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お品書き • 将棋AI進歩の歴史 • 将棋AIによるプロ棋界の流行の変化 • 棋力向上のためのソフト活用術

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自己紹介 名前:杵渕 哲彦 – 大学院で将棋を題材にした研究 – 縁あって現職HEROZに – 現在はゲームAI系の業務に従事

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将棋との付き合い • 小学校低学年でルールを覚える • 高校で将棋部に入り、将棋沼に落ちる • 将棋で研究したいがために東京に • 有段者いっぱいな会社に入る

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将棋AI進歩の歴史 ~「ルール通りに指す」から「名人に勝つ」まで ~

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アプローチの変遷 • 1975年~2000年代前半 – 人から知識を教えられる • 2000年代中盤~2010年代前半 – 人の真似をする • 2010年代中盤~ – 自ら学ぶ

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人から知識を教えられる時代 • 代表的な出来事 – 初の対局プログラム(1975年) – コンピュータ将棋選手権の開催(1990年) – 最長手数1525手詰めの詰将棋「ミクロコスモ ス」がプログラムによって解かれる(1997年) – コンピュータとの公開対局禁止令(2005年)

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ミクロコスモス http://www005.upp.so-net.ne.jp/tsumepara/contents/4appre/mc/microc.htm

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人から知識を教えられる時代 • 棋力:アマ五~六段 • 技術面 – 局面の表し方と評価方法は人間が決定 (ex. 金が7八にいる場合は100点) – ヒューリスティックによる読みの効率化 (ex. 良さそうな手は深く、悪そうな手は浅く)

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人の真似をする時代 • 代表的な出来事 – Bonanzaの登場(2005年) – 渡辺竜王Bonanza戦(2007年) – Bonanzaのソースコードが公開(2009年) – あから2010が清水女流王位に勝利(2011年) – 電王戦開催(2012年) – ponanzaが現役プロ棋士に初めて勝利(2013年)

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人の真似をする時代 • 棋力:トッププロを上回る程度 • 技術面 – 局面の表し方が3駒関係 – 局面の評価方法は人間の棋譜から学習 – 複数マシンの活用(クラスタと合議制)

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稲庭将棋

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自ら学ぶ時代 • 代表的な出来事 – NDFによる強化学習の成功(2013年) – Ponanzaが現役の名人に初めて勝利(2017年) – AlphaZeroの登場(2017年)

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自ら学ぶ時代 • 棋力:トッププロをはるかに超える • 技術面 – 局面の評価方法は自身が読んだ結果から学習 – NNによる非線形な評価関数

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これから • 自ら学ぶ時代は続く – 特にNNの評価関数はまだ発展途上 • 個人的には… そろそろ振り飛車の良さを理解して欲しい

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将棋AIによる プロ棋界の流行の変化

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最近の将棋の 何でもあり感は異常

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その影に将棋AIあり 西尾六段が挙げる将棋AIから学ぶ理由 1. 実力の高さ – 自分達より強いという保証された実力 2. 幅広い指し手 – 強化学習による常識にとらわれない指し手 3. 豊富な情報量 – 評価値や読み筋が記載された大量の棋譜

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矢倉で見る流行の変化 • 矢倉 – 相居飛車の一大ジャンル – お互い堅く囲って先手が攻め後手が受けるの が基本的な展開 – 2010年頃は4六銀3七桂型が主流で先手勝率 が高い (2011,12の名人戦13局中6局登場 先手の5勝)

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矢倉で見る流行の変化 • 矢倉

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矢倉にまつわる新手新構想 • GPS新手 – 初めてA級棋士に勝った際の新手 • Ponanza新手 – 名人戦で登場 4六銀3七桂型下火の始まり • 左美濃急戦 – 後手から動ける有力な急戦 減少傾向加速 • 雁木戦法 – 矢倉は終わりました

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GPS新手 ・代表局 第2回電王戦第5局 三浦GPS戦

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GPS新手の影響 • A級順位戦(-戦)でも指されるなど、 将棋AIの手をトップ棋士が使う流れに • これまでの常識ではありえなかった、 △7五歩▲同歩△8四銀という筋が 認められる

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ponanza新手 ・代表局 第71期名人戦第5局 羽生森内戦

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ponanza新手の影響 • 矢倉の主流だった4六銀3七桂戦法の形 勢判断に大きな影響 • 4六銀3七桂戦法そのものを再検証する 動きが生まれ、さらに追い打ちをかける 塚田流の誕生へ

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左美濃急戦 ・代表局 第1期叡王戦 森内阿部光戦

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左美濃急戦の影響 • 左美濃 + 6三銀7三桂型で△6五歩の仕掛 けの優秀性が認められる • 左美濃急戦対策に対して旧来の急戦が見 直される • がっぷり四つの相矢倉がほぼ姿を消す

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雁木戦法 ・代表局 第48期新人王戦 増田近藤誠戦

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雁木戦法の影響 • ツノ銀、腰掛け銀、早繰り銀、右玉など 様々な組み合わせが試されている • 様々な戦型で雁木囲いの構えが選択肢の 一つとして用いられる

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一昔前の角換わり ・先手の攻めを 後手が受ける ・繰り広げられる パス合戦

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最近の角換わり ・4八金2九飛型 ・必ずしも玉が 入城しない ・桂馬をすぐ跳ねる

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最新の角換わり ・代表局 第48期新人王戦 増田近藤誠戦 ・最新の形に、パス が有効であるとい う概念が融合

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まとめ プロの将棋AIによる影響の受け止め方は 1. まず真似る 2. 手筋や考え方のレベルに抽象化する 3. 既存の概念と組み合わせる 自由で多様な将棋が生まれる

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棋力向上のためのソフト活用術

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強く…なりたい

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ソフトを使うとしたら • 対局相手 利点:いつでも気楽に対局できる 欠点:対人戦の代わりには必ずしもならない • 検討相手 利点:自分より強い人?の意見が聞ける 欠点:人間的な価値観で表現してくれない 今日はこっちの話

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プロ棋士の場合 千田翔太六段 – コンピュータ将棋活用のパイオニア – 順位戦B2 竜王戦4組 タイトル挑戦1回 – ソフトから学ぶ方法を文章に してくれている

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千田翔太六段の方法 1. 棋譜解析で評価値の推移を確認 2. 評価値の下がった箇所をミスと判断 3. 評価値と読みを手掛かりに、コンピュー タに近づける形で感覚を修正

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評価値の推移 将棋ウォーズの 棋神解析 ShogiGUIの 評価値グラフ

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感覚の修正方法 最善手と自分の手を比較して… • 理由が推測できる場合 – 判断項目の価値を調整 – 新たな判断項目の追加 • 理由がすぐには推測できない場合 – その局面から何局も指す – 分岐する局面の評価値を見て傾向を掴む

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この局面でどう感覚修正したか

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今回の修正項目 • 判断項目の価値の調整 – 後手を引いて相手の馬の働きが良くなる展開 の価値を下げる – 持ち駒の金を受けに使う展開の価値を上げる – 攻め駒が不足していない局面での金の持ち駒 の価値を下げる

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• 参考文献 – 西尾 明:コンピュータは将棋をどう変えたか? マイナビ出版(2018) – 瀧澤武信:コンピュータ将棋の最近の動向 情報処理,Vol.51,No.8,pp.991-1000 (2010) – 千田翔太:プロ棋士から見たコンピュータ将棋の活用 情報処理,Vol.59,No.2,pp.157-160 (2018)