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連続的な観察 多面的な観察 を共有するための振り返り 保育士チームが実践している ピタゴラまなっち & Satoshi Harada

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観察は おもしろい

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自己紹介 保育士 / 幼稚園教諭 ピタゴラまなっち 保育園で働く保育士。保育歴は10年以上。 大学の人文学部で教育学と発達心理学を専攻。 幼稚園でも働いた経験があり、保育園では、 社員やパートとして様々な立場で保育を実践。 現在、クラス担任のリーダーを担当。 アジャイルコーチ Satoshi Harada 遊び心でアジャイルを旅する旅人。 ソフトウェア開発者。2015年にアジャイルと出 会う。現在はメーカーのアジャイルコーチとし て活動中。焼肉レトロスペクティブ、 保育ふりかえり、メカアジャイルなどを発表。 (夫婦で共同登壇発表)

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お話しすること 1. なぜ保育?なぜ観察? 2. 保育士が現場で実践している 観察から学ぼう 3. 観察を共有するための振り返り 4. 私たちもやってみよう! ※振り返りとふりかえり※ この発表では、保育の”振り返り”と アジャイルな”ふりかえり”を 区別して記述しています

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1. なぜ保育?なぜ観察?

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なぜ保育? ● 守破離の離(Advanced) ● スクラムのベーシック、ではない話 ● 保育士はチームで観察スキルを駆使している ○ 私たちの仕事でも参考になりそう! ■ スクラムマスターなら、チームの観察 ■ プロダクトオーナーなら、ユーザーの観察 ■ 開発者なら、メンバーどうしの観察

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なぜ保育? 保育士は観察のプロ 保育士の経験や知見から学ぶ

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なぜ観察? Scrum Theory Scrum is founded on empiricism and lean thinking. Empiricism asserts that knowledge comes from experience and making decisions based on what is observed. Lean thinking reduces waste and focuses on the essentials. スクラムの理論 スクラムは「経験主義」と 「リーン思考」に基づいている。 経験主義では、知識は経験 から⽣まれ、意思決定は観察 に基づく。 リーン思考では、ムダを省き、 本質に集中する。 https://scrumguides.org/scrum-guide.html https://scrumguides.org/docs/scrumguide /v2020/2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf

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なぜ観察? 意思決定は観察に基づく

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観察という言葉 出典:goo辞書, デジタル大辞泉(小学館) 観察(かんさつ) 1 物事の状態や変化を客観的に注意深く見ること。 2 《「かんざつ」とも》仏語。 智慧によって対象を正しく見極めること。 智慧(ちえ) 仏語。相対世界に向かう働きの智と、悟りを導く精神作用の慧。 物事をありのままに把握し、真理を見極める認識力。

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仏教の観察(かんざつ) 智慧によって対象を正しく見極めること 智慧とは、物事をありのままに把握し 真理を見極める認識力 ちえ

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意思決定は観察に基づく 仏教の観察(かんざつ)を参考にすると ①まず観察 物事をありのままに把握し 真理を見極める ②観察に基づき意思決定をする

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2. 保育士が現場で実践している 観察から学ぼう

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一緒に考えてみよう ● あなたが保育士ならどのような観察をし、 どのような意思決定をする? ○ 物事をありのままに把握するために どのような観察をする? ○ 観察に基づき、どのような意思決定をする?

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事例:靴を履こうとしない子① ● Hくん(2歳児) ● 身支度を自分でしようとしない ● 「自分でやってみよう」と促すと、 「ママがいい」「できない」と泣く ○ 自分でできない? ○ 自分でやる意欲が無い? どっち? ● Hくんの発達に合った成長を 促していくために、あなたは どのような観察と意思決定をする? Hくん

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事例:靴を履こうとしない子② 普段は一緒にやってあげる。 でも、あまりに毎日続くので 今日はすぐには手伝わず、 本人がやる気を見せるまでは 声かけだけに留めて様子を見 てみよう。 (靴を履こうという意欲が あるかどうかを観察しよう) 保育士 まなっち Hくん 方針の共有

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事例:靴を履こうとしない子③ 保育士 まなっち Hくん 園庭遊びの時間。 保育士はHくんが自分で 靴を履くように促したが、 Hくんは自分で靴を履かない。 Hくん以外の子どもたちは園庭 に出てしまった。Hくんは靴箱 の前で園庭を見ていた。 できない 自分で 履いてみよう

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Yちゃん登場 Yちゃん Hくん 三輪車で一緒に 遊ぼうよ。 遊びたいんだっ たら靴履こう。 うん! 保育士 まなっち

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観察のための働きかけ Yちゃん Hくん Hくんが自分で靴 を履くのを見てて あげてね。履こう としたら手伝って もいいよ。 履かせて! 保育士 まなっち

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Yちゃん号泣 Yちゃん Hくん 三輪車がある! 乗っちゃお! うわーん! (号泣) 保育士 まなっち Nちゃん ♪♪♪

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その様子をRちゃんが見ていた Rちゃん 保育士 まなっち Yちゃん Hくん ありがとう! ♪♪♪ 空いてる三輪車 持ってきたよ!

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Hくんは結局... その日、Hくんは自分で 靴を履かなかった。 しかし、靴を履こうとしな いHくんをきっかけに、Y ちゃん、Rちゃんの成長を 知ることができた。 保育士 まなっち Hくん ♪♪♪

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子どもとの物理的距離 2.いざとなったら 飛びつける距離 3.失敗すると心配! が感じられる距離 4.傍観・応援してくれて いると感じられる距離 1.子どもの 心理的テリトリー 参考: 「観察」と「振り返り」で 子どもの物語を支える 2021年・冬の保育アカデミー 汐見 稔幸 https://tebura-touen.com /column/archives/3273 信頼 関係 観察によって 1日の中でも 物理的距離は 随時変化する 常に1.や2.の距離にいる のは良いことではない (子どもを保育者に依存 させている可能性がある) Hくん Yちゃん Rちゃん チームの自己組織化や チームメンバーの自主性 を育てたいと考えるスク ラムマスターにとっても この物理的距離の考え方 は参考になる

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保育者どうしでの振り返り① ● 靴を履こうとしないHくんの行動や心の 動きを保育者どうしで共有 ○ Hくんの心理的状況 ■ Hくんはかたづけの時間になって「遊びたかっ た」と号泣。遊びたいという意欲はあるがその ために靴を履くという発想に至っていない ○ 現在の発達段階 ■ 靴を履くスモールステップが必要かもしれない ○ 物的環境 ■ 靴や靴下が合っていかもしれない、という ことがわかってきた Hくん

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保育者どうしでの振り返り② ● Hくんを観察しながら、Hくんの 周囲との関わりも観察して共有 ○ Yちゃんについては、自分の気持ちを他の子に 伝えることができるということがわかった ○ Rちゃんについては、まわりのことを気にしす ぎるのは悪いことだと思っていたが、良い面で もあることがわかった ● その後 ○ 数か月後、Hくんは自分で靴を履こうという意欲 を見せるようになってきた(観察も忍耐力) Rちゃん Yちゃん

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保育士チームが実践している 連続的な観察・多面的な観察 ● 保育士が行った連続的な観察 ○ Hくんのこれまでの経緯を踏まえて、仮説を立てて観察 ■ 靴が履けない?靴を履こうという意欲がまだ無い? ○ 物事をありのままに把握し真理を見極め、次の意思決定に繋げる ■ ありのままに把握するために、子どもとの物理的距離に工夫あり ● 保育士が行った多面的な観察 ○ ひとりの視点に偏らないように、複数の視点で観察 ■ (Hくんが自分で靴を履けるように)見守りと声かけに 留めていることをその場で保育者どうしで共有 ○ 保育者どうしの振り返りで、次の意思決定に繋げる

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意思決定は観察に基づく ①物事をありのままに把握し真理を見極める Hくんの事例:Hくんは靴を履けないのか・靴を履く意欲がないのかを、 連続的な観察と多面的な観察を組み合わせて見極めた ②観察に基づき意思決定をする Hくんの事例:靴を履く動作をスモールステップにしてみよう、靴を変えて みようという意思決定を行った 保育士は、Hくんに「自分でできる」という自己肯定感を 持ってもらおうと考えて意思決定を行っている (”子どもひとりひとりの発達に合った成長”を目指している)

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3. 観察を共有するための振り返り

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保育士チームが目指しているゴール ● 子どもひとりひとりの発達に合った成長 ○ みんなの保育観を集めて共通のゴールを決める(納得感) ○ 共通のゴールに向けて、保育士チームのみんなで 協力して連続的な観察と多面的な観察を行う ○ 瞬間・1日・1週間・1か月といった単位で 振り返りを行い、ゴールに向けて調整をし続ける 1週間の 振り返り 1か月の 振り返り 瞬間の 振り返り (雑談) 1日の 振り返り 年度始めの前に ゴール決め Hくん

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楽しく語り合う ● 観察と省察を組み合わせる ● 省察は振り返りで行う ● 振り返りは、保育士が エピソードを楽しく語り合う ● 子どもっておもしろいなあと 思ったこと、子どもから教え られたことを中心に語り合う 汐見稔幸 先生 東京大学名誉教授 白梅学園大学名誉学長 全国保育士養成協議会会長 日本保育学会理事(前会長) 出典:「観察」と「振り返り」で子どもの物語を支える 2021年・冬の保育アカデミー 汐見 稔幸 https://tebura-touen.com/column/archives/3273 せいさつ

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4. 私たちもやってみよう!

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保育士チームが実践している観察 ● 保育士は、連続的な観察と多面的な観察を組み合わせて、 意思決定をしている ● 保育士はチームで共通のゴールを持ち、協力して観察と 振り返りを行い、ゴールに向けて調整をし続けている ● 保育の振り返りは、子どものエピソードを保育者どうしで 楽しく語り合う ● 子どもっておもしろいなあと思ったこと、子どもから教え られたことを中心に語り合う

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私たちもやってみよう! ● 観察で真理を見極め、意思決定の質を高める ● 観察のプロである保育士から観察を学ぶ ○ 連続的な観察と多面的な観察 ○ 観察の物理的距離 ○ チームで共通のゴールを持つ ○ チームで観察と振り返りを行い、ゴールに向けて調整し続ける ○ エピソードを楽しく語り合う ○ 「おもしろいなあ、教えられたなあ」

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観察は おもしろい