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入門統計的因果推論4.5 介入と寄与の分析に関する数学的ツール

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アジェンダ - 自己紹介 - 4章の(ざっっっくりとした)復習 - 介入と寄与の分析に関する数学的ツール - 練習問題

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自己紹介

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自己紹介(パーソナリティ) 名前: 宇戸 慎吾(うと しんご) 趣味: シーシャ 得意: Twitter 苦手: IT, 数学, 英語(笑) カラオケ キックボクシング

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自己紹介(宣伝) - Envaderというサービスの企画・運営してます - Pythonで因果推論手法を実装するzennの記事を書いてます - たまに登壇してます(登壇資料)

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4章の復習

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反事実とは(イメージ) 車で分岐点 - セプルベタ ▶ 選択: 運転時間1h(事実) - フリーウェイ フリーウェイを選択していたときの 運転時間は...?(反事実)

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反事実とは(問題点) フリーウェイを選択していた場合の運転時間(反事実)を do表記法を用いて表現しようとすると... E( 運転時間 | do(フリーウェイ), 運転時間=1h ) → do表記法では表現できない conflict!!

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反事実とは(じゃあどうすんの) 添字を使って表現 E(Y フリーウェイ | セプルベタ, Y = Y セプルベタ = 運転時間1h) 仮想した世界 実際の世界 異なる2つの世界

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反事実とは(基本法則) - 正式な定義: Y x (u) = Y Mx (u) … (4.5) - 一致性: もし X = x ならば Y x = Y … (4.6) ここで、M x は任意の構造モデル Mを修正してXの等式をX=xに置き換えたもの この基本法則に従って反事実を考えることで、 ある特定の個体(U=u)の振る舞いを捉えることが可能

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反事実とは(ココがすごい) 構造的因果モデルにより完全に記述され たどのようなモデルにおいても反事実の 確率を計算できる モデルの記述が不完全 or変数がいくつ か測定できていない時でもデータからこ れらの確率を計算することができる X = aU, Y = bX + U Y x (u) = Y Mx (u) = bx + u 証拠E=eからUの値を決定 X=xとし修正モデルM x を得る (決定論的モデルの例) パラメトリックなモデルが存在 モデルから Uを推論可能 母集団レベルにおいて は、調整化公式により確 率や期待値を計算するこ とができる Yes No

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反事実とは(まとめ) - 事実とは異なる「もし〜していたら...」を考えるアプローチ - do表記法では表現できないため、添字を利用 - 構造的因果モデルやデータから確率や期待値について計算するこ とができる

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介入と寄与の分析に関する 数学的ツール

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3つの頻出パターン 1. ETT(Effect of Treatment on the Treated) ➢ 前章で解説 2. 必要性の確率(PN: Probability of Necessity) ➢ 4.5.1 原因と確率と寄与に関するツールで解説 3. 媒介問題 ➢ 4.5.2 媒介についてのツールで解説

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1. ETT(Effect of Treatment on the Treated) 2. 必要性の確率(PN: Probability of Necessity) 3. 媒介問題 3つの頻出パターン

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ETTの復習 - Effect of Treatment on the Treated(処置群での処置効果) - ETT = E[ Y x - Y x’ | X=x ] = E[ Y x | X=x ] - E[ Y x’ | X=x ] ETTが識別可能となるのは以下の 3通り 1. バックドア基準を満たす 2. フロントドア基準を満たす 3. 2値変数Xで実験データと非実験データがそれぞれP(Y=y|do(X=x))とP(X=x, Y=y)の形で手に入る

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3つの頻出パターン 1. ETT(Effect of Treatment on the Treated) 2. 必要性の確率(PN: Probability of Necessity) 3. 媒介問題

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PN(必要性の確率)とは Probability of Necessityの略。2値の事象を仮定し - X=x は介入(X=x’ は X=x の否定) - Y=y は反応(Y=y’ は Y=y の否定) とするとき、求めたい反事実の量は PN(x, y) = P( Y x’ =y’ | X=x, Y=y ) 上記のPNは、実際にはX=x, Y=yですが、 もしX=x’であったならばY=y’であろう確率を表してます

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PNの識別可能性(定理4.5.1) 過剰相対リスク (ERR: Excess Risk Ratio) 交絡バイアスの修正項 (CF: Confounding Factor) (4.28) (4.29)

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PNのお気持ち 自動車会社UTO(仮名)が「車の設計に落ち度があったために自動車事 故で人が死んでしまった」と訴えられたケースを考える 自動車会社UTOの車を運転すると死亡する 確率がどれほど高くなるか もし自動車会社UTOの車を買う人たちは一般 の運転者よりもスピードを出す傾向にある場 合には、そのバイアスを修正 (4.29)

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PNの下限と上限 (4.30) 式4.28 翻訳がイマイチ なので確認 CAUSAL INFERENCE IN STATISTICS(pdf版)を参照 ※式4.30の詳細は「Tien and Pearl 2000」を参照

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PNの下限と上限(式変形) (4.31) (4.32) (4.33) (4.34)

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PNの下限と上限(3つの特徴) PNの下限と上限をERRの関数として描画 1. 交絡の有無に依らず UB - LB = q = P(y’|x) / P(y|x) (一定) 2. ERRのみでは十分でない場合に、CFは PN>1/2を満たすために下限を上昇させ るかもしれない 3. 上下限の上昇量はCFによって与えられ る 観察可能 唯一、実験データから 推定する必要あり

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PNの下限と上限(PSとPNS) - PS(Probability of Sufficiency) - PS = P(Y x =y | X=x’, Y=y’) - PNS(Probability of Necessity and Sufficiency) - PNS = P(Y x =y, Y x’ =y’) についても同様に上下限を求めることができる 特に、Y x (u)が単調の場合 PNS = P(Y x =y, Y x’ =y’)= P(Y x =y, Y x’ =y) = P(Y x =y) - P(Y x’ =y) ※詳細は「Tien and Pearl 2000」を参照

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PNの具体例 腰痛の薬xが腰痛患者Aさんの死亡原因であるのか? 実験データ 非実験データ do(x) do(x’) x x’ 死(y) 16 14 2 28 生存(y’) 984 986 998 972 手元にある実験データおよび非実験データから薬 xが人の死yの原因である確率PNを推定する 表から - P(y|do(x)) = 16/1000 = 0.016 - P(y|do(x’)) = 14/1000 = 0.014 - P(y) = 30/2000 = 0.015 - P(x,y) = 2/2000 = 0.001 - P(y|x) = 2/1000 = 0.002 - P(y|x’) = 28/1000 = 0.028 が得られる ※標本誤差はないものとする

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PNの具体例 腰痛の薬xが腰痛患者Aさんの死亡原因であるのか? 実験データ 非実験データ do(x) do(x’) x x’ 死(y) 16 14 2 28 生存(y’) 984 986 998 972 手元にある実験データおよび非実験データから薬 xが人の死yの原因である確率PNを推定する 単調性を仮定すると、 定理4.5.1の4.29式より 式4.30の下限は1となるので PN=1 ➢ 確実に死の原因と言える ※標本誤差はないものとする

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PNのまとめ - PNとは「実際にはX=x, Y=yだが、もしX=x’であったならばY=y’であ ろう」確率 - PNが識別可能な条件は下記の通り - すべてのuでYがXについて単調(Y 1 (u) >= Y 0 (u)) - 因果効果P(y|do(x))が識別可能 - PNが識別可能なとき、PNはERRとCFに分解でき、ERRは観察デー タから、CFは実験データから推定することが可能

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3つの頻出パターン 1. ETT(Effect of Treatment on the Treated) 2. 必要性の確率(PN: Probability of Necessity) 3. 媒介問題

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媒介とは(概要) ある変数Tが別の変数Yに影響を与えるとき、 その影響の与え方は下記の2通りが考えられる (1) 直接効果: T → Y (2) 間接効果: T → M → Y 資格M 性別T 採用Y 媒介変数 Mを媒介した効果 (1) (2) (2)

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媒介とは(具体例: 3.7章を参照) ある会社が人材採用Yにおいて性別Tによる差別があるかどうかの直接 効果を知りたい。 ただし、性別Tは資格についての変数Mを媒介変数として間接的に採用 に影響を与えているかもしれない。 資格Mについて固定して効果を 計測したら解決するのでは ...?

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媒介とは(グラフによるアプローチ1) こんなグラフであれば、Mを固定するだけでOK 資格M 性別T 採用Y 資格M=m 性別T 採用Y M=mに固定

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媒介とは(グラフによるアプローチ2) MとYの間に交絡因子が存在すると話は変わる 資格M 性別T 採用Y 資格M=m 性別T 採用Y M=mに固定 親の収入I 親の収入I ▶ CDE(Controlled Direct Effect)を考える

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間接効果(T→M→Y)を求めるのは、 直接効果(T→Y)を求めるよりも難しい - 条件付けとかで何とかならないの? ➢ どう条件付けしても、直接効果T→Yだけを取り除くことができない - 間接効果 = 総合効果 - 直接効果 じゃダメなの? ➢ 線形システムであれば問題ないが、非線形システムでは成り立たない 媒介とは(間接効果を考える)

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よくある媒介問題のモデル 媒介問題の標準的なモデル t = f T (u T ), m = f M (t, u M ), y = f Y (t, m, u Y ) …(4.43) ただし、 - T(処置), M(媒介), Y(反応)は確率変数(離散 or連続) - fは任意の関数 - Uは省略変数 - ベクトルU = (U T , U M , U Y )は確率ベクトル(個体間のばらつきを表す)

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よくある媒介問題のモデル(グラフ) 交絡なし U M M U T U Y T Y 交絡あり U M と(U T , U Y )の間に従属性がある U M M U T U Y T Y

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反事実における効果の定義 効果 定義 解釈 媒介変数の挙動 総合効果 TE: Total Effect 処置がT=0からT=1に変化した 時のYの増加量の期待値 Tが変化するにつれて 関数f M に より自然に変化する 制御された直接効果 CDE: Controlled Direct Effect 処置がT=0からT=1に変化した 時のYの増加量の期待値 母集団全体に対して一律 M=m に設定 自然な直接効果 NDE: Natural Direct Effect 処置がT=0からT=1に変化した 時のYの増加量の期待値 T=0においてそれぞれの個体 がとったであろう値に固定 自然な間接効果 NIE: Natural Indirect Effect 処置がT=0に固定されていると きのYの増加量の期待値 T=1においてそれぞれの個体 がとったであろう値に固定 TEとCDEはdoオペレーターで記述することができ、データから推定することができる。 NDEと NIEを識別するためには別の仮定が必要になる。

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総合効果の分解 一般に総合効果TEは下記の通り分解することができる TE = NDE - NIE r … (4.48) ここで、NIE r はT=1からT=0へ逆向きの移行をしたときのNIE ➢ NDEとTEが識別可能であれば、NIEも識別可能

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自然な効果を識別するための条件

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NDEの識別(定理4.5.2) 式4.49内のdo表記の識別可能性は条件A-3, A-4が保 証してくれており、バックドアorフロントドア基準により計 算可能です! (4.49)

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NDEの識別(系4.5.1) (∵式4.48) (4.50) (4.51) (4.52) 媒介公式 CDEの重み付き平均と 解釈できる (∵定義+非交絡)

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TE・NDE・NIEを用いた3つの比 NDE / TE : Mを”凍結”したまま直接伝搬する反応の割合 (TE - NDE) / TE : 反応のうちMによるものの割合 NIE / TE : YがXに影響されないとき、 Mを経由して伝搬する反応の割合

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媒介公式の具体例 宿題・補習への取り組みと試験の合否(合格率) 処置 宿題 合格率 T M E[Y|T=t,M=m] 1 1 0.80 1 0 0.40 0 1 0.30 0 0 0.20 処置 宿題 T E[M|T=t] 0 0.40 1 0.75 表から - NDE = (0.4 - 0.2)(1 - 0.4) + (0.8 - 0.3)0.4 = 0.32 - NIE = (0.75 - 0.4)(0.3 - 0.2) = 0.035 - TE = 0.8*0.75 + 0.4*0.25 - (0.3*0.4 + 0.2*0.6) = 0.46 - NIE / TE = 0.07 - NDE / TE = 0.696 - (TE - NDE) / TE = 0.304 プログラムにより宿題に時間 をかけるようになった結果 合格率の増加(30.4%) 宿題の時間に増加 のみの合格率の増 加(7%) プログラム全体の合格率の増加( 46%)

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媒介問題のまとめ - 反事実における効果はTE, CDE, NDE, NIEの4つ - TEとCDEはdo表記されているため実験データor観察調査から推定 可能であるが、NDEとNIEは別途4つの識別条件が必要 - 共変量が非交絡のとき媒介公式からNDEとNIEを計算することが できる

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練習問題

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4.5.1(1/2) Jonesさんは放射線治療を受けるべきであったか?

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4.5.1(2/2) Jonesさんは放射線治療を受けるべきであったか? 無理やり解答っぽくしていますが、 P(x,y)が分かりませんでした ...分かった人教えて ...

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4.5.2 構造モデルのTE, NDE, NIEを求める (a) (b) U Y = aU M + b と置いて(a)と同様に計算するだけ。 答えは(a)と同じになります! M T Y U M U Y 線形モデルなので TE = NDE + NIE

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4.5.3(a) 下記の構造モデルを考える T M Y W 解答するために勝手に仮定しました

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4.5.3(b) 下記の構造モデルを考える T M W Y 解答するために勝手に仮定しました

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4.5.4 性別・資格と採用(採用率) 性別 資格 採用率 T M E[Y|T=t,M=m] 1 1 0.80 1 0 0.40 0 1 0.30 0 0 0.20 性別 資格 T E[M|T=t] 0 0.40 1 0.75 表から - NDE = (0.4 - 0.2)(1 - 0.4) + (0.8 - 0.3)0.4 = 0.32 - NIE = (0.75 - 0.4)(0.3 - 0.2) = 0.035 - TE = 0.8*0.75 + 0.4*0.25 - (0.3*0.4 + 0.2*0.6) = 0.46 - NIE / TE = 0.07 - NDE / TE = 0.696 - (TE - NDE) / TE = 0.304 男性が資格を持っている 場合の採用率の増加 (30.4%) 資格のみによる 採用率の増加 (7%) 全体の採用における性差( 46%) 男性が資格を持っている ことによる採用率の増加 (30.4%)

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ご清聴ありがとうございました