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マネージャーこそ真剣に考える 「情報量の差」を意識したオンボーディング 1

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アジェンダ 2

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スー 所属 株式会社TechBowl 何やってる? 「TechTrain」というサービスで反復横跳びし続けている何で も屋さん(Laravel, Next.js, AWS, etc...) 趣味 お酒(よく溺れる) サウナ 読書 3

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マネージャーの皆様方、こんなことありませんか? すごいと聞いてたけど、思ったよりパフォーマンス出ないな チームメンバーが自由に動いてくれてることとチームとしてやりたいことがずれ始め ているな? 色々伝えてるつもりなのになんでそうなるんだろ・・・? どこで情報が失われてるんだろう? 私が伝え方下手なのかな...もっと明確に伝えるべきだったの か... 4

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マネジメントされる側の方 こんなことありません? 色々やってみてるけど、なんか評価されない。成果でない。 欲しいと思ってる情報あるけど、どこにあるんだ・・・? いきなりマネージャーから新しい情報出てきたぞ・・・!? やってる割になんか評価されないな・・・ 現場のことが伝わってないのかな・・・ 5

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情報差分がある or 情報の適切な提示ができていない 6

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マネージャーとメンバーの情報差分が なぜ生じるのか? 7

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 1. 役割の違いによる情報アクセスの差 2. 暗黙知の共有不足 3. コミュニケーションの非対称性 4. 期待値の不明確さ 5. 時間的制約とコンテキストスイッチング 6. 認知バイアスと視点の相違 7. 組織構造による情報遮断 8. 経験と知識の非対称性 8

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[現在の解決策] AIのために 情報を貯める場所と種類を決めて貯める (後ほど社内のサムシング見せます) 9

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 1. 役割の違いによる情報アクセスの差 具体例: マネージャーは経営会議や他部門との調整会議に参加しており、会社全体の方針や 予算制約を把握している。一方、メンバーはそれらの情報にアクセスできず、「なぜ自分の アイデアが却下されるのか」理解できない。 マネージャー: (出せない情報で承認できないんだよなー) メンバー: 何で承認されないんだよー! 10

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 2. 暗黙知の共有不足 具体例: 設計の背景や過去の議論経緯がドキュメント化されておらず、過去のプロジェクト を経験したマネージャーだけが「なぜこの設計なのか」を理解している。新しいメンバーは 合理的と思える改善案を提案するが、考慮されていない制約があることを知らない。 メンバー: これってこっちの設計の方が良くないですか? マネージャー: 実はこれ過去にやったことがあってこういう 形で失敗していてねー! 11

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 3. コミュニケーションの非対称性 具体例: マネージャーは「このタスクは優先度が高い」と伝えたつもりだが、メンバーは 「複数の高優先度タスクのうちの一つ」と解釈し、マネージャーの期待するタイミングで完 了しない。 マネージャー: 優先度高で進めといて〜! メンバー: わかりましたー!(他の高いタスクの下に積んど こ!) 12

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 4. 期待値の不明確さ 具体例: マネージャーは「自主的な行動」を期待しているが、具体的に何をどこまでの権限 で行うべきかを明示しておらず、メンバーは「指示を待つ」姿勢になってしまう。あるいは 逆に、メンバーが行動しすぎてマネージャーの想定と異なる方向に進んでしまう。 マネージャー: あとは好きにやっていいよ! メンバー: わかりましたー!(terraform destroy) 13

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 5. 時間的制約とコンテキストスイッチング 具体例: マネージャーは日々多くの会議と並行タスクに追われ、各メンバーと十分なコミュ ニケーションを取る時間がない。結果として、メンバーが抱えている技術的な課題や懸念に 気づかない、または誤解したまま判断を下してしまう。 マネージャー: あーそれは逆でこっちで進めておいて! メンバー: あの人全然現場わかってないわ 14

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 6. 認知バイアスと視点の相違 具体例: マネージャーはプロジェクト全体の進捗を気にしている一方、メンバーは自分の担 当範囲の技術的完成度に関心がある。この視点の違いから、成功の定義や優先すべき事柄に ついて認識のズレが生じる。 15

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マネージャー: (全体のデッドラインを考えると難しいんだよ なぁ...) マネージャー: このチケットの対応はどうなっていますか? メンバー: 実装は完了しました!リファクタリングを進めて ます! 16

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マネージャー: それより先に他のチケットを進めてもらえま せんか?事業としてはこちらの機能を早くリリースしたい です メンバー: (せっかく良いコードを書いているのに、数だけ気 にして...) わかりました。 マネージャー: (品質も大事だけど、今はスケジュールが厳し いんだよな...) 17

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 7. 組織構造による情報遮断 具体例: 会社の意思決定構造がサイロ化しており、関連部門間の情報共有が不足している。 その結果、マネージャーもメンバーも、他チームの動きを十分に把握できず、連携が必要な 作業で齟齬が生じる。 マネージャー: このAPIの仕様変更、なぜ事前に教えてくれ なかったんですか? 他チームのメンバー: え?先週のアーキテクト会議で承認さ れたと聞いていますが... 18

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マネージャー: そんな会議の招待すら来ていないよ... メンバー: (また急な仕様変更か...)結局しわ寄せは現場に 来るんだよな 19

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マネージャーとメンバーの情報差分が生じる原因 8. 経験と知識の非対称性 具体例: ベテランのマネージャーは過去の失敗事例から学んだ教訓を持っているが、それを メンバーと十分に共有していない。メンバーは「車輪の再発明」をして同じ失敗を繰り返し てしまう。 20

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メンバー: マネージャー、このAPIキャッシュの実装方法を 考えてみたんですが、どうでしょう? マネージャー: んー、それだとスケーラビリティに問題が出 そうだから、別の方法にしよう メンバー: なぜですか?理論的には問題ないはずですが... 21

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マネージャー: (3年前に同じ方法で大失敗したんだよなぁ... でも細かく説明する時間がない)とにかく違う方法で頼む よ メンバー: (また根拠のない指示か...)わかりました... 22

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情報差分がもたらす問題のまとめ 信頼関係の毀損 「マネージャーは重要なことを隠している」「メンバーは言っても理解してくれない」とい う不信感 意思決定の質の低下 不完全な情報に基づく判断により、最適でない選択をしてしまう モチベーション低下 「自分の努力が正しく評価されていない」「自分の意見が反映されない」という不満 非効率な作業 誤解に基づくやり直しや、無駄な二重作業の発生 23

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情報差分は、組織的な施策が必要 24

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TechBowlの場合の決定 [過去の決断] 人間が見やすい 情報のまとまりを意識 認知負荷が低い 25

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実際に見せる 26

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TechBowlの場合の決定 [最近の決断] 1. AIの読み先を減らすため、GitHubとFigmaにツールを集約 2. AIが読みやすい場所にドキュメントを配置 3. AIが読みやすいドキュメントの形式を決める 27

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実際に見せる 28

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ご清聴ありがとうございました! 29

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おまけ 30

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以降は認知負荷についての話。 聞きたい人がいればそちらを話す 31

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認知負荷理論とは何か? 認知負荷理論(Cognitive Load Theory) は、1980年代にオーストラリアの教育心理学者ジョ ン・スウェラー(John Sweller)によって提唱された理論です。 本質的認知負荷 学習対象そのものの複雑さによる負荷 外在的認知負荷 学習方法や環境による余計な負荷 ドメイン的認知負荷 新しい知識を既存知識と関連付ける負荷 新しいメンバーが感じる「情報差分」は認知負荷の一種な 32

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オンボーディングにおける認知負荷の問題 研究によって明らかになった事実: 新しいチーム参加者は平均して 300〜400% の認知負荷を経験する これは通常業務の 3〜4倍の精神的負担 を意味する 結果として約 23% の新入社員が最初の6ヶ月で退職を検討 なぜ新メンバーはすぐに活躍できないんだろう? 認知リソースが情報処理だけで消費されてしまい、本来の 能力発揮ができないんですね 33

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認知的徒弟制(Cognitive Apprenticeship)モデル 研究者のCollins、Brown、Newmanによって提唱されたこのモデルは、複雑なスキル習得を効 果的に支援します。 1. モデリング 熟練者が作業プロセスを実演 2. コーチング 学習者が試行する際の観察と指導 3. 足場かけ 徐々に支援を減らしていく段階的自立 4. 明確化 暗黙知を言語化して共有する 34

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認知負荷を考慮したオンボーディング設計のポイント 1. チャンク化(情報の分割) 研究結果:一度に処理できる情報は5±2チャンクが限界 → 大量の情報を意味のある小さな単位に分割して提供 2. 段階的複雑性(Progressive Complexity) 研究結果:複雑性を徐々に上げることで学習曲線が最大40%改善 → シンプルなタスクから始め、徐々に難易度を上げていく 3. マルチモーダル学習 研究結果:異なる知覚チャネルを利用すると記憶定着率が22%向上 → 文書、図解、実践、ディスカッションなど複数の方法を組み合わせる 35

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実践例:エンジニアオンボーディングの構造化設計 第1週:基盤構築 チーム文化とツールのみに集中 同僚との1対1ミーティング 環境セットアップのペアプログラミング 認知負荷対策: 社会的負荷と技術的負荷を分離 第2-3週:コンテキスト獲得 小規模な修正タスク ドキュメント改善への貢献 コードベースのペア探索 認知負荷対策: アクティブラーニングで記憶定着率向上 36

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情報差分を減らすドキュメント設計の研究知見 情報アーキテクチャの最適化 研究結果: 適切な情報構造化により検索時間が最大68%減少 知識マップ: 情報間の関連性を視覚化 階層的整理: 3レベル以内の階層構造が最も理解されやすい 命名規則: 一貫した命名により検索負荷を軽減 ジャストインタイム情報提供の効果 研究結果: 必要なタイミングでの情報提供で学習効率が31%向上 コンテキスト依存ヘルプ: 作業中に必要な情報だけを表示 FAQ形式: 実際に発生した問題と解決策の整理 チェックリスト: 認知負荷を外部化して作業精度を向上 37

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マネージャーができる認知負荷軽減アプローチ 1. メンタルモデル構築支援 システム全体の概念図を提供し、徐々に詳細を追加 研究効果: 複雑システム理解が45%向上 2. 意図的な反復 重要概念を異なる文脈で計画的に繰り返す 研究効果: 長期記憶への定着率70%向上 3. コンテキスト共有の明示化 決定理由や背景情報を常に提供 研究効果: チーム間の認識齟齬が36%減少 38

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参考文献・研究論文 Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12, 257-285. Collins, A., Brown, J. S., & Newman, S. E. (1989). Cognitive apprenticeship: Teaching the crafts of reading, writing, and mathematics. Knowing, learning, and instruction: Essays in honor of Robert Glaser, 18, 32-42. Artino, A. R. (2008). Cognitive load theory and the role of learner experience: An abbreviated review for educational practitioners. AACE Journal, 16(4), 425-439. Mayee, R. E., & Moreno, R. (2003). Nine ways to reduce cognitive load in multimedia learning. Educational Psychologist, 38(1), 43-52. Begel, A., & Simon, B. (2008). Novice software developers, all over again. Proceedings of the Fourth International Workshop on Computing Education Research, 3-14. Johnson, A., & Senges, M. (2010). Learning to be a programmer in a complex 39