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1 27 平均場近似の話 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 渡辺宙志 2022年8月24日 研究室ミーティング
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2 27 多体の相互作用を含む系を一体と場に分けて議論する近似手法 かなり荒っぽい近似だが、多くの場合良い結果を与える 物理現象の理解にも役に立つ 本発表の目的 平均場近似とは 平均場近似とはどういうものかを知る 平均場近似の実例を紹介する
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3 27 液滴の時間発展を論じた現象論 Lifshitz-Slyozov, Wagnerによって構築 過飽和水蒸気 液滴形成 液滴成長 液滴が成長するほど、周囲の気相を「食べて」いく 時間がたつにつれて圧力が下がる L. Lifshitz and V. Slyozov, J. Phys. Chem. Solids 19, 35 (1961) C. Wagner, Z. Elektrochem. 65, 581 (1961)
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4 27 LSW理論のキモ:二種類の極限 拡散律速 液滴が周りの原子を食べるのが早すぎて 気相の供給が追いつかない 反応律速 まわりに原子は十分にあるのだが、 液滴表面でくっついたり離れたりする 速度が遅くて渋滞を起こす
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5 27 拡散律速→ 1/3則 臨界半径 圧力 𝑅𝑐 ∼ 𝑡 1 3 Δ𝑃 ∼ 𝑡 1 3 反応律速→1/2則 臨界半径 圧力 𝑅𝑐 ∼ 𝑡 1 2 Δ𝑃 ∼ 𝑡 1 2
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6 27 液滴 液滴は好きに成長できる (周りが希薄な気体だから) 液滴同士の相互作用はほぼ無視できる (気体なので拡散で伝わる) 気泡 気泡は成長するのに仕事が必要 (周りが液体だから) 気泡同士の相互作用は極めて強い (液体なので音速で伝わる) 気泡と液滴で同じ理論が適用できるか非自明 スパコンで力任せに確認しよう
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7 27 液相に平衡化 断熱膨張させる (一辺 2.5%程度) 泡がたくさん出る 大きい泡がより大きく、 小さい泡がより小さくなる やがて単一気泡へ収束 H. Watanabe, et al. : J. Chem. Phys. 141, 234703 (2014)
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8 27 気泡体積 体積変化率 収縮 膨張 気泡成長率が理論曲線(実線)とよく一致 ※ 気泡成長率の関数形を直接観測したのはこれが初めて
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9 27 低温領域 (1/2則) 高温領域 (1/3則) 高温と低温で系の振る舞いが変わる(クロスオーバー) LSW理論の非自明な予想の一つを検証
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10 27 気泡生成系はLSW理論で説明できないはず 理論とかなりずれるであろう 予想 気泡生成系の結果がLSW理論で極めてよく説明できた 結果 LSW理論の本質は平均場近似 →気泡生成系は平均場近似でよく説明できる →なぜ?
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11 27 • 各サイトにスピン𝜎𝑖 がいる • スピンは+1か-1の値を取る • 二つのスピンの間をボンドと呼ぶ • ボンドの両端のスピンをが同じ値なら-J、異なるならJのエ ネルギーを持つ • 全てのボンドについてのエネルギーの和を全系のエネル ギーとする • エネルギーを𝐸持つ状態の出現確率がボルツマン重み exp(−𝛽𝐸)に比例する 𝐻 = −𝐽 𝑖,𝑗 𝜎𝑖 𝜎𝑗 ボルツマン定数 𝛽 = 1/𝑘𝐵 𝑇 逆温度 𝑘𝐵
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12 27 低温 高温 スピンがそろった状態 出現確率は高いが、総数が少ない →エネルギー重視 →低温で支配的 スピンがバラバラの状態 出現確率は低いが、総数が多い →エントロピー重視 →高温で支配的
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13 27 |𝑚| 𝑇 相転移点 𝑚 = 1 𝑁 𝑖 𝜎𝑖 磁化の期待値がある点(相転移点)で有限の値(強磁性相)から ゼロ(常磁性相)に変化する このふるまいを調べるために、磁化の期待値を計算したい 自発磁化 常磁性相 強磁性相
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14 27 𝑚 の厳密な計算 1次元 2次元 Ernst Ising (1924) Lars Onsager (1944) 3次元 4次元 未解決 平均場近似による臨界指数が厳密に正しくなる
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15 27 (1) あるスピンから見て周りのスピンはローカルな磁場を作る (2) ローカルな磁場を感じてスピンがひっくり返る (3) ひっくり返った影響が周りのスピンに伝播する = (4) 影響された周りのスピンがひっくり返る (5) 最初のスピンが感じるローカルな磁場が変化する 自分の起こした変化が、まわりまわって帰ってくる効果が問題
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16 27 我々が知りたいのは磁化の期待値 𝑚 = 𝑚 磁化の期待値 𝑚が既に求まっているとする 注目するスピンを、平均的な磁化 𝑚で置き換える 〰 注目するスピンは、周りのスピンが作る平均的な磁場 4 𝑚を感じる
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17 27 𝐻 = −𝐽 𝑖,𝑗 𝜎𝑖 𝜎𝑗 𝐻 = −4 𝑚𝐽𝜎 近似されたハミルトニアン(一体) もともとのハミルトニアン(多体) 平均場近似された分配関数 𝑍 = 𝜎 exp −𝛽𝐻 = exp −4𝐾 𝑚 + exp 4𝐾 𝑚
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18 27 磁化の期待値 𝑚 = 𝑍−1 𝜎 𝜎 exp −𝛽𝐻 = exp −4𝐾 𝑚 − exp 4𝐾 𝑚 exp −4𝐾 𝑚 + exp 4𝐾 𝑚 = tanh(4𝐾 𝑚) 磁化の期待値が、磁化の期待値の関数で書けている 𝑚 = tanh(4𝐾 𝑚) 自己無撞着(self-consistent)方程式
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19 27 〰 平均的な磁化がわかっているものとして、まわりを平均的な磁化で置き換える 平均的な磁場下で、スピンの期待値を求める 𝑚 もとめたスピンの期待値が、平均的な磁化に一致することを要請する(自己無撞着)
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20 27 𝑚 = tanh(4𝐾 𝑚) 4𝐾 < 1 4𝐾 > 1 𝑚 tanh(4𝐾 𝑚) (高温) (低温) 𝑚 = 0 の解しかない の解がある 𝑚 ≠ 0 →常磁性相 →強磁性相
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21 27 有限温度相転移の存在を予言できる 一次元でも有限温度相転移があると予言する スピン配位数を𝑧として、相転移点を𝐾𝑐 = 1/𝑧と 予言する(相互作用するスピンが多いほど相転移 が高温になる) 臨界点の厳密解 𝐾𝑐 = log 1 + 2 2 ∼ 0.44 臨界点の近似解 𝐾𝑐 = 1 4 = 0.25 臨界指数が求められる(4次元以上で厳密)
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22 27 化学ポテンシャル的には液体になりたい(体積に比例) 液滴になると界面張力分だけ損する(面積に比例) 小さな液滴は蒸発しやすい 大きな液滴は成長しやすい 液滴のまわりの蒸気圧は一様ではない 液滴が成長/蒸発→蒸気圧が変化→液滴に影響(ループ) 過飽和水蒸気 =本来なら液体が安定な条件で、まだ気体のままの状態 臨界サイズ
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23 27 液滴は「平均的な過飽和蒸気」と原子をやりとりする やり取りした結果は即時反映(一様性の仮定) 液滴間相互作用は無視する(一体問題に落とす) 注目する液滴 平均的な場
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24 27 時刻tにおいてn個の原子を含む液滴の数 𝑓(𝑛, 𝑡) 臨界サイズのベキ依存性を仮定 𝑛𝑐 ∼ 𝑡𝛼 分布関数のスケーリングを仮定 𝑓 𝑛, 𝑡 ∼ 𝑡𝛽 ሚ 𝑓 𝑛/𝑛𝑐 液滴の数の時間発展 𝑆 = ∫ 𝑓 𝑛, 𝑡 𝑑𝑛 ∼ 𝑡−𝛼 𝑁 = ∫ 𝑛𝑓 𝑛, 𝑡 𝑑𝑛 原子数保存 𝛽 = −2𝛼
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25 27 • 平均場近似により多体問題を一体問題に落とす • 系の一様性を仮定 • 液滴間相互作用を無視 • 臨界サイズが時間にベキ的に依存することを仮定 • 臨界サイズによるスケーリングを仮定 仮定 帰結 • 系がただ一つの指数により支配される • その指数はダイナミクスで決まる • 1/3則、1/2則
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26 27 気泡生成 液滴生成 液滴生成: 液滴間相互作用が非常に弱い 気泡生成: 気泡間相互作用が非常に強い 液滴・気泡成長速度 << 系の圧力緩和速度 相互作用が非常に強い→相互作用の時間が早い →一瞬で圧力が緩和する→平均場近似が正当化される
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27 27 • 多体問題が難しいのは「自分の変化」がまわり まわってまた自分に返ってくる効果があるから • 平均場近似とは、多体効果を「注目する一体」 と「まわりの環境」に分けて一体問題に落とす 近似手法 • 平均場近似は極めて粗い近似であるが、現象の 本質を捉え、かつ非自明な予言をする • 平均場近似が極めて良い結果を与えることがあ る(高次元の臨界指数や気泡生成)