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Whyから始めよう! スクラムチームが力強く前に進むための 「なぜやるのか」を考える Satoshi Harada 2022

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自己紹介 Satoshi Harada Twitter : @harada_psj ● Interest ○ Agile ○ Scrum ● Role ○ Scrum Master ○ Software Developer ○ Software Engineering Management ● Scrum Alliance Certified ○ Scrum Master ○ Product Owner

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チームが走り始めるときに何から始める? ● プロダクトバックログを作る? ● エレベーターピッチを作る? ● インセプションデッキを作る? ● とりあえず開発環境を作ってみる? ● えーい!そんな暇はない!開発着手だ! 忙しい・時間がない...しかし、チームの目線を合わせて力を合わせたい... チームが走り始める時に、チームはなぜそれをやるのか?(Why)を問うことから やってみるのはどうだろう。

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Why(なぜやるのか)とは?

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サイモン・シネックのゴールデンサークル ● TEDの人気プレゼンテーション・優れたリーダー はどうやって行動を促すかでサイモン・シネック が解説した図 ● 人が真に突き動かされるのはWhat(何をやるの か)やHow(どのようにやるのか)ではなく、 Why(なぜやるのか)からであることを説いた サイモン・シネックはプロダクト・発明・社会活動といった 分野を例に、成し遂げること・人々の共感を生むためには Whyが重要であることを説いた。 それに加えて、チームワークやプロダクト開発に おいても同様にWhyが重要だと私は考えている。 Why How What

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人がWhyに突き動かされる理由 ● 大脳辺縁系は動物的な感情で動く領域 ● この領域は言葉ではなく、感情で判断して行動 に移す ○ 理論的には理解できるんだけど感情的には賛同できない …というシーンは、この大脳辺縁系に繋がる感情的部分 で賛同できていない可能性がある “何をやるか(What)”や”どうやってやるか(How)”と いった言語的説明よりも、”なぜやるのか(Why)”と いう感情にアプローチする言葉の方が本能的行動(心 の芯から同意した行動)につながりやすいと言える。 image: https://www.kango-roo.com/ki/image_1970/ へんえんけい 大脳辺縁系 感情・本能などを司る 大脳新皮質 知覚・思考など司る 参考: https://hatchobori.jp/blog/5562

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プロダクト開発でWhyが重要な理由 Why(なぜやるのか)に裏打ちされた行動をチーム ができていると、個々のチームメンバーの方向性 (ベクトル)が一致して、チームとして見たときの 推進力が強くなる。 Why(なぜやるのか)に裏打ちされたプロダクト は、同じWhyを求めているユーザーに訴求できる。 1. まずは自分たちがWhyを訴求する 2. プロダクトにWhyをインストールする 3. Whyに賛同するユーザーに受け入れられる チーム チーム Why

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インセプションデッキとの比較 ● インセプションデッキにも我々はなぜここにいるのか?という問いかけがあり、 ここでWhyを考える機会がある ○ インセプションデッキを作る時間が取れそうであれば、インセプションデッキでよい ■ アジャイルサムライで紹介されたインセプションデッキの10の設問と課題 1. 我われはなぜここにいるのか? 2. エレベータピッチを作る 3. パッケージデザインを作る 4. やらないことリストを作る 5. 「ご近所さん」を探せ 6. 解決案を描く 7. 夜も眠れなくなるような問題は何だろう? 8. 期間を見極める 9. 何を諦めるのかをはっきりさせる 10. 何がどれだけ必要なのか ○ しかし、インセプションデッキのフルセットを丹念にやっている時間が取れないというシーンは これまでよく見てきた まずはWhy(我々はなぜそれをやるのか)から始めてみることを提案したい

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Why(なぜやるのか)の例 ● Apple ● ライト兄弟 ● キング師 ● 勤怠管理システムを提供する私たちのチームのWhy ※Apple・ライト兄弟・キング師の例は、TED「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」での サイモン・シネックの解釈をもとに構成している※

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AppleのWhy ※サイモン・シネックの”優れたリーダーはどうやって行動を促すか”をもとに構成※ ● Why ○ 我々のすることはすべて、世界を変えるという信念で行っていま す。違う考え方に価値があると信じています ● How ○ 私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使え て親しみやすい製品です ● What ○ こうして素晴らしいコンピュータができあがりました Why→How→Whatの順に訴求することで、Whyの信念や 価値観が刺さった人にHow・Whatが刺さる。 逆にWhatから訴求しようとしても、その製品の信念や価値観 が伝わらないため、「この製品は自分がぜひ買うべき」と いう本能的・心の芯から同意した行動には繋がりにくい。 Why How What

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ライト兄弟のWhy ※サイモン・シネックの”優れたリーダーはどうやって行動を促すか”をもとに構成※ ● Why ○ 飛行機が実現したら世界が変わると信じていた ○ 富と名声を得ることが目的ではない ● How ○ 1度の飛行試験で最低5セットは部品を持っていく ○ 費用はライト兄弟の持ち出し ● What ○ 飛行機で空を飛ぶことを目指す 潤沢な資金を持ったサミュエル・ラングレーと自己資金 持ち出しのライト兄弟で、飛行機で空を飛ぶことを目指 していた(What: 何をやるか)のは同じだった。しかし なぜ空を飛びたいのか(Why)は両者では異なり、信念 によって突き動かされた側が成功までたどり着いた。 Why How What 参考: https://ja.wikipedia.org/?curid=294736 https://ja.wikipedia.org/?curid=36412

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キング師のWhy ※サイモン・シネックの”優れたリーダーはどうやって行動を促すか”をもとに構成※ ● Why ○ すべての人間は平等に作られているという信念 ● How ○ ワシントンDCでの集会と演説 ● What ○ あらゆる民族、あらゆる出身のすべての人々に自由と民主主義をもたらす ワシントンDCの集会に集まったのは約25万人。そこに集まったのは有色人 種だけでなく白人も参加しており、あらゆる社会階層の人々が平等な公民権 と保護を求めた。 この集会に参加した人々はキング師や他の誰かのために集まったのではな く、自分が信じることのために集まった。 そのようなWhyの信念に共感する人々に向けて、キング師は”I Have a Dream”を演説し、1964年公民権法(公共の場における人種分離禁止、公立 学校・施設での人種統合、人種や民族による雇用差別を違法とする)の制定 に大きく影響を与えた。 Why How What 参考: https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2368/

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勤怠管理システムを提供する私たちのチームのWhy ● Why ○ すべての働く人の心と体を守る働き方を支える ○ 最も愛される勤怠管理システムになる ● How ○ 様々な働き方に対応できるように機能を充実させる ○ いつでも・どこからでも安心して勤怠打刻できるようにする ● What ○ 労基法改正に対応する ○ XXX勤務者の利便性を向上させる ○ XXXから打刻できるようにする など 最も売れる勤怠管理システムになることが我々の信念ではない。 勤怠管理システムによる勤怠打刻や勤怠管理を通して、働く人の 心と体を守る働き方を支えることを信念・ミッションとしている。 その信念が市場に受け入れられて、最も愛される勤怠管理システム になることを目標にしてチームは活動している。 Why How What

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Whyをどうやって決めるか

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Whyを決めるタイミング ● チーム形成時 ● チームが既に回っている状態(つまり途中) チーム形成時がベストではあるが、どちらでも可 能。そしてタイミングよりもチームの状況が重要。 タックマンモデルでいうところの混乱期→統一期→ 機能期というチームが成熟していく過程で、特に混 乱期と統一期においてチームメンバーが同じ方向を 見るためにWhyが役立つ。 形 成 期 混 乱 期 統 一 期 機 能 期 チームの規範を 模索、ぶつかり 合う チームの規範が できて、同じ方 向を見始める 同じ方向を見て 機動的に協力し 合う Why

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Whyを誰が決めるか ● チームメンバー → ◎ ● チームリーダー → ○ ● 上司やマネージャー → △ チームメンバーの中から意欲のある人を見つけて、Whyのリーダーになって もらうのがよい。(役職のリーダーとWhyのリーダーが別でもよい) WhyのリーダーはWhyの策定に意欲があることよりも、Whyに注入する信念に 意欲がありそうな人が適任。そして、Whyに情熱をかけられる・わくわくできる とベスト。

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どの範囲まで巻き込むか Whyは一部の限られたメンバーで決めて展開するも のでは無い。しかし、全員の完全同意を目指すのも 難しいケースはある。 そのため、Whyを検討する過程には全員参加しても らい、Whyの最終決定はリーダーなどの代表者が行 うのが現実的。 そしてメンバー内でのWhyの腹落ちにはキャズムが あることは覚えておく。 image: https://media.mar-cari.jp/article/detail/195

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Whyの決め方:Whyに該当するチームの信念がまだ無い場合 Why/How/Whatのうち、How(手段)やWhat(何をするか)から考え始めるとWhyに 辿り着けない。 前提や制限なしでWhyを出し合い、MTGで発散・収束させて共通の信念を探っていく。 ex. ● 人生の中で、仕事という大きな部分を投じてでも成し遂げたいことは何か ● そして、なぜそれを自分たちがすべきなのか ● 綺麗ごとでもよい。メンバーが賛同できるならOK ● 個人のフォーカスを集めながら、チームのフォーカスに昇華させていく Whyリーダーのファシリテーション力が試される。 粘り強く・しかし追い込み過ぎず、情熱とわくわくを燃やして取り組む。

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Whyの決め方:Whyに該当するチームの信念が既にある場合 ● まだ使えるかチェック ● 今いるメンバーが賛同できるかどうか ● チーム内で再認識、再提示 ● Why/How/Whatで可視化 既にあるWhyがチームの現状やメンバーの信念から乖離していそうな場合は、 Whyを作り直すところからやった方がスムーズかもしれない。

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Why/How/Whatで可視化 サイモン・シネックが示したゴールデンサークル は、Whyを伝える強力なツール。 目の前の仕事やタスクで、How(手段)や What(何をやるか)に目が行きがちなときに、 Why(なぜそれをやるのか、どのような市場インパ クトを目指しているのか)の視点を忘れないため に、Why/How/Whatでの可視化はぜひやっておきた い。 そして可視化するだけでなく、目に入る場所に掲示 したり、定期的に見返す場を設けたりするとよい。 Why How What

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Case Study 私たちのチームのWhyが決まるまで

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WhyとなるチームのVISION/MISSIONを考える ● 全員参加 ● 各自が考えるプロダクトの MISSIONを持ち寄る ○ 各自のMISSIONをわくわくするか どうかの視点で集約や投票をする ● 各自が考えるプロダクトのVISION を持ち寄る ○ 各自のVISIONをユーザーにファンに なってもらえるか、差別化になるか という視点で集約や投票をする ● リーダーがチームの VISION/MISSIONとして決定する

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Whyをゴールデンサークルで可視化 ● VISION/MISSIONを視覚的に思い出せるようにする ● VISION/MISSIONの実現が、チームが日々仕事をする理由(Why)となる Why How What ● Why ○ すべての働く人の心と体を守る働き方を支える ○ 最も愛される勤怠管理システムになる ● How ○ 様々な働き方に対応できるように機能を充実させる ○ いつでも・どこからでも安心して勤怠打刻できるようにする ● What ○ 労基法改正に対応する ○ XXX勤務者の利便性を向上させる ○ XXXから打刻できるようにする など

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Whyを伝え続ける

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まずは自分がWhyを信じて伝え続ける ● 信念を持って伝え続ける ○ 一回言っただけ、壁に掲示しただけ、では信念は伝わらない ○ Whyを作って満足してしまうのはもったいない。信念をもってまずは伝え続ける! ● 自分たちの今の仕事や活動は、Why(なぜやるのか)から来ているもの なのだということを伝え続ける ○ 「一度説明したのだからみんな覚えているだろう」と思うかもしれないが、目の前のタスク に意識を持っていかれて、Why(それをなぜやるのか)を忘れてしまうことは多い ○ What(何をやるか)やHow(どうやるか)が注目されやすいシーンでも、 Why(なぜやるんだっけ?)に目を向け、周囲にも伝え続けよう! ● WhyのリーダーがWhyの信念に熱をこめて、自らがまず行動する ○ やっていき・のっていきの精神で!

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チームメンバーの活動とWhyを紐づける ● すでにやっているHow(どのように実現していくか)や What(何をやっているか)に対して、最初はWhy(なぜやるのか)を 後から紐づけるのでもよい ● Whyがあるから、自分たちがやっている仕事のHowやWhatには意味が ある・価値があるのだと紐づけることで、Whyを自分ごと化していく ● リーダーがWhyを伝え続け、チームメンバーにWhyが浸透していくことで、 Whyを基点とした活動になっていく

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Whyにつながる行動にスポットライトを当てる ● Whyに紐づける形で、日々の仕事を称賛し合う ○ Whyを基準にした良い動機付け ○ 行動+Why=賞賛される!という体験 ● Whyのリーダーが積極的に紐付けをし、賞賛・公開していく ○ ピアボーナスの仕組みが既にあれば有効活用 ○ 無かったとしても、口頭での感謝・テキストでの感謝を積極的に行う ここも、Whyリーダーはやっていき・のっていきで!

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Case Study 私たちのチームでのWhyを伝え続ける活動

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定例のミーティングにWhyを組み込む ● チームが日々仕事をする理由(Why)を、毎週一回あるチーム定例で 伝え続ける ● 単に読み上げるだけでなく、今行なっている仕事がWhyにどのように 紐づいているのかも触れる ● 単純接触効果(繰り返し接触すると好感度や印象が高まる)と同じで、 繰り返し聞くと耳に落ち着いてくる WhyのリーダーはWhyの認知度を地道に上げる

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チームや個人の目標設定にWhyを組み込む ● 目標設定をWhyを起点に組み立てる ○ チームの目標設定はチームのWhyがベースとなる ○ チームのWhy/How/Whatに対して、個々のメンバーで何をやるか ■ 個々のメンバーがチームのWhyを信じてそれぞれのできることを行うことで、 ベクトルが合いチームとしてのベクトルが強くなる ○ ただし、Whyの達成度合いを測ったり、Whyをそのまま評価には使わないほうがよい ■ Whyは信念なので定量評価には適さない(信念の強さで評価するものではない) ■ Why→How→Whatまで分解して、Whatで定量評価する Whyの認知度がある程度上がっている状態で チームや個人の目標もWhyベースとする

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セイルボートでWhy実現への追い風や障害を理解する Whyから目指すべき方向性・追い風・障害を認識し チームでWhyを実現する方法を考える

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Whyを改善し続ける

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Whyは一回設定したら終わりではない ● プロダクトのステージや市場状況に応じて、Whyも変化する ● チームの習熟度(例:タックマンモデル)によっても、Whyの解像度は 変わってくる ○ つまり、Whyもアジャイルであり、柔軟で俊敏なものであるべき ○ しかし、コロコロ変えるとチームもプロダクトもユーザーも混乱してしまうので、 最低でも6ヶ月程度の周期で見直していくのが良さそう ○ だが、だからといって「変えないこと」は変えること以上にリスクなので、変えるべき ときは勇気を持って変えていく 自分たちと、プロダクト・ユーザーを熱狂させるWhyを探し続ける

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ゴールに辿り着いたら ゴール=プロダクトゴール ● Why(なぜやるのか)が実現し、それがチームだけでなく、プロダクトと ユーザーにも届けられて、価値を生み出したとき ○ WhyはチームだけのWhyではなくなっている ■ Whyはプロダクトにインストールされ、ユーザーはWhyのファンになってくれている ○ ファンを熱狂させ続けるWhyを探し続ける ■ ターゲットユーザーや市場によって、ファンを熱狂させ続けるWhyは変わり続ける Whyの探求も旅なんだ

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クロージング ● 人の心に響き人を突き動かすのは、How(どうやるのか)や What(何をやっているのか)ではない ● Why(なぜそれをやるのか)こそが真に人の心に響き、人を突き動かす ● Whyはチームを力強く前進させる信念となり、Whyがインストールされた プロダクトはWhyの信念に賛同するユーザーを熱狂させる あなたの所属するチームのWhy(なぜやるのか)は何ですか? もしまだWhyが無いなら、あなたがWhyのリーダーになってみませんか?