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図書館における情報技術 高久雅生 (筑波大学 図書館情報メディア系・准教授) [email protected] 1 令和元年度新任図書館長研修 特別講義

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本日のお品書き 1.情報技術の役割 2.図書館における情報技術の活用例 3.ウェブ上のユーザ行動とサービス事例 4.オープンデータの潮流 5.情報セキュリティと安全な情報システ ム 2

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1. 情報技術の役割 • 人々の生活を豊かにする(効能) • 人々の手間を減らす(効率性) • Society 5.0 科学技術基本計画で示された政策目標 狩猟社会 → 農耕社会 → 工業社会 → 情報社会 → Society 5.0 3

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Society 5.0 4 出典:Society 5.0 - 科学技術政 策 - 内閣府 https://www8.cao.go.jp/cstp/ society5_0/

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情報社会におけるICTの役割 • 遠隔からでも優れたサービスやコンテンツを 使える 学習、娯楽、購買(Eコマース) 検索 SNS、コミュニケーション • → AIDA (Attention, Interest, Desire, Action) から AISAS (Attention, Interest, Search, Action, Share) へ • 組織を効率的に運営する 情報をまとめておく 同期的・非同期的なコミュニケーション データに基づく運営 • PDCA:データ収集 → 分析 → 行動 → … 5

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情報社会の現況 • インターネットの普及:10代から50代まで9割以上の 普及率[総務省,2019] • 端末の多様化:スマートフォンが市場シェアの過半数を 占めてから、まだ6~7年ほど… [総務省,2019] • 電子コンテンツの普及:電子書籍の市場規模は2,800億 円超(紙媒体の2割弱)[インプレス総合研究所,2019] • 最近の話題  IoT、AI  デジタルアーカイブ、オープンデータ ※出典: 総務省 (2019). 令和元年度情報通信白書. インプレス総合研究所 (2019). 電子書籍ビジネス調査報 告書2019. 6

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図書館における情報技術の役割 (1) • 情報の拠点としての図書館 場として • ネットワークアクセスを提供する – 今や、インターネットアクセスは市民が情報アクセスするた めの必須の情報インフラとして、そのための環境を提供する – 館内インターネット端末、無線LAN(WiFi)など サービスとして • コンテンツ、資料を提供する – 学習、調べもの、コミュニティ発信 – 最新の情報を活用するための電子コンテンツや学習コンテン ツ、調べものができる環境を提供する – 商用データベースや網羅的な探索ができる環境を提供する – 地域資料等を電子化したデジタルアーカイブを提供して、効 率的な資料調査に資する環境を整える 7

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図書館における情報技術の役割 (2) • 図書館自体の発信ツールとして  ウェブを通じた発信、SNSを通じたコミュニケーショ ン • ウェブの環境下で信頼できる情報を自ら発信する • 図書館サービスを発信する、SNS等のコミュニティを通じて幅 広い利用者層にリーチする  図書館間ネットワーク(連携) • 他の図書館との相互利用、相互貸出や複写利用サービス等、利 用者のニーズに応じて連携可能な情報を発信する • 場合によっては、外部の機関を紹介等して、ニーズに応える  間接サービス(目録、知識データベース) • 利用者のニーズに応えて、必要な調べものができる所蔵情報を データベース化、整備しておく • 場合によっては、地域資料の索引化や展示情報のキュレーショ ン、ブックリスト等をまとめて提供できるようにしておく 8

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情報化社会における図書館の立ち位置 • 来館利用者、地域のコミュニティにおいては、 図書館が持つ情報資源や情報インフラそのも のが重要な拠点となる • 情報社会、特に膨大なネットワーク情報資源 の中では、比較優位性は担保されていないこ とに注意が必要 調べものをしようとして、図書館のウェブサイト を開く利用者はきわめて少数 [De Rosa, 2011] ※出典: Cathy De Rosa, et al. Perceptions of Libraries, 2010: Context and Community. 2011, OCLC. https://www.oclc.org/content/dam/oclc/reports/2010perceptions/201 0perceptions_all_singlepage.pdf 9

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2. 図書館における情報技術の活用例 • 図書館業務と図書館業務システム • 蔵書検索システム(OPAC) • 図書館ウェブサイト • デジタルアーカイブ • 図書館間横断検索システム • 商用データベース 10

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図書館業務システム • 図書館蔵書、利用者情報、貸出・予約情報 を管理する • 受け入れ、目録、統計業務 11 出典:所蔵情報の編集( Next-L Enjuデモサーバ) https://enju.next-l.jp/items/51/edit

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蔵書検索システム(OPAC) • 所蔵資料の情報検索ツール • 所蔵資料をタイトルや著者、主題で検索し て、所在情報を調べられる • 直接予約や リクエスト の機能等も 12 出典:筑波大学附属図書館OPAC https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/opac/complexsearch

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図書館ウェブサイト • 図書館の利用案内、開館カレンダー、イベ ント催し物、統計情報、交通アクセス等 13 出典:筑波大学附属図書館 https://www.tulips.tsukuba.ac.jp

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デジタルアーカイブ • 貴重資料や自治体刊行資料等を電子化して、 ウェブ上から提供 14 出典:学制 | 教育制度 国立教育政策研究所教育図書館 貴重資料デジタルコレクション http://www.nier.go.jp/library/ rarebooks/seido/373.2-308/

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図書館間横断検索システム • 複数の図書館のOPACを横断して検索 複数の図書館を同時並行的に検索して結果を提示 15 出典:統合検索 - 東京都立図書館 http://ufinity01.jp.fujitsu.com /metro/?block_id=17002

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商用データベース • 新聞や辞書・辞典、官報、法令、特許技術 情報等を対象とした民間の商用データベー スが提供されている 16 出典:JapanKnowledge https://japanknowledge.com/

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3.ウェブ上のユーザ行動と サービス事例 • ウェブとは何か 分散型ハイパーテキストシステムであり、自律 分散型のシステムとサービスが提供されている 公共図書館もそのプレイヤーとしてふるまう • ウェブ上でのユーザの行動は多様 素早く、効果的に、ニーズに応えられる環境を 整える必要性 新しいメディアやコンテンツが続々と登場して いることを簡潔に効果的に発信して、意外な発 見やセレンディピティを促す仕掛け 17

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Webの3要素 • HTTP, URI, HTMLの3つの枠組みを用いた Webの実現! • HTTPレイヤでのデータ転送とドキュメント フォーマット指定 • URI指定によるリンクを通じたハイパーメ ディアの実現 18

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検索クエリ 適合文書 集合 検索結果 (ランキング) 情報要求 情報検索システム 文書集合 伝統的な情報検索モデル 検索クエリ? 情報要求 探索目標 Webにおける動的な情報探索モデル Web サービス サービス サービス 19

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Googleサーチエンジンにおける 検索キーワードランキング 1. 天気 2. 東京 3. 漫画 4. ヤフー 5. youtube 6.ニュース 7.モンスト 8.映画 9.楽天 10.京都 20 出典:Google トレンド (2018年) https://trends.google.co.jp/trends/ explore?date=2018-01- 01%202018-12-31&geo=JP

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情報検索のタスク分類例 (1) • ウェブ検索エンジンにおけるタスク [Broder,2002] ※質問紙調査 + ログ分析  情報収集 Informational  ナビゲーション Navigational  トランザクション(買い物)Transactional • クエリのトピック [Kamvar,2006] ※ログ分析  ローカルサービス、芸能・エンタメ、コンピュータ・ 技術、旅行・趣味、インターネット・通信、アダルト、 スポーツ、飲食、健康・美容、社会、自動車、ショッ ピング・消費サービス、ライフスタイル・コミュニ ティ、ゲーム、ニュース・時事、投資・保険、芸術・ 文芸、趣味、産業、家庭・園芸、科学、不動産、ビジ ネス (23カテゴリ) 21

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情報検索のタスク分類例 (2) • 情報利用のための多様なタスク [Kellar,2007] ※ダイアリ法 事実発見 Fact finding 情報収集 Information gathering ブラウジング Browsing (巡回) Monitoring トランザクション Transaction 22

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情報要求とユーザタスクの次元 • 情報探索のステージ [Kuhlthau, 2004] 探索テーマの模索、テーマの選択、探索、テー マの確定、情報の収集、探索終了 • タスクの複雑さ [Liu, 2012] 情報の規模、範囲、種類、信頼性、タスクのあ いまいさ、変化の度合い、作業内容の複雑さ、 時間的制約 • ユーザ特性 [高久, 2010][南, 2016] 探索スキル(戦術、方略) ドメイン知識 etc. 23

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書誌情報探索におけるユーザタスク • 書誌情報(メタデータ)の組織化における ユーザタスク(FRBRに由来) 発見 Find 識別 Identify 選択 Select 入手 Obtain 探索 Explore 24

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4. オープンデータの潮流 • 公的機関における活用から、民間活用へ • もともとは Open Government Data Data.gov Data.gov.uk • 地方自治体 オープンデータシティ(鯖江市、横浜市など) • 国の政策的展開 官民データ活用推進法 データ公民連携, オープンイノベーション 政府標準利用規約(第2.0版)※CCライセンス準 拠 25

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図書館におけるオープンデータ提供例 26 出典:デジタルアーカイブのオープ ンデータ化開始 - 大阪市立図書館 https://www.oml.city.osaka.lg.jp/ ?key=johsaozpv-510 ちゃりんこ兄弟 大阪市立中央図書館

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オープンデータとライセンス • 「オープン(Open)」の意味 無償利用 非営利使用 加工、再利用 • Creative Commons (CC) ライセンス  権利者表示 (BY) (+継承) - Share Alike (SA) (+非商用) - Non Commercial (NC) (+改変禁止) - No Derivatives (ND) • パブリックドメイン(public domain) 27

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国レベルのデジタルアーカイブ • ジャパンサーチ(2019年2月ベータ公開) デジタル化された資料(文化財、書籍、メディ ア芸術等)を対象としたデジタルアーカイブを 国レベルで連携した統合ポータルサービス 28 出典:ジャパンサーチ(BETA) https://jpsearch.go.jp

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5. 情報セキュリティと 安全な情報システム • インターネットの普及に伴って、悪意ある情報技術 の利用、情報の漏洩、事件、事故などがみられるよ うになってきている • 悪意あるものであるかを問わず、こうした事案は、 セキュリティ・インシデント(security incident) と呼ばれる • 公共図書館には不特定多数の利用者が存在し、特に 図書館利用の情報には個人の思想や信条等の機微情 報を含むと考えられるため、インシデントを予防し て、被害の拡大を防ぐ対策が求められる • ここでは特に、ネットワークを通じたセキュリティ の考え方をいくつか挙げる 29

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セキュリティの3要素 • セキュリティを担保して、安全な情報管理を実現す るための要素として、以下の3要素がよく知られる  機密性 • 不正アクセスや情報の漏洩を防ぐ  完全性 • 情報の正確性やソフトウェアの整合性を担保する  可用性 • システムやサービスが利用できる状態を保つ • また、セキュリティと情報サービス水準の確保は、 トレードオフ(天秤状態)となることが多いことに 注意が必要  組織、人、物理的対策、技術的対応の4つの側面から、 インシデント予防策と事後対応を検討しておくことが もっとも重要 30

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セキュリティ対策 • 組織的側面 セキュリティポリシー • ローカルレベルと上位組織レベル等 • 関連組織との連携性 • 人的側面 認証、情報アクセスの範囲、情報の格付け 研修や教育体制 • 物理的側面 物理的に触れる場所や範囲、保存メディアの管理 • 技術的側面 アンチウィルス等の防御システム、検知システム 31

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図書館におけるセキュリティ対策 • 基本的には、標準的な水準のセキュリティイ ンシデント対策と事後対応のための方策を とっておく • 日本図書館協会「デジタルネットワーク環境 における図書館利用のプライバシー保護ガイ ドライン」(2019) 図書館業務システムにおいて取り扱う、利用者の 情報をどのように保全するかの概要を示したガイ ドライン 利用者情報の定義と内容、収集情報の管理と例示、 利用者への情報開示、ネットワーク上での取り扱 い等 32

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ネットワーク経由のインシデント例 Librahack事件 • 2010年頃、とある利用者が開発した、岡崎市 立図書館のOPACシステムへの検索を自動実行 する独自プログラムがシステム障害を発生 • システム障害を契機として、警察への被害届 へと進み、この利用者が業務妨害容疑により 逮捕された事件(起訴猶予処分) システム側の不備と対応策の不手際により、ネッ トワーク経由のインシデントへの対応を誤った ケースとみられる ネットワークプロバイダーやCSIRTと呼ばれる ネットワーク管理者への相談、問合せが重要 33

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まとめ • 図書館サービスの発信や利用者コミュニティ とのコミュニケーションを図れる基盤として、 情報技術を活用することが有用 • 情報の拠点としての図書館の役割を考えた時 に、多様な情報源と情報技術の活用は今後、 ますます重要となってくる • ネットワーク経由のアクセス経路を増やすこ とにより、来館利用者と同等に、非来館型の 利用者に向けたサービスを強化していくこと ができる • 先進的なサービスとして、オープンデータや デジタルアーカイブ等の外部情報探索サービ ス連携が進んでいる 34

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参照文献 • [Broder,2002]  Andrei Broder. A taxonomy of web search. SIGIR Forum, Vol.36, No.2, pp.3-10, 2002. https://doi.org/10.1145/792550.792552 • [Kellar,2007]  Melanie Kellar, et al. A field study characterizing Web-based information- seeking tasks. Journal of the American Society for Information Science and Technology, Vol.58, No.7, pp.999-1018, 2007. https://doi.org/10.1002/asi.20590 • [Kuhlthau, 2004]  Carol Kuhlthau. Seeking meaning : a process approach to library and information services. 2nd Edition. Libraries Unlimited, 2004, 247p. • [Liu, 2012]  Peng Liu, Zhizhong Li. Task complexity: A review and conceptualization framework. International Journal of Industrial Ergonomics, Vol.42, No.6, 2012, pp.553-568. https://doi.org/10.1016/j.ergon.2012.09.001 • [Kamvar,2006]  Maryam Kamvar, Shumeet Baluja. A large scale study of wireless search behavior: Google mobile search. Proceedings of SIGCHI 2006. pp-701-709, 2006. https://doi.org/10.1145/1124772.1124877 • [高久, 2010]  高久雅生ほか. タスク種別とユーザ特性の違いがWeb情報探索行動に与える影響: 眼球 運動データおよび閲覧行動ログを用いた分析. 情報知識学会誌, Vol.20, No.3, pp.249-276, 2010. https://doi.org/10.2964/jsik.20-026 • [南, 2016]  南友紀子ほか. ウェブ環境における情報検索スキル. 日本図書館情報学会誌, Vol.62, No.3, pp.163-180, 2016. https://doi.org/10.20651/jslis.62.3_163