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株式会社LegalOn Technologies 浅野 卓也 プロダクトの価値を高めるためにコーディング以外にできること ~共通言語でつくる異職種コミュニケーション~

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自己紹介 2 株式会社LegalOn Technologies LegalOn Cloud リードエンジニア(検索・推薦) 浅野 卓也 2011年3月 古河電工関連会社(システムエンジニア) 2015年4月 はてな(Webアプリケーションエンジニア) 2019年8月 メルカリ(Software Engineer, Search) 2023年2月 LegalOn Technologies(Staff Software Engineer) 日本の検索技術コミュニティ search-tech-jp を運営

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3 法とテクノロジーの力で、安心して前進できる社会を創る。 最新のテクノロジーと法務の知見を組み合わせた製品を開発・提供 グローバルで 従業員数600名※1 グローバルでの サービス導入社数 6500社以上※2 開発専任の 弁護士が在籍 シリーズD 累計調達額 179億円 株式会社LegalOn Technologiesについて Purpose ※1 2025年1月時点 ※2 2024年12月時点

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4 LegalOn Technologies のプロダクト 法務・契約支援 経営・コーポレート支援

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5 今回は「LegalOn Cloud」の開発過程にフォーカス 法務・契約支援 経営・コーポレート支援

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6 「LegalOn Cloud」でサポートしている領域

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「LegalOn Cloud」の主な検索・推薦機能 • 法務相談(案件)を探す 7 案件の検索 契約書・条文の検索 類似案件の推薦 類似契約書の推薦 • 契約書を探す

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こんな課題ありませんか?

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こんな課題ありませんか? チーム外とのコミュニケーションがうまくいかない… 9 エンジニア「技術的な内容をわかってもらえない…」 非エンジニア「相手が何を話しているかわからない…」 複数チームが関わるプロジェクトがうまく進まない…

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プロダクト開発 と コミュニケーション

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11 エンジニアと非エンジニアが協力して 1つのプロダクトをつくる 異なる職種間の コミュニケーションは必要不可欠

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12 エンジニア 他職種 自チーム 他チーム 職種・組織を超えてコミュニケーションをとる

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13 自分 他職種 自チーム 他チーム コンテキストが異なるため 思考や情報を正しく伝えるのが難しい

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コミュニケーションが失敗すると 情報の非対称性がますます拡大 14

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組織のサイロ化 生産性の低下 プロジェクトの失敗 につながる 15

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コミュニケーションが 失敗する要因

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ミスコミュニケーション と ディスコミュニケーション

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2種類あるコミュニケーションの失敗 18 認識・情報量の違いによって伝達がうまくいかない ミスコミュニケーション そもそも伝達が行われていない・伝達の機会がない ディスコミュニケーション

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19 ミスコミュニケーションの例 検索エンジニア PdM ??? 検索結果は基本BM25でスコアリングして いますがNDCGを向上させるためにベクト ル埋め込みをANNしてからRRFしてリラン キングしますね

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20 ミスコミュニケーションの例 エンジニア ??? このアジェンダにコミットするためには、スコープをクリア にしつつ、イシューの本質をデコンストラクトし、ステーク ホルダー間でシナジーを最大化するオポチュニティをエンパ ワーメントしながら、パラダイムシフトをドライブするナレ ッジトランスファーが不可欠であり、そのためにはリーンか つアジャイルなアプローチでエビデンスベースのクイックウ ィンを積み上げることが、ゲームチェンジャーとなるキーサ クセスファクターだと考えています ???

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21 ディスコミュニケーションの例 他チーム 「何をしているのかわからない」 「どう話しかけていいかわからない」 「忙しそうだし話しかけるのをやめておこう」

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コミュニケーションとは何か

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23 複雑なものはモデル化すると理解しやすい 計算機のモデル チューリングマシン 神経回路網のモデル ニューラルネットワーク 証券市場のモデル ブラックショールズ方程式 流体のモデル ナビエストークス方程式 モデルとは、現実を抽象化・簡略化したフレームワーク

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24 70年以上前に理論化され、 現代でも生き続けている コミュニケーション(通信)のモデルがある

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25 情報源 送信機 ノイズ 受信機 受信者 通信路 シャノン・ウィーバーモデル (1948) Shannon and Weaver Model of Communication: https://www.communicationtheory.org/shannon- and-weaver-model-of-communication/ メッセージ ≡

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26 情報源 送信機 ノイズ 受信機 受信者 通信路 シャノン・ウィーバーモデル (1948) Shannon and Weaver Model of Communication: https://www.communicationtheory.org/shannon- and-weaver-model-of-communication/ メッセージ ≡ シャノン・ウィーバーモデルでは コミュニケーションの双方向性を 表現できない

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シャノン・ウィーバーモデルを 対話型に拡張 27

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シュラムモデル (1954) 28 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 ノイズ ノイズ

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「フィードバック」の要素が追加され 対話型・双方向のモデルに 29 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 ノイズ ノイズ

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エンコーダー ・通信には、メッセージという形式に変換(言語化)する必要がある ・情報をメッセージに符号化(エンコード)する デコーダー ・メッセージを復号化(デコード)し、情報を取り出す ・インタープリターに情報を渡す インタープリター ・情報を解釈 (interpret) し、意味を抽出する ・受け取った内容をもとに、相手に伝えたいことを考える ・エンコーダーを通して情報を送信する 30

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シュラムモデル (1954) 31 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 ノイズ ノイズ

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シュラムモデル (1954) 32 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 シュラムモデルをもとに ミスコミュニケーションの原因 を考えてみる

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ミスコミュニケーションが起こる原因 33 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 エンコードの失敗 ノイズ ノイズ 伝えたいことを適切なメッセージ にできていない

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ミスコミュニケーションが起こる原因 34 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 通信路上のノイズ ノイズ ノイズ 送信したメッセージが欠損する

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ミスコミュニケーションが起こる原因 35 メッセージ フィードバック エンコーダー ↑ インタープリター ↑ デコーダー デコーダー ↓ インタープリター ↓ エンコーダー 発信者 受信者 デコード・解釈の失敗 ノイズ ノイズ 本来の意図が復元できていない

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ちなみに、ディスコミュニケーションは そもそも送信者が情報を送っていない状態 36

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コミュニケーションを どう改善するか

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お互いのコンテキストの違いによって ミスコミュニケーションが起こる 38

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受信者のコンテキストを意識してエンコードする 39 エンコードの改善 デコードの改善 発信者のコンテキストを理解してもらう

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当社のプロダクト開発での コミュニケーションの課題

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課題 開発に関わる職種・チームが多い 41 特殊なドメイン知識が必要

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課題① 開発に関わる職種・チームが多い

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43 PdM EM デザイナー QA 弁護士 エンジニア 複数の製品開発チーム 多職種・多チームとの コミュニケーション

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44 PdM EM デザイナー QA 弁護士 エンジニア 複数の製品開発チーム 多職種・多チームとの コミュニケーション 多くの職種・チームが関わるため コンテキストの共有が困難

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課題② 特殊なドメイン知識が必要

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リーガルテック=馴染みがなく深いドメイン 46

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リーガルテック=馴染みがなく深いドメイン 47 より良い検索・推薦の体験を生み出すために 法務エキスパートの知見をプロダクトに 注入しなければならない

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実践したこと

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相手の役割・責任を理解する 49 他職種との会話を増やした ドメイン知識の学習 1 2 3 4 社内勉強会の開催

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相手の役割・責任を理解する 50 他職種との会話を増やした ドメイン知識の学習 1 2 3 4 社内勉強会の開催

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他職種とのコミュニケーションでは 相手のことを理解するのが最も重要 51

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参考にした書籍(一部) ・エンジニアリングマネージャーのしごと ―チームが必要とするマネージャーになる方法 James Stanier 著、吉羽 龍太郎、永瀬 美穂、原田 騎郎、竹葉 美沙 訳、 オライリー・ジャパン ・HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント アンドリュー・S・グローブ (著) 小林 薫(訳)ベン・ホロウィッツ 序文 発行元:日経BP 52 プロダクトマネージャー(PdM) エンジニアリングマネージャー ・INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント マーティ・ケーガン (著)、日本能率協会マネジメントセンター ・プロダクトマネジメントのすべて 及川 卓也 (著), 曽根原 春樹 (著), 小城 久美子 (著)、株式会社翔泳社

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参考にした書籍(一部) ・エンジニアリングマネージャーのしごと ―チームが必要とするマネージャーになる方法 James Stanier 著、吉羽 龍太郎、永瀬 美穂、原田 騎郎、竹葉 美沙 訳、 オライリー・ジャパン ・HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント アンドリュー・S・グローブ (著) 小林 薫(訳)ベン・ホロウィッツ 序文 発行元:日経BP 53 プロダクトマネージャー(PdM) エンジニアリングマネージャー ・INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント マーティ・ケーガン (著)、日本能率協会マネジメントセンター ・プロダクトマネジメントのすべて 及川 卓也 (著), 曽根原 春樹 (著), 小城 久美子 (著)、株式会社翔泳社 異なる職種の人たちの 行動原理・モチベーションが掴めてくる

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相手を理解することで、コミュニケーションを チューニング できる 「同じ視点」に立って考える 「同じ言葉」で会話する 54 発信のエンコード効率を高める

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相手の役割・責任を理解する 55 他職種との会話を増やした ドメイン知識の学習 1 2 3 4 社内勉強会の開催

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リーガルテックでは 法律の知識や法務業務の理解が必要不可欠 56

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法令XMLデータのパーサー(解析器)を開発 法務には、法令やガイドラインを調べて 法務リスクを調査する「リサーチ業務」というものがある 57

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法令の基礎知識を学ぶ 58 1 『リーガル・リサーチ[第5版]』 (指宿 信、齊藤 正彰 監修 いしかわ まりこ、藤井 康子、村井 のり子 著) 株式会社 日本評論社

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59 法令のデータ構造について理解する 2 ブログにして公開:法律のデータ構造と検索 https://www.takuya-a.net/blog/data-structure-and-retrieval-of-law/

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60 法令データのパーサーを書いてOSSにして公開 3 https://github.com/takuyaa/ja-law-parser

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さらに、自社のプロダクトでも法務の基礎を学習 ユーザーに提供しているサービスを活用し、法務業務の基礎から学習 61 例: ・契約とは ・契約業務の全体像 ・法令の基本

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さらに、自社のプロダクトでも法務の基礎を学習 ユーザーに提供しているサービスを活用し、法務業務の基礎から学習 62 例: ・契約とは ・契約業務の全体像 ・法令の基本 発信のエンコード効率を高める

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相手の役割・責任を理解する 63 他職種との会話を増やした ドメイン知識の学習 1 2 3 4 社内勉強会の開催

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自分の専門分野も知ってもらう ドメインを横断するチームであり、 専門性の高さもあるからこそ、知識の 共有が重要 社内勉強会のスライド・録画は社内で も広く共有 64 株式会社LegalOn Technologies テックブログ: https://tech.legalforce.co.jp/entry/introduction-to-search-and- recommender-systems-for-pdm

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技術を理解してもらうことでも コンテキストを揃える ことができる 65 受信のデコード効率を高められる 相手に合わせて情報を「あえて落とす」必要がなくなる 解像度の高い言葉で話しかけることができるように

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相手の役割・責任を理解する 66 他職種との会話を増やした ドメイン知識の学習 1 2 3 4 社内勉強会の開催

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PdM やドメインエキスパートとの 会話を増やした 施策ごとに適宜会話し、曖昧なところを無くす 定例ミーティングで足並みをそろえる 67 通信の頻度を上げられる

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取り組みの結果

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取り組みの結果 69 1年で新製品「LegalOn Cloud」を開発・リリース さまざまなモジュールの検索・推薦の基本機能をカバーした 開発した検索・推薦基盤は、この製品のコアの1つとなっている

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70 検索・推薦の最適化のためのデータセット作成 「この検索・推薦結果が良いかどうか」を法務エキスパートが採点 作業のための仕組みを一緒に考え、エンジニアも伴走 ドメインエキスパートとの協働による 検索・推薦精度の改善①

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71 ドメイン知識をロジックに落とし込む データを一緒に見ながら対話的にヒアリング エンジニアがビジネスロジックに落とし込んでいく ドメインエキスパートとの協働による 検索・推薦精度の改善②

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72 リリース後も続々と新機能や改善をリリースしている 6つの職種・8つのチームと連携しながら開発を進められている 検索・推薦の精度改善にも一緒に取り組んでいる

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まとめ

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コミュニケーション改善のためにやったこと 74 情報のエンコード効率を上げる ・他職種を理解する努力 ・ドメイン知識を学び続ける 情報のデコード効率を上げる ・社内勉強会を開催し、知識を共有した 通信の頻度を上げる ・他職種・他チームと会話する機会を増やした

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共通の言語 で会話する 75 通信効率(ビットレート)を上げられる お互いに理解しあうことで、解像度の高い共通の言語での 会話が可能に(エンコード効率&デコード効率アップ) ハイコンテキストで高密度の会話ができるようになる

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明日からできること 76

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明日からできること 他職種に関する本を読んでみる 77 非エンジニアや他チームと会話する機会をつくる プロダクトのドメイン知識を学んでみる

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株式会社LegalOn Technologies https://legalontech.jp/