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受託分析企業に約8年勤めて思うこと 白金鉱業 Meetup Vol.5 池田 裕章 Twitter: @overlap2

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1 • 本発表はあくまで私個人の見解であり、所属組織を代表するもの ではありません。 • 資料は一部修正の上、後日compassにて公開いたします。

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2 自己紹介  池田 裕章(Twitter:@overlap2)  総合研究大学院大学 素粒子原子核専攻 高エネルギー加速器科学研究科 5年一貫制博士課程卒  つくばのKEKで素粒子理論物理の格子QCD の研究をしていました  2011年度入社 新卒8年目  現在は受託分析部門の副部長をやっています ※ 前回の白金鉱業Meetupで発表した紺谷さんが部長です  最近困っていること 会社で半分自分のモチベーションのためにkaggle PJを企画したが、忙しくて全然取り組 めていないこと

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3 自己紹介  経歴  1年目 主に広告や通販に関連する集計・可視化による小規模な分析やレポーティング業務などを実施  2年目 化粧品会社に半常駐でキャンペーン管理ツールの導入サポートなどを実施  3~5年目 Webメディア企業に常駐して、主に広告効果の分析やユーザーの態度変容に関する分析を実施  6年目 エンターテイメント企業のチケット販売予測に関連するシステム開発の分析チームのリーダーを担当  7~8年目 受託分析部門の副部長としてマネジメント業務に従事

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4 今日のお話  受託分析を生業とする企業に新卒から約8年勤めてきて、受託分析という業務 において難しい・大変だと思っていることをいくつか話したいと思います。  正直、認識が全然異なっていることもあると思いますが、こんなことを考えて仕事を している人もいるんだなーと温かい目で見ていただければと思います。

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5 はじめに

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6 はじめに  近年はAI・機械学習ブームが到来し、これまでデータ活用に取り組んでいなかった 企業もデータの活用方法を模索している状況です  しかし、データから企業価値の向上に寄与できる人材は限られているため、データ分析を 外部委託する受託分析のニーズも自然に高まっている傾向にあります  受託分析サービスとは  クライアント企業からデータを受領またはクライアント企業に常駐して、分析業務を請け 負い、データにまつわる課題を解決するサービス  様々なクライアントの多様な課題に対して適切な分析を実施して企業のデータ活用を サポートする

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7 受託分析サービスの特徴  受託分析の主な特徴  クライアントによって扱うデータが異なる  扱う課題も多種多様  取り得るアプローチも様々  短期の分析をたくさん回す  幅広い知識・経験が求められることに加えて、短期で様々な案件を回すので、 受託分析特有の難しさが存在します  本日は受託分析の業務の中で個人的に難しい・大変と感じている点についてお 話しします

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8 1. クライアントの分析に対する認識調整

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9 クライアントの分析に対する認識調整  データ分析の理想と現実  受託分析では色々なクライアントと仕事をするわけですが、たまに分析を「魔法 の杖」のように思っている人がいます  当然ですが、分析は「魔法の杖」ではなく、「科学的な根拠がある技術」なの で、できること・できないことが存在します  そのためプロジェクトの早期にデータ分析に関する認識を揃えることが重要にな ります

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10 データ分析の理想?  データ分析の理想としてたまに聞く話に「分析で人間が想定していない素晴らし い結果を見つけたい」という要望があります  しかし、実際に分析を行った結果は、業務を行っている人がある程度想定してい たり、認識しているものが出てくることがほとんどです  これは全然不思議なことではないですし、分析のやりかたに問題があるわけでもあ りません  人間の真の構造を捉える能力は意外に高い  人間は少数の影響要因を見つけるのは得意  感覚に合わない結果が出た場合、むしろ分析に間違いがないか確認した方が無難です  ただし、人間は影響する変数が増えると途端に直感が働かなくなるので、影響要因が 多いと想定される場合、どこまで感覚が正しいか適切に検証すべきです 要因 要因 要因 要因 要因

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11 分析は物事の「真の姿」を見つけるもの  データ分析に取り組むときに認識しておくべきこと  データ分析の説明で「データの山から金塊」を探すという認識は正しくないと考えています  データの山を掘った先にあるものは「金塊」ではなく、物事の「真の姿」  「真の姿」はビジネス的に期待したものであることもあるし、そうでない場合もあります  もしクライアントの期待値が高すぎる場合、想定される結果が出ない可能性がある旨を 伝え早めに調整します  想定していた仮説が異なっていた場合  想定していたストーリーに使えずとも別な切り口の活用方法が見いだせる場合もありま す  仮説が間違っていたで終わらずに、分析で見えた構造を活用できないかを考えることは 重要です

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12 2. 事業会社と比較して難しいと思うところ

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13 受託分析で大変なこと  受託分析では比較的短期で別な会社の案件に取り組むことになりますが、案件 が変わるたびに下記のような点について都度調査・学習が必要になります  クライアントの業界・業種に関する周辺知識  クライアントのビジネスモデル  課題に対して取り得るアプローチ  クライアント側の状況を把握しきれないので、どうしてもクライアントの事情に振り 回されやすいです  例  データ受領の遅れ  プロジェクト開始時期の遅れ  クライアント担当者の上長や他部門との認識相違  クライアント担当者の離職  クライアントのサービス変更・終了など  事前に予測することが困難なことも多く、プロジェクトに致命的な影響を与えることもある  コードは基本的に書き直し  使いまわせる部分もあるが、データ構造に合わせて書き直し

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14 事業会社に常駐していて思ったこと  (ある程度の規模がある)事業会社における分析  主軸となるサービスやビジネス基盤があり、分析はその効率改善や課題解決、マーケティ ング施策の立案・検証のために行う  基本的にサービスに関連したデータを問題に応じて様々な角度から深ぼることが多い  特徴  長く分析をやっていると自然に知見が蓄積されていく  同種のデータを長期に扱うので共通する作業を汎用化しやすい  事業会社に3年常駐していた時に思ったこと  ドメイン知識の再学習が不要  長期的に同種のデータを扱うので、使いまわしが可能なコードが溜まっていく  関係者が社内にいるので、(受託分析に比べると)状況を確認しやすい  新しい課題に対して実際に分析を行わなくとも、どのような結果が出るかが なんとなく予想がつくようになる

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15 事業会社の分析と受託分析のイメージ  事業会社の分析のイメージ  事業会社での分析は段々レベルが上がるRPGゲームみたいなイメージ  最初は勝手がわからなくとも継続していくにつれて、知識や便利なコードが 蓄積されて効率的になっていく  もちろん新しい問題は出続けるが、過去の事例などで対応可能であったり、 事前に予測が可能だったりする  知見の蓄積が重要  受託分析のイメージ  入るたびに形が変わるダンジョンをレベル1から攻略していくローグライクゲームのようなイ メージ  ある案件で学んだことが次の案件で生かせるとは限らず、その都度状況に応じて 考える必要がある  しかもクライアントの事情など、予期できない落とし穴がたくさんある  状況に応じた判断力・対応力が重要

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16 判断力と対応力の向上  適切な判断・対応をするためには、想定されるリスクや懸念事項を可能な限り事 前に想定しておくことが重要です  特に分析はやってみないと分からないことが多いので、上手くいかなかった場合の対応 工数や不測の事態が起きた場合の工数もある程度見積もっておくべき  リスクや懸念事項を事前に想定するには多くの経験が必要だが、若手が経験を 積むためにはリスクがつきもの  そのため、リスクをコントロールしつつ若手に経験を積める環境を整えるためにも、 組織的な取り組みが必要  提案書や報告書のレビュー体制、若手がシニアメンバーのサポートの下でPMを経験でき る仕組み、適切なメンバーアサインなど

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17 受託分析の面白いと思うところ  個人的には下記のような点が面白いと思っています  大変だけれど、やりがいはある  想定されるリスクをコントロールして、良い結果を出せるとやはり楽しい  多様なスキル・技術を磨くことができる  分析のスキルだけではなく、エンジニアリングやビジネス、プロジェクト管理など、様々な 技術を習得できる  様々な業界・業種の分析から共通する構造が見えたりする  ある案件で得た知見を別な案件で生かせることも多い

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18 分析のプロフェッショナル意識  受託分析は分析自体の対価としてクライアントからお金を貰うという構造のため、 収益の主体という位置づけになる  お金を貰う以上相応の成果を出すことを求められるので、結果に対しても責任を 持って取り組むことになり、ビジネス的なインパクトを意識して分析を実行する → 分析のプロフェッショナルとしてクライアントに価値を出すという意識に繋がる

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19 3. 案件への適切なメンバーアサイン

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20 受託分析プロジェクトの体制  分析プロジェクトの基本的な体制はデータサイエンティストのPM1名、メンバー2~ 3名程度(+レビュアー、アドバイザー、エンジニア)  人数は分析の内容に応じて決まるが、誰をアサインするかが悩ましい PM メンバー メンバー PM メンバー

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21 受託分析におけるアサインの重要性  会社としての売上達成、プロジェクトの成功、メンバーのモチベーションや育成など、 多様な観点が入るので、結構難しい問題です  ですが、クライアントに対して価値ある分析を行うためにも、組織として持続可能で あるためにも非常に重要だと認識しています  不適切なアサインは炎上のリスクを抱えるし、組織としてもスキルトランスファーが適切に 行われなかったり、メンバーの離職など長期的に不利益な事態が起こる

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22 アサインで気を付ける点  アサインを検討する上で主に下記のような点に気を付けています 1. メンバーが保有しているスキルが適切であること  チームとして品質を担保したり、スキルトランスファーが適切に起こるようなアサインが望 ましい  クライアントは単純に優秀な人のアサインを希望するが、それではメンバーが育たない 2. メンバーの志向性とある程度合っていること  もちろん100%要望を反映させたアサインはできないが、できるかぎり折り合いをつけ る努力が大切  長期案件の場合、適切なタイミングで入れ替えも検討 3. プロジェクト内で人間関係的に問題がないこと  人間なので合う人・合わない人は存在する  実はかなり重要な要素

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23 適切なメンバーアサインに向けて  全ての条件を満足するようなアサインは現実的にはほとんど存在しない  プロジェクトを安全に回せて、育成的な観点もあって、メンバーがやりたいと思っている案 件がきて、そのメンバーの稼働がちょうど空いていて、、、ということはない  そもそも受注する案件を十分にコントロールできないので、やりたいと思っているメンバーが 空くタイミングで、そのメンバーがやりたい案件を受注できる確率は高くない  みんながやりたいことをやったら組織として成り立たないし、やりたい案件しかやらなかった 人が将来的に組織として高い価値を出すかは微妙  上記のような葛藤を抱えつつ現状は主にマネージャーが営業やメンバーと調整し、 できるだけ各々に合ったアサインを実施しています  問題がないわけではないが、昔よりは大分良くなってはいるのではないかと思ってま す

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24 まとめ

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25 まとめ  下記3点についてお話しさせていただきました  クライアントの分析に対する認識調整 → データ分析は物事の「真の姿」を見つけるアプローチ 認識に齟齬があれば早めに調整する  事業会社と比較して難しいところ → 案件が変わるたびに新しく学ぶ必要がある クライアントの事情に振り回される コードの汎用化が難しい  案件への適切なメンバーアサイン → 価値ある分析の実施、組織の持続可能性のため非常に重要 案件や組織、メンバーのバランスを考えてアサインを検討

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26 ご清聴ありがとうございました