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自己組織化系のベイズ力学 1

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目次 1. 導入 2. 自由エネルギー原理 (FEP) 3. 自己組織化システムのベイズ力学 4. 神経科学への応用 5. 神経生物学におけるベイズ力学の実験的検証 6. 普遍的機械の進化的出現 7. まとめ 2

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想定読者 理論神経科学に興味を持つ研究者・大学院生 ▶ 人工知能や機械学習の基礎理論に関心のある技術者 ▶ 複雑系科学や自己組織化システムを研究する科学者 ▶ 認知科学や計算論的神経科学の専門家 ▶ 3

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用語 変分自由エネルギー: 系の状態の不確実性を表す量。最小化することで、系は環境に適応する。 ▶ 生成モデル: 観測データが生成されるプロセスを表現する確率モデル。 ▶ ベイズ推論: 事前確率と観測データから事後確率を推定する確率推論の方法。 ▶ ランジュバン方程式: 確率的微分方程式の一種。系の動力学を記述するのに用いられる。 ▶ ハミルトニアン: 系の全エネルギーを表す関数。系の動力学を記述するのに重要。 ▶ STDP (Spike-Timing Dependent Plasticity): 神経細胞間の発火タイミングに依存したシナプス可塑性。 ▶ 正準的ニューラルネットワーク: 一般的なニューラルネットワークを簡略化した基本的なモデル。 ▶ ヘブ則: "共に発火するニューロン同士は結合が強化される"という学習則。 ▶ ハミルトニアンマッチング: 系の内部ダイナミクスと環境のダイナミクスが一致すること。 ▶ 能動推論: 行動を通じて環境に働きかけながら推論を行うプロセス。 ▶ 4

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導入 5

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リサーチの根本的動機 中心的な問い 生物のような人工知能の創造 ▶ 生物の知能を理解することが、より高度な人工知能開発への鍵 - 生物の知能の本質的原理の解明 ▶ 知性の創発の根底にある潜在的なメカニズムの解明 - 学習、適応、意思決定メカニズムの統一的理解 - 生物の脳が機械より優れている点の特定 ▶ エネルギー効率、汎用性、柔軟性などの観点からの比較 - 6

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アプローチの特徴 数学を用いた脳の知能の普遍的特性の表現 ▶ 微分方程式、確率論、情報理論などの数学的ツールの活用 - 理論神経科学の手法を用いた包括的モデル構築 ▶ ミクロレベル(単一ニューロン)からマクロレベル(脳全体)までの統合 - 7

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自由エネルギー原理 (FEP) 8

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自由エネルギー原理 (FEP) 原理の核心:生物の知覚、学習、行動は変分自由エネルギーの最小化によって決定される ▶ 変分自由エネルギー:生成モデルの状態の主観的起こりにくさを表す指標 - 目的と機能: ▶ 外部環境の状態に関する変分ベイズ推論の実行 - 不確実性下での最適な意思決定と行動選択の実現 - 9

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自由エネルギー原理の構成要素 隠れ状態 :直接観測できない環境の真の状態 ▶ 観測 :感覚器官を通じて得られる情報 ▶ 事後信念 :観測に基づく隠れ状態の推定 ▶ パラメータ :生成モデルのパラメータ(学習対象) ▶ 生成モデル :環境と観測の関係を表す確率モデル ▶ 10

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自由エネルギー原理 数学的表現: ▶ 自由エネルギー - 期待自由エネルギー :将来の行動に関する評価関数 - 応用範囲: ▶ 知覚:感覚入力からの環境状態の推論 - 学習:生成モデルのパラメータ更新 - 行動:自由エネルギーを最小化する行動の選択 - これらの統一理論としての機能 - 11

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自己組織化システムのベイズ力学 12

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理論的基礎 ランジュバン方程式を用いた系の動力学の記述 ▶ ( はガウシアンノイズ) - 自律状態 と経路 の導入 ▶ 系の状態とその時間発展を包括的に扱うための概念 - 13

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自己組織化システムのベイズ力学 数学的展開: ▶ ハミルトニアンの定義: - - 虚時間 の導入:実時間 との関係 - 経路の動力学: ( はガウシアンノイズ) - ヘルムホルツエネルギーの最小化として表現 - 14

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自己組織化システムのベイズ力学 重要な発見と含意: ▶ ヘルムホルツエネルギー と変分自由エネルギー の自然な等価性 - for when encodes - この等価性が示唆するもの: - 外部動力学の再現が神経系の固有の特徴であること - 自己組織化系の振る舞いがベイズ推論として解釈可能であること - 15

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神経科学への応用 16

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モデルの段階的還元: Hodgkin-Huxleyモデル ▶ イオンチャネルの詳細な動力学を含む複雑なモデル - FitzHugh-Nagumoモデル ▶ Hodgkin-Huxleyモデルの2変数への簡略化 - 正準的ニューラルネットワーク ▶ 発火率モデルへのさらなる簡略化 - 17

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ニューラルネットワークと変分ベイズの詳細な比較 部分観測マルコフ決定過程(POMDP)とニューラルネットワークの対応 ▶ 隠れ状態 ニューロン活動 - 観測 感覚入力 - パラメータ シナプス結合強度 - 隠れ状態の推論: ▶ ニューロン活動の更新則に対応 - パラメータ学習: ▶ ヘブ則に基づくシナプス可塑性に対応 - 18

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逆工学と予測の具体的手順: 神経活動記録からの正準的ニューラルネットワークの同定 ▶ 発火率、シナプス結合、閾値の推定 - ヘルムホルツエネルギー と生成モデルの特定 ▶ - 学習過程の予測: ▶ シナプス可塑性アルゴリズムの導出 - 将来の神経活動パターンの予測 - 実験結果との照合と診断 ▶ 19

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神経生物学におけるベイズ力学の実験的検証 20

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in vitro実験 自由エネルギー原理に基づく神経ネットワークの学習予測 ▶ 環境の隠れ状態に対応する神経表現の形成 - 自由エネルギー勾配に従う可塑性の観察 ▶ シナプス結合強度の変化が予測誤差の最小化に寄与 - ハミルトニアンマッチングの実証 ▶ 環境のダイナミクスと神経ネットワークのダイナミクスの一致 - 21

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神経調節物質の役割の詳細分析: ドーパミンによるSTDP(スパイクタイミング依存可塑性)の調節 ▶ プレシナプス-ポストシナプス発火タイミングに依存した可塑性の変調 - 遅延モジュレーションの観察と意義 ▶ 報酬信号とシナプス可塑性のタイミング依存性 - 22

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能動推論のための神経基盤モデル 3層構造:感覚入力層、中間層、出力層 ▶ 変分自由エネルギー と神経ネットワークのコスト関数 の対応 ▶ 迷路内でのエージェントの軌跡シミュレーション ▶ 環境の学習と最適経路の発見過程の再現 - 23

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普遍的機械の進化的出現 24

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ベイズ力学の適用範囲は広い 古典系:神経ネットワーク、生態系、社会システムなど ▶ 量子系:量子情報処理、量子生物学など ▶ ハミルトニアンマッチングの理論的・実験的意義: ▶ 系の内部ダイナミクスと環境のダイナミクスの整合 - 適応的行動と学習の基礎的メカニズムとしての位置づけ - 25

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進化的視点からの考察: 自然選択を通じた普遍的機械の出現過程 ▶ 環境の複雑性に対応する内部モデルの進化 - 生物学的システムにおけるベイズ推論の普遍性の説明 ▶ 不確実性下での生存と繁殖に有利な戦略としてのベイズ推論 - 26

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まとめ 27

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理論的成果の総括 方法論的進展の意義: 自己組織化系の動力学を変分自由エネルギー最小化として統一的に解釈 ▶ ヘルムホルツエネルギーと変分自由エネルギーの等価性の証明 - ベイズ力学の普遍性:神経生物学系を含む広範な自己組織化システムへの適用 ▶ ミクロからマクロまでのスケールを横断する理論フレームワーク - 経験的データからの生成モデルの体系的な同定手法の確立 ▶ 逆問題解決のための新しいアプローチの提供 - 理論と実験の橋渡し:予測可能な仮説の生成と検証サイクルの確立 ▶ 28

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将来の研究方向と展望: in vivo脳活動データへの適用:複雑な認知機能の解明に向けて ▶ 大規模脳活動データからの生成モデル抽出と行動予測 - 普遍的機械の進化的出現の理解: ▶ 生命の起源と知能の進化に関する新しい理論的洞察の可能性 - 人工知能への応用: ▶ 生物学的に妥当な学習アルゴリズムの開発 - 環境適応型AIシステムの設計原理としてのベイズ力学の活用 - 29