑇|𝑿]を(機械学習アルゴリズムを用いて)推定し,𝜃を 推定する • 𝜃を𝑿の関数𝜃(𝑿)としてCATEを推定する研究も存在(後述) [Chernozhukov+, 2018]

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ACEの推定量 AI・データ利活用研究会 61 • 構造方程式が線形の場合: 𝑌を𝑇, 𝒁で線形回帰したときの𝑇の回帰係数がACEと 等しい(左図では𝒁 = {𝑋1 , 𝑋2 }) 𝑋𝑖 の親ノードの変数の集合 因果ダイアグラム上での𝑇から𝑌への有向パスの集合 [Pearl, 2000] バックドア基準の定理を適用

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講演内容 • 統計的因果推論とは • 統計的因果推論の代表的なフレームワーク – 潜在反応モデル – 構造的因果モデル – 2つのフレームワークの関係性 • 代表的な因果効果推定手法 • 因果効果推定の決定理論的定式化とベイズ推定 AI・データ利活用研究会 62

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推定量の分類 AI・データ利活用研究会 63 母集団分布 𝑝(𝒗; 𝜽) i.i.d. 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定 • 𝑝(𝒗; 𝜽)のモデリング • 推定量の評価基準 – 一致性 – (漸近)不偏性 – 推定量の漸近正規性 – 推定量の分散 – ・・・ 分類の軸

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統計的決定理論による定式化 AI・データ利活用研究会 64 母集団分布 𝑝(𝒗; 𝜽) i.i.d. Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定 ⇒ 決定関数 • 損失関数: ℓ(Ψ 𝑃 , 𝑑(𝒟𝑛)) • 危険関数: 𝑅 𝑑, 𝜽 = E𝒟𝑛[ℓ(Ψ 𝑃 , 𝑑(𝒟𝑛))] • ベイズ危険関数: 𝐵𝑅 𝑑 = E𝜽 [𝑅 𝑑, 𝜽 ] 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) ※ 統計的決定理論についてもう少し詳しく知りたい方は「データ科学入門シリーズ」(サイエンス 社)を是非!より詳しく知りたい方はBerger, “Statistical Decision Theory and Bayesian Analysis” (Springer)がお勧め。

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統計的決定理論による定式化 AI・データ利活用研究会 65 母集団分布 𝑝(𝒗; 𝜽) i.i.d. Ψ(𝑝) 分布の特徴量: 推定の鍵 Ψ(𝑝)の事後分布 𝑝(Ψ(𝑝)|𝒟𝑛) 例:二乗誤差損失⇒事後平均がベイズ最適 ベイズ的アプローチの利点: • 興味の対象外の母数(局外母数)を周辺 化により消去可能 • 推定の不確実性の定量化 𝒗𝑖 = (𝑡𝑖 , 𝒙𝑖 , 𝑦𝑖 ) 推定 ⇒ 決定関数

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統計的決定理論による定式化 AI・データ利活用研究会 66 • 推定の不確実性評価の重要性 – 因果推論に限った話ではないが… • どちらの施策を選びますか?

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 67 • (強い意味での無視可能性が成り立つときの)ATE: 線形回帰によるATEのベイズ推定 • 条件付き分布を𝑝(𝑦|𝒙, 𝑡)をモデル化 線形回帰ならば,𝑦 = 𝜃𝑇 + 𝜷⊤𝑿 + 𝜀, 𝜀 ∼ 𝑁(0, 𝜎𝜀 2) 𝑇, 𝑿を説明変数とした重回帰モデルを考えたときの𝑇の回帰係数の事後分布が ATEの事後分布

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 68 • (強い意味での無視可能性が成り立つときの)CATE: 線形回帰によるCATEのベイズ推定 単純な重回帰モデルでは、因果効果の異質性を表現できない (因果効果に異質性がないことを仮定している) • 条件付き分布を𝑝(𝑦|𝒙, 𝑡)をモデル化 線形回帰ならば,𝑦 = 𝜃𝑇 + 𝜷⊤𝑿 + 𝜀, 𝜀 ∼ 𝑁(0, 𝜎𝜀 2)

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 69 線形回帰によるCATEのベイズ推定 方策1 • 𝑝(𝑦|𝒙, 𝑡 = 0)と𝑝(𝑦|𝒙, 𝑡 = 1)を別々にモデル化 𝑇 = 0のとき 𝑇 = 1のとき (𝜷1 − 𝜷0 )⊤𝒙の事後分布がCATEの事後分布 • T-Learnerと近い – E[𝑌|𝑿 = 𝒙, 𝑇 = 1]とE[𝑌|𝑿 = 𝒙, 𝑇 = 0]を学習

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 70 ノンパラメトリックモデル(ガウス過程)に拡張 推定対象 の分布 損失関数 と の間のKL距離 (ノンパラメトリックベイズモデル) [Alaa and Schaar, 2018] がベイズ最適 𝑇 = 0のとき 𝑇 = 1のとき • ミニマックスレートに関する理論解析 – 最適なレートが𝑓0 , 𝑓1 のうち複雑な方の関数の複雑さに依存

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 71 線形回帰によるCATEのベイズ推定 方策2 • 𝑇と𝑿の交互作用項を入れる 𝜸⊤𝒙の事後分布がCATEの事後分布 • S-Learnerと近い – E[𝑌|𝑿 = 𝒙, 𝑇 = 𝑡]を学習

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 72 非線形に拡張(1) 推定対象 CATE 損失関数 CATEと の間の二乗誤差損失 (Bayesian Additive Regression Tree 事前分布) の平均がベイズ最適 • MCMCにより事後分布に従うサンプルを近似的に生成 [Hahn et al., 2020] (Bayesian Causal Forest: BCF)

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 73 非線形に拡張(2) 推定対象 CATE 損失関数 CATEと の間の二乗誤差損失 (ガウス過程事前分布) [Horii, 2022][Horii and Chikahara, 2024] の平均がベイズ最適 • 事後分布が解析的に計算可能 • 事後分布に関する理論解析を少し https://github.com/holyshun/GP-PLM

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ • 半人工データによる実験 – Linked Birth and Infant Death Data (LBIDD) – 人工的に生成された潜在反応を含んでいる(ITEが分かる) – ITEをCATEで推定したときの誤差を評価 AI・データ利活用研究会 74

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 75 方策1と方策2の比較 方策1 𝑇 = 0のとき 𝑇 = 1のとき 方策2 • 方策1では連続な処置変数が扱えない • 方策1では「因果効果に影響のある変数が𝑿の一部である」というような事前情報を 入れるのが難しい – 方策2では𝜃(𝑾)のようにすれば良い(𝑾は𝑿の一部) • 逆に、𝑇 = 0, 1のときの𝑌のモデルに事前情報があるなら方策1のほうが良い

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 76 Double/Debiased Machine Learningとの関係性 モデル 何らかの方法(機械学習など)で推定

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 77 Double/Debiased Machine Learningとの関係性 モデル 従来研究の分類 • 𝜃(𝑿)が定数または(低次元)線形関数:[Chernozhukov, 2016] • 𝜃(𝑿)が再生核ヒルベルト空間:[Nie, 2017] • 𝜃(𝑿)が高次元スパース線形関数:[Chernozhukov, 2017] • [Horii, 2022][Horii and Chikahara, 2024]は[Nie, 2017]に対するベイズ版 のようなものと考えられる

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潜在反応モデルにおけるベイズ的アプローチにおける傾向スコア AI・データ利活用研究会 78 • ATE、CATE推定、いずれにしてもベイズ推定を行うときに傾向スコアは出てこない – (参考):Bayesian Causal Inferenceでは傾向スコアは不要? (https://horiilab.com/2023/03/27/bayesian-causal- inference%E3%81%A7%E3%81%AF%E5%82%BE%E5%90%91%E3%82%B9%E3%82%B3%E 3%82%A2%E3%81%AF%E4%B8%8D%E8%A6%81/) • ATEやCATEは𝑝(𝑦|𝒙, 𝑡)の関数 • ATEやCATEの事後分布計算に𝑝(𝑡|𝒙)は現れない • BCFでは傾向スコアの推定値が特徴量として使われている – データの二度漬け • 𝑝(𝑦|𝒙, 𝑡)と𝑝(𝑡|𝒙)のパラメータの事前分布が独立でないと きは、この限りではない

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構造的因果モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 79 因果ダイアグラムを確率変数と考えるモデル化 [Horii and Suko 2019], [Horii 2021] 𝐺1 𝐺2 𝐺3 𝐺4 推定対象 ACE 損失関数 ACEと の間の二乗誤差損失 がベイズ最適 ※因果ダイアグラムの探索 ⇒ 因果探索 計算が大変...

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構造的因果モデルにおけるベイズ的アプローチ AI・データ利活用研究会 80 観察データと実験データを結びつける [Horii and Chikahara, 2024] 観察データ:𝐷0 実験データ(do(𝐴 = 𝑎)):𝐷𝑎 [V. Aglietti et al., 2020] • 従来研究:変数集合𝑿に介入したときの平均因果効果𝔼do(𝑿=𝒙) [𝑌]をガウス 過程でモデル化してマルチタスク学習 • 提案手法:自律性を根拠に、観察データと実験データのもとでの事後分布を計算

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まとめ • 統計的因果推論 ⇒ 統計的推測問題の一種 – 様々な仮定を置くことで,推定対象が因果的な量としてみなせる – 「何を推定対象と考えるか」と「推定対象をどのように推定するか」は別の話 • モデリング,評価基準により様々なアプローチが可能 – ベイズ統計的アプローチ ⇒ 推定対象の事後分布が鍵 – モデルと推定対象が決まれば、論理的にはベイズ推定は自動的に決まる • 何を推定対象とするかについてコンセンサスが取れてしまえば、因果推論を特 別視する理由はない(なので、本講演のタイトルはタイトル詐欺かも) AI・データ利活用研究会 81

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参考文献 • D. Horvitz and D. Thompson, “A generalization of sampling without replacement from a finite universe,” Journal of the American Statistical Association, 47(260):663-685, 1952. • J. Robins, A. Rotnitzky, and L. P. Zhao, “Estimation of regression coefficients when some regressors are not always observed,” Journal of the American Statistical Association, 89(427):846-866, 1994. • V. Chernozhukov, D. Chetverikov, M. Demirer, E. Duflo, C. Hansen, W. Newey, and J. Robins, “Double/debiased machine learning for treatment and structural parameters,” The Econometrics Journal, 21(1), 2018. • J. Pearl, “Causality: Models, Reasoning, and Inference,” Cambridge University press, 2000. • A. Alaa and M. Van der Schaar, “Bayesian nonparametric causal inference: Information rates and learning algorithms,” IEEE Journal of Selected Topics in Signal Processing, 12(5):1031-1046, 2018. • Hahn, P. Richard, Jared S. Murray, and Carlos M. Carvalho. "Bayesian regression tree models for causal inference: Regularization, confounding, and heterogeneous effects (with discussion)." Bayesian Analysis 15.3 (2020): 965-1056. • Nie, Xinkun, and Stefan Wager. "Quasi-oracle estimation of heterogeneous treatment effects." Biometrika 108.2 (2021): 299-319. • V. Aglietti, T. Damoulas, M. A. Alvarez, J. Gonzalez, “Multi-task causal learning with Gaussian processes,” In Proc. of the 34th International Conference on Neural Information Processing Systems (NeurIPS 2020). AI・データ利活用研究会 82

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参考文献 • S. Horii, Heterogeneous treatment effect estimation based on a partially linear nonparametric bayes model, arXiv preprint arXiv:2201.12016 (2022). • S. Horii and T. Suko, “A Note on the estimation method of intervention effects based on statistical decision theory,” Proc. of 53rd Annual Conference on Information Sciences and Systems (CISS), 2019. • S. Horii, “Bayesian model averaging for causality estimation and its approximation based on gaussian scale mixture distributions,” Proc. of International Conference on Artificial Intelligence and Statistics (AISTATS), 955-963, PMLR, 2021. • S. Horii, Y. Chikahara, "Uncertainty Quantification in Heterogeneous Treatment Effect Estimation with Gaussian-Process-Based Partially Linear Model," 38th AAAI Conference on Artificial Intelligence (AAAI-24). AI・データ利活用研究会 83

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参考文献 • G. Imbens, D. Rubin, “Causal Inference for Statistics, Social, and Biomedical Sciences: An Introduction,” Cambridge University Press, 2015. • J. Pearl, “Causality: Models, Reasoning, and Inference,” Cambridge University Press, 2000. • A. Tsiatis, “Semiparametric Theory and Missing Data,” Springer, 2006. • M. van der Laan, S. Rose, “Targeted Learning: Causal Inference for Observational and Experimental Data,” Springer, 2011. AI・データ利活用研究会 84

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参考文献 • 安井翔太, 「効果検証入門」, 技術評論社, 2020. • 林岳彦, 「はじめての統計的因果推論」, (岩波書店), 2024. • Judea Pearl, Madelyn Glymour, Nicholas P. Jewell, (落海浩訳), 「入門 統 計的因果推論」, (朝倉書店), 2019. • 宮川雅巳, 「統計的因果推論:回帰分析の新しい枠組み」, (朝倉書店), 2004. • 黒木学, 「構造的因果モデルの基礎」, (共立出版), 2017. • S. L. Morgan, C. Winship, (落海浩訳), 「反事実と因果推論」, (朝倉書店), 2024. • G. W. インベンス, D. B., ルービン, (星野 崇宏 (監修, 翻訳), 繁桝 算男 (監 修, 翻訳)), 「統計的因果推論(上・下)」, (朝倉書店), 2023. AI・データ利活用研究会 85