Slide 1

Slide 1 text

経営学部のためのSaaSとサブスクリプションのデータ分析入門 株式会社マネーフォワード 吉住遼 2023/10/19

Slide 2

Slide 2 text

自己紹介 吉住 遼 @well_living_ry 株式会社マネーフォワード ホームカンパニー DataForward室 兼 分析推進室 SNS等 ● note: Ryo YOSHI ( https://note.com/well_living_ry ) ● zenn: Ryo YOSHI@welliving ● X(旧Twitter): Ryo YOSHI@well_living_ry ↑作画:@akiraturuさん *本資料は神戸大学経営学部の学生向け講義の内容を一部削除・加筆・修正したものです。  https://b.kobe-u.ac.jp/25290/

Slide 3

Slide 3 text

注釈 ● 本資料は神戸大学経営学部の学生向け講義の内容を一部削除・加筆・修正したものです。 ○ https://b.kobe-u.ac.jp/25290/ ● 本資料に記載された情報は登壇者にて判断した情報源を元に個人が作成したものであり、マネーフォ ワードが作成したものではありません。 ● 本資料に記載されている会社名および商品・製品・サービス名(ロゴマーク等を含む)は、各社または各 権利者の商標または登録商標です。 ● 本資料に記載された内容は、資料作成時点においてのものであり、予告なく変更する場合があります。 ● 本資料の内容および情報の正確性、完全性等について、何ら保証を行っておらず、また、いかなる責 任を持つものではありません。

Slide 4

Slide 4 text

コンテンツ 1. SaaSとサブスクリプションのビジネス 2. SaaSの管理会計と経営データ分析 3. マーケティングと営業のデータ分析 4. 分析に必要なデータ整備とデータマネジメント 5. (おまけ)ビジネスでのAI活用とDX・イノベーション 6. 経営データ分析をはじめる方へ

Slide 5

Slide 5 text

SaaSと サブスクリプション のビジネス

Slide 6

Slide 6 text

株式会社マネーフォワードのビジネス *マネーフォワード「 2023年11月期 第3 四半期決算説明資料」より抜粋 6

Slide 7

Slide 7 text

SaaS (Software as a Service)とサブスクリプション SaaS(サース)は、Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア )の略 ● PCやオンプレミスにソフトウェアをインストールするのではなく、クラウドサーバー上にあるソフトウェアを インターネットを経由してサービスとして提供(下に SaaSの例) ● サブスクリプション(定期購入)の支払い方法が多い 個人向け家計簿のSaaS 企業向け会計等バックオフィス のSaaS SaaSの例 *マネーフォワード 2023/9/30時点Webサイトより

Slide 8

Slide 8 text

Q. 思い浮かぶサブスクは?

Slide 9

Slide 9 text

Q. 思い浮かぶサブスクは? 広がるサブスク・・・ toBのサブスク 会社名および商品・製品・サービス名(ロゴマーク等を含む)は、各社または各権利者の商標または登録商標です。 音楽 動画 コミック ゲーム ショッピング ニュース 学習 CRM 会計 リアル(ネットサービス以外) にも広がるサブスク AI 旧来からある 定期購入サービス 新聞 携帯 通信 表計算ソフト 服 弁当 香水 電気 自転車 家計簿

Slide 10

Slide 10 text

サブスクリプションのメリット 利用者(または利用企業)にとってのサブスクリプションのメリット ● 所有をしなくてよい ○ (特に企業の場合)固定資産ではないため、メンテナンスコストが少なく、管理が楽 ● 不確実性に対応しやすい ○ (特に企業の場合)社員の増減などにも対応しやすい ● 意思決定の負担を軽減される ○ (特に個人の場合)先に支払って、あとで消費すると、期待する喜びと消費する楽しみが増す(エ リザベス・ダン『「幸せをお金で買う」5つの授業』) SaaS企業(またはサブスクを展開する企業 )にとってサブスクリプションのメリット ● 定期的に安定した売上が得られる ○ ゆえに、売上の予測もしやすい ● 継続的な顧客接点があるため、 データが集まりやすい

Slide 11

Slide 11 text

本日お伝えすること ● SaaSやサブスクリプションのビジネスでは、データ分析の重要性が高い ● 経営の幅広い領域(管理会計、マーケティング、営業など)でデータ分析が活用されている ● SaaSやサブスクリプションのビジネスに特有のデータ分析の考え方がある SaaSやサブスクリプションのビジネス自体の特徴 サブスクビジネスならではのデータ分析の特徴や面白さ

Slide 12

Slide 12 text

本セクションの推薦図書 ● 辻 庸介他『FinTech入門』 ○ https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/16/P51510/ ● ティエン・ツォ他『サブスクリプション』 ○ https://www.diamond.co.jp/book/9784478105528.html ● エリザベス・ダン他『「幸せをお金で買う」5つの授業』 ○ https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g201315000159/


Slide 13

Slide 13 text

SaaSの管理会計 と 経営データ分析

Slide 14

Slide 14 text

SaaSの管理会計と経営データ分析 ● 管理会計の目的は何か ● 分析で何ができるようになるのか 管理会計 データ分析

Slide 15

Slide 15 text

財務会計と管理会計 ● 財務会計・・・企業外部の利害関係者 (ステークホルダー)に企業の財政状態と経営成績を開示・報告す るための会計 ○ 下図で簡単に説明 ● 管理会計・・・経営者等の企業マネジメント・ 意思決定に必要な情報提供を行うための会計 ○ 過去の実績から未来の予算を策定するための「予算管理」、予算と実績を比較し、経営上の問題を洗い出す「予実 管理」、経営状況を数値で表し、企業の状態を客観的に判断する「経営分析」等 ○ 次スライド以降で指標を説明 財務会計 資 産 純 資 産 負 債 現 預 金 貸借対照表 営業利益 売上 営業費用 売上原価 販管費 営業外損益 特別損益 法人税等 当期純利益 *参考  https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/89/ 営業CF 投資CF 財務CF フリーCF 現預金増減 損益計算書 キャッシュフロー計算書 配当

Slide 16

Slide 16 text

SaaSの管理会計と経営データ分析 ● 管理会計の目的は何か ● 分析で何ができるようになるのか 管理会計 データ分析

Slide 17

Slide 17 text

分析(Analytics)とは、 分析 = Analytics 支出 細かすぎると比 較して解釈しに くい 集約しすぎると 要因が分かりにく い ギリシア語で「分解する」が語源 「分ける」と何が「分かる」のか 家計簿の例 米 飲食チェー ンA 〇〇社 携帯電話 マネーフォ ワード ME △△電力 電気代 分ける 集約する 15万円 様々な支出 500円 5000円 1万円 2000円 2500円 あれ?今月も赤字・・・

Slide 18

Slide 18 text

分析(Analytics)とは、 分析 = Analytics 支出 細かすぎると比 較して解釈しに くい 集約しすぎると 要因が分かりにく い ギリシア語で「分解する」が語源 「分ける」と何が「分かる」のか 家計簿の例 米 飲食チェー ンA 〇〇社 携帯電話 マネーフォ ワード ME △△電力 電気代 食費 通信費 水道光熱費 分ける 集約する 適切な粒度で分ける ● 前月と比べて食費が増えてい る。。。外食しすぎた ● 毎月の食費を5万円以内に抑え たいけど、今月は6万円使ってし まっている。。。 ● 普通の一人暮らしだと食費はだ いたいどのくらいだろう? 15万円 6万円 2万円 1万円 分けると比較がし やすくなる

Slide 19

Slide 19 text

「分ける」と何が「分かる」のか 過去と比べる ・先月と比べる ・前年同月と比べる 理想・目標 と比べる 他者(他社) と比べる 何と比較する? データを記録する 必要がある 目標を立てる必要が ある 調査する必要がある ● 前月と比べて食費が増えている →過去との比較 ● 毎月の食費を5万円以内に抑えたいけど、今月は 6万円使ってしまっている →目標との比較 ● 普通の一人暮らしだと食費はだいたいどのくらいだろう? →他者との比較 →ただし、目的によって比較に適切な粒度も異なる ● 分けると比較がしやすくなる

Slide 20

Slide 20 text

比較することで何ができるようになるのか ● 比較することで選択(意思決定)がしやすくなる ○ 前月と比べて食費が増えているから、来月は外食を減らそう、という選択ができる ○ 前月は1万円予算をオーバーしたから、来月と再来月は毎月の予算より 5000円ずつ節約しよう、 という選択ができる ○ 一人暮らしの食費の平均は 4万円ちょっとらしい。食べることは好きだけど、予算を毎月 5万じゃな くてまずは4万5千円にしよう、そもそもお米はネットより〇〇スーパーの△△米が安いからそっち に変えよう、という選択ができる ● なぜ選択(意思決定)をするのか ○ お金を貯めるにも、本当にやりたいことにお金を使って人生を楽しむにも、日々の選択が大事 ○ ビジネスも同じで、選択から価値(ユーザーへの提供価値や利益)が生まれる 管理会計では、経営者の 意思決定のためにデータを「分析」する

Slide 21

Slide 21 text

Q. 「売上」をどう分解しますか?

Slide 22

Slide 22 text

一般的な売上の分解 売上 金融機関 向け 法人向け 個人向け 事業組織で分解する 売上 クラウド 確定申告 クラウド 会計 クラウド 給与 プロダクトで分解する 日本 インド ネシア エリアで分解する 売上 販売数 単価 ロジックツリーで分解する 売上 ● マネーフォワードにおいてもこれらの分け方を使っています。 ● 加えて、SaaS(サブスク)特有の分け方もあります。

Slide 23

Slide 23 text

ARRとMRR(経常収益) ● Annual Recurring Revenue(ARR)・・・年間経常収益 ● Monthly Recurring Revenue(MRR)・・・月次経常収益 経常収益 非経常 収益 定期性で分解する 売上 繰り返し発生する定期的・継続的な収益 ARR = 前期ARR + ACV − Churn ● ACV・・・年間契約金額(Annual Contract Value) ○ 月次の場合、新規ユーザーの MRRをNewMRRという ● Churn・・・解約ユーザーから得られるはずだった収益 ○ ここではレベニューチャーン (チャーンの定義は後述) さらに分解 ● SaaS(サブスク)ビジネスでは、新規獲得とリテンション (解約の抑 制)が重要指標になることが、売上の分解で見えてくる 前 期 A R R A C V 解 約 A R R

Slide 24

Slide 24 text

【補足】チャーン チャーンとは ● チャーン(Churn)は日本語で解約 ● サブスクリプションビジネスでは、チャーンを抑制することが売上において非常に重要 様々なチャーンの定義 ● カスタマーチャーン:一定期間中に失ったユーザー数 ○ =期間解約ユーザー数 /期初ユーザー数 ● レベニューチャーン:一定期間中に失った売上額 ○ =解約ユーザーの経常収益 /経常収益合計(*分母・分子の計算定義は ) ● アクティビティチャーン:解約リスクがあるとされるユーザー数で、計算方法はプロダクトごとに異なる 1. プロダクトのエンゲージメントを定義 2. プロダクト・アクティビティ(イベント等)をトラッキング 3. 各イベントを重み付け 4. スコアを標準化し、意味付け 5. スコアを実行可能なアクションに落とし込み

Slide 25

Slide 25 text

ARPAと課金ユーザー数 ● Average Revenue Per Account(ARPA)・・・アカウントあたり平均収益。アーパと読む ● Average Revenue Per User(ARPU)・・・ユーザーあたり平均収益。アープと読む ● Average Revenue Per Paid User(ARPPU)・・・課金ユーザーあたり平均収益。アープと読む *UserだけでPaid Userを表すケースやAccountとUserが同義で使われるケースもある 販売数 単価 一般的な売上の分解 売上 SaaSの場合 課金 ユーザー数 ARPA 経常収益の分解 経常収益 *ARPA=ARPPUの場合 モノであれば、例えば、書 籍が何冊売れたか等 ● 売上を分解することで、前年や他社と比べて、 ARPAが高 いか・低いか等、比較することができる

Slide 26

Slide 26 text

Q. キャッシュ・フローをどう評価しますか? ● 売上はある1期間の業績指標のため、長期のキャッシュ・フローを評価できない ● 定期的な経常収益のあるSaaSビジネスでは、キャッシュ・フローの評価がより一層重要

Slide 27

Slide 27 text

投資回収期間(Payback period) ● 投資回収期間・・・初期投資を累積収益 (or利益)が上回るまでの期間

Slide 28

Slide 28 text

NPV(正味現在価値)とIRR(内部収益率) ● NPV(Net Present Value)・・・正味現在価値 ○ NPV>0が良いとされる ○ 割引率 r は、資金調達の利払い等に伴う資本コストや、将来のキャッシュフローのリスクや期待リ ターン、他の投資機会から得られた機会費用などを考慮して算出される ● IRR(Internal Rate of Return)・・・内部収益率 ○ 割引率が事前に分かってなくても計算できる ○ IRR>1が良いとされる ○ 手計算は難しいがExcelやプログラミング言語 Pythonで簡単に計算できる *分かりやすく、初期投資と以降の  収益を分け、CF>0とした場合

Slide 29

Slide 29 text

顧客一人あたりの価値(売上・利益)をどう評価する? ● 販売数(→モノ・商品)よりも、ユーザー数( →ヒト・顧客)に向き合うことがより重要 販売数 単価 一般的な売上の分解 売上 SaaSの場合 課金 ユーザー数 平均収益 経常収益の分解 経常収益 ユーザー Aさん ユーザー Bさん 顧客ごとのキャッシュ・フロー 解 約 プラン 変更 顧客一人あたりの平均的な売 上キャッシュ・フローの価値を どう評価する? 1年目 2年目 8年目 ・・・・・

Slide 30

Slide 30 text

CAC Payback PeriodとLTV SaaSの管理会計では、顧客一人あたりの価値も重要な指標 ● Customer Acquisition Cost(CAC)・・・顧客獲得コスト ● CAC Payback Period・・・CACに関する投資回収期間 ● Customer LifeTime Value(LTV, CLV, CLTVなど略し方が複数)・・・顧客生涯価値 ○ 一人あたりの顧客から得られる売上の現在価値 ○ CACを含めてLTVとする定義もあります  顧客解約率(Customer Churn Rate)をCCR、平均収益ARPA(≒ARPPUと同義)とすると、 *割引率r=0の場合 高校数学の等比級数の和 例:あるアプリの月額プランは月 500円とする。割引や他のプランへの変更がないとすると平均収益 ARRAも 500円。仮に月次解約率 2%のとき、LTVは25000円。

Slide 31

Slide 31 text

【補足】LTV計算の前提 よく使われるLTVの近似は案外仮定が多い ● 割引率ゼロ→普通ない ● 解約率一定→普通ない ● 最終時点が無限大→普通ない ● 課金額一定→あまりない 例:ARPA500円、月次解約率2%のとき、LTV25000円。利回り2%だと24500円。120ヶ月だと22787円、解約 率が0.5%高いと2万円。よくある近似はだいたい LTVを高く見積もる。分母が小さいときは数字がブレやすい ので要注意(解約率は数字が小さくブレやすい ) *割引率r=0の場合 高校数学の等比級数の和 計算の前提を理解した上で、指標を活用することが重要

Slide 32

Slide 32 text

ユニット・エコノミクス SaaSの管理会計では、顧客一人あたりの価値も重要な指標 ● LTV(顧客生涯価値)・・・単純化した定義は ARPAを顧客解約率で割ったもの(詳細は前ページ) ● Average duration・・・平均継続期間 ● ユニット・エコノミクス・・・ LTVをCACで割ったもの。3より大きいと良いとされる ○ 平均継続期間をCAC Payback Periodで割ったものに式変形される  Customer Churn Rate (顧客解約率)をCCR、ユニット・エコノミクスを UE、CAC Payback PeriodをPP、 Average duration(平均継続期間)ADとする。 例:ユニット・エコノミクスが 3より大きいとは、例えば、月次解約率 2%のときCAC Payback Periodが16.7ヶ月 よりも小さいと良いという意味になり、 CAC Payback Periodが12ヶ月のとき月次解約率が 2.78%より小さいと 良いという意味になる

Slide 33

Slide 33 text

【補足】グラフで見るユニット・エコノミクス ユニット・エコノミクス >3は青の曲線の下の領域 月次解約率 (CCR) CAC Payback Period(PP) *仮定が多いのであくまで目 安です。以下の記事も参考 https://zenn.dev/welliving/articles/7 0c67904d9f383

Slide 34

Slide 34 text

【補足】デュレーション ● Average duration(デュレーション)・・・平均継続期間 ● ファイナンスでは債券の投資回収期間の計算にも用いられる概念 ● デュレーションは解約率変化に対する LTV変動率でもある 期間t ユーザー数Nt t=1 N(1-CCR)・CCR t=2 N(1-CCR)^2・CCR t=T N(1-CCR)^T・CCR *計算の詳細はスライド形式は不向きなため、近々zennなどに書きます。

Slide 35

Slide 35 text

【補足】数式の変形(23/10/28追記) ● 「顧客生涯価値LTV、解約率、CAC PaybackPeriod、デュレーション、ユニット・エコノミクスの計算」を zennで説明しています。 ○ https://note.com/well_living_ry/n/nd4848a8b3c44 ● 以下のような内容です。 ○ 顧客生涯価値(LTV,CLV)の数式変形 ○ サブスクリプションの平均継続期間 (デュレーション)の数式変形 ○ デュレーションと解約率変化に対する LTV変動率の関係 ○ CAC Payback Periodの数式変形 ○ ユニット・エコノミクスの数式変形

Slide 36

Slide 36 text

【参考】管理会計でよく使われる指標 ● これまで説明した指標・管理会計でよく使われる指標の一覧 一般的な指標 概要 投資回収期間 初期投資を累積収益が上回るまでの期間 NPV 正味現在価値 IRR 内部収益率 EBITDA 利払前・税引前・減価償却前利益 SaaS特有の指標 概要 ARR・MRR 経常収益 ACV・NewMRR 年間契約金額・新規の経常収益 チャーン(Churn) 解約のこと。カスタマーチャーン、レベ ニューチャーン等の定義がある ARPA・ARPU・ARPPU アカウント(ユーザー)あたりの年間平均 収益 CAC Payback Period 投資回収期間 LTV(CLV・CLTV) 顧客生涯価値 ユニット・エコノミクス LTVをCACで割ったもの NRR Net Revenue Retention(売上維持率)

Slide 37

Slide 37 text

【参考】マネーフォワードの決算説明資料と各指標(2022年通期) ● ARRや次ページにある解約率を記載しているのが、 SaaS以外の企業の決算との大きな違い *マネーフォワード「 2022年11月期 通 期決算説明資料」より抜粋

Slide 38

Slide 38 text

【参考】マネーフォワードの決算説明資料と各指標(2023年第3四半期) ● 定義は各社で多少異なるケースもあるので、計算方法を確認しましょう。 *マネーフォワード「 2023年11月期 第3 四半期決算説明資料」より抜粋

Slide 39

Slide 39 text

【参考】マネーフォワードの決算説明資料(2023年第3四半期) *マネーフォワード「 2023年11月期 第3 四半期決算説明資料」より抜粋

Slide 40

Slide 40 text

【補足】EBITDA 決算資料では売上高や ARRなどと並んで「EBITDA」がハイライトされていました。 ● EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)               利息  税     減価償却費 ○ 読み方は、イービットディーエー、イービットダー、イービッタなど ○ Depreciation and Amortizationは減価償却費 ○ 営業利益との比較では、減価償却費を引いていないのが大きな違い

Slide 41

Slide 41 text

利益をKPIに分解 ● 営業利益をツリー構造で分解すると、売上を伸ばすために何をマーケティングや営業のの KPIにすべき か見えてくる 経常収益 (財務会計) 経常収益 (管理会計) 財管の誤差 課金顧客数 (契約者数) 既存 課金顧客数 新規 課金顧客数 ARPA (基本料金) ARPA ARPA (従量課金) 前期 課金顧客数 商談数 解約率 成約率 経営KGI 現場の KPI 非経常収益 売上 売上原価 売上総利益 販管費 営業利益 売上原価 営業費用 営業員数 一人あたり 商談数 現状は成約率が低 いのか、活動量(商 談)が少ないのか、 何をKPIにするのが よいか

Slide 42

Slide 42 text

【補足】KPI, KGI, NSM ● Key Goal Indicators(KGI) ○ 重要目標達成指標。最終的な目標数値。通常は、利益や売上など ● Key Performance Indicators(KPI) ○ 重要業績評価指標。CSF(Critical Success Factor:最重要プロセス)、あるいは、KFS( Key Factor for Success:事業成功の鍵)を数値で表したもの ○ 本来は、鍵となる「一つ」の指標 ● North Star Metric(NSM) ○ 北極星のように目標への指標となる KGIとKPIの間に設定する指標 ○ 本来は一つのはずの KPIをたくさん設定してしまった際に、 KGIとの中間指標を設定し、それを KPIと違う呼び方をしたい際などに用いられる ● KPIツリー ○ KGIをツリー構造でKPIに分解したもの

Slide 43

Slide 43 text

【おまけ】MRRとLTVの関係性 ユーザーiとし、潜在顧客を含めたすべてのユーザーの集合を U、課金ユーザーの集合を PUとする。U のカーディナリティNとする。時点t=0を現時点とし、目標時点 t=Tとする。tは月次とする。時点tにユーザーiか ら得られる課金収益 (キャッシュ・イン・フロー )を確率変数CIFi,tとし、割引率rtとする。MRRとLTVは、CIFi,tを ユーザーに関して和をとるか、時間に関して和をとるか、という関係となる。 ユーザーiごとに新規契約時点 を0とする相対的な時間 現時点を0とする絶 対的な時間 創業など何らか初 期時点を0とする

Slide 44

Slide 44 text

本セクションの推薦図書 ● 朝倉祐介『ファイナンス思考』 ○ https://www.diamond.co.jp/book/9784478103746.html ● 吉村壮司他『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務』 ○ https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-39231-3 ● 中尾 隆一郎『最高の結果を出すKPIマネジメント』 ○ https://www.forestpub.co.jp/author/nakao_ryuichirou/lp/kpi/ ● 稲垣大輔他『Pythonではじめる 会計データサイエンス』 ○ https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-43811-0

Slide 45

Slide 45 text

マーケティングと営業 のデータ分析

Slide 46

Slide 46 text

売上とマーケティング・営業のKPI 売上(経常収益)をプロセスまで分解すると、 →売上をあげるために、マーケティングや営業がどの指標を高めればよいか見えてくる 経常収益 顧客数 既存顧客数 新規顧客数 ARPA (基本料金) ARPA ARPA (従量課金) 前期顧客数 商談数 解約率 成約率 リード数 アポ獲得率 営業が担うKPI マーケターが担うKPI 新規顧客数 トライアル 課金転換率 LP表示数 CVR 広告表示数 CTR Webの場合 *マーケティング指標の用語は後のスライドで説明

Slide 47

Slide 47 text

Webマーケティングと営業 ● どのようにターゲット顧客にアプローチし、競争優位性を保つか (GTM: Go-To-Market) 市場規模(顧客数) 多い 少ない(ニッチ・未開拓) プロダクトの複雑度 シンプルに使える オーダーメイドで複雑 顧客あたり売上・LTV 小さい 大きい ターゲットの例 個人向け、小規模企業向け 中堅・大企業向け、富裕層向け 会社名および商品・製品・サービス名(ロゴマーク等を含む)は、各社または各権利者の商標または登録商標です。 動画 表計算ソフト アプリ システム開発 経営者保険 精密機械 CRM

Slide 48

Slide 48 text

Webマーケティングと営業 ● どのようにターゲット顧客にアプローチし、競争優位性を保つか (GTM: Go-To-Market) 市場規模(顧客数) 多い 少ない(ニッチ・未開拓) プロダクトの複雑度 シンプルに使える オーダーメイドで複雑 顧客あたり売上・LTV 小さい 大きい ターゲットの例 個人向け、小規模企業向け 中堅・大企業向け、富裕層向け Go-To-Market戦略 プロダクト主導が多い セールス主導が多い 販売戦略 主にWebマーケティング 主に営業が企業のキーマンにアプローチ  顧客支援 テックタッチ(Web完結) ハイタッチ(人手で支援)

Slide 49

Slide 49 text

Webマーケティングとデータ分析 Web マーケティング データ分析

Slide 50

Slide 50 text

Webマーケティング 未登録 アカウント登録 自社サイト トライアル 有料プラン 無料プラン ランディング ページ 関連キーワード 検索表示 指名検索 表示 リスティング広告 表示 他社メディア サイト広告 解約 課金 退会 クリック コンバー ジョン マス メディア SNS 口コミ ● 指名検索:自社ブランドや商材名を含むキーワード検索のこと ● リスティング広告:ユーザーが検索したキーワードに連動して検索結果に表示される広告 ● ランディングページ:検索結果や広告などを経由して訪問者が最初にアクセスするページのこと ● Search Engine Optimization(SEO):検索エンジンの検索結果において、特定のウェブサイトが上位に表示されるよう調整する こと ● Landing Page Optimization(LPO):コンバージョンがより多く発生するように、ランディングページを最適化すること 課金 解約 登録 フォーム

Slide 51

Slide 51 text

Webマーケティング 未登録 アカウント登録 自社サイト トライアル 有料プラン 無料プラン ランディング ページ 関連キーワード 検索表示 指名検索 表示 リスティング広告 表示 他社メディア サイト広告 解約 課金 退会 クリック コンバー ジョン マス メディア SNS 口コミ ● ARR(経常収益) の分解を思い出しましょう ● ACVを増加させたい→新規課金数を増やしたい→Conversion Rate(CVR)やトライアルからの課金転換率を向上したい ● Churn (レベニューチャーン)を減少させたい→解約者数を減らしたい→解約率(カスタマーチャーンレート)を下げたい 課金 解約 登録 フォーム ARR = 前期ARR + ACV − Churn

Slide 52

Slide 52 text

Webマーケティング 未登録 アカウント登録 自社サイト トライアル 有料プラン 無料プラン ランディング ページ 関連キーワード 検索表示 指名検索 表示 リスティング広告 表示 他社メディア サイト広告 解約 課金 退会 クリック コンバー ジョン マス メディア SNS 口コミ ● アカウント登録を増やすには ○ Click Through Rate(CTR)=クリック数/表示回数 ○ Conversion Rate(CVR)=アカウント獲得数/LP表示回数 ○ アカウント登録を増やすには、CTRとCVRの掛け算を高める ● CVRを高めるためにランディングページをA/Bテスト等で改善するLPOの担当者やCTRを高めるSEOの担当者などが協力し て、アカウント登録を増やしている 課金 解約 登録 フォーム

Slide 53

Slide 53 text

プロダクトA 解約 課金 【補足】アップセルとクロスセル ● アップセル:顧客が既に利用しているプロダクトの高機能、高価格の上位版の購入を促すこと ● クロスセル:顧客が利用しているプロダクトに関連する他のプロダクトを購入するよう促すこと トライアル 有料プラン 無料プラン 課金 解約 上位プラン アップセル ダウンセル プロダクトB 解約 課金 トライアル 有料プラン 無料プラン 課金 解約 クロスセル

Slide 54

Slide 54 text

営業とデータ分析 営業 データ分析

Slide 55

Slide 55 text

営業(セールス)とThe Model ● The Modelは、Salesforce, Inc.で活用される分業型の営業プロセス ● 営業プロセスを分解し、営業をマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサ クセスで分業 インサイドセールス フィールドセールス セールス マーケティング カスタマーサクセス リード ナーチャリング 受注・新契約 商談 認知あり アポ・訪問 リテンション カスタマーサクセス 他プロダクトへのクロスセル 有望度↗

Slide 56

Slide 56 text

営業(セールス)とThe Model〜マーケティング〜 ● リード(Lead):見込み顧客のこと ● The Modelにおける狭義のマーケティングは、認知拡大してリードを作る役割 インサイドセールス フィールドセールス セールス マーケティング カスタマーサクセス リード ナーチャリング 受注・新契約 商談 認知あり アポ・訪問 リテンション カスタマーサクセス 他プロダクトへのクロスセル 有望度↗

Slide 57

Slide 57 text

営業(セールス)とThe Model〜インサイドセールス〜 ● ナーチャリング:見込み顧客を商談につながる状態まで育成すること ● インサイドセールスは、リードをフィールドセールス (狭義の営業)の訪問や商談につなげる役割 インサイドセールス フィールドセールス セールス マーケティング カスタマーサクセス リード ナーチャリング 受注・新契約 商談 認知あり アポ・訪問 リテンション カスタマーサクセス 他プロダクトへのクロスセル 有望度↗

Slide 58

Slide 58 text

営業(セールス)とThe Model〜フィールドセールス〜 ● フィールドセールスは、商談から契約を獲得する (受注につなげる)役割 インサイドセールス フィールドセールス セールス マーケティング カスタマーサクセス リード ナーチャリング 受注・新契約 商談 認知あり アポ・訪問 リテンション カスタマーサクセス 他プロダクトへのクロスセル 有望度↗

Slide 59

Slide 59 text

営業(セールス)とThe Model〜カスタマーサクセス〜 ● リテンション(Retention):既存顧客維持のこと ● カスタマーサクセスは、リテンション率と LTV(クロスセル含む)を最大限引き上げる役割 インサイドセールス フィールドセールス セールス マーケティング カスタマーサクセス リード ナーチャリング 受注・新契約 商談 認知あり アポ・訪問 リテンション カスタマーサクセス 他プロダクトへのクロスセル 有望度↗

Slide 60

Slide 60 text

【補足】顧客ロイヤリティと顧客満足度の評価 ● 顧客ロイヤリティ・・・他の製品・サービスへのスイッチを引き起こす可能性のある状況的影響やマーケ ティング努力が存在するにもかかわらず、将来もまた当該製品・サービスを再購入や再利用しようとす る強力なコミットメント →解約率が重要指標 ● 顧客満足度(CS: Customer Satisfaction)・・・名称通り、顧客が満足している度合い →顧客満足度(CS: Customer Satisfaction)の指標の一つにNPS(Net Promoter Score)がある ○ 「あなたはこの商品(サービス)を友人に勧めたいと思いますか?」という質問をし、「非常に満足し ており、ぜひ友人に勧めたい」を 10点満点とする1〜10の点数で回答 ○ 9点ないし10点をつけた推奨者の割合から、 0〜6点をつけた批判者の割合を差し引くことで計算 ○ コンサルティング・ファームのフレッド・ライクヘルドが提唱

Slide 61

Slide 61 text

マーケティングと営業のプロセス分解 Webマーケティングであれ、営業であれ、データを活用する場合、ざっくり以下の流れで進める 1. マーケティングや営業のプロセス・顧客の状態遷移を分解する 2. 各プロセス・状態遷移の指標設定 3. その指標を増加させる仮説・打ち手を出す 4. 仮説・打ち手にもとづく施策を実行 5. 施策の効果検証 6. 3〜5の繰り返し。場合によっては 1,2に戻ることも

Slide 62

Slide 62 text

Webマーケティングとデータ分析の実務事例 Web マーケティング データ分析

Slide 63

Slide 63 text

【事例1】LPOとクリエイティブのA/Bテスト ● ランディングページのクリエイティブデザイ ンを改善して、登録を増やしたい 仮説(施策案) ヘッダーの新規登録ボタンはメインビジュアル内 のボタンについでクリックが多い。 もっと目立たせることでクリックが増えるのでは ないか? 自社サイト トライアル ランディング ページ コンバー ジョン 登録 フォーム

Slide 64

Slide 64 text

【事例2】アップセル・クロスセルとキャンペーンメールのA/Bテスト ● プロダクトAの既存ユーザーに、プロダクト Bのトライアルを促したい。あるいは、プロダクト Aの料金の高 い上位プランへのアップセルを促したい 仮説(施策案) キャンペーンメールを配信することでプロダクト Aの既存ユーザーにキャンペーンメールを配信することでプロ ダクトBの利用者が増えるのではないか プロダクトA 解約 課金 トライアル 有料プラン 無料プラン 課金 解約 上位プラン アップセル ダウンセル プロダクトB 解約 課金 トライアル 有料プラン 無料プラン 課金 解約 クロスセル

Slide 65

Slide 65 text

WebマーケティングとA/Bテストによる効果検証 ● ランディングページのクリエイティブのデザイン変更でアカウント登録が増えるか ● キャンペーンメールを配信するとアカウント登録が増えるか ● 特定のセグメントのユーザーにターゲティングすることでクリックが増えるか ● ユーザーインターフェースの変更、広告、レコメンデーションのアルゴリズム、サーバーのレスポンスの スローダウン実験、・・・など様々な施策の仮説 AとBで効果検証したいケースは多い。どのように検証すればよいか

Slide 66

Slide 66 text

キャンペーンの「効果があった」とは? <キャンペーン効果あり> 500円 / 月 700円 / 月 (+200円) 1,500円 / 月 (+1,000円) <キャンペーン効果なし> 500円 / 月 700円 / 月 (+200円) 700円 / 月 (+200円)

Slide 67

Slide 67 text

【再掲】「分ける」と何が「分かる」のか 過去と比べる ・先月と比べる ・前年同月と比べる 理想・目標 と比べる 他者(他社) と比べる 何と比較する? ● 集団を分けて、集団同士を比較する ● 効果検証では集団の分け方を工夫する ● 分けると比較がしやすくなる

Slide 68

Slide 68 text

キャンペーンの「効果があった」とは? 現実的には、個人単位でなく、ランダムに割り振った集団同士での比較を行う。 +600円 -100円 +200円 +300円 -500円 平均 +500円 平均 +100円 400円UP! 処置群 +100円 +300円 -100円 +1,600円 +600円 コントロール群

Slide 69

Slide 69 text

コントロール群がないと(比較対象がないと)... ● キャンペーンを打ったから 500円増えた ● 何もしなくても500円増えた どっち??? 平均 +500円 +100円 +300円 -100円 +1,600円 +600円 ?

Slide 70

Slide 70 text

【補足】効果検証 個体iに処置(treatment)を割り当てられたかを表す二値変数 Ti∈{0, 1}とし、Ti=1の集団を処置群(treatment group)、Ti=0の集団をコントロール群 (control group)という。潜在的結果変数 (potential outcomes)Yiを以下と する。 ● 個体因果効果(ICE: Individual Causal Effect) ● 平均処置効果(ATE: Average Treatment Effect) ● 処置群の平均処置効果 (ATT: Avarage Treatment effect on the Treated) Yi(1)かYi(0)のいずれかは観測されず、反事実または反実仮想 (Counterfactual)という。効果検証は、観測さ れない変数があるという因果推論の根本問題がある中で、 τATE(テーマによってはτATT)を推定することが目 的。

Slide 71

Slide 71 text

【補足】ランダム化比較試験 ランダム化比較試験 (RCT:Randomized Controlled Trial)は、 処置の割当Tiをランダムにすることで、観測さ れ た変数からτATEを推定する手法。 セレクション・バイアス (*Yi(1), Yi(0)とTiが独立のとき) ● A/Bテストは施策対象をランダムにすることで、処置群とコントロール群の結果 の単純平均からバイアスを取り除いた平均処置効果が推定できる

Slide 72

Slide 72 text

A/Bテストができないケース 大学のプログラム等で統計的因果推論を勉強しましょう! A/Bテストができないケースの実務上の理由は、、、 ● コントロール群にキャンペーンができないと売上が下がる可能性 ● 検証できるほどのサンプルサイズが確保できなかった ● 特定のユーザーだけが利する (損する)ようになるケースでの公平性の観点 ● ・・・その他、各事業において様々なケースが

Slide 73

Slide 73 text

【補足】統計的因果推論と計量経済学 実験(ランダム化比較試験 )できない状況で、平均処置効果 (ATE)、あるいは、処置群の平均処置効果 (ATT)を 推定することが主な目的。統計的因果推論は計量経済学でもよく使われる手法 近年、統計的因果推論 (計量経済学)の分野がノーベル経済学賞に選ばれている ● 2019年 アビジット・V・バナジー, エステル・デュフロ, マイケル・クレーマー ○ 著書に『政策評価のための因果関係の見つけ方』 ● 2021年 デヴィッド・カード , ヨシュア・アングリスト , グイド・インベンス ○ デヴィッド・カード:差分の差分法 (DID)の研究 ○ ヨシュア・アングリスト:著書に『ほとんど無害な計量経済学』 ○ グイド・インベンス:著書に『インベンス・ルービン 統計的因果推論』

Slide 74

Slide 74 text

【補足】そもそも、マーケティングとは ● ピーター・F. ドラッカー『マネジメント』 ○ 「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それが マーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。」 ○ 「真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。『われわれは何を売り たいか』ではなく、『顧客は何を買いたいか』を問う。」 ○ 「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングの目指すものは、顧客を理解し、製品と サービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。」 ● フィリップ・コトラー『マーケティング・マネジメント』 ○ 「マーケティングとは人間や社会のニーズを見極めてそれに応えることである。マーケティングを最も短い言葉で定 義すれば『ニーズに応えて利益を上げること』になろう。」 ○ 「アメリカ・マーケティング協会は、次のように定義している。『マーケティングとは、顧客に向けて価値を創造、伝達、 提供し、組織および組織をとりまくステークホルダーに有益となるよう顧客との関係性をマネジメントする組織の機 能および一連のプロセスである』」 ○ 「マーケティング・マネジメントを『ターゲット市場を選択肢、優れた顧客価値を創造し、提供し、伝達することによっ て、顧客を獲得し、維持し、育てていく技術および科学』と考える」 【引用】 P.F.ドラッカー(著), 上田惇生(編訳)『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』 ,ダイヤモンド社 Philip Kotler(著), Kevin Lane Keller(著), 恩藏直人(監修), 月谷真紀(訳)『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編』 ,丸善出版

Slide 75

Slide 75 text

【補足】コトラーのマーケティング5.0 ● データドリブン・マーケティング:企業内外のさまざまな情報源からビッグデータを集めて分析するとともに、マーケティング 決定を促進し、最適化するためにデータエコシステムを構築する活動 ● 予測マーケティング:機械学習機能を備えた予測分析ツールを構築、使用するなどして、マーケティング活動の結果を開始 前に予測するプロセス ● コンテクスチュアル・マーケティング:顧客を識別し、プロファイリングした上で、物理的空間でセンサーやデジタル・インター フェースを活用して、顧客にパーソナライズされたインタラクションを提供する活動 ● 拡張マーケティング:顧客に対応するマーケターの生産性を向上させるために、チャットボットやバーチャル店員など、人間 を模倣した技術をりようすること ● アジャイル・マーケティング:分散型、部署横断型のチームを使って、製品やマーケティング・キャンペーンのコンセプトづく り、設計、開発、検証を迅速に行うこと アジャイル・ マーケティング データ ドリブン・ マーケティング 拡張・ マーケティング 予測・ マーケティング コンテクス チュアル・ マーケティング

Slide 76

Slide 76 text

営業とデータ分析の実務事例 営業 データ分析

Slide 77

Slide 77 text

機械学習(Machine Learning) ● 機械学習は大きく教師あり学習・教師なし学習・強化学習に分類されることが多い ● 営業プロセスなどの各状態遷移の指標向上には教師あり学習が適しているケースが多い ● 教師あり学習は誤差 (特に学習用のデータ以外にも一般化したデータに対する汎化誤差 )の最小化 学 習 推 論 学習データ 正解(受注有無等)データt 特徴量x 誤差最小化 モデルの出力y モデル f(x,b) 未知のデータ 正解データなし 新しい特徴量x みんな大好き いらすとやの電脳

Slide 78

Slide 78 text

機械学習(Machine Learning) ● 機械学習は大きく教師あり学習・教師なし学習・強化学習に分類されることが多い ● 営業プロセスなどの各状態遷移の指標向上には教師あり学習が適しているケースが多い ● 教師あり学習は誤差 (特に学習用のデータ以外にも一般化したデータに対する汎化誤差 )の最小化 学 習 推 論 学習データ 正解(受注有無等)データt 特徴量x 誤差最小化 モデルの出力y モデル f(x,b) 未知のデータ 正解データなし 新しい特徴量x モデルの出力y(予測値)

Slide 79

Slide 79 text

リードの有望度のスコアリング ある日のインサイドセールスからの悩みからリードスコアリングプロジェクトがはじまった ※インサイドセールスは、リードからアポを作成する責務がある 79 大量のリードからアタックリスト作成 するのに時間がかかる。 しかも、どの情報を元に作ってよい かわからない ある程度データが整備されてい るため機械学習により、 - リスト作成の効率化 - 重要な特徴量の可視化 ができるかも

Slide 80

Slide 80 text

リードの有望度のスコアリング ● インサイドセールスの人的リソースがあるため、すべてのリードに対して、アポの獲得は難しい ● 商談・受注につながりやすいリードの有望度をスコアリングして、優先的にアプローチしたい インサイドセールス フィールドセールス セールス マーケティング カスタマーサクセス リード ナーチャリング 受注・新契約 商談 認知あり アポ・訪問 リテンション カスタマーサクセス 他プロダクトへのクロスセル 有望度↗

Slide 81

Slide 81 text

リードの有望度のスコアリングへの機械学習活用 アタックリストの作成に教師あり学習を活用 ● 過去:大量のリードの中から、手動で時間をかけてアタックリストを作成して架電 ● 現在:大量のリードの中から、機械学習で一瞬でアタックリストを作成して架電 リード データ モデル f(x,b) リードリスト スコア(予測値) クライアントA 55% クライアントB 40% クライアントC 30% クライアントD 25% モデルの予測値 (スコア)を出力 スコアをインサイ ドセールスのア プローチ優先度 に活用 受注結果

Slide 82

Slide 82 text

本セクションの推薦図書(ビジネス系) ● フィリップ・コトラー他『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編 第3版』 ● フィリップ・コトラー他『コトラーのマーケティング5.0』 ○ https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23523 ● マーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング』 ○ https://www.diamond.co.jp/book/9784478039632.html ● アン・H・ジャンザー『サブスクリプション・マーケティング』 ○ https://eijipress.co.jp/products/2255 ● Ron Kohavi他『A/Bテスト実践ガイド』 ○ https://www.kadokawa.co.jp/product/302101000901/ ● ウェス・ブッシュ『PLG プロダクト・レッド・グロース』 ○ https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2784-5 ● 福田 康隆『THE MODEL 』 ○ https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798158167 ● ニック・メータ他『カスタマーサクセス』 ○ https://eijipress.co.jp/products/2260 82

Slide 83

Slide 83 text

本セクションの推薦図書(技術系) ● ジューディア・パール他『因果推論の科学』 ○ https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163915968 ● ヤン・ルカン『ディープラーニング 学習する機械』 ○ https://www.kspub.co.jp/book/detail/5238080.html ● 高橋 将宜『統計的因果推論の理論と実装』 ○ https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10011781.html ● 原泰史『Pythonによる経済・経営分析のためのデータサイエンス』 ○ http://www.tokyo-tosho.co.jp/books/978-4-489-02350-7/ ● Ilya Katsov『AIアルゴリズムマーケティング』 ○ https://book.impress.co.jp/books/1117101147 ● エステル・デュフロ他『政策評価のための因果関係の見つけ方』 ○ https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8075.html ● ヨシュア・アングリスト他『「ほとんど無害」な計量経済学』 ○ https://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002252 ● G.W. インベンス他『インベンス・ルービン 統計的因果推論』 ○ https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=12291 83

Slide 84

Slide 84 text

分析に必要なデータ整備 とデータマネジメント

Slide 85

Slide 85 text

経営データ分析で求められるデータの品質 これまでの章では、管理会計の指標が算出できる、あるいは、マーケティングでの予測や効果検証が実施で きるデータが揃っている前提で説明 ● 誤ったデータを見てしまっていたら ● 今見たいデータを見るのに数週間待たないといけなかったら ● そもそもデータが見れなかったら ● 業務上の意思決定ができなかったり、誤ったりするかも ● 顧客に誤請求やメール誤送信してしまうかも ● データ分析ができなかったり、分析結果は意味を持たなかったりするかも どのようなデータの品質が必要か

Slide 86

Slide 86 text

データ品質とは データ品質(の度合い)は、データが果たすべき目的 に合致しているかどうか ● 品質の例として以下のような評価軸がある 品質評価軸の例 説明 正確性(狭義の品質) 正しいかどうか。現実世界との一致。合意されたデータソースとの一致 適時性・最新性 最新かどうか。分散されたデータの同時性。現在の世界との一致 アクセス可能性 アクセス可能か、利用可能か。データ取得の容易さ。アクセス制御 完全性 十分なデータか。必要なデータ(行・列・テーブル・スキーマ)が全て揃っている 一貫性 互いに合致しているか。データセット内やデータセット間でデータの等価性 【参考】政府CIOポータル「データ品質管理ガイドブック」 https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/data_hinshitu_guide_beta.pdf →では、データ分析を目的としたとき、どのようなテーブルが分析しやすか 誤ったデータを見て しまっていたら データを見るのに時 間がかかったら データが見れなかっ たら

Slide 87

Slide 87 text

【補足】基本的な用語の確認「テーブル」 ● 表、テーブル、データフレーム 商品コード 商品名 価格 P001 アンパン 200 P002 食パン 100 P003 カレーパン 150

Slide 88

Slide 88 text

【補足】基本的な用語の確認「行」 ● 行、ロー、レコード ● 分析では、個体ごとの観測など 商品コード 商品名 価格 P001 アンパン 200 P002 食パン 100 P003 カレーパン 150

Slide 89

Slide 89 text

【補足】基本的な用語の確認「列」 ● 列、カラム、フィールド、属性 ● 分析では、変数、特徴量など 商品コード 商品名 価格 P001 アンパン 200 P002 食パン 100 P003 カレーパン 150

Slide 90

Slide 90 text

【補足】基本的な用語の確認「値」 ● 値、バリュー、セル 商品コード 商品名 価格 P001 アンパン 200 P002 食パン 100 P003 カレーパン 150

Slide 91

Slide 91 text

分析しにくいデータの例 分析しやすいデータの前に、分析しにくいデータを挙げてみましょう ● 半角と全角の混在や名称のブレなど同一のものに複数の表記などの表記ゆれ ● 数値列に文字列など想定しないデータ型 ● データの重複や欠測 ● ダミーデータ ● 単位(円と万円など)の不明や混在 ● 項目名の省略 ● データの分断(途中に空白行・空白列など ) ● 一つのセルに複数の値 ● スプレッドシート(Excel)でのセルの結合 ● 一つのシートに複数のテーブル ● 特定のIDなどでの一意性を目的としていない非正規形 【参考】総務省統計局「統計表における機械判読可能なデータ作成に関する表記方法について」   https://www.soumu.go.jp/main_content/000723697.pdf  →河野大臣(2020年当時、行政改革担当大臣)のTweetでも拡散   https://twitter.com/konotarogomame/status/1331483895645097984

Slide 92

Slide 92 text

【補足】欠測と重複 データの欠測(欠損ともいう)があるとなぜ問題なのか ● 例えば、取引があるのに売上データがないと売上を過小評価してしまい、最悪、顧客やステークホル ダーに迷惑をかけてしまう ● 例えば、顧客マスタに欠損があることに気付かず結合してしまうと、地域ごとの売上を誤って集計してし まう ● 欠測のことを「NULL(ヌル)」ともいう (*補足:統計的因果の文脈ではなく、業務上の問題で生じる欠測について述べています ) データの重複があるとなぜ問題なのか ● 例えば、取引が二重計上されると売上を過大評価してしまい、最悪、顧客やステークホルダーに迷惑を かけてしまう ● 例えば、顧客マスタに重複があることに気付かず結合してしまうと、地域ごとの売上を誤って集計してし まう ● 重複がないこと=「一意 (ユニーク)」という

Slide 93

Slide 93 text

データ分析に適したデータ(テーブル)の例 代表的な例を紹介すると、 ● 整然データ ○ クロス集計やグラフ化に適したテーブル ● ワイドテーブル(大福帳データ) ○ 機械学習や統計解析など分析に必要なデータを容易に抽出しやすいテーブル

Slide 94

Slide 94 text

整然データ どちらが整然データでしょうか Hadley Wickham "Tidy Data" https://vita.had.co.nz/papers/tidy-data.pdf 地点 6時 12時 18時 札幌 晴れ 晴れ 曇り 東京 曇り 雨 雨 福岡 雨 晴れ 晴れ 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ

Slide 95

Slide 95 text

整然データ どちらが整然データでしょうか Hadley Wickham "Tidy Data" https://vita.had.co.nz/papers/tidy-data.pdf 地点 6時 12時 18時 札幌 晴れ 晴れ 曇り 東京 曇り 雨 雨 福岡 雨 晴れ 晴れ 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ

Slide 96

Slide 96 text

地点 6時 12時 18時 札幌 晴れ 晴れ 曇り 東京 曇り 雨 雨 福岡 雨 晴れ 晴れ 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ 整然データ ● 個々の変数が1つの列をなす

Slide 97

Slide 97 text

地点 6時 12時 18時 札幌 晴れ 晴れ 曇り 東京 曇り 雨 雨 福岡 雨 晴れ 晴れ 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ 整然データ ● 個々の観測が1つの行をなす

Slide 98

Slide 98 text

整然データ ● 個々の観測の構成単位の類型が 1つの表をなす 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 東京 6時 曇り 福岡 6時 雨 地点 時刻 天気 札幌 12時 晴れ 東京 12時 雨 福岡 12時 晴れ

Slide 99

Slide 99 text

整然データ ● 個々の値が1つのセルをなす 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ 地点 時刻 天気 札幌 6時,12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時,18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時,18時 晴れ

Slide 100

Slide 100 text

整然データ Hadley Wickham "Tidy Data" https://vita.had.co.nz/papers/tidy-data.pdf 地点 時刻 天気 札幌 6時 晴れ 札幌 12時 晴れ 札幌 18時 曇り 東京 6時 曇り 東京 12時 雨 東京 18時 雨 福岡 6時 雨 福岡 12時 晴れ 福岡 18時 晴れ ● 個々の変数が1つの列をなす ● 個々の観測が1つの行をなす ● 個々の観測の構成単位の類型が 1つの表をなす ● 個々の値が1つのセルをなす クロス集計やグラフ化 (BI化)しやすい

Slide 101

Slide 101 text

【参考】ワイドテーブル(大福帳データ) ● 特定のID単位でユニークな(重複のない)横持ちのテーブル(one-big-table) ● 機械学習や統計解析など分析に必要なデータを容易に抽出しやすいテーブル ● SQLだと、select・from・whereだけでたいていのデータ抽出・集計ができる 複数テーブルを結合することなく、一つのテーブルを指定して 観測の重複や欠測を気にすることなく、必要な条件を指定して 分析に使いたい列を選択するだけ

Slide 102

Slide 102 text

データ前処理(データクレンジング) ● データ前処理 ○ はじめから、整然データやワイドテーブルのような分析しやすいデータがあることはほぼないた め、SQLなどデータベース言語やプログラミング言語を用いて、データをきれいに (cleansing)整形 する前処理(preprocessing)が必要 ● データ前処理に使われるプログラミング言語やライブラリ、ツール等 ○ SQL(BigQuery, Redshiftなど) ○ Pythonのpandas(その他、Polarsなど) ○ Rのdplyr, data.table ○ Excel・Google スプレッドシートなど表計算ツール ○ その他、分析の言語やツール ■ Julia, Spark, SAS, SPSS, Stata, Tableau Prep, MATLAB等 →ぜひ、表計算ツールに加え、まずはいずれか一つの言語を使えるようになりましょう! とはいえ、経営層・従業員全員が、 SQLなど使いこなせるわけではない・・・ (*SQLは分析向きの列指向のDWHを紹介)

Slide 103

Slide 103 text

データの民主化 ● データの民主化とは ○ プログラミングなど特定の専門スキルがなくても、 組織の意思決定する人たち誰も が、見たい情 報にハードルなくアクセスでき、適切にデータを活用して意思決定に繋げられる状態の継続的な 実現(当社内定義) ● データの民主化のために必要なこと ハード面 ソフト面 ● データの品質を担保する分析環境 ○ 必要なタイミングで(適時性)、信頼できる集計結果に (正確性)、 アクセスできる(アクセス可能性)環境 ● データそのもの ○ 必要なデータ(アクセスログや営業の活動履歴等 )を集めて、蓄 積していること ● データ・ハンドリングのスキルを持った人材 ○ 必要な指標を、集計定義を理解した上で、 SQL等で自分でつく れる一定数の人材 ● データ・ドリブンな意思決定をする文化

Slide 104

Slide 104 text

意思決定主体が増えるとどうなるか 組織の意思決定する人たち =経営層・各部のマネジャー層・全メンバー 意思決定主体が増えると・・・ →主体によって集計定義がばらつき始め、より上段からの評価・意思決定が困難になる 月次売上 管理部署 営業部署 ・税込 ・受注日ベース ・途中解約分はKPIに反映しない ・税抜 ・請求日ベース ・途中解約分はKPIから減算 ???

Slide 105

Slide 105 text

管理会計と現場のKPIの連動 ● 経営層・マネジャー・メンバーなど意思決定者ごとに見たい情報は異なる ● 理想は、管理会計とマーケティング・営業など現場の KPIが繋がっている状態 MRR (財務会計) MRR (管理会計) 財管の誤差 課金 ユーザー数 既存 ユーザー数 新規 ユーザー数 ARPA (基本料金) ARPA ARPA (従量課金) 前月 ユーザー数 自然流入 解約率 広告流入 経営層の見たい情報 マネジャー層の見たい情報 メンバーの見たい情報 管理会計とKPIの連動 経営KGI 現場の KPI ● データ品質・適時性の問題 ● 販売方法の多様化(Webサイト・ア プリ・営業など)の施策 ● 意思決定主体や組織ごとにばらつく 集計定義 見ている数字がずれ、 意思決定が困難になる

Slide 106

Slide 106 text

KPIマネジメントとビジネス・インテリジェンス(BI)のダッシュボード 信頼できる同じデータソースから複数レイヤーにまたがるようにダッシュボードを作ることで、コミュニケーショ ンコストが減少 全社SaaS KPI 事業部別 KPI 施策別 KPI 106 KPI管理がしやすくなり(管理会計とKPIの連動)、データの民主化につながる

Slide 107

Slide 107 text

マネーフォワードのデータ分析基盤の概略図(2023-08時点) データを一元管理し、ソース・マート等の層に分けて分析基盤を構築することで、データの品質を担保し やすくなり、複数の意思決定主体の様々なユースケースでデータ活用しやすくなる 各プロダクトDB ソース層 マート層 ダッシュボード構築 アドホック・探索的分析 ローデータ ロー(生)データ。業務影響を避けるため 直接分析利用はしない ユースケース データのビジネス用途 データマート ユースケースに対応し たテーブル ソース ローデータをそのままコピー したテーブル 転送

Slide 108

Slide 108 text

【補足】データ分析基盤〜データレイク・データウェアハウス・データマート〜 データレイク・データウェアハウス(DWH)・データマートの層に分けてデータ分析基盤を構築することで、データの品質を担保しや すくなり、複数の意思決定主体の様々なユースケースでデータ活用しやすくなる ローデータ データレイク DWH データマート ユースケース 課金履歴 CRMツール アクセスログ 各プロダクト DB 課金履歴 CRMツール アクセスログ 各プロダクト DB 売上 SaaS KPI (管理会計) 月次売上 (財務会計) ロー(生)データ。業務影 響を避けるため直接分 析利用はしない ローデータをそのまま コピーしたテーブル レークのテーブルを加 工したマートへ加工し やすいテーブル ユースケースに対応し たテーブル ダッシュボードで KPIモニタリング 経理業務 (財務会計作成) LPOの 効果検証 処置有無と クリック結果 データのビジネス用途 メタデータ

Slide 109

Slide 109 text

メタデータとデータカタログ 集計するデータが整備できれば十分か? ● データに関する情報が特定のメンバーの暗黙知化していると、他のメンバーがそのデータについて誤っ たデータの使い方をして業務にマイナスの影響を与える可能性がある ● 分析者が誤った分析をしないためにデータを調査するのに時間とコストがかかる メタデータとは、「データに関するデータ」 ● データセット、テーブルおよびカラムの定義と説明 ● データアクセス権、実行日付や責任者連絡先 などがある データカタログは、メタデータ管理ツール ● 企業が所有するデータ資産を集約、整理し、利用者がデータを効率的に検索、利用できるように したツール メタデータの整備とその品質はデータそのものの品質と同じくらい重要

Slide 110

Slide 110 text

より広い視点、データマネジメント データ活用のためのデータマネジメントのデファクト・スタンダードとして、 DMBOK(Data Management Body of Knowledge)という本がある。この章で扱ったのは、データマネジメントの一部のテーマの導入部分のみ ● データガバナンス ● データ取扱倫理 ● データアーキテクチャ ● データモデリングとデザイン ● データストレージとオペレーション ● データセキュリティ ● データ統合と相互運用性 ● ドキュメントとコンテンツ管理 ● 参照データとマスタデータ ● データウェアハウスとビジネスインテリジェンス ● メタデータ管理 ● データ品質

Slide 111

Slide 111 text

より広い視点、データマネジメント DMBOKという本の冒頭は次の一文ではじまる 「データは企業にとって重要な資産である。」 データと情報は、情報経済にとって「通貨(data as currency)」であり、「企業の生命線(data as life blood)」であり、さらに「新しい原油(the new oil)」とさえ呼ばれるようになった。組織が データ分析に価値を置くかどうかにかかわらず、 データなしではビジネスの遂行すらできな い。 *DMBOK(Data Management Body of Knowledge)  https://www.dama.org/cpages/body-of-knowledge

Slide 112

Slide 112 text

【補足】データ資産の価値 コスト ● 取得・保存コスト ○ データの取得と保存にかかるシステムコス ト ● 品質コスト ○ 存在しなくてはならないデータの欠如 ○ データが欠落している場合の組織への影 響 ○ 喪失したデータを復元するコスト ○ 存在してはならないデータの存在 ○ 顧客、企業の財務、評判に害を与える不正 確なデータ ○ データの改善にかかるコスト ● リスク対応コスト ○ データに関連するリスク軽減コストとリスク を抱えることの潜在的コスト 収益 ● 品質価値 ○ より高品質なデータから受ける価値 ○ ビジネスプロセスが滑らかになる価値 ● 活用・意思決定から生まれる価値 ○ ビジネスインテリジェンス(BI)で特定された好 機を活かすことから得られる収益の価値 ○ 斬新な方法でデータを利用した場合に期待 できる価値 ● 市場流通価値 ○ データを販売することで得られる価値 ○ データを取引に利用することで得られる価値 データは価値をもつ→データの価値は経済的観点で評価可能であり評価されるべき

Slide 113

Slide 113 text

本セクションの推薦図書 ● 『データマネジメント知識体系ガイド 第二版』 ○ https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/18/270160/ ● ゆずたそ他『実践的データ基盤への処方箋』 ○ https://gihyo.jp/book/2021/978-4-297-12445-8 ● Wes McKinney『Pythonによるデータ分析入門 第3版』 ○ https://www.oreilly.co.jp/books/9784814400195/ ● 原泰史『Python/Excel/SQLによる経済・経営分析のためのデータ処理入門』 ○ http://www.tokyo-tosho.co.jp/books/978-4-489-02394-1/

Slide 114

Slide 114 text

(おまけ) ビジネスでのAI活用 とDX・イノベーション

Slide 115

Slide 115 text

ChatGPTはイノベーション? ChatGPTを使っていますか? 何に使っていますか? 何がすごいですか? イノベーションだと思いますか?

Slide 116

Slide 116 text

【補足】AI(人工知能)とは ● AI(Artificial Intelligence)とは、 ○ 近年AIはいろんな定義で用いられるが、 AIという言葉は、アメリカのダートマス大学での研究プロ ジェクトを提案するプロポーザルで 1955年ジョン・マッカーシーによって初めて用いらた。 ○ そのプロポーザルでは、自然言語処理やニューラルネットなど 7項目を人工知能の課題としてい た。 ○ 人工知能の概念は、ダートマス会議の数年前、 1950年アラン・チューリングの "COMPUTING MACHINERY AND INTELLIGENCE"が代表的で、現在ではチューリング・テストとして知られて いる。 ○ チューリング・テストは、質問する人間に、機械が人間が回答していると判断するように仕向け、 その判断である機械が「人間的」かどうかを判定するテスト。 ○ 誰かがコンピュータに (人間のような)何かをさせる方法を見つけるたびに、人々が「それは (人間 のような)知能ではない」ことを見出すことを AI効果という(Pamela McCorduck)。「AIはその時点で 未だなされていないもののことである」 (ラリー・テスラー)と皮肉を込めていわれる。

Slide 117

Slide 117 text

【補足】GPT、LLM、生成AIとは ● GPT(Generative Pretrained Transformer)とLLM(Large Language Model) ○ この数年、AIがビジネスで大きな脚光を浴びている要因の一つは ChatGPT ○ 2014年にヨシュア・ベンジオ (2018年にチューリング賞受賞 )の研究室が論文"Neural machine translation by jointly"でAttentionという仕組みを発表。 Googleの研究チームが論文 "Attention Is All You Need"でAttentionを用いたアーキテクチャを Transformerと名付けた。2022年に OpenAIがChatGPTを公開。 ○ 大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)は、多数のパラメータ (例えばGPT-3で2000億 弱)を持つニューラルネットワークの言語モデル。 GPTやBERTなど。 ○ テキストや画像(例としてStable Diffusion)等を生成するAIを生成AI(Generative AI)という

Slide 118

Slide 118 text

【補足】イノベーションとは イノベーションは「技術革新」と訳されることも多いが、決して技術に限らない ● ピーター・F. ドラッカー『イノベーションと企業家精神』 ○ 「イノベーションは技術に限らない 。モノである必要さえない。それどころか 社会に与える影響力 において、新聞や保険をはじめとする 社会的イ ノベーションに匹敵するものはない」 ○ 「新しいものを生み出す機会となるものが変化である。イノベーションとは意識的に組織的に変化を探すことである。それらの変化が提供する 経済的、社会的イノベーションの機会を体系的に分析することである。通常それらの変化は、 すでに起こった変化や起こりつつある変化 であ る。成功したイノベーションの圧倒的に多くが、そのような変化を利用している。」 イノベーションの概念を最初に提唱されたのは経済学者ヨーゼフ・シュンペーターと言われる ● シュンペーター『経済発展の理論』で「新結合」というイノベーションに相当する言葉を次のように定義 ○ 新しい財貨、すなわち 消費者の間でまだ知られていない財貨 、あるいは新しい品質の財貨の生産 ○ 新しい生産方法、すなわち当該産業部門において、実際上未知な生産方法の導入。これは決して科学的に新しい発見に基づく必要はなく、ま た商品の商業的取り扱いに関する新しい方法も含んでいる ○ 新しい販路の開拓。すなわち当該国の当該産業が従来参加していなかった市場の開拓。ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わ ない。 ○ 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。この場合においても、この供給源が既存のものであるかー単に見逃されていたのか、その獲得 が不可能とみなされていたのかを問わずーあるいは初めて作り出されねばならないのかは問わない。 ○ 新しい組織の実現。すなわち独占的地位 (例えばトラスト化による )の形成あるいは独占の打破 【引用】 P.F.ドラッカー(著), 上田惇生(編訳)『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』 ,ダイヤモンド社 シュム ペーター(著), 塩野谷祐一 (訳) , 中山伊知郎 (訳) , 東畑精一 (訳)『経済発展の理論』 ,岩波文庫

Slide 119

Slide 119 text

【補足】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは 経済産業省は、「デジタルガバナンス・コード 2.0」でDX(デジタルトランスフォーメーション)を次のように定義 ● 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズ を基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業 文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」 *経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」  https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf

Slide 120

Slide 120 text

生成AI・大規模言語モデルで経営データ分析はどう変わりうるか ● SQLを書くスキルのないビジネス担当者でも自然言語で見たい情報を (ダッシュボード化していない情報 であっても)見ることができるようになる データベース 自然言語での質問 「今月のユーザー増加数は?」 自然言語での回答 「1万ユーザーです」 *参考に生成したSQL自体も付ける メタデータ メタデータと質問 からSQL生成 SQLの結果の集計数値 SQLを実行 ● データ分析基盤やメタデータの整備はより一層重要に ● SQLを読めるスキルは全員でなくても一定数の担当者には必要

Slide 121

Slide 121 text

生成AI・大規模言語モデルで経営データ分析はどう変わりうるか ダッシュボードで定常的にモニタリングしている経常収益や課金顧客数等の指標以外の多少複雑な条件の 指標であっても、見たい情報にすぐにアクセスできるようになり意思決定のスピードがあがる →データの民主化が促進される その他、様々な活用方法が考えられる ● KPI数値にコメントを付与した経営レポートの作成 ● 広告文章を複数自動生成して A/Bテスト ● データを元にメタデータの大半を自動生成 などなど

Slide 122

Slide 122 text

本セクションの推薦図書 ● シュム ペーター『経済発展の理論』 ○ https://www.iwanami.co.jp/book/b248630.html ● P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』 ○ https://drucker.diamond.co.jp/works/detail/20.html ● クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』 ○ https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798100234 ● チャールズ・A・オライリー他『両利きの経営』 ○ https://str.toyokeizai.net/books/9784492534519/ ● ヤン・ルカン『ディープラーニング 学習する機械』 ○ https://www.kspub.co.jp/book/detail/5238080.html ● 岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』 ○ https://www.iwanami.co.jp/book/b625941.html  ● Alan. M. Turing "COMPUTING MACHINERY AND INTELLIGENCE" (1950) ● John McCarthy, Marvin L. Minsky, Nathaniel Rochester, and Claude E. Shannon "A Proposal for the Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence" (1955)

Slide 123

Slide 123 text

経営データ分析を はじめる方へ

Slide 124

Slide 124 text

経営×データ分析のキャリア ● データアナリスト等データ専門職 ○ データアナリスト・データサイエンティスト ○ データエンジニア・アナリティクスエンジニア・データマネジャー ● データ分析・活用への理解があるマーケター・営業・経理などビジネス職 ○ マネーフォワードで活躍するデータ分析を学んだビジネス職はどう活かしているか 講義のみ

Slide 125

Slide 125 text

データを前へ 経営をもっと前へ データを活用すれば 意思決定のスピードと精度は もっと向上し 経営はよりよくなります

Slide 126

Slide 126 text

Special Thanks 本資料の作成にあたり、資料の一部をご提供いただいた弊社のメンバーに感謝いたします。 さの @SanoNatsuki さん 管理会計の章の実務事例と営業の章のリードスコアリング事例の資料 渡會 さん Webマーケティングの章の A/Bテスト事例の資料 田宮 さん Webマーケティングの章のキャンペーン効果検証の資料 えさ @0610Esa さん データマネジメントの章のデータの民主化・ダッシュボードの資料