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人工知能研究の歴史・概観 シリーズAI入門 © FSCjJh3NeB 2021 (※ 但し画像を除く)

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概要 n 人工知能研究はコンピュータ発明とほぼ同時に開始 u 最初期のコンピュータ ENIAC は 1946年頃登場 u 人工知能(Artificial Intelligence)の 命名 は 1956年 n 何度かの栄枯盛衰を繰り返して現在に至る u 当初,AI は簡単に実現すると期待 p 単なる記号処理だとうまくいかない,知識がいる u 知識(ルール)の記述をすればうまくいく! p ルールが膨大で記述しきれない,ルールを自動で獲得してほしい p 何からルールを作る?データがいるが,データがない… u データからパタンを自動で見いだし,処理に活用 2

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人工知能の歴史 3 機械学習 自然言語処理 意思決定支援 探索・迷路・パズル 1950 1970 1980 1995 2010 2016 第一次人工知能ブーム (推論・探索の時代) 第三次人工知能ブーム (機械学習・表現学習の時代) 第二次人工知能ブーム (知識の時代) ダートマス会議 (1956) • AIという用語の提唱 [囲碁]AlphaGo (2016) • プロ棋士に勝利 [チェス]Deep Blue (1997) • 世界チャンピオンに勝利 ニューラルネットワーク ディープラーニング ウェブ,ビッグデータ 対話システムの研究 • ネオコグニトロンによる画像認識 (NHK基礎研究所 福島邦彦) • 神経回路網における計算論原理 (東京大学 甘利俊一) • 知識ボトルネック 問題の解消 • 計算処理能力の 向上 • 画像処理精度の向上 Amazonドローン 宅配実証実験(2015) Google自動運転 公道テスト(2015) Dendral (1965) Mycin (1972) Eliza (1965) Siri (2012) Pepper (2015) [クイズ]Watson (2011) • クイズ番組で全米チャンピオンを破って勝利 (代表事例) • 定理の証明 • チェス • 自然言語 (代表事例) • 論理推論 • 知識ベース • ニューラルネットワーク (代表事例) • 大規模知識ベース • 機械学習 • ディープラーニング 自動走行での米大陸横断 (1995)(CMU 金出武雄) [ エキスパートシステム ] [サッカー他]ロボカップ(RoboCup)(1996〜) H28版 科学技術白書 第1‐2‐2図/人工知能技術の歴史 …をベースに修正

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今日のお話のペース配分 4 第1次 第2次 第3次 第1次ブームに至るまで そもそも,“知能”についてどう論じられてきたのか? 第1次ブームの挫折 形而上の話だったはずが,計算機の登場で検証可能に! なにをして,なにがダメだったのか?

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今日のお話の進み方 n 行ったり来たり,枝葉にそれたり戻ったり, ちょっと複雑な構成ですが,本資料は配布するので, 全体像はあとから頭の中で整理してください 5 第1次 第2次 第3次 メインのお話 余談(関係はある)

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最初期の人工知能研究者が考えたこと n 知能とは…おそらく “記号処理” に本質がある n コンピュータは “数” という記号を処理して計算 n コンピュータで,知能を実現できるのでは!? 6 ※ 論理回路の塊で,論理演算できる。

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記号処理に知能の本質??? n 記号処理 = 論理的な演算 u 例: ソクラテスは人,人は死ぬ,ソクラテスは死ぬ n なんで? u なぜ,記号処理が知能の本質だと考えたのか?? u 例えば… p 人間が高度な知能を持つとして,その他の動物との違いは? • 言葉をもっている!!!言葉をしゃべれてエライ! • 言葉=記号 u いろいろな実体を記号(概念)に変換して, 操作できる能力,それこそが知能なのでは? 7 すごーい 将来補足

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コンピュータで記号処理? n コンピュータは AND,OR,NOT を組合わせて処理 u 論理的な処理がいろいろできる装置 u 知能が記号の論理的処理だとすると, この論理的な処理ができる機械で当然,模倣できる u まぁすぐに人間同等は無理でも,チェスみたいに, 完全に論理的に話が進むところならすぐできるハズ! 8 ここから下は,当時の研究者が考えたであろう事

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9 20年以内に 人間ができることは 何でも 機械で できるように なるだろう ─ ハーバート・サイモン(1965) ─

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n ところで… u コンピュータ は 論理回路 で いろいろと計算 u コンピュータ で 知能が作れるなら, その場合,知能の源 は 論理回路 にあるはず u 人間 の 知能の源 は いったいどこにあるのか? 10 なんか,地面とかに 知能落ちてないかな…?

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知能のありか n 人間の脳に知能があるとして… u 脳がレゴブロックみたいなパーツからできていて, 自由に任意のパーツを取り外し&結合可能とする u 任意の個数・任意のパターンでパーツをとっていく u 最低限,このパーツがないと知能が成立しない! …と,明らかにできれば,知能の構成要素がわかるかも 11

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魂のありか n 人間の脳に魂(“自分”を規定するもの)があるとして… u 脳がレゴブロックみたいなパーツからできていて, 自由に任意のパーツを取り外し&結合可能とする u 任意の個数・任意のパターンでパーツをとっていく u 最低限,このパーツがないと自分が成立しない! …と,明らかにできれば,魂の構成要素がわかるかも 12 問題を拡張し「脳を好きな体に設置できる」として… • “自分” を構成するのに 特定の身体は必要ない? • 身体が好きに入れ替えられても “自分” は “自分”? • だとすると,脳の一部だけが自分で他の部分は違う? • 脳のその一部が損傷したら,もう“自分”ではない? ref. 身体性

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ここで急に課題です n 脳が別の体に 自由に問題なく移植できる として, 今とは別の体に あなたの脳が移植された場合, あなたはやっぱりあなたのままでしょうか? 考えを200文字以上で記載してください u 10分ほど時間をおきます&講義中に投稿してください。 p 万が一200字に満たなくても,出さないよりはマシです J n 例: u 私は私のままである。なぜなら… u それはもはや私ではない。なぜなら… u なんともいえない。なぜなら…

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テセウスの船 n ギリシャ神話に基づくパラドクス u 一艘の古い木造船がある。 u ちょいちょい壊れるので,ちょいちょい補修する。 u 気づいたら,全部の木材が最初のものとは変わっていた。 u この船は,元の船と同じものといえる? 14

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心身二元論 n 心と体は不可分か? u 心と体は独立(別々に存在する・しうる)と言う立場が心身二元論 p あくまで “立場” であって,本当にそうかどうかは,まだ謎 n 例えば,デカルトは心身二元論 u 我思う,故に我あり p もしかしたら,交通事故で脳だけになっていて 外からの電気信号で幻想を見ているだけで, もう手足もないし,友達も存在しないかも… p これらを確認する方法はない(存在を否定できる) p でも,これを考えている自分自身の存在は否定できない 15 René Descartes 1596.03.31 〜 1650.02.11 絶対確実なモノから,徐々に理論を構築しようね。 と,思って「確実なモノ」を考えた結果

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デカルトといえば方法論序説 n なんか,いろいろ良いこと言ってる u 物事を考えるときには… p そもそも前提が正しいか確認 p 複雑な問題は要素に分解 p 簡単なところから確実に順番に p できたと思ったら,全体を振り返り u いろんな事を勉強しよう 16 さまざまな民族の習俗について何がしかの知識を得るのは 我々の習俗の判断をいっそう健全なものにするためにも良 いことだし、またどこの習俗も見たことのない人たちがや りがちなように、自分たちの流儀に反するものはすべて こっけいで理性にそむいたものと考えたりしないためにも、 良いことだ。けれども旅にあまり多く時間を費やすと、し まいには自分の国で異邦人になってしまう。

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人工知能とデカルト的世界観 n 一種のロボットみたいに人を捉える u 体はただのハードウェア(機械)に過ぎない p ただ,ソフトウェアはこのハードウェア上には存在しない • クラウド上からリモート操作する的なイメージ n デカルト的な “心(意識)” 17 心(意識) 知 情 意 知性 知識 情緒 感情 情動 意思 意図

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心と体の境界線はどこにあるのか? n デカルト的には,“言葉” と “自由意志” u 身体 は 動物一般 と同じという捉え方 u その上で,身体にないもの=心 として,上記の2つ p 動物も鳴き声を上げたり,オウムなどは人の言葉を発するが, それは単に反射であって,“自由意志” の発露ではないとする p 心 は 人 に特有のモノで,それは上記の2つがあるから 18 デカルト は 16世紀ごろの西洋の人 という点に注意 人は神を模倣して作られたという,キリスト教的世界観が前提 心身を分離し,体を機械とすると… 心はいったいどこにあるのか?心は身体をどうやって制御するのか? と言う新たな問題も…(実際,デカルトも文通相手の公女様にその点を詰められている)

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心身一元論 n 心と体は不可分か? u 心と体は一体・セットであると言う立場が心身一元論 p あくまで “立場” であって,本当にそうかどうかは,まだ謎 n 例えば,ホッブスは心身一元論 u 心も体の一部(機械) p あと,心の主要な機能は“推理”することで, その計算原理は三段論法 • 推理:名辞と名辞を一定規則で結びつけること 19 Thomas Hobbes 1588.04.05 〜 1679.12.04 “人工知能研究の祖父” とも 称される

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ホッブスといえばリヴァイアサン n 社会契約論 u 人間は合理的な存在 p 人間は自己保全のために行動 • ほっとくと,人間すぐ喧嘩する • 万人の万人による闘争 p 心には“推理能力”がある u 争い合うより協力する方が, もしかして全体的に得なのでは? p 協力するための枠組みがいるよね • 合理的だから,協力して得するなら 喧嘩を止めて協力するはず! p と,いうわけで作っちゃいました! → 社会契約論 20

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デカルト vs. ホッブス 21 René Descartes 1596.03.31 〜 1650.02.11 Thomas Hobbes 1588.04.05 〜 1679.12.04 心身二元論 心身一元論 身体は機械 身体は機械 心は霊気 心も機械 心は“言葉”と“自由意志” 心は“推理”(記号処理) 異なる部分も多いモノの, “心” は “記号”・“言語” に依るとするところは重なる はじめにことばがあった。ことばは神と共にあり、ことばは神であった。- ヨハネによる福音書1:1 ※ 2人とも 16世紀の 西洋の人 = キリスト教的世界観 という点には留意しておく必要

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人間やAIのイメージ 22 同じイメージ 身体がハード 機械そのものがハード 意識というOSがある Windows などのOSがある OS上にパズルなどのアプリがある OS上にパズルなどのアプリがある

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知能と身体 n 知能に身体は必須要素か? u 今の AI は計算のためのハードはあっても, 基本的に身体は持っていない u 身体無しに知能は獲得できる・存在するか? n 体があるとできること u 環境の中をいろいろ動き回れる p “物理的な制約” という,一種の境界条件が固定される • 解の探索空間を限定できると言うこと 23

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“自由意志”と“決定論” n 前スライドで出てきた“自由意志”とは? u 自分で何をするか決められる,ということ p 「そんなの当然でしょ!?」とは思うのですが… n “自由意志” の対照は “決定論” u 自分で自由に何をするかを決めることはできない 24 実は 心理学 などにおいて,非常に大きな論点の一つ

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自由意志と決定論 n 心理学であつかう“心理”はそもそも存在するか? n 我々は自由意志を有しているか? u 自由意志: 我々は自身の行動を自身で統制できる u 決定論: 我々は自身の行動を自身で統制できない u 素朴な疑問: p 今日,何を着て出かけるか,何を食べるか,自分で決めている p 自由意志は当然存在するのでは?? 25

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自由意志? n ヒトの意志は本当に自由か? n 「今日はこの服を着よう」 u そもそも,所有している服から選ぶ p その際に,今日,どこに行くか,誰に会うかも考慮する • 結婚式披露宴にお出かけするのにTシャツ,ビーサンはまずない u そもそも,嫌いな服は基本買わないはず p 好きであっても,お金がないと基本的には入手できない u 好き嫌いは,過去の経験から成立しているはず p 何を見て,何を聞き,何をしたか,etc. 26 「自由だ」と感じているだけで, 本当は行動は環境で規定されているのでは?

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自由意志は検証できるか? n 背理法的に,“決定論的でない”ことで,できそう u 決定論的:環境要因で行動が定まる n 内的・外的なあらゆる環境要因が同じ状況下で, 人は異なる決定を行いうるのか? u 行えれば,自由な意志はある u 行えないなら,行動は環境で決まるので決定論的 n …が。 u “内的・外的なあらゆる環境要因が同じ状況”は, そもそも作りようがない(まず時間の流れが不可逆) 27 論証・検証ができない = 科学じゃないかも?

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決定論は検証できるか? n 物理環境上で活動する以上,物理法則に支配され, したがって,自然界の因果関係から独立ではない u この部分は,自由意志の有無とは無関係に成立 n 決定論は環境によって行動が決まると想定 u 特定の状況下で,確実に特定の行動が起きるなら, 自然法則と同じように因果律があるので科学っぽい p 心理学を科学と同じ枠組みで扱うことができる n 全く同じ「特定の状況」は不可能だが… u 決定論の場合は,入力(原因)と出力(結果)に主眼が あって,内的過程はあまり重要ではない u ある程度,統制できるので物理実験と似た感じで行ける 28 自由意志を検証するよりはハードルが低そう

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認知科学のその他の話題 n 心はタブラ・ラサ(白紙のノート)か? u ヒトの心は経験によって形成されるのか? u それとも先天的に与えられるのか? n 唯物論と随伴現象 u 脳も物理的機構で,心もその機構の出力のひとつ u したがって,心も物理的な運動のひとつ …という見解 29

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そんなこんなで時間が経って… n 電子計算機の登場 u 1950年頃,論理計算が可能な機械が誕生 n 第1次AIブーム u 人間 と 獣 を分けるのは 言葉 と 自由意志 (デカルト) u 言葉は記号として記録されるが,計算機は記号を操作 u つまり,知性を計算機で模倣できる可能性 p 少なくとも,数学やチェスなど論理的な課題はいけるはず! 30 当初はチョロいと思っていたが,難しさが判明

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そんなこんなで時間が経って… u 記号を操作するだけでは不十分という気づき u 常識をはじめとした知識も重要らしい u 機械にどのように,常識や知識を埋め込むか? n 第2次AIブーム u それらを書き下してしまえばOK p ナレッジグラフ,エキスパートシステム u 文章にできない知識(暗黙知)も存在する上, 記述すべき知識は膨大で書き切れない… 31 計算機環境が未熟だった…という社会背景も

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そんなこんなで時間が経って… n インターネットの普及 u 大学などに1〜2台の計算機&通信機能無しという世界が 各家庭に1台計算機…という時代に p 掲示板やテキストチャット,ブログなど,いろいろな人が 計算機を通じて様々なデータをネットに載せ始める p たくさん売れるので計算機の研究開発が進み,低価格化,高速化, 高機能化し,それがさらに普及を促進する p 便利になったので,さらに情報交換が促進される 32 IT産業にとって極めてよいループの形成

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我が国におけるパソコン普及率 33 一般家庭でのネット接続は おおむねこの時期にスタート Google創業 yahoo! Japan 開始

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そんなこんなで時間が経って… n 第3次AIブーム u データを集めてくるボトルネックが解消 u 計算機の高性能化で,膨大な計算も可能に u 機械学習による,データからの自動的なパタン抽出 u 様々なIT機器を通じたデータの入出力 u いろいろな場面で実用に耐えるうまい仕組みが実現 34 実現は不可能かも…とも思われていた “人工知能” の可能性が少し見えてきた