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ゆる計算理論ラジオ 2023/03/17 giftee TechBash @megane42

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クイズ P = NP? P ≠ NP?

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P = NP だと思った人は ひらめきや創造性を伴う、人間の聖域とも言えるクリエイティブな活動を全て機械で代 替可能だと思ってるってことですよね?

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自己紹介 @megane42 趣味: かっこいいワンタイムパスワード集め

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背景 どんな施策でも実施できる 柔軟なキャンペー ン設計システムを作りたかった 少し考えた結果、オートマトンというやつに 構造が似ている気がしてきた どんな施策でも実施できる ことを数学的に言 えたりしないだろうか なんかチューリング完全的な?

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参考図書 計算理論とオートマトン言語理論 [第2版] 丸岡 章 著

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結論 わからなかった 考えていたシステムがチューリングマシ ン(詳細は割愛)に変換可能であること が言えれば、並大抵のキャンペーンは実 施できそうだったが、その証明が困難だ った 一方、その過程で面白い事柄を学べた P 対 NP 問題

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P 対 NP 問題 P とか NP というのは 問題のクラス (種類)のこと P = NP なのか P ≠ NP なのかで一生揉めている 今のところ P ≠ NP っぽいと思われているが、誰も証明できていない P ⊆ NP であることはわかっている

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クラス P の定義 答えを効率よく見つけられる問題 ざっくりいうと「しらみつぶしに頑張る」より効率的な手段があるタイプの問題

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クラス P の例 ソート クイックソートみたいな効率の良いアルゴリズムが存在する 100 冊のマンガを 1 巻から順に並び替えたいときに、「全ての取りうる並び順を洗 い出したあと、順番に並んでいるパターンが見つかるまでしらみつぶしにチェック する」みたいなことはしない

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クラス NP の定義 答えの検証だけは効率よくできる問題 効率的に解けるかどうかについては触れていないことに注意 まず答えの検証が効率良くできたら、その問題はクラス NP 更に答えの探索が効率良くできたら、その問題はクラス P

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クラス NP の例 パズル(ハミルトン閉路問題) 与えられたグラフの全点を 1 度ずつ通って最初の点 に戻ってくるような経路は存在するか? 答えが与えられたら、その答えの検証は簡単にでき るので、クラス NP 今のところ効率よく解く方法は見つかっていない 取りうる経路のパターンを全て列挙してチェッ クするしかない 見つかってないだけで存在するかもしれない

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P 対 NP 問題 再掲 P = NP ? P ≠ NP ? ハミルトン閉路問題のような NP 問題に対して、効率良い解き方が 存在するけど人類が まだ見つけてないだけなのか (P = NP なのか) どうかが一生わかっていない

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身近な NP 身の回りの問題は、実は NP であることが多い 全てのバイトの希望を満たすシフト表の作成 タンパク質の構造の最適化 ロジスティクスの最適化 P = NP が判明すれば、世の中が劇的に変わる(効率が良くなる)

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帰着と NP 完全 一般に、ある問題を変形して別の問題に置き換える(帰着させる)ことができる NP 完全 な問題とは、任意の NP 問題をそれに帰着できるような問題のこと NP 問題の母みたいなことです NP 完全問題のうち 1 つでも P であることが証明できると、たちどころに全ての NP が P であることが言える (すなわち P = NP) 実は ハミルトン閉路問題は NP 完全 他にも NP 完全問題がたくさん見つかっている が、そのいずれも効率的なアルゴリズムが一生見つかっていない・・・

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NP 問題と創造性 (1) 数学の定理の証明 ある定理の証明が与えられたときに、それを検証するのは簡単 NP 問題の定義を満たすので、数学の定理の証明は NP 問題

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NP 問題と創造性 (2) 良い俳句をつくる ある俳句が与えられたときに、それがグッと来るかどうか検証するのは簡単 NP 問題の定義を満たすので、俳句の作成は NP 問題

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NP 問題と人間 人間は全パターンを洗い出したりしないけど、正解を見 つけることがある この世の定理全ての組み合わせを列挙したりせずに 定理の証明を思いつく 17 文字の 50 音全ての組み合わせを列挙したりせず に良い俳句を思いつく 人間は ひらめき という神秘的な能力で答えを見つける ことができる もし P = NP だとすると、人間のひらめきに大した価値 が無い気がしてきませんか?

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まとめ 名前しか知らなかった「P 対 NP 問題」について、解像度が高まった 効率の良い解き方が存在はするけど、人類が見つけられてないだけ? もし P = NP だった場合、世の中のいろいろな問題が一挙に効率化されてしまう 特に NP 完全問題が狙い目 もし P = NP だった場合、人間の持つ「ひらめき」という神秘的な能力の価値が低くなる 気がする

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寄り道: 「効率が良い」の定義 効率が良い = 入力のサイズ n に対して、n の多項式時間で解ける 例: n 冊のマンガを並べ替えたいとき 最低でも n^2 ステップで並べ替えができる方法 → 効率が良い 最低でも 2^n ステップで並べ替えができる方法 → 効率が悪い しらみつぶしに全パターン網羅しようとすると、得てしてパターンは指数関数的に 増えるので、効率が悪い(多分)

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寄り道: NP 問題の別の定義 非決定性チューリングマシン で効率良く解ける問題 非決定性チューリングマシンとは、超ざっくりいうと、同じ入力が与えられたとき のふるまいが一意に決まってないような機械のこと 入力: グラフ ふるまい: どの経路に着目するか 各経路 1 つずつの検証は効率良く行える たまたま正解の経路に着目すれば答えが見つかる ありうる全パターンを同時に並列処理できるなら効率良く解ける、みたいなことを 言っている NP は Non-deterministic Polynomial の略で、Not P ではないです

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参考 計算下界の解明 ー その意義とシナリオ (徳山 豪) https://researchmap.jp/read0065631/misc/31636571 https://researchmap.jp/read0065631/misc/31636564 第14回 P≠NP予想について考える(前編) (辻真吾) https://www.school.ctc-g.co.jp/python/columns/tsuji/tsuji14.html 第15回 P≠NP予想について考える(後編) (辻真吾) https://www.school.ctc-g.co.jp/python/columns/tsuji/tsuji15.html