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SLOを組織文化にするための挑戦 〜 Biz/Dev/SREが一丸で進めるSLOジャーニー 〜 SRE NEXT 2023 9/29 (Fri) Room A 株式会社グロービス デジタル・プラットフォーム部門 金城 佑治

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 2 自己紹介 金城 佑治(Kinjo Yuji) 株式会社グロービス SRE 2019年入社 @_yukin01(GitHub: yukin01) AWS/YAML/Go/TypeScript

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 3 「GLOBIS 学び放題」について ビジネスパーソンに必須の知識 を、スマホやPCを通じて動画で 学ぶことが可能 幅広い顧客(個人・法人)に展開 2017年サービス提供開始 ※数値は2023年7月時点

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 4 本日のテーマ 話すこと 話さないこと(話せないこと) ・SLOプロジェクト発足から3〜4か月の活動で直面した課題と、それに対するアプローチ  ・そもそもSLOを知らないBiz/Devなどをいかに巻き込みながら進めてきたか  ・SRE本などの理論やプラクティスをどう実践に落とし込んだか、あるいは諦めたか ・「こうして上手くいきました!」というキラキラした成功事例

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 5 プロダクトと各チームの関係性 GLOBIS 学び放題 Team A Team B Team ... Product B Product ... SRE Team (Enabling SRE + Platform SRE)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 6 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 7 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 8 SREチームの悩み 「どうしたらSLOに対して当事者意識を持ってもらえるか?」 障害が発生していないタイミングで訴えても響かないのは明白 他人にお願いされるより、自分からやりたいと思える方が良いはず アプローチの方法に悩んでいたら... SLOの重要性を理解してもらう

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 9 偶然、信頼性が揺らぐ出来事があった その結果、 障害対応のプロセスを見直す動きが発生 プロダクトチーム内で全体的に サービスの安定性に対する温度感が高くなる SLOの重要性を理解してもらう  障害タイムライン概要 ● 月初にDB高負荷によるアラートが発生 ● 数時間で自然に収まる ● 事後の調査で根本原因がわからず様子見 ● 翌月にも同様のアラートが発生 ● 実は多くのユーザーが影響を受けていた (問い合わせも発生していた)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 10 SLOの重要性を理解してもらう この動きに乗じて 「SLOアラートを導入すればユーザー影響がすぐわかる」 「プロダクトチームがもっと信頼性を意識すればMTTD、MTTRを短く出来る」 と訴求して、ステークホルダーの理解を得られた 外部要因を利用して内発的動機に繋げる

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 11 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 12 SLOの認知度を上げる ステークホルダーの後ろ盾もあり 非エンジニアのメンバーにも多く参加してもらえた ステークホルダーの理解は得られたが、社内での 認知度はまだまだ低い SLOの詳細を知り、主体的に考えてもらうために 社内でSLOワークショップを開催 先日の障害を受けて、障害検知にフォーカスした 内容にカスタマイズ 勉強会ではなくワークショップ形式にした

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 13 SLOの認知度を上げる とはいえ、SREチームにはワークショップ設計を やったことがない初心者しかいない ノウハウを学びつつ、直接フィードバックをもら うことでなんとか設計を進める ありがたいことに、社内にはビジネススキルにつ いての”プロ”が沢山いる 「再現性が大事」 「目的とゴールを明確にする」 「道筋を迷わないように問いを磨き抜く」 といったノウハウを学ぶ

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 14 SLOの認知度を上げる 非エンジニア向けの資料作りも難航 事前に発表のフィードバックをもらったところ  認識のギャップがかなりあった SLI/SLO/SLAといった略語やIT系の専門用語が  多いとハードルが高くなってしまう 当初説明する予定だったページを一部抜粋 「Appendix」と書いてある通り、付録に回して 本編では一切触れなかった 専門用語多めの意識高いページは全カット なるべく平易な表現になるよう見直す

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 15 SLOの認知度を上げる 反省点はありつつも、一定の効果は得られた 結果的に、幅広い職種のメンバーを集めてSLOプ ロジェクトを発足することができた 非エンジニアを巻き込む工夫が重要

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 16 SLOの認知度を上げる GLOBIS 学び放題 Team A Team B Team ... SRE Team SLO Project Team SREチームはなるべく後方支援 や事務局の役割に徹する

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 17 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 18 ドメインエキスパートを巻き込む Site Reliability Workbookの日本語訳では 「あるユーザーの体験の中核部分となるタスクの並び」??? CUJ(クリティカルユーザージャーニー)とは? プロダクト側ではユーザーストーリーやカスタマージャーニーマップを扱うため、 それを参考にしつつ 「プロダクトにフォーカスしたユーザー体験の一連の行動」をUJ(ユーザージャーニー) その中でビジネス的にクリティカルなものをCUJとして扱うことにした

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 19 ドメインエキスパートを巻き込む UJは先日のSLOワークショップでチームに分かれて既に作っていた しかし、クリティカルかどうかの判断基準は誰が決める? 様々な職種からの視点がないとCUJは決められない POやビジネスサイド、カスタマーサポートなど、プロダクトに詳しい人の視点が必要   例)最も売上に直結するUJは? 満たせないときすぐ問い合わせに繋がるUJは? もちろん、SLI実装上の制約もあるためエンジニアの視点も必要

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 20 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 21 オブザーバビリティを上げる ※可用性とレイテンシを採用 Datadogでの実装方針 全てのイベントをログとして記録 → カスタムメトリクス → メトリクスベースSLO (インテグレーションによるCloudWatch経由のELBメトリクス等は利用しなかった) SLI = × 100 Good Events Total Events 前提

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 22 オブザーバビリティを上げる 基本構成 Ruby on Rails + React GraphQLとREST APIを使い分け Sidekiqによる非同期ジョブ インフラはAWS(右図参照) 課題 SLIを計算可能なログになっていない

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 23 パスとステータスコードが固定されていて一般的 なアクセスログからは計測できない APMのサンプリングレートを1にしてもトレース の全件取得を保証できなかった オブザーバビリティを上げる GraphQL Operation Nameをリクエストヘッダに追加して Nginxログに出力 同じく、GraphQLのエラーコードをレスポンス ヘッダ経由でNginxログに出力 ステータスコードが200でもシステムエラーと  クライアントエラーを区別できるようになった

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 24 非同期処理はHTTPリクエストでは計測できない SidekiqのWorkerが出力するログを整備して   可用性とレイテンシを計測可能にした オブザーバビリティを上げる Sidekiq 可用性は status、レイテンシは completed_at と enqueued_at の差分を計算してログに出力する 構造化ログで統一する

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 25 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 26 SLOプロジェクトにはプロダクトチームの開発者ももちろんいるが普段の業務で忙しい SLIの詳細な実装などはSREが担当して、メンバーには議論や意思決定に注力してもらっていた 背景 成果物を早く見せる SREの実装に対する(SRE以外の)開発者のレビューの難易度が上がって エンジニア間のコミュニケーションコストが余計にかかってしまう さらにプロジェクト定例の議題がSLIの実装メインになると 非エンジニアメンバーのエンゲージメント低下に繋がるという悪循環

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 27 成果物でやりとりした方がイメージしやすく、コミュニケーションコストが下がる 結果的に全員に対して納得感を出すことが出来る 丁寧なレビュープロセスで合意をもらうのはもちろん大事だが... 成果物を早く見せる 正解がわからないような未知の実装は 成果物をはやく見せてフィードバックを貰う オブザーバビリティ向上 → 開発環境でサクッと実装してデモを見せる SLOのターゲット → 目安となる値をいくつか仮置きしてデータを提示する

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 28 1. 平常時にSLOの重要性を訴えても、当事者意識を持ってもらうのは難しい 2. そもそも社内でのSLOの認知度が低い 3. CUJ(クリティカルユーザージャーニー)の決め方がわからない 4. オブザーバビリティが低く、SLIを定義するのが難しい 5. 合意を求めすぎてコミュニケーションコストが高くなる 6. 各種プラクティスを一気に導入しようとした結果、先が見えなくなる 課題(PJ発足〜CUJ決定〜SLO運用開始)

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 29 小さく運用を始める SLOドキュメント、バーンレートアラート、エラーバジェットポリシー etc... 段階を踏まず、最初から完璧な運用ルールを作ってプロダクト全体に広めようとしてしまった 背景 現実は、誰も導入プロセスの正解を知らないし、経験もない 知っているのはSRE本にあるようなベストプラクティスだけ 「次はSRE本にあるこのプラクティスを組織に導入したいです」 「わかりました(イマイチよくわからないな...)」という実体のない議論が続く

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 30 小さく運用を始める 一旦、組織全体に適用するのはやめた プロジェクトメンバー+αで運用のサイクルを回すことを優先する まずは小さく運用して経験値を貯める

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 31 小さく運用を始める エラーバジェットポリシー 組織全体ではなく各チームのプロダクトオーナーやチームリーダーに直接交渉する 例えばレイテンシSLOの場合、アラートが出たタイミングで即時対応するのはまだ難しい 次回スプリントで対応チケットを積むようにすることで合意 SLOのターゲット まずは「問い合わせ数や離脱率が上がっていない期間」を顧客満足に沿っていると定義する その期間でちょうど満たすような値を設定する

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 32 結論 小さく運用を回し始めたおかげで、さらに広げていくために必要なアクションが プロジェクトメンバーから出てくるようになった このような動きが プロダクトチーム(not SREチーム)がSLOを運用していくことに繋がっていくはず これからもトップダウン・ボトムアップ両方のアプローチを続けていく 3〜4ヶ月取り組んだ結果、組織文化への一歩を踏み出せた

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GLOBIS DIGITAL PLATFORM 33 今後やっていくこと ● 信頼性回復の時間を確保するため、プロダクトチームのOKRにSLOを取り入れる ● オブザーバビリティが上がったことを開発者に周知し、Datadogを通じてSLOへの 関心をさらに高めてもらう ● カスタマーサポートが問い合わせを受けたとき、SLOダッシュボードを使って障害 かユーザー起因か判断できるようにする ● MTTD、MTTRを計測して障害検知が改善したことをデータで示す

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