Slide 1

Slide 1 text

NFTとは何ではないか Yuta Okamoto (@okapies), 2021/12/21

Slide 2

Slide 2 text

目次 ● NFT とは何か ● NFT が生み出す機会とリスク ● ブロックチェーンはどこから来たか ● NFT とは何ではないか ● NFT をどう活用するか ● まとめ

Slide 3

Slide 3 text

NFTとは何か ● 暗号通貨とは何か ● ブロックチェーンの仕組み ● NFT の仕組みとその事例

Slide 4

Slide 4 text

ビットコイン(暗号通貨)とは何か https://youtu.be/Gc2en3nHxA4

Slide 5

Slide 5 text

まとめると… ● 銀行を介さずにお金を取引できる分散型の電子貨幣 ● 一般に取引所を通じて入手し、ウォレット(財布)に入れて管理する ● マイナー(採掘者)が取引の検証を担い、その対価として報酬を得る ● 検証済みの取引は公開の分散型台帳に追記され、誰でも見ることができる ● オープンソースソフトウェアであり、特定の国や銀行などの管理を受けない

Slide 6

Slide 6 text

ブロックチェーン ビットコインの分散型台帳を実現する仕組み。 ● この仕組みを流用したオルトコインと呼ばれる派生通貨が何千種類もある 経済産業省: 平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術 を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料

Slide 7

Slide 7 text

分散型台帳 「A さんは B さんに ◯◯ BTC 送った」という取引(トランザクション)を記 録し続ける帳簿(データベース)であり、過去に行われた世界中の全ての取引が ブロックチェーン上に記録され公開されている。 A B 0.10 BTC B C 0.05 BTC D A 0.20 BTC E F 3.00 BTC … … …

Slide 8

Slide 8 text

実際の取引の様子 https://www.blockchain.com/explorer

Slide 9

Slide 9 text

「分散型」とは? ● 中央集権型 ○ 一つの主体 (X) が集中管理する ○ X の例: 金融当局、銀行、… ● 分散型 ○ 互いに独立した管理者を持つ複数の コンピュータが連携して管理 経済産業省: 平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロック チェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料

Slide 10

Slide 10 text

● 分散型台帳には中央管理者がいないので、悪意あるユーザに台帳を改ざんさ れるリスクがある ○ 過去の支払いを台帳から削除して、ウォレットの残高を再利用する(二重支払)など ● ブロックチェーンでは、マイニング(採掘)と呼ばれる作業を通じて取引の 正当性を検証する ○ ブロックチェーンを維持するため、マイニングへの協力者に報酬が支払われる ○ マイニング報酬を目当てにコンピュータ資源を提供するユーザをマイナー(採掘者)と呼ぶ ブロックチェーンとマイニング

Slide 11

Slide 11 text

● ブロックチェーンは、その名の通り、ある期間に行われた取引をブロックに 入れて時系列順に繋げたもの ブロックをチェーンに追加する #41 A B 0.10 BTC B C 0.05 BTC #42 D A 0.20 BTC ・・・

Slide 12

Slide 12 text

● ブロックチェーンは、その名の通り、ある期間に行われた取引をブロックに 入れて時系列順に繋げたもの ● 誰でもチェーンに新しいブロックを追加できる。ただし: ○ そのままでは既にあるブロックと「形」が合わず繋ぎこめない ○ ブロックの「形」を整えるために、非常に難しい数学的パズルを解く必要がある ブロックをチェーンに追加する #43 E F 3.00 BTC #41 A B 0.10 BTC B C 0.05 BTC #42 D A 0.20 BTC ・・・

Slide 13

Slide 13 text

● パズルを解いて「形」を整え、新しいブロックをチェーンに繋ぎこむ作業を マイニングという ○ 世界で一番最初にパズルを解いたユーザに報酬が与えられる ○ マイニングは全世界との競争なので、より多くのコンピュータ資源と電力を持つユーザが有 利(マイニングは環境破壊に繋がる、という批判はコレが原因) マイニングによる検証 #43 E F 3.00 BTC #41 A B 0.10 BTC B C 0.05 BTC #42 D A 0.20 BTC ・・・

Slide 14

Slide 14 text

● 分散型台帳は誰でも書き換えられるので、悪意あるユーザが過去の取引を削 除してお金を使わなかったことにできる。しかし: ○ ブロックを書き換えるとそのブロックの「形」が変わってしまい、後ろに繋がるブロックの パズルを全て解いて整合性を取り直す必要がある ○ 解き直す間にも正規のブロックは増えていくので追いつけず、改ざんは現実的でない 二重支払の防止 #43 E F 3.00 BTC #41 A B 0.10 BTC - - - ・・・ #42 D A 0.20 BTC

Slide 15

Slide 15 text

スマートコントラクト ブロックチェーン上でプログラムを実行する仕組み。 ● 単純な送金だけでなく、より複雑な「取引」を自動的に実行できる ○ ユーザはプログラムを自由に登録でき、これを使ってブロックチェーン上で様々なサービス を展開できる ● スマートコントラクト・アプリケーションの例: ○ ブロックチェーン上でお金を貸して利息を取る(DeFi; 分散型金融) ○ 既存のブロックチェーン上で新たな暗号通貨(トークン)を創設して取引する ○ NFT(Non-Fungible Token; 非代替性トークン)を作って取引する

Slide 16

Slide 16 text

NFT(非代替性トークン) ブロックチェーン上でトークンの目録を管理できるスマートコントラクト、ある いはそこで管理されるトークン自身のこと。 このトークンには様々なモノを紐付けられる: ● 物理的な資産: 不動産やアート作品など ● 仮想的な蒐集物: トレーディングカードなど ● 負債: ローンなど 非代替性とは、それまでの暗号通貨とは異なり、 トークン同士をそれぞれに割り振られた識別子で 区別できる、という意味。詳しくは後述。

Slide 17

Slide 17 text

NFT のデータ構造 NFT は一意な識別子・保有者・メタデータ(NFT を紐付けた対象についての説 明書)の3つの情報からなり、その一つ一つがブロックチェーン上に記録される。 識別子 保有者 メタデータ 1 A { “名前”: “作品A”, …} 2 B { “名前”: “作品B”, …} 3 C { “名前”: “作品C”, …} … … …

Slide 18

Slide 18 text

NFT の保有権とその移転 ユーザは個々の NFT を排他的に保有でき、また他のユーザと取引できる。 識別子 保有者 メタデータ 1 A { “名前”: “作品A”, …} 2 B → A { “名前”: “作品B”, …} 3 C { “名前”: “作品C”, …} … … …

Slide 19

Slide 19 text

通常の暗号通貨(代替性トークン)との違い 通常の暗号通貨トークンは台帳に保有者と残高の情報のみを保持する。これらの トークンは個々の識別子を持たず、メタデータもつけられない。 保有者 残高 A 100 B 10 C 42 … …

Slide 20

Slide 20 text

NFT で実現できる(とされている)こと ● デジタルデータに希少性や唯一性を与え、経済的な価値を持たせる ● デジタルデータの偽造や複製、改ざんを防ぐ ● 希少性を与えられたデジタルデータを売買し、その取引履歴を残せる ● 二次流通したデジタルデータから得られる利益の一部を著作者に還元するな ど、スマートコントラクトならではの仕組みを作り込める

Slide 21

Slide 21 text

NFT 市場の盛り上がり NFT Charts: Transactions, Users and Trading Volumes より

Slide 22

Slide 22 text

NFT ビジネスの事例 ● Beeple: “Everydays: the First 5000 Days” ● 最初のツイート ● Crypto Punk #7804 ● CryptoKitties ● NBA Top Shot ● 仮想空間の土地売買

Slide 23

Slide 23 text

Beeple: “Everydays: the First 5000 Days” 無名作家の NFT デジタルアートが、 オークションハウス「クリスティー ズ」で 6,900 万ドル(約 75 億円) で落札。 BeepleのNFT作品が75億円で落札、アート界に変革の兆し - jp.techcrunch.com より

Slide 24

Slide 24 text

最初のツイート ツイッター創業者 Jack Dorsey の初 ツイートの NFT が競売にかけられ、 219 万ドル(約3億円)で落札。 https://twitter.com/jack/status/20

Slide 25

Slide 25 text

Crypto Punk #7804 CryptoPunks という 10,000 枚の デジタルアイコンのコレクション。 その中の 7804 番のアイコンが 4200 ETH(約8億円)で取引された。 https://www.larvalabs.com/cryptopunks/details/7804

Slide 26

Slide 26 text

CryptoKitties ブロックチェーン上で「猫」のデー タを交配させたり、売買できるゲー ム。最高額の Kitty は 600 ETH(約 2,000 万円)で取引された。 https://www.kittyexplorer.com/prices/

Slide 27

Slide 27 text

NBA Top Shot NBA が CryptoKitties の開発元と協 業して発行している NFT トレーディ ングカードで、試合中の名場面をカ ード化している。これまでの最高額 は 23 万ドル(2,600 万円)。 https://nbatopshot.com/moment/easyaces+c1c29a9a-327f-47fe-a570-f4bd806b1ae3

Slide 28

Slide 28 text

仮想空間の土地売買 Axie Infinity というブロックチェー ンゲームにおいて、ゲーム内の仮想 の土地が 550 ETH(約 2.7 億円) で売買された。 https://twitter.com/AxieInfinity/status/1463876867245625346

Slide 29

Slide 29 text

まとめ: ● 暗号通貨は、お金の取引を分散型台帳(ブロッ クチェーン)で管理するシステムである ● NFT はスマートコントラクトの一つで、トーク ンの排他的な保有や取引を表現できる ● 近年、NFT の取引が活発になり、驚くような高 額で売買されることも増えている

Slide 30

Slide 30 text

NFTが生み出す 機会とリスク ● NFT が生み出す機会 ● NFT が抱えるリスク

Slide 31

Slide 31 text

NFT が生み出す機会 ● 新たなアート市場の創造 ● スマートコントラクトを活用した柔軟な売買スキームの実現 ● 暗号通貨への投機的資金の流入から恩恵を受けられる

Slide 32

Slide 32 text

新たなアート市場の創造 1. 特定会社のビジネス存続に依存せずにデジタル作品を流通できる 2. 作家自身が、既存の仲介業者(画廊やオークションハウスなど)を介さずに 世界中に作品を販売できる 3. ネットを活用したアーティストやコレクターのコミュニティ形成 ただし、1 以外はその実現に必ずしも NFT が必要ではない点に注意(後述)。

Slide 33

Slide 33 text

スマートコントラクトの活用 暗号通貨を使った取引を自動化できるスマートコントラクトをうまく活用するこ とで、追及権の実装など、新たなビジネスモデルを生み出せる可能性がある。

Slide 34

Slide 34 text

追及権の実装 追及権 (resale right) とは、作品が転売されるごとに著作権者が作品の売価の一 部を得られる権利。EU を中心に90カ国以上で導入されている。ただし、日本や 米国、中国等では認められていない。 NFT のスマートコントラクトに同様の仕組みを実装すれば、追及権のない国にお いても、作品が転売されるたびに NFT の発行者が自動的に分け前が得られる仕 組みが作れる。 ただし、法的な追及権も有効な場合に二重取りが発生する可能性がある。

Slide 35

Slide 35 text

投機的資金の流入 暗号資産市場の時価総額は 3.3 兆ドル(約 380 兆円)に達し、日本の国家予算 をゆうに超える規模となっている。 現状、暗号通貨の使いみちは投機に偏っており、値上がりを見込める魅力的な商 材を発売できれば資金が殺到する状況にある。

Slide 36

Slide 36 text

NFT が抱えるリスク ● 詐欺 ○ 一攫千金を狙って品質の低い NFT アートが粗製濫造され、市場に大量供給されている ○ 自作自演による価格の吊り上げやインサイダー取引が容易で、法規制も未整備 ● 課税 ○ 雑所得扱いなら最大 55% 課税される ● マネーロンダリング・テロ資金供与規制 (AML/CFT) との整合性 ○ ソニー生命社員の不正送金、仮想通貨で170億円全額押収 ○ みずほ外為法違反 「犯意なき過ち」が映すテロへの意識

Slide 37

Slide 37 text

GreaterFool.NFT 日本のコミッション支援サービス “Skeb” 創設者が制作・出品した NFT アート。 NFT メタデータ自身が作品の一部を構成 しているのが特徴で、その中で NFT 市場 は Greater Fool Theory(「誰かが高 値で買ってくれるだろう」という共同幻 想)に陥っていると論じている。 73 ETH(約 3,000 万円)で落札後に、 88 ETH で発行者に買い戻された。 https://opensea.io/assets/0x495f947276749ce646f68ac8c248420045cb7b5 e/6462680555690972485237793552020012464748858976424215133539 5501827037390176257/

Slide 38

Slide 38 text

まとめ: ● NFT を活用することで、既存の秩序を離れた新 たなビジネスや市場を創造できる可能性がある ● 一方で、莫大な額の投機的資金が流入し、それ を狙った詐欺的な商材や取引が横行している。 現状、法規制が存在しないこともそれに拍車を かけている

Slide 39

Slide 39 text

ブロックチェーンは どこから来たか ● ビットコイン前史としてのサ イファーパンク運動 ● ブロックチェーンがなぜ必要 (ではない)か

Slide 40

Slide 40 text

ビットコイン前史 ● ビットコイン論文の発表 ○ サトシ・ナカモトが 2008 年に The Cryptography Mailing List に投稿した “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System” という論文で基本的なアイデアが示された ● Cryptography(暗号)メーリングリストとは? ○ 「暗号システムの技術的側面やその社会的影響、輸出規制や暗号規制法のような暗号政策」 について議論するオンラインコミュニティ ○ サイファーパンク運動の拠点となっていたメーリングリストの一つ

Slide 41

Slide 41 text

サイファーパンク (Cypherpunk) 運動 ● 80年代末に始まった草の根の政治運動 ○ 通信やプライバシーの監視を強める政府や企業に暗号技術 (cypher) を用いて対抗し、言論 と経済活動の自由を追求する ○ 暗号技術を用いたソフトウェアの開発・公開(「サイファーパンクスはコードを書く」)や、 暗号技術規制への反対運動などを行ってきた ○ 著名なサイファーパンクに、Wikileaks のジュリアン・アサンジや、Tor(いわゆるダークウ ェブ)や BitTorrent(P2P ファイル共有ソフト)の開発者などがいる ● 代表的な声明: ○ クリプトアナーキスト(無政府主義者)宣言 ○ サイファーパンク宣言

Slide 42

Slide 42 text

ニール・スティーヴンスン ● メタバースという言葉を発明した SF 作家 ● 90年代の作品でサイファーパンク運動を描いた ○ 「クリプトノミコン」「サモリオンとジェリービーンズ」 ● 作中のモチーフ: ○ 政府による私的通信の監視 ○ 民間の電子通貨と、通貨の独占的地位を保ちたい政府との対立 ○ 暗号技術を通じて、通信の秘密・商取引のプライバシー・課税からの自由を実現する

Slide 43

Slide 43 text

中央集権型 vs 分散型 ● デジタル資産のための「改ざんされない取引台帳」が必要なら、単にそれが 可能な中央集権型のマーケットプレイスを開設すればよい ○ もし「デジタル資産のメルカリ」があれば? ● ブロックチェーンの特徴は取引を分散型台帳で管理すること ● しかし: ○ ブロックチェーンでしか実装できない機能要件は存在しない(逆はある) ○ 中央集権型の方が実装が(圧倒的に)容易でトータルの運用コストも安い

Slide 44

Slide 44 text

ブロックチェーンがなぜ必要か ● 機能要件の観点では、本来は中央集権型が優れている ● ブロックチェーンの本質は非機能要件にある ○ 非中央集権性 (decentralization): 特定の国家や企業に支配されない ○ 継続性 (continuity): ある主体がサービス継続できなくなっても他が引き継げる ○ 匿名性 (anonymity): 個人と、その取引履歴を切り離す ● 中央集権型ではない方法で二重支払いを防ぐために暗号技術を用いる ○ 暗号技術の役割は、情報を秘密にするだけでなく情報の改ざんを防ぐことを含む

Slide 45

Slide 45 text

時刻認証(タイムスタンプ) ● ビットコインの元になったアイデアの一つ ○ 信頼できる第三者である時刻認証局が発行した時刻認証(タイムスタンプ)を使うことで、 その時間以前に電子取引があったことを証明できる ○ 電子帳簿保存法に基づき、電子取引の取引情報を保存する際に法的に有効な方法 ○ 今年、時刻認証局の公的な認定制度が発足した(認定事業者: セイコーやアマノなど) ● ブロックチェーンとの違い ○ ブロックチェーンは、信頼できる第三者の時刻認証局を要しない(非中央集権的) ○ 信頼できる第三者の代わりにマイニングで保証する (Proof of Work)

Slide 46

Slide 46 text

ブロックチェーンがなぜ必要ではないか ● ブロックチェーンはデジタル資産の取引を実現する唯一の方法ではない ○ 取引証明だけなら時刻認証方式でも実現できる ○ 初期費用はかかるが、一件 10 円程度なので現在の ETH のガス代より安い ● ブロックチェーンへの支持は機能的優位性によるものではない ○ 本来、分散型台帳は政治的動機によって選択されるものである ○ 非機能要件への支持(非中央集権性、継続性、匿名性、…)と、投機的資金の流入から得ら れる利益への期待が区別されずに語られている現状は踏まえておく必要がある ○ 仮想通貨の高騰が、某国富裕層の資産逃避から始まったことは象徴的

Slide 47

Slide 47 text

まとめ: ● 暗号通貨はサイファーパンク運動を思想的背景 として出てきた技術 ● なぜ「あえて」中央集権型ではなく分散型を選 択するか、その理由を考えてみる必要がある

Slide 48

Slide 48 text

NFTとは 何ではないか ● NFT に関するよくある間違い ● NFT とは何ではないか

Slide 49

Slide 49 text

よくある間違い ● ブロックチェーンは唯一無二の NFT アートを記録している

Slide 50

Slide 50 text

よくある間違い ● ブロックチェーンは唯一無二の NFT アートを記録しているいない

Slide 51

Slide 51 text

作品はブロックチェーン上に存在しない ● ブロックチェーンは作品のメタデータ(へのリンク)を記録している ○ 「NFT アート」というデータは存在しないし、メタデータは作品の説明書に過ぎない ○ 作品データ自身は、普通のウェブサーバや IPFS 等のファイル共有サービスに置かれる - 名前 - 説明 - サムネイル - … メタデータ https://example.com/work_001.json 作品データ ※ NFT 自体に作品データを入れ込むこと (オンチェーン)は可能だが、データ量が増 えると登録手数料が高額になり現実的でない。

Slide 52

Slide 52 text

● 現行の民法では、NFT を買っても作品の所有権や著作権は移転しない ○ 大前提として、デジタルデータは無体物なので法的な所有権の対象ではない ○ 「NFT 法」の制定を待つか、NFT の取引とは別に明示的に契約を結ぶ必要がある NFT を取得しても作品は所有できない - 名前 - 説明 - サムネイル - … https://example.com/work_001.json 作品データ 取引できるのは NFT 自身だけ メタデータ

Slide 53

Slide 53 text

法的な所有権の例: 不動産 ● 公示の原則(民法第177条) ○ 不動産取引は売り主と買い主の合意だけでは十分でなく、登記をしなければ第三者の権利主 張に対抗できない ● Q. 不動産に紐付けた NFT は登記の代わりになるか? ○ A. ブロックチェーンは不動産登記法などに定められた登記簿ではないので、不動産 NFT を 売買しても権利主張はできない ● 法の裏付けのない所有権の主張は無効、という原則を理解する必要がある (「デジタル所有権」などという権利はない)

Slide 54

Slide 54 text

NFT で実現できる(とされている)こと【再掲】 ● デジタルデータに希少性や唯一性を与え、経済的な価値を持たせる ● デジタルデータの偽造や複製、改ざんを防ぐ ● 希少性を与えられたデジタルデータを売買し、その取引履歴を残せる ● 二次流通したデジタルデータから得られる利益の一部を著作者に還元するな ど、スマートコントラクトならではの仕組みを作り込める

Slide 55

Slide 55 text

NFT で実現できる(とされている)こと【再掲】 ● デジタルデータに希少性や唯一性を与え、経済的な価値を持たせる ● デジタルデータの偽造や複製、改ざんを防ぐ ● 希少性を与えられたデジタルデータを売買し、その取引履歴を残せる ● 二次流通したデジタルデータから得られる利益の一部を著作者に還元するな ど、スマートコントラクトならではの仕組みを作り込める 本当に?

Slide 56

Slide 56 text

NFT は複製できる 一つの対象に対して何個でも NFT を発行(紐付け)できる。希少性が保たれる かは発行者の意向と契約次第。 - 名前 - 説明 - サムネイル - … 作品データ - 名前 - 説明 - サムネイル - … - 名前 - 説明 - サムネイル - … - 名前 - 説明 - サムネイル - …

Slide 57

Slide 57 text

NFT はトークンの保有者を記録する仕組みに過ぎないので、トークンが紐付く対 象のデジタルデータは容易に複製できる(NFT に DRM 機能はない)。 作品データも複製できる - 名前 - 説明 - サムネイル - … https://example.com/work_001.json メタデータ

Slide 58

Slide 58 text

NFT は偽造できる 他人の所有物や著作物の NFT を無断で発行して売買できる。ブロックチェーン の仕組み上、削除も難しい。 - 名前 - 説明 - サムネイル - … メタデータ https://example.com/monalisa.json 例の有名な微笑

Slide 59

Slide 59 text

NFT は改ざんできる メタデータには URL しか書いていないことが多いので、対象の作品データが改 ざんされたり、保存されているサービスが無くなったりするリスクがある。 - 名前 - 説明 - サムネイル - … メタデータ https://example.com/work_001.json ??? IPFS に保存するなどの方法で回避できる が、購入者が見分ける必要がある。

Slide 60

Slide 60 text

所有感の売買 現在の NFT は、所有権ではなく所有感を売買するビジネスだと言える。 ● 「所有感」を売買するビジネスの例: ○ 月の土地の権利書 ○ 電子書籍、ゲーム内アイテムの購入・ガチャ ● この事が必ずしも NFT の価値を損なうわけではないが、一般に喧伝されて いるイメージと、その実態には大きく差があることに注意する必要がある

Slide 61

Slide 61 text

まとめ: ● NFT は NFT 自身の保有者を証明できる ● しかし、NFT を保有してもそれが紐付いた資産 に対する法的な権利を保護したり、不正な扱い を技術的に防いだりはできない

Slide 62

Slide 62 text

NFT を どう活用するか ● デジタル会員権としての NFT ● NFT の保有自体に価値を感じ られる体験の提供

Slide 63

Slide 63 text

NFT をサービス利用権として捉える すでに見てきたように、NFT を「資産の所有権」を表すものとする見方は法的根 拠がないだけでなく、技術的観点でも落とし穴が多い。 NFT ができるのは「ユーザがトークンを排他的に保有していることを証明する」 ことでしかない。一方で、それを「サービスや体験を受ける権利」を表すものと して扱えば、いくつかのユースケースが考えられる: ● デジタル会員権としての NFT ● NFT の保有自体に価値を感じられる体験の提供

Slide 64

Slide 64 text

デジタル会員権としての NFT ● 特定のサービスを受ける権利があることを示すために使う ○ デジタルデータのコピーは防げないが、サービスへのアクセス制御はできる ○ 要するにパスワードの代わりだが、それ自体が転売可能である点が異なる ● 例えば、オンラインサロン的な Discord サーバや、作品を設置している VR 空間の有料区画に入る際に示す会員証としての使い方が提案されている

Slide 65

Slide 65 text

NFT の保有自体に価値を感じられる体験の提供 ● Twitter の NFT サポート ○ プロフィール画面にユーザが保有している NFT を表示したり、NFT 保有者であることを示 す特別なバッジが表示される、といった機能の追加を検討しているとされる ● VR アバターのスキンや装飾品 ○ コピーしたスキンを装備するのは誰でもできるが、認証マークが出るのは NFT 保有者だけ、 といった機能をプラットフォームから提供する、とか ● この場合、NFT を活用したサードパーティのサービスが登場し、エコシステ ムとして確立するか否かがカギになる

Slide 66

Slide 66 text

まとめ: ● すでに見てきたように、NFT を「資産の所有 権」として捉えるのは落とし穴が多い ● 転売可能な「サービスや体験を受ける権利」と 考えるのが良さそうだが、そのためには NFT を 活用したサービスのエコシステムが立ち上がる 必要がある

Slide 67

Slide 67 text

まとめ

Slide 68

Slide 68 text

まとめ 暗号通貨は、歴史的には非中央集権型の金融システムを構築するために開発され た技術だが、現状では、必ずしもその思想が踏まえられていない場合も多い。 また「唯一性があり所有できる資産」という発想はデジタルと相性が悪く、NFT の登場でもそこは変わっていない。その上、投機的資金を狙った詐欺的な商材が 横行しており、実態をよく知らずに手を出すのはリスクが高い。 その技術的本質を鑑みるなら、NFT を「資産や作品を所有する権利」ではなく 「サービスや体験を受ける権利」として捉えるのが良さそうに見える。

Slide 69

Slide 69 text

まとめ かつて、サイファーパンク運動の創設者の一人 Eric Hughes は「サイファーパン ク宣言」の中で以下のように述べた: サイファーパンクスはコードを書く。我々はプライバシーを守るために誰かがソフトウェアを書か ねばならないことを知っている(中略)我々の書くソフトウェアを承認しない人がいても構わない。 なぜなら我々はソフトウェアが滅ぼされず、広域分散システムが阻止できないということを心得て いるからだ。 この精神に則れば、ブロックチェーンや NFT のより良い活用を目指すなら、使 い手ではなく作り手として関わっていく必要があると言えるかもしれない。