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2023年 グライダー曲技飛行 世界選手権 1

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今年の参加カテゴリーは Advancedクラスです 2022年に参加したグライダー曲技飛行世界選手権 Unlimitedクラスの競技で成績が揮わず 41,042% 17位/17名 僕自身は引き続きUnlimitedクラスへの参加を希望しましたが 「Unlimited クラスで60%の成績を残せなければ推薦できない」 との事で、本年度はAdvancedでの参戦になりました Unlimitedでの60%以上の成績は10位以上 1位から3位が69%~66% これから先も難しそうですが頑張ります 2

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2023年 トレーニングキャンプと競技日程 EASA学科試験&トレーニングキャンプ ポーランド トルン飛行場 日程:2023年 7月5日~ 7月25日 世界選手権 ポーランド トルン飛行場 日程:2023年 7月26日~ 8月5日 今年はEASAライセンス取得を重要タスクとして追加しまし た!! 3

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競技曲技飛行とは? • 「フィギュア」と呼ばれる曲技飛行科目を 10~15個組み合わせた「シーケンス」を作り • BOXと呼ばれる1辺1000mの立方体で空域で飛行します。 4

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採点方法は? 飛行姿勢、描いたフィギュアの形状を地上の ジャッジが採点して順位が決まります。 「ジャッジが見た物が全て」の世界です 5

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・基礎点は10点満点からの減点方式 ・ループの半径が変わると減点 点数はどうやって計算されるの? ・飛行姿勢が5°ずれると1点減点 ・BOX中央から離れて端っこで飛ぶと減点 ・形が綺麗でないと減点 まぁ、、、事あるごとに減点されまくりです 基礎点、難易度点、ペナルティで計算 6

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フィギュア毎の難易度点(k点)は? • もちろん「簡単なフィギュア」と「難しいフィギュア」では難易度 点が異なり、 各フィギュアのk点はカタログに記載されています。 代用的なフィギュアを見てみると、、、 7

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点数計算方法は、、、 ①各ジャッジが採点した基礎点×難易度点で各フィギュア 毎の点数が決まり、 全てのフィギュアの合計得点が計算されます (不公平が出ないように最高点と最下点は除外される) ②全てのフィギュアの合計点数から 「競技空域(BOX)逸脱」 「競技開始、終了時のウイングロックx3忘れ」 等のペナルティを引いた残りが獲得点数になります。 • 基礎点×難易度点 -ペナルティ 8

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競技科目は何があるの? • 大きく分けて2種類の競技で出来ていて ①選手権期間前に公表されて練習できる 「Free Known」 ②競技会期間中に提示されて“練習無しの一発 勝負“で挑む「Unknown」 9

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EASAライセンス取得 数年前にEASAのテンポラリーライセンスに 関する法が変更になり 1年間有効から28日間有効に短縮されてしま いました。 世界選手権の競技日は10日間なので 練習日はわずか18日間のみ ポーランド国内選手権への参加も出来ない 状況になってしまいました 10

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練習日が制限されると技量維持すら危うい状況 で数年は戦ってきましたが成績も低迷してきた 現状を見ると限界を感じ EASAライセンス取得に踏み切りました。 JCABからEASA(ポーランド)へのコンバートは、 書類集めから始まり、学科試験及び実地試験 を経ての発行になります 欧州各国でコンバート方法は異なり、 各々の国の航空法により定められます 11

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ポーランドでのライセンスコンバートでの必要書類 ・ポーランド航空局への申請書 ・犯罪経歴証明書(要ポーランド語への公式翻訳) ・JCABライセンスのコピー(同じくポーランド語翻訳) ・ログブックのコピー ・実地試験費用を含む申請費用 犯罪経歴証明書の取得は 提出各国で必要な許可が異なりポーランドでは外務省の 許可を得た後に警察署の鑑識課にて発行 この辺が色々と大変でした、、、 12

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申請後の学科試験 申請書類を揃えて提出後に学科試験を受験 ですが、ポーランドで必要とされる学科試験は 航空法とヒューマンパフォーマンス(航空医学)の2科目 試験はポーランド語もしくは英語での受験になります。 学科試験の出題パターンは お勉強して問題を解いていくJCABと 出題される問題が事前にわかっていて1000問位を力任せに 丸暗記するFAAを混ぜたような感じ 過去問題の丸暗記ではギリギリ合格点には届かず 新しい問題が10問程混ぜてあります 13

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実地試験は? グライダーに関しての実地試験は特操が飛べれば十分合格 飛行機に関しては航法まで含まれるので、 3時間程の試験になります。 試験官がグライダーアクロの師匠マクラさんだったので 「さんざん一緒に飛んでるから、今更改めて飛ばなくてもいい んだけどなぁ、、、」 なんて眠い目をこすりながらボヤいていました。 14

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グライダー曳航レーティング 今回、取得したEASAライセンスは、自家用の滑空機と飛行機 滑空機はもちろん練習と競技での日数制限を無くす事で 飛行機はポーランド滞在中の飛行機曳航のお手伝い (狙いは曳航費用もしくは機体レンタル料のディスカウント!!) ここで必要になったのが「グライダー曳航レーティング」 JCABにはグライダー曳航も尾輪式のレーティングが無いので 稲垣理事長にお願いして経歴証明を作って頂き ポーランド航空局に提出してOKいただきました ありがとうございます!! 15

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遠征前半 トレーニングキャンプ 16

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トルンはワルシャワの北西200km おなじみのトルンで トレーニングキャンプを実施 17

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「ただいま トルン!!」 飛行場の宿泊施設は 2ベット ルーム 今年は電波が届かないWi-Fiサービ スは諦めてポケットWi-Fiを設定 最新設備の「冷蔵庫」は格納庫にも配 備されて買い込みOK スーパーに買い出し行って色々作りま した 電熱コンロに鍋と食器で スパゲティ、レトルトカレー&ご飯、 うどん、のおなじみメニューに加え 今年は炊飯器を持ち込みましたが 変圧器で電圧合わせしたけど一撃で 壊れました なぜ?(泣) 18

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1辺1000mのBOXがすっぽり入ります 安定した天候で運航日数14日 日数が少ないのでとにかく回数勝負 49回練習できました。 19

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2023年の使用機は MDM-1 FOX Vne 281km/h 最大荷重倍数 +9g -6g ロールレート はSwiftより遅い L/D 30.0 おなじみのFOXですが純競技機のSwiftには及びません20

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トレーニング風景 今年はJSCホームページのブログへ動画を投稿 させていただきました。 トレーニング開始しました 雨上がりの夕方 Unknown.1 FreeUnknown 21

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遠征後半 グライダー曲技飛行世界選手権 22

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世界選手権開幕 今回はホームであるトルンでの開催なので、トレーニングキャ ンプ同様の練習を行い2日間の公式練習で2回の完熟飛行 2023年のトレーニングは49回で終了 今年は参加10か国 Unlimited 16名 Advanced 34名で競われ ました 23

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FreeKnown シーケンスを組み立て方のポイントは 1000mx1000mの箱に中に収まるように 四角を描くように組み立てる 2番の下り1/4ロールでY軸 3番の下り1/4ロールでX軸 5番の下り1/4ロールでY軸 6番のローリングサークルでX軸 7番の下り1/4ロールでY軸 8番の下り1/4ロールでX軸 に移動します。 フィギュアで難しいのは6番のローリン グサークル90°旋回しながら1回転 ロールからなります 24

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FreeKnown 1087.21点 57.831% 練習を繰り返したFreeknownです がNo.5フィギュアテールスライドが 不運にもサーマルの中に入ってし まい 泡立つような乱流の中で垂直上昇 中に姿勢が乱され、ポジティブテー ルスライドがネガティブ側に倒れて しまいHz(0点) K点が高いフィギュア失敗で泣きの 34位からスタート 挽回するために追いかける展開に なりました 25

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UnKnown 1 練習なしで飛ぶUnknown シーケンスフィギュア数は8個で少なめ No.1フィギュアはスピン1+1/4回転+1/4ロール、 FOXでスコアが取りにくいのはNo.6 背面45°上昇から2x4ポイントロールがあるので ロールレートが遅くエネルギー消費が 大きいFOXだと速度低下で失速近くになります 失速してロール後の水平ラインが作れなければ No.7フィギュアも道連れ ループの下でVneまで加速して5gループ 45°ラインを一瞬作り2x4ロールのアクセントも1 秒だけ ロール後も1秒だけラインを作って水平姿勢、コ ンパクトに作ります 26

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UnKnown 1 1268.02点 65.7% 大きな失敗もなく淡々と飛び 鬼門のNo.6フィギュアも成功しましたが いまいちスコアが伸びずに29位 スコアが伸びなかったのは No.3とNo.6 共通要素は背面45°上昇からのエルロ ンロール 思い当たる要素は背面45°上昇姿勢が 動いてしまっている事です 27

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FreeUnknown 練習なしで飛ぶUnknownの2種目の Freeunknown FreeknownのUnknown版で各国でシーケンス を組み立てて提出して 掲示された各国のシーケンスを見比べてより 良いと思うシーケンスを飛ぶことが出来ます。 シーケンスフィギュアは9個、エネルギー消費 が多い背面系が少し多めなので高度管理が ポイント No.2とNo.7フィギュアはループとロールが合わ さり、更にロールは180°と90°で止める ヘジテーションロール系なので要注意 28

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FreeUnknown 1326.29点 67.324% FreeUnknownもHz等の大きな失敗は無し、 高k点の2番、7番はヘジテーションロール の止め角度で誤差が大きく6点台だったの が残念 エネルギー消費が大きいシーケンス且つ 競技開始が遅れ1100m付近でスタートし た影響もあり 8番開始高度は300m 残り2フィギュアを 下限高度200mまでに押し込みましたが Low判断で減点されていました。 29

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3681.2 61.621% 33位/34名で競技終了となりました 3種目で競技終了となりFreeknownでのHzの影響が大きく 飛行精度の低下もありスコアを伸ばすことが出来ませんでした 最終成績 30

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選手権でのフライトを振り返って Advancedクラスのフィギュアを組み合わせたシーケンスで十分に飛べる内容で 昨年学んだBOX(競技空域)の中央を回るシーケンスの組み立て方を活用して 空域内での位置取りは大きく改善、全科目を通じてポジショニング (シーケンスのBOX内位置取り)は7点以上をキープすることが出来ました 最初のFreeknownでのテールスライドはサーマルに入って機体姿勢を保てず Hz(0点)になる致命的なミス その他の科目でのHzは無く順調に競技を進めましたが k点が20点のテールスライドを失敗した事のダメージは大きく リカバリー出来ずに成績は低迷 運の要素もありますが非常に悔しい思いをしました。 スコアが伸びない理由は背面からの45°上昇姿勢でネガティブGが掛かる フィギュアでロールが入ってしまい斜めに上る悪癖が治せませんでした。 31

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物価高騰と円安の影響が予想以上に大きく、自炊を増やして費用圧縮しましたが わずか1か月の遠征で昨年のフランス遠征とほぼ同額になりました。 2024年は取得したEASAライセンスを活用してポーランドナショナルチームとトルン飛行 クラブのグライダー曳航のお手伝いをして値引き交渉の材料にして費用圧縮を狙います 収支報告 32

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競技中の重大インシデント 今年の世界選手権の競技4種目Unknown2競技中に 事故が発生しました。 高度1200mで離脱後のグライダーと曳航機が同高度 で交錯 グライダーのエレベーターに曳航索が絡み咬みこみ ロックして操縦不能になり墜落 パイロットはベイルアウトしてパラシュート降下 運よく怪我なく生還しました 33

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【事故に至る背景】 通常はHMDと呼ばれる高度測定機器を搭載してジャッジ が高度を監視して競技を行います。 離脱高度は1250m 競技開始高度は1200m 50mの高度を使ってスタートポジションを調整します。 今回の選手権はHMDが無い状況での競技で 高度不正を防止するためにルールは1200mで離脱して すみやかに競技開始になりました。 34

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曳航経路と離脱後のルール 競技中の曳航コースは滑空場の南の空域で1200mまで上昇競 技空域に進入しグライダーは任意の位置で離脱し競技開始 離脱後は曳航機は速やかに右旋回降下で滑空場北側空域で 降下し着陸とブリーフィングで提示されました。 35

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事故の経緯 事故機及び曳航機は1200mへ上昇 後に進路250°で競技空域へ進入し グライダーは離脱 競技空域に進路を合わせるために 右旋回で280°に変針し左右にバン クを取り競技空域内での位置確認 この時にパイロットは曳航機の位置 を認識していなかった 曳航機はグライダー離脱後、地上か らの無線指示により約10秒間250° を維持して飛行 グライダーを切り離してから6秒後の 曳航機の位置 機内動画の左上方約80mに曳航機 が見えます。 36

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離脱16 秒後、 競技飛行を開始して最初のフィギュア(エルロンロール)中に 右旋回降下中の曳航機の下をくぐり曳航ロープに接触 曳航機とグライダーは5mの距離で交錯 37

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俯瞰図 38

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索絡みの状況 リングが付いた牽引ロープの端が尾部に巻き付きエレベーターの継ぎ目 に端部が挟まり 胴体前部を巻いて左翼上面を通る この状態で曳航索が張り右翼取り付け部の隙間に曳航索が入り込み エレベーターを完全に下げた位置にロックした後、大きな衝撃音と共に ヒューズが破断 曳航機の飛行方向が右に約30°変針 39

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索絡み後から脱出、墜落までの状況 グライダーは背面飛行で約 180 度右旋回し、(1/4 背面バレルロール)の 後に急降下飛行への移行 パイロットは脱出しパラシュート降下を行った パイロットが脱出グライダーは重心位置の後退もあり、連続で背面方向 のスナップロールを繰り返し空港南東部に背面状態で墜落した 40

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グライダーの破損状況 連続した背面スナップロール状態で降下したグライダーは 曳航索は機体に絡みついたままの状態で 滑空場の敷地内の南側に右翼、機首、の順に接地し破壊された 41

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脱出したパイロット 機体から脱出したパイロットは緊急パラシュートを展開し降下、 緊急用パラシュートは円形で飛行方向をコントロール出来ない物で 風に流され着陸滑走路中央、東寄りに降下着陸 降下から接地までパラシュートのコントロールは行われず フレアー操作も行われなかったが 踵から接地し滑ることで尻もち状態で停止した。 着陸後のパイロットの安否を確認したところショック状態で呆然としていたが、 幸運にも骨折などの外相は無かったので救急スタッフに引き継ぎました 43

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曳航機の破損状況 グライダーに絡んだ曳航索が張った衝撃により 曳航機の曳航索取り付け部に左方向への応力が掛かり レリーズ取り付け部フレームが変形した 44

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事故原因の考察 通常は1250mで離脱し1200mで競技開始なので競技開始ポイントへの移動、 高度調整で降下する曳航機とのセパレーションはおのずと確立されますが 今回はHMD無しでの競技で「1200mで離脱して速やかに競技開始」の 競技形態になったので降下する曳航機との高度差が確立出来ない状況だった 更に地上のから曳航機へ「そのままの進路を10秒間維持」の指示が出ていた ので曳航での競技空域進入コースが280°競技空域の設定方位が250°で 離脱後にグライダーの左側に曳航機が位置し、 曳航機は右旋回降下による競技空域離脱のルールなので降下コースとグライ ダー進路が交錯した 離脱高度=競技開始高度なので、競技を有利に進めるために 「1mの高度(エネルギー)も失いたくない」と競技者の心理的バイアスが強く働 き離脱後の曳航機の動向の注意が失われた事が原因だと考えています。 45

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競技ルールでの事故なので特殊事例と考えられますが、 普段の運航でも「何らかの理由」により離脱後の 「曳航機は左降下旋回&グライダーは右旋回」の基本 ルールが阻害され、曳航機とグライダーが同方向に旋回 する可能性があります。 離脱後は曳航機とのセパレーションの目視確認が重要 だと再認識しました 今回の事故に直面して思うこと 46

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「曳航中の索絡み」も今回の事故同様に、 機体のコントロールが瞬時に完全喪失する可能性が 高いので、 曳航中の索たるみに十分注意が必要であり 予防措置として、 索たるみからの回復操作の再確認と練習 過度の索たるみの際の離脱判断を考える事が必要だ と考えます 47

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ご支援ありがとうございまし た!! 皆様のからの手厚いご支援で、財布の心配無くトレーニングを行う事が出来ました。 平均6回/日 最大8回/日の高密度トレーニングで技量回復に専念することが出来 ました。 2024年もドイツで開催される世界選手権への参加を予定しており EASAライセンス取得により、トレーニングキャンプ期間の制限が無くなりますので 遠征期間を以前の6週間に戻すことができます この事により練習回数が近年の1.5~2倍になりかつ身体のアクロ順応期間を 十分に取ることが可能になります。 今度ともご支援よろしくお願いいたします!! 48