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機械学習のための 統計力学&解析力学入門 ver1.1 2017/11/16 Etsuji Nakai (@enakai00)

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統計力学の基礎

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熱力学系とは? ● 多数のミクロな物質が集まった観測対象物 ● ミクロな内部状態を無視して、マクロな状態のみを観測 ● ミクロな内部状態は時々刻々と変化する ● マクロな状態は一定と見なせる ○ 例:気体の圧力 ―― ミクロには分子が壁に衝突す る際の力で、瞬間ごとに値は異なる。マクロにはそ の平均値が観測される。

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熱力学系の例 ● 小正準集団(Microcanonical Emsemble) ○ 周囲とのエネルギーのやり取りがない孤立系 ○ ミクロな内部状態のエネルギーは一定に保たれる(エネルギー保存則) ● 正準集団(Canonical Emsemble) ○ 温度一定の巨大な「熱浴」と接した系 ○ 熱浴とのエネルギーのやりとりがあるため、系のエネルギーに小さなゆらぎが 生じる(「熱浴」+「系」の全エネルギーは一定)

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アンサンブルとは? ● 一定時間 T の間、ミクロな状態を微小な時間間隔 Δt で観測して集めた「ス ナップショット」の集合 ○ Δt → 0 の極限で、無限個のスナップショットが得られる ● ある物理量について、アンサンブル(に含まれる無限個の状態)に対する平 均値を計算することで、マクロな観測値が計算できる ○ 原理的には、アンサンブルの「統計分布」を知ることで、任意の物理量の観測値 が計算できることになる

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小正準集団の分布 ● 小正準集団では、アンサンブルに含まれるすべての状態は同じエネルギー E を持つ ○ エネルギー保存則より成り立つ ● 同じエネルギーの個々の状態は、すべて同じ頻度で出現する ○ 解析力学における「リウビルの定理」と「エルゴード仮説」によって成り立つ ⇒ 後ほど詳しく説明

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正準集団の分布 ● 正準集団では、系 A におけるエネルギー E の状態の出現確率は、次式で 与えられる(正準分布/ボルツマン分布) ○ k : ボルツマン定数 ○ T : 熱浴の温度 ※ 上記は、個々のミクロな状態の出現確率を表わすもので、同じエネルギーの  状態が複数ある場合は、それぞれが上記の確率で出現する

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正準集団の分布(詳細計算) ● 「系 A」+「熱浴 B」の全エネルギーを E とする ○ 系 A のエネルギーが E A の時、熱浴 B のエネルギーは E - E A ○ システム全体がとり得る状態数は (W A , W B は、特定のエネルギーに対応する A と B の状態数) ○ 系 A がエネルギー E A の特定の状態にある時、熱浴 B がとり得る状態数は ○ 従って、系 A がエネルギー E A の特定の状態にある確率(割合)は

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正準集団の分布(詳細計算) ● 熱浴の状態数は、熱浴のエネルギーに対して指数的に変化するので(証明 は略)、対数を取ると線形近似が可能 ○ 熱力学系のエントロピー S を次で定義して、   より、次の近似が成り立つ ○ ここで、次式の T は、熱浴の温度に一致する(証明は略)

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正準分布の応用例

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二次元イジングモデル ● 平面上の格子点に「スピン」が配置されている ● 個々のスピンは ↑(S=1)↓(S=-1)のどちらかの 状態を取る ● 隣あったスピンの間にエネルギーが生じる ○ 同じ向きなら -2J ○ 逆向きなら +2J ○ スピンの状態を S 1 =±1, S 2 = ±1 として、E = -2JS 1 S 2 ● 外部磁場 H をかけるとすべてのスピンに一様に E = -HS のエネルギーが加わる

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二次元イジングモデル ● あるスピン S に注目して、周りの4つのスピンの状態を S 1 〜S 4 とすると、そのスピン が担うエネルギーは(スピン間エネルギーは2個で分け合うとして)   ● この時、スピン S が上を向く確率は

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二次元イジングモデル ● 特に S 1 〜S 4 = +1, H = 0 の場合、スピンが上を向く確率は、温度 T の関数として次 のように変化する。 ○ 低温では、まわりのスピンと同じ向きになる確率が高い ○ 高温では、スピンの向きはランダムになる(上下が等確率で出現する)

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ギブスサンプリング ● 個々のスピンが前述の確率分布に従う時、平面上のスピン全体の同時確率分布を 知りたい ○ 全スピンの合計値のアンサンブル平均から、この物質の「磁化」が計算される ● 次の手続きで近似的なサンプリングを実施 a. 初期状態をランダムに決める b. 1つのスピンを選択して、前述の確率に従ってスピンの方向を決める c. この状態(すべてのスピンの状態)を1つのサンプルとして取得する d. b.〜c. の手続きをすべてのスピンについて何度も繰り返す

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ギブスサンプリングの実行例 ● サンプリングを長期間実施した後に、1つのサンプルを取得した結果 ○ 温度と外部磁場によって系の振る舞いが変化することが分かる 外部磁場がない場合 外部磁場がある場合

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ギブスサンプリングの実行例 ● 問題 ○ 鉄片に強い磁場をかけた状態で、熱した後に冷やすと磁石になります。 ○ これを磁場のない状態で熱した後に冷やすと磁石でなくなります。 ○ これらの現象を前ページのサンプリング結果を用いて説明しなさい。

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機械学習への応用例

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PRML 8.3.3 Illustration: Image de-noising

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PRML 8.3.3 Illustration: Image de-noising http://enakai00.hatenablog.com/entry/2017/11/14/075328

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解析力学とエネルギー保存則

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ニュートンの運動方程式 ● 例:重力 mg を受ける物体の放物運動

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ニュートンの運動方程式の課題 ● 直交座標系以外では表式が複雑になる ○ 前ページの例を極座標で表示した場合(見かけがまったく異なる) ● 2階の微分方程式なので時間発展を直感的に把握しにくい ○ ある時刻の座標 x を特定しても、次の瞬間の座標は一意に決まらない(座標の 1階微分、すなわち、その瞬間の速度にも結果が依存する)

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ハミルトンの運動方程式 ● 変数を2倍に増やして、同値な1階の微分方程式に変形する ○ 下記のように置くと、上記は放物運動のニュートン方程式と等価になる ● これにより、系の時間発展が1階の微分方程式で記述される ⇒ 相空間 (p, q) の1点を決めると次の瞬間の座標が一意に決定される ← ハミルトニアン

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正準変換 ● 母関数 W(p, Q) を用いて変数変換すると方程式の形が不変に保たれる ○ 下記の関係を用いて (p, q) ⇔ (P, Q) の変換を行う   ○ この時、新しい変数 (P, Q) は次の関係を満たす(証明は略)

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正準変換 ● 例えば、母関数 を用いて、次の変数変換を行うと、極座標が得られる。

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● 具体的に計算すると・・・   ○ この時、次の方程式は4ページ前の極座標での運動方程式に一致する 正準変換

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● 直交座標系でのハミルトニアンは、対象とする系の全エネルギー(運動エネルギー +位置エネルギー)に一致する ● ハミルトンの運動方程式より、ハミルトニアン H の値は( H が陽に時刻 t に依存して いなければ)変化しないことが証明できる ⇒ 一般に、ハミルトニアン H の値をその系の「エネルギー」と定義することで、   エネルギー保存則が普遍的に成立する。 エネルギー保存則

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リウビルの定理とエルゴード仮説

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リウビルの定理 ● 相空間 (p, q) の連結部分の各点が運動方程式に従って移動する時、連結部分の体 積は不変に保たれる(リウビルの定理) ● 一次元 (p, q) の場合で証明する ○ 密度 ρ(p, q) で相空間に分布する点の集合の運動は、連続方程式を満たす ○ これを用いると密度関数の時間発展は次式になる ○ ハミルトンの運動方程式を代入すると、上記は 0 になる。つまり、相空間に分布する点は 密度を一定に保って運動するので、体積が増減することはない

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エルゴード仮説 ● リウビルの定理より、相空間上の(同一のエネルギーを持つ)すべての点は「平等」 と言える。つまり、特別に点があつまりやすい場所というものはなく、熱力学系にお いて、同一エネルギーのすべての点(状態)が均等に実現すると期待される ● ただし、これが成り立つには、相空間上に「到達不可能な点」が存在しないことが前 提となる。熱力学系では、(十分に乱雑な)任意の初期状態から、すべての点が到達 可能であることを暗黙の前提とする ⇒ エルゴード仮説

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Thank You.