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事例ベース意思決定理論による意思決定 のパラドクスの回避 ── Allaisのパラドクスを中心に ── 1

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目次 1. はじめに 2. 期待効用理論の概説 3. Allaisのパラドクスと期待効用理論の問題点 4. 事例ベース意思決定理論の概説 5. 事例ベース意思決定理論によるAllaisのパラドクスの回避 6. 考察と結論 2

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想定読者 経済学部・経営学部生 ▶ 意思決定理論に興味がある学生 ▶ 確率論と統計学の基礎知識を持つ学生 ▶ 数学的な思考に慣れている一般読者 ▶ 3

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用語まとめ EUT (期待効用理論): 確率と効用を用いて意思決定を説明する理論 ▶ CBDT (事例ベース意思決定理論): 過去の経験と類似度を用いて意思決定を説明する理論 ▶ Allaisのパラドクス: EUTの予測と人々の実際の選好が矛盾する現象 ▶ 類似度: 二つの事象や問題がどれくらい似ているかを表す指標 ▶ 独立性公理: EUTの重要な前提の一つ、選好の一貫性を要求する ▶ U値: CBDTにおける選択肢の評価値、類似度加重効用の総和 ▶ 4

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1. はじめに 5

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はじめに 研究目的 ▶ 期待効用理論(EUT)への批判的考察 - 事例ベース意思決定理論(CBDT)によるAllaisのパラドクスの回避可能性の検討 - CBDTの理論的性質の解明 - 6

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はじめに (続き) 期待効用理論(EUT)の問題点 ▶ 規範的理論としての性質 - 理論の前提を満たせない意思決定問題の存在 - 記述的理論としての性質 - 特定の意思決定問題での妥当性の欠如(パラドクスの存在) - 事例ベース意思決定理論(CBDT)の特徴 ▶ 非確率的な意思決定理論 - 類似度と過去の経験(記憶)を用いた意思決定 - EUTとは異なる理論の前提 - 7

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2. 期待効用理論の概説 8

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期待効用理論 期待効用理論(EUT)の基本モデル ▶ - 期待効用最大化による選好順序の決定 - EUTの前提 ▶ 状態空間、確率、選択肢、結果、効用関数 - EUTの公理系 ▶ 1.完備な選好順序 - 2.連続性 - 3.独立性 - 9

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Allaisのパラドクスと期待効用理論の問題点 Allaisのパラドクスの概要 ▶ 問題1: 確実性vs高確率・高利得 - 問題2: 低確率・低利得vs低確率・高利得 - 人々の一般的選好: a1 ≻ a2 かつ a4 ≻ a3 - 10

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Allaisのパラドクスと期待効用理論の問題点(続き) EUTによる分析 ▶ 独立性公理に基づく選好順序: (a1 ≻ a2) ⇔ (a3 ≻ a4) - 人々の選好とEUTの予測の不一致 - EUTの問題点 ▶ 独立性公理の妥当性への疑問 - 確率と効用の単純な組み合わせによる選好決定の限界 - 記述的理論としての説明力不足 - 11

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4. 事例ベース意思決定理論の概説 12

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事例ベース意思決定理論(CBDT) CBDTの基本モデル ▶ - U値最大化による選好順序の決定 - CBDTの前提 ▶ 記憶(事例の集合) 、問題、類似度、選択肢、効用関数 - CBDTの特徴 ▶ 非確率的意思決定理論 - 過去の経験に基づく意思決定 - 類似度による問題間の関連性の表現 - 13

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EUTとCBDTの比較まとめ 比較項目 EUT (期待効用理論) CBDT (事例ベース意思決定理論) 理論の前提 状態空間、確率、選択肢、結果、効用 関数 記憶(事例の集合) 、問題、類似度、選択肢、効用関数 決定原理 期待効用最大化 U値(類似度加重効用)最大化 あいまい性の表現 確率分布 類似度関数 意思決定主体の性向の表現 方法 効用関数の形状(リスク回避度等) 記憶内容、類似度関数、効用関数の組み合わせ 公理系 完備性、連続性、独立性 弱順序、結合、連続性、多様性、事例独立性、特定化 応用可能な意思決定問題 確率分布が明確な問題(金融、保険等) 複雑で確率分布が不明確な問題(経営判断、消費者行 動等) 動学化の方法 ベイズ更新による確率の修正 新たな事例の追加による記憶の拡張 認知的妥当性のアプローチ 「あたかも」EUTに従うように行動 意思決定者の認知プロセスに即した模倣 14

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5. 事例ベース意思決定理論によるAllaisのパラドクスの回避 15

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Allaisのパラドクス フランスの経済学者Maurice Allaisが1953年に提示した、期待効用理論(EUT)の予測と人々の実際の選好が矛盾する現象 ▶ 2つの選択問題を考える: ▶ 問題1:確実性 vs 高確率・高利得 - 以下の2つの選択肢のうち、どちらを選びますか? - a1: 確実に100万ドルを得る - a2: 89%の確率で100万ドル、10%の確率で500万ドル、1%の確率で0ドル - 多くの人は a1 を選ぶ - 問題2:低確率・低利得 vs 低確率・高利得 - 以下の2つの選択肢のうち、どちらを選びますか? - a3: 11%の確率で100万ドル、89%の確率で0ドル - a4: 10%の確率で500万ドル、90%の確率で0ドル - 多くの人は a4 を選ぶ - 16

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パラドクスの本質 パラドクスの意味 EUTによれば、問題1でa1を選ぶ人は問題2でa3を選ぶはず ▶ しかし、実際には多くの人が問題1でa1を、問題2でa4を選ぶ ▶ EUTの独立性公理によれば、共通の結果(この場合、89%の確率で得られる結果)を除去しても選好は変わらないはず ▶ しかし、実際の人々の選好は変化する - EUTが人間の実際の意思決定を正確に記述できていない可能性を示唆している ▶ 特に、確実性効果(確実な結果を過大評価する傾向)をEUTが捉えきれていないことを示している ▶ 17

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事例ベース意思決定理論によるAllaisのパラドクスの回避 CBDTによるAllaisのパラドクス分析 ▶ 類似度の定式化: コサイン類似度の使用 - 記憶の定式化: 形式の事例集合 - U値の計算例 - 分析結果 ▶ CBDTによる選好順序: a1 ≻ a2 かつ a4 ≻ a3 - EUTとは異なり、人々の一般的選好と一致 - 18

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事例ベース意思決定理論によるAllaisのパラドクスの回避(続き) CBDTがAllaisのパラドクスを回避できる理由 ▶ 問題1と問題2を質的に異なるものとして扱える - 記憶内の事例との類似性に基づく柔軟な評価 - 独立性公理に縛られない選好順序の導出 - 19

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6. 考察と結論 20

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まとめ EUTの問題点の再確認 ▶ 独立性公理に起因する選好順序の硬直性 - 記述的理論としての説明力不足 - CBDTの利点 ▶ Allaisのパラドクスの回避 - より自然な選好順序の導出 - 経験と直面する選択との類似性に基づく柔軟な意思決定 - 21

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まとめ 結論 ▶ CBDTはAllaisのパラドクスを回避可能 - CBDTはEUTよりも自然に選好順序を表現可能 - CBDTの意義 ▶ EUTの限界を克服する新たな意思決定理論のパラダイム - 複雑な意思決定問題への応用可能性 - 今後の課題 ▶ EUTの他のパラドクスに対するCBDTの適用可能性の検討 - CBDTの更なる理論的発展と実証研究の必要性 - 22

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総括 EUTは独立性公理により、Allaisのパラドクスを説明できない ▶ CBDTは類似度と記憶を用いて、より柔軟な意思決定モデルを提供 ▶ CBDTはAllaisのパラドクスを自然に回避でき、人間の直感的判断と整合的 ▶ CBDTは複雑な意思決定問題への新たなアプローチを提供する可能性がある ▶ 今後、CBDTの理論的発展と実証研究が必要 ▶ 23