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1 27 気液界面と自由エネルギー 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 渡辺
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2 27 相転移とは 温度などを変えた時、ミクロな性質は変わらないまま、 マクロな性質が大きく変化すること 融解:氷→水 沸騰:水→水蒸気 どちらも、ある温度を境目に性質が大きく変化 ただし、ミクロには水分子は何も変化していない 融点、沸点など、相転移を起こす点をまとめて 臨界点と呼ぶ
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3 27 相転移とは 融解はなんとなくわかる 氷:くっついて動かない 水:自由に動く 沸騰とはなんだろう? 水:自由に動く(高密度) 水蒸気:自由に動く(低密度)
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4 27 相転移とは 沸騰は、非常に身近な相転移現象であり、 工学応用上も重要 しかし、ミクロにどのようなことが 起きているかよくわかっていない ミクロからマクロな振る舞いを知りたい 統計力学
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5 27 本質を抜き出す 原子が近づくと電子が相互作用をする この時の電子状態まで考えるのが第一原理計算 電子密度 原子の距離から力を与えるポテンシャル関数を 決めて計算するのが古典分子動力学法
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6 27 本質を抜き出す 引力 ほぼ相互作用なし 斥力 距離 力 数値計算で良く使われるLennard-Jonesポテンシャル 近距離:斥力 中距離:引力 遠距離:相互作用なし
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7 27 本質を抜き出す もっと単純化(格子ガス模型) ひとつのセルに 2つの原子は入れない 近距離で斥力 中距離で引力 遠距離で 相互作用無し -ε 隣り合うとエネルギーが εだけ下がる 隣接していないと 相互作用なし
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8 27 本質を抜き出す 原子がくっついている状態を液相、離れている状態 を気相と呼ぶ 気相 液相 LxLマスの中に2個だけ原子が入っている状態を考える
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9 27 ボルツマン重み ある状態のエネルギーをE、温度をTとすると、 その状態の出現確率は以下に比例する 𝑘𝐵 exp(−𝛽𝐸) ボルツマン定数 -ε exp(𝛽𝜖) 𝛽 = 1/𝑘𝐵 𝑇 逆温度 液相(左)が出現する確率は気相(右)が出現する確率の 倍 液相の出現確率の方が大きい
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10 27 状態数 気相 液相 通り 通り 液相が出現する確率 = 2𝑉𝑒𝐾 2𝑉𝑒𝐾 + 𝑉(𝑉 − 5)/2 𝐾 = 𝛽𝜖 周期境界条件 V=L x Lの格子を考える 2𝑉 𝑉 𝑉 − 1 2 − 2𝑉
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11 27 状態数 状態の数は気相の方が多い 気相 液相 2𝑉 𝑉 𝑉 − 1 2 − 2𝑉 状態数 L=3の時 18 18 L=10の時 200 4750 L=20の時 800 79000
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12 27 重み vs. 状態数 液相の出現確率 温度が低い 4x4マスに2原子の場合 温度が高い 2𝑉𝑒𝐾 2𝑉𝑒𝐾 + 𝑉(𝑉 − 5)/2 𝐾
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13 27 重み vs. 状態数 20x20マスに2原子の場合 液相 気相 サイズが大きくなるほど、原子が増えるほど、「確率 の入れ替わり」が急峻に→相転移 温度が低い 温度が高い 𝐾 液相の出現確率
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14 27 何が起きた? 気相 液相 一つ一つの出現確率は高いが、 総数が少ない →エネルギー重視 一つ一つの出現確率は低いが、 総数が多い →エントロピー重視
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15 27 自由エネルギー 𝐹 = 𝑈 − 𝑇𝑆 ヘルムホルツの自由エネルギー エネルギーとエントロピーをまとめて扱う 自然は自由エネルギーを最小にする状態を好む 低温:エネルギー重視(秩序相) 高温:エントロピー重視(無秩序相)
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16 27 自由エネルギー 系は自由エネルギーを最小にする状態を好む 低密度相(気相)と高密度相(液相)が存在する 「自由エネルギーを最小にする密度」が存在する 自由エネルギーが密度の関数で書けるはず
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17 27 自由エネルギー 自由エネルギー 密度 低温の時 液相(高密度相) 高温の時 気相(低密度相) 自由エネルギー 密度
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18 27 自由エネルギー 自由エネルギーはこんな形になっていそう 𝐹 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 ※変数変換で奇数次を落としている b<0の時 密度 極小点は一つ 気相と液相の区別はなくなる b>0の時 極小点が2つ →気相と液相 (超臨界状態) 自由エネルギーの微分がゼロとなる点が平衡状態
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19 27 平衡状態とは 系の示強変数が空間的に一様で、時間的に変化しない 状態を平衡状態と呼ぶ 気液共存状態 温度、圧力、化学ポテンシャルは 空間的に一様だが、密度が非一様 空間的に非一様な密度を自由エネルギーで論じたい →局所自由エネルギーの導入
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20 27 局所自由エネルギー 自由エネルギーが局所自由エネルギーの積分で書けるとする 𝐹 𝑓 = ∫ 𝑓 𝑥 𝑑𝑥 局所自由エネルギーが、局所密度の関数になっていると仮定 𝑓 𝜌(𝑥) 密度の全系にわたる積分が粒子数 𝑁 = න 0 𝐿 𝜌𝑑𝑥
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21 27 局所自由エネルギー 𝑓 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 局所自由エネルギーもこう書けてると仮定 𝐹 𝜌 を極小化する密度分布はステップ関数になる 𝑥 𝜌 𝜌 𝑓
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22 27 局所自由エネルギー 𝑓 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 + 𝑐2 𝑑𝜌 𝑑𝑥 2 𝑥 𝜌 密度が急激に変わるのは 非物理的 密度変化に対するペナルティ項を追加
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23 27 スカラー場の理論 最終的に自由エネルギーは以下のようになった 𝐹 𝜌 = න 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 + 𝑐2 𝑑𝜌 𝑑𝑥 2 𝑑𝑥 一般に、自由エネルギー密度を局所秩序変数φの関数として 𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2 𝑑𝜙 𝑑𝑥 2 𝑑𝑥 と表すことが多い。これをφ4 (ファイフォー)模型と呼ぶ 自由エネルギーの変分がゼロとなる点が平衡状態
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24 27 スカラー場の理論 𝛿𝐹 = 4𝑎𝜙3𝛿𝜙 − 2𝑏𝜙𝛿𝜙 + 2𝑐2𝜙′𝛿𝜙′ 𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2 𝑑𝜙 𝑑𝑥 2 𝑑𝑥 変分をとる 部分積分 𝛿𝐹 = 4𝑎𝜙3𝛿𝜙 − 2𝑏𝜙𝛿𝜙 − 2𝑐2𝜙′′𝛿𝜙 = 4𝑎𝜙3 − 2𝑏𝜙 − 2𝑐2𝜙′′ 𝛿𝜙 =0
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25 27 スカラー場の理論 2𝑐2 𝑑2𝜙 𝑑𝑥 = 4𝑎𝜙3 − 2𝑏𝜙 a = 1/2, b = 2の時 𝑐2 𝑑2𝜙 𝑑𝑥 = 𝜙3 − 2𝜙 𝜙 𝑥 = tanh(𝑐(𝑥 − 𝑥𝑐 )) この常微分方程式の解は これを「キンク解」と呼ぶ ※変数変換で係数を落とせる 𝑁 = න 0 𝐿 𝜙𝑑𝑥 𝑥𝑐 は以下の条件から決まる
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26 27 実際の界面の密度プロファイル 𝜌 𝑧 = tanh 𝑥 − 𝑥𝑐 𝜆 𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2 𝑑𝜙 𝑑𝑥 2 𝑑𝑥 x 密度 𝜆 = 1/𝑐 𝜆 c:界面張力の強さ λ:界面の幅の長さ
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27 27 まとめ 相転移とは何か? エネルギーを重視する相(秩序相)と、エントロピー を重視する相(無秩序相)の競合 自由エネルギーとは何か? それが極小となる点において平衡状態が実現する もの 界面がtanhになるのはなぜか? 2つの極小値を持ち、かつ密度勾配にペナルティ がある局所自由エネルギーの変分を取って出てく る微分方程式の解だから