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オープンサイエンスの視点から 見た理科教育研究のあり方 日本体育大学 雲財 寛 日本理科教育学会第71回全国大会 2021/9/19 13:05 – 15:05 H会場 課題研究「より確かな知見を導く研究方法論の検討」

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市民科学 ギャラクシーズー 2 • 2007年~2009年に天文学の研究者が始めた プロジェクト • 自動で撮影された銀河の画像の分類をボラン ティアにやってもらった • この調査によって1億5000万回以上の分類が なされた • ボランティアの業績から22編の科学論文が 生まれた (ニールセン,2013) 科学研究を市民と協働したことによって科学的発見が生まれた Galaxy ZooのWebページ( https://www.zooniverse.org/projects/zookeeper/galaxy-zoo/ )

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日本の市民科学の例 雷雲プロジェクト 3 引用:https://fabcafe.com/jp/magazine/kyoto/raiun2021_plan

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ちょっと暗い話 再現性の危機 4 ●再現性:同じ手続をすれば同じ結果が現れること ●他の科学者の実験結果を再現しようとして失敗したことがあるのは70%以上 自分自身の実験結果の再現に失敗した経験があるのは50%以上 (Baker,2016)n = 1,576 ●教育のトップジャーナル100誌の過去5年間の掲載論文(164,589編)のうち 追試をした論文は0.13%(221編)。このうち67.4%が追試に成功している。 ただし別の著者による追試だと成功したのは54%(Makel & Plucker, 2014)。 ●なぜ再現性の危機が起こっているのか? ー問題のある研究実践(QRPs)が行われているから ーHARKing:データを見てから仮説を作ること ーp-hacking:有意差が現れるように意図的に p 値をいじること など 引用:Nature ダイジェスト(Vol. 13 No. 8, doi : 10.1038/ndigest.2016.160822)

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オープンサイエンスとは何か 5 オープンサイエンスとは(UNESCO,2021) 1)科学的知識を誰もが利用でき,アクセスでき,再利用できるようにすること 2)科学と社会の利益のために科学的協働と情報共有を促進すること 3)科学的知識の創造,評価,コミュニケーションのプロセスを従来の科学コミュニティを超えた 社会的主体に開放すること を目的とした様々な運動と実践を組み合わせた包括的な概念 科学の透明性と公共性を促進する運動と実践

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なぜ,オープンサイエンスなのか? 6 ●新たな知識の創出 ー多様な立場,専門領域,職種の人が集まることで新たな視点が生まれる ー新たな視点をもとに新たな知識が生まれる ●頑健な知識の創出 ー透明性の高い研究活動を推進することは研究不正の防止につながる ー「その知見が確からしいかどうか」をみんなで検証していけるように ●格差の是正 ー誰もが科学の恩恵を受けることができるように

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オープンサイエンスの分類体系 7 引用:https://www.fosteropenscience.eu/foster-taxonomy/open-science

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本日の内容 8 ●オープンアクセス ー情報のアクセシビリティを高めよう ●オープンデータ ー研究に使用したデータを公開して,みんなが使えるようにしよう ●オープンコラボレーション ーいろいろな人とコラボしよう

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オープンアクセス 9 オープンアクセスとは 学術雑誌や学術論文を誰もがインターネットを通じて無償で自由に閲覧できる状態 オープンアクセスの種類 ーゴールド:著者が論文投稿料を支払って公開 ーグリーン:著者が最終稿をプレプリントサーバーやリポジトリにアップして公開

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『理科教育学研究』では(露骨な宣伝) 10 https://doi.org/10.11639/sjst.sp20016

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Journal of Research in Science Teaching では 11

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オープンアクセスと理科教育研究 12 ●日本理科教育学会の刊行物のうちインターネットで閲覧可能なもの ー『理科の教育』: 0 / 830巻 ー『日本理科教育学会研究紀要』:0 / 約120編 ー『理科教育学研究』:375 / 約700編(J-STAGEの絞込による数字なので,実際は違うかも) ●オープンアクセスに向けて(お金やリソースの話は一端抜きにして) ー本学会の知見を広く社会に発信しているとは言えない状況にある ー発信力を高めることは社会的信用を得ることにもつながる ー著作権が切れたものについては,インターネット上に公開してもいいのでは?

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本日の内容 13 ●オープンアクセス ー情報のアクセシビリティを高めよう ●オープンデータ ー研究に使用したデータを公開して,みんなが使えるようにしよう ●オープンコラボレーション ーいろいろな人とコラボしよう

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オープンデータ 14 ●オープンデータとは 研究に使用したデータセットを自由に閲覧できる状態に置くこと ●オープンマテリアルとは 研究に使用した調査問題,質問紙,ワークシートなどの資料を公開すること ●近年の取り組みとして ーオープンデータやオープンマテリアルの論文にバッジを付与する(Kidwell et al., 2016)

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バッジはこんな感じ 15 オープンデータ オープンマテリアル https://doi.org/10.1177/0956797621991142

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バッジを導入するとOD・OMが促進される 16 Kidwell et al. (2016) オ ー プ ン デ ー タ の 割 合 バッジの導入 Psychological Science はバッジを導入して,2015年上半期の論文の40%がOD・OMになった バッジの導入 オ ー プ ン マ テ リ ア ル の 割 合

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なんかもう1つあるけど 17 オープンデータ オープンマテリアル なにこれ?

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事前登録 18 ●事前登録とは ー研究で検証する仮説, 方法,解析の内容などをデータ収集の前に明確にして,第三者機関に登録すること。 ー一旦登録されたらタイムスタンプとともに確定されるため,登録情報の修正や変更はできない。 ●事前登録の必要性 ー問題のある研究実践(HARKing,p-hackingなど)を抑制する ●事前登録の副次的効用 ー研究計画の不備を見出し,修正し,整理することができる 長谷川ら(2021)

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事前登録の方法は長谷川ら(2021)が参考になる 19 https://doi.org/10.4992/jjpsy.92.20217

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Open Science Framework (OSF) について 20 ●無料でアカウントが作成可能 ●主な機能 ープロジェクトの管理 ー事前登録 ーデータ・ファイルの管理・公開 ーDOIの付与 ー匿名化して査読者に限定公開 など https://doi.org/10.17605/OSF.IO/YSTC4

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オープンデータと理科教育研究 21 ●理科教育研究という視点から考えてみる ー調査問題,質問紙,ワークシートなどのマテリアルを公開する 実態調査や授業実践などの追試がしやすくなる ー開発した教材の実験動画を公開する 教材研究の追試がしやすくなる ー研究で使用したデータセットを公開する 二次分析ができるようになる より確かな知見を 積み重ねていくことができる

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オープンデータを阻害する要因 22 ●誤りを指摘される恐怖:「色々公開して,分析の誤りを指摘されたら嫌なんだが」 ー「誤った知見が広まる恐怖」と天秤にかけてみる ーどの論文も重箱の隅をつつけば妥当とはいえない箇所が出てくる。無謬主義から脱却しよう ●データに対する歪んだ愛情:「苦労してとったデータなので公開したくない。これは私だけのものだ」 ーなんのために研究をしているのか,自問してみよう ーもしやりたい分析があったら,早めに事前登録しておくと先取権を主張できる ●二次分析に対する偏見:「二次分析で自分のデータが使われるのはなんか嫌なんだが」 ー誰かが新しい視点から分析することで,新しい知見が生まれるかも。それは研究者コミュニティにとって嬉しいこと

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本日の内容 23 ●オープンアクセス ー情報のアクセシビリティを高めよう ●オープンデータ ー研究に使用したデータを公開して,みんなが使えるようにしよう ●オープンコラボレーション ーいろいろな人とコラボしよう

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オープンコラボレーション 24 ●オープンコラボレーションとは 職種,組織,分野,世代などを超えた集団による協働的な研究活動 (例.ギャラクシーズー,雷雲プロジェクトなど) ●オープンコラボレーションにおける重要要素 ー人脈 :知り合いからの紹介だと安心する。もちろんインターネットで募集してもいい。 ー連絡のインフラ :メーリングリスト,Facebookグループ,Slackなど。使用のサポートも含めて。 ー目的の共有 :何をしたいのか,何を目指すのか,目的を共有する(◯◯をテーマにした論文を書く,など)。 ー定期的なイベント:読書会,勉強会,雑談会など,コミットメントが持続できる企画を続けていく。 ー心理的安全性 :価値の多様性を尊重し,建設的な議論ができる文化・雰囲気を醸成する。

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オープンコラボレーションと理科教育研究 SJSTオンラインコミュニティ 25 コンセプト:対話と共有 活動内容: ー実践の共有,相互フィードバック ー文献・イベント情報の共有 ー共同研究者の募集 参加人数:58 人(2021年9月13日時点) ※ 画像はイメージです

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参加を促進するための取り組み 26 5/22 キックオフセミナーの開催 フライヤーの公開

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実際のやりとり 27 実践の概要 フィードバック 板書 板書 フィードバックへの返信

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運営所感(n = 1) 28 ●研究者と現職教師の双方にメリットがある ー研究者のニーズ :学校現場がどうなっているか知りたい ー現職教師のニーズ:研究方法論を知りたい,授業実践を共有したい ●コミュニティを活性化させていくための仕組みづくりが必要 ー定期的なコンテンツとして,『理科の教育』の感想を交流する場を試験的に作成 ー支部大会,全国大会に合わせた企画を考えていきたい

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本発表で伝えたいこと 29 オープンアクセス 『理科の教育』や『理科教育学研究』へのアクセシビリティを高めよう(お願いします) オープンデータ OSFを使って,データやマテリアルを公開しよう オープンコラボレーション いろんな人といろんな研究をしよう オープンサイエンスは かっこいいぞ

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引用・参考文献 30 Baker, M. (2016). 1,500 scientists lift the lid on reproducibility. Nature News, 533(7604), 452. 長谷川龍樹, 多田奏恵, 米満文哉, 池田鮎美, 山田祐樹, 高橋康介, & 近藤洋史. (2021). 実証的研究の事前登録の現状と実践── OSF 事前登録チュートリアル──. 心理学研 究, 92-20217. Kidwell, M. C., Lazarević, L. B., Baranski, E., Hardwicke, T. E., Piechowski, S., Falkenberg, L. S., ... & Nosek, B. A. (2016). Badges to acknowledge open practices: A simple, low-cost, effective method for increasing transparency. PLoS biology, 14(5), e1002456. Makel, M. C., & Plucker, J. A. (2014). Facts are more important than novelty: Replication in the education sciences. Educational Researcher, 43(6), 304-316. 中村大輝, 原田勇希, 久坂哲也, 雲財寛, & 松浦拓也. (2021). 理科教育学における再現性の危機とその原因. 理科教育学研究, 62(1), 3-22. ニールセン,M,高橋洋訳(2013)『オープンサイエンス革命』紀伊國屋書店. 小野英理. (2019). オープンサイエンスの概説と展望. システム/制御/情報, 63(3), 101-106. UNESCO(2021). Draft text of the UNESCO Recommendation on Open Science, (https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000378381.locale=en )(2021/9/18閲覧)