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重力プログラミング入門 第6回 ~理論としての物理・数学をプログラミングして、動かし、世界を楽しむ~ 惑星の位置・軌道を計算する 別名: 「2D天体シミュレータをグルグル回す」 ~単純なケプラー軌道から「惑星軌道の永年変化 (VSOP)」へ~ 2018/07/18 ver 0.5作成 2018/07/20 ver 0.9作成

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1 1. そもそもブラックホールだけが関心事だったが… 2. 天体シミュレーション基礎:惑星の軌道計算 3. 復習:ケプラーの楕円軌道 4. ケプラーの楕円軌道の問題 5. 「VSOP82」から「VSOP87」へ 目次

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2 1.そもそもブラックホールだけが関心事だったが…

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3 1.そもそもブラックホールだけが関心事だったが… 天体シミュレーションしたい のですが、プログラミングの やり方が分からなくて…

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4 自分はブラックホールと 重力しか興味が無くて、

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5 天体全体の研究となると、 だいぶノリが違うけど…

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6 1.そもそもブラックホールだけが関心事だったが… この本で、「SPH法」という、 個々の粒子の動きを演算する 解析手法を知り…

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7 1.そもそもブラックホールだけが関心事だったが… 流体力学と重力物理の関係 を説明する論文を読み…

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8 1.そもそもブラックホールだけが関心事だったが…

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10 「ナビエ-ストークス方程式」という粘性の ある流体の運動を表す偏微分方程式 これを解決すると100万ドルもらえる

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11 流体力学とか、ブラックホール とも関連性ありそうなので…

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12 ま、ついでにやってみるかw

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13 2.天体シミュレーション基礎:惑星の軌道計算

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14 2.天体シミュレーション基礎:惑星の軌道計算

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15 2.天体シミュレーション基礎:惑星の軌道計算 「VSOP87」は、世の中に最も普及した、惑星軌道計算するため のアルゴリズムで、メジャーな天体シミュレータである以下2つでも 採用されています ➢ Celestia (セレスティア) http://orbit.medphys.ucl.ac.uk/ ➢ Orbiter (オービター) http://orbit.medphys.ucl.ac.uk/

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16 3.復習:ケプラーの楕円軌道

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17 重力プログラミング入門 第1回がちょうどその内容で

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18 ほぼ1年前に登壇しました

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2017/09/20 プログラマのための数学勉強会@福岡#6 in LINE Fukuoka 重力プログラミング入門 ~理論としての数学をプログラミングして、動かし、世界を楽しむ~ 再掲

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21 1.「横に投げたボール」と「人工衛星」は同じ ボールを真横に投げると、途中までは水平に飛んで行きますが、 やがて水平方向の勢いを失って、重力に従って地上方向に落ち ていき、最後は地上に着きます GPSを積んだ人工衛星は、このボールの水平飛行が続いたよう なもので、重力に従って地上方向に落ち続けてはいるが、速度 が維持されているため、地上に着かず、周回し続ける訳です この速度のことを、「第1宇宙速度」と言います = 再掲

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22 1.「人工衛星」と「公転する惑星」も実は同じ GPSを積んだ人工衛星が、地球を中心に周回するのと、地球 含めた太陽系惑星が、太陽の周りを公転する理屈は、実は全く 同じなのです 地上に着くことも無く、かといって、どこかに飛び去る訳でも無く、 太陽や地球を中心に、楕円を描き続ける特徴も同じです このような公転の軌道は計算可能で、「万有引力の法則」と、 その元である「ケプラーの第3法則」から導き出すことができます = 再掲

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23 2.「万有引力の法則」 あらゆる2つの物体間には、お互いを引き合う力、つまり「引力」 が発生しており、引力は、以下2つの条件が成り立ちます ➢ 各物体の質量の乗算に比例する (重い程強く引き合う) ➢ 物体間の距離の2乗に反比例する (離れると弱まる) 質量当りにかかる引力の強さを「G 」※、物体の質量を「M 」「m」、 物体間の距離を「r 」とすると、物体間の引力は、以下となります ※「万有引力定数」と呼びます 【Column】 「重力」とは、引力に「自転の遠心力」を合わせた力を指します 本スライドでは、「自転の遠心力」の考慮を割愛し、この2つを同一視します F = G Mm r 2 再掲

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24 2.人工衛星の位置を示すxy軸座標 以下は、地球の中心を0地点とした、人工衛星のxy 座標です 人工衛星の軌道は、「運動方程式」により、以下の通りです ma = F 加速度a を、x 軸・y 軸に分けることで、移動速度を出しましょう x α θ y F Fcosθ Fsinθ r Position( x, y ) 人工衛星の座標 0 ※m は人工衛星の質量、a は加速度 再掲

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25 2.引力と人工衛星の位置から移動速度を計算 ma はmdx とmdy という偏微分に分割し、F は直交座標(xy 座標)から極座標(方向F と角度θ で表現される座標)へと変換 します mdx = -F cosθ, mdy = -F sinθ F を前述した引力に展開し、cosθ, sinθ を人工衛星位置x, y と人工衛星までの距離r で表現すると、以下の通りです mdx = -G ・ = -G mdy = -G ・ = -G Mm r 2 x r Mmx r 3 Mm r 2 y r Mmy r 3 ※方向F は、0地点から外側に向かって いればプラス、逆方向ならマイナスと なるため、この場合はマイナスとなる 再掲

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26 2.引力と人工衛星の位置から移動速度を計算 両辺のm を削除したものが、移動速度になります dx = -G , dy = -G 地球が0地点なので、r は、x とy から計算できます r = √ x + y G およびM は、以下の通りです ➢ 万有引力定数 G = 6.67259 x 10 m / s ➢ 地球の質量 M = 5.974 x 10 kg GM = 1.267 × 10 km / s Mx r 3 My r 3 2 2 -11 3 2 24 8 3 2 再掲

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27 3.公転軌道をJavaScriptでプログラミング 前章で紐解いた、人工衛星の移動速度を用いて、人工衛星が 地球周回軌道をグルグルと回るシミュレーションをJavaScirptで 作ってみましょう dx = -G , dy = -G , r = √ x + y この移動速度の数式をコード化した以下は、数式そのままです ( 最近、関数型しか書いて無いので、状態を持てる・更新できる言語に拒否反応が(-_-u… ) … // 公転対象の位置から重力影響を計算し、速度を変更後、公転対象の位置を移動 moveOnGravityEffect: function() { var r = Math.sqrt( Math.pow( this.x, 2 ) + Math.pow( this.y, 2 ) ); this.dx = this.dx - G * M * this.x / Math.pow( r, 3 ); // x方向の移動速度 this.dy = this.dy - G * M * this.y / Math.pow( r, 3 ); // y方向の移動速度 this.x = this.x + this.dx; // x位置を、x方向の移動速度で更新 this.y = this.y + this.dy; // y位置を、y方向の移動速度で更新 }, … Mx r 3 My r 3 2 2 再掲

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28 3.人工衛星が地球周回軌道をグルグル回る JSで計算した人工衛星の移動速度 (とxy 座標) を以下画面 で表示して、地球周回軌道をグルグル回る様を見ましょう 再掲

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30 4.ケプラーの楕円軌道の問題

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31 ここから先は、ちょっとした 歴史のお勉強みたいな感じ

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32 天文学は、長時間の探求で 辿り着いた、ザ・歴史の側面

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33 4.ケプラーの楕円軌道の問題 惑星の公転が、ケプラーの楕円軌道に沿っているならば、楕円 軌道の形や向きは、前述した軌道計算の通り、「永遠に不変」と なるはずです しかし実際は、楕円の形や向きが、時間の経過につれて、徐々 に変化していく傾向が観察されています そして、このズレの原因として挙げられるのが、「摂動 (せつどう)」 と呼ばれる現象です

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34 4.ケプラーの楕円軌道の問題 「摂動 (せつどう)」とは、天文学の用語で、ある公転する天体と、 公転の重力源となる母天体による公転軌道運動系に、第3の 物体 (惑星、彗星、太陽フレア等) による重力影響がおよんだ 場合、軌道が乱され、楕円の形や向きにズレが生じる現象を 指します ちょうど、人工衛星が惑星でスイングバイするのと似たように、第3 の物体による重力影響は、加速・減速を引き起こし、ズレます

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35 4.ケプラーの楕円軌道の問題 こうした「摂動」による、ケプラー楕円軌道からのズレを、計算する ためのモデルが、過去、幾つも作成されてきました 1740年のジャック・カッシーニによる観測表が、この分野における 決定打となっており、本日のお話も、この末裔についてとなります (ただし、実際の計算による証明は、1970年代にコンピュータが 発明されるまで、二次項による近似式までに限定されていた) ちなみに、「摂動」を厳密に計算することは、「多体問題」を解く、 ということであり、重力プログラミング入門「第4回:スペースコロ ニーを建造する」でも、お話しましたが、「ラグランジュ点」のような、 限定された特殊解で無いと解けない…という課題があります

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36 1.宇宙空間に物体を配置する 地球と月を2惑星として、質量が無視できる小さな第3の物体を スペースコロニーとし、宇宙空間に配置したのが、ガンダムシリーズ における「サイド」で、5点のラグランジュ点に、サイド1~サイド8の 計8つのサイドを配置していました 月の裏側にあるのが ジオン公国発祥の地 となったサイド3 (L2) 月と同一軌道上の サイド7でガンダム 大地に立つ (L3) 再掲

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37 3.ラグランジュ点 L4/L5 【余談】 今回のような、3つの天体が、重力によって、お互いに影響し合う シチュエーションで、それら軌道を決定する問題は、「三体問題」 もしくは「多体問題」と呼ばれ、解析的には解けない …つまり、 方程式の変形で解くことは不可能… と言われています しかし、3体のうち、1体の質量が、他2体と比べ、無視できるほど 小さい場合は、「制限三体問題」と呼ばれ、特殊解を求めること が可能となります 更に、2体の軌道が、円軌道である場合、「円制限三体問題」 と呼ばれます 今回のラグランジュ点は、この「円制限三体問題」に該当します 再掲

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38 4.ケプラーの楕円軌道の問題 そこで、「摂動」そのものを計算するのでは無く、「摂動」の原因と なる第3の物質のうち、主要因となり得る惑星間の相互作用に 焦点を当て、各惑星の「振幅」と「主周期」を使い、「時間」にて 級数展開することで、「時間経過に伴う惑星の位置 (惑星間 の相互作用込み) を直接計算する」という、解析的アプローチ※ を取るように発展したのが、1781年の頃です ※「テイラー展開」や「マクローリン級数」、「微分」は、この解析的 アプローチの代表で、AI・MLを支える基礎でもあります

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39 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ

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40 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ その後、コンピュータの発展に伴い、実用に耐え得る理論として 完成したのは、1982年に発表の「VSOP82」というアルゴリズム でした 「VSOP82」は、精度として、1,000年~100万年程の先まで 適用できることが分かっていますが、この適用期間・精度の限界 は、「観測にかけた時間」の長さに依存し、短いと、公転周期に 誤りが出てきます また、「VSOP82」は、公転軌道のみの計算しか出せないため、 惑星の位置特定 (と計算時の級数打ち切り) ができません これを解消したのが、「VSOP87」でした

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41 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ 「VSOP87」では、水星、金星、地球については、元期2,000 (≒2,000年1月1日 0世界時)の±4,000年、木星と土星は ±2,000年、天王星と海王星は±6,000年の範囲の誤差が、 1秒以内という、非常に高い精度を実現しました また、惑星の位置を直交座標系 (x, y, z) の形で計算すること も可能となりました そして現在、VSOP87用の観測データは、オープンデータとして 提供されています

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42 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ 右3列が、下記のような、横3列の時系列行列の観測データで、 これを取り出し、右の式で計算すると、xyz座標が取得できます function earth( t ) { X0 += 0.99982928844*Math.cos( 1.75348568475 + 6283.07584999140 * t ); X0 += 0.00835257300*Math.cos( 1.71034539450 + 12566.15169998280 * t ); X0 += 0.00561144206*Math.cos( 0.00000000000 + 0.00000000000 * t ); … VSOP87 VERSION A1 EARTH VARIABLE 1 (XYZ) *T**0 843 TERMS HELIOCENTRIC DYNAMICAL ECLIPTIC AND EQUINOX J2000 1310 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -0.00001522262 0.99982928833 0.99982928844 1.75348568475 6283.07584999140 1310 2 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.00814054703 -0.00187001868 0.00835257300 1.71034539450 12566.15169998280 1310 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.00000000000 0.00561144206 0.00561144206 0.00000000000 0.00000000000 …

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43 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ あとは、各惑星毎のxyz座標を、特定時刻毎に求めれば、惑星 の公転軌道が計算できます 今回開発したシミュレータでは、太陽系8惑星の特定時刻位置 を変化させ、軌道を見れます (太陽系の拡大・縮小も可能)

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44 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ 下記の式で計算した座標は、3次元で取得されます… …ということは… function earth( t ) { … var X = X0 + X1 * t + X2 * t2 + X3 * t3 + X4 * t4 + X5 * t5; var Y = Y0 + Y1 * t + Y2 * t2 + Y3 * t3 + Y4 * t4 + Y5 * t5; var Z = Z0 + Z1 * t + Z2 * t2 + Z3 * t3 + Z4 * t4 + Z5 * t5; return [ X, Y, Z ]; }

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45 5.「VSOP82」から「VSOP87」へ CelestiaやOrbiterのような、3D天体シミュレータの可能性が…

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46 今後の重力プログラミングに 乞うご期待!