Go のWebAssembly 活用パターン紹介 syumai Go Connect #7 (2025/6/11) 

自己紹介 syumai ECMAScript 仕様輪読会 / Asakusa.go 主催 株式会社ベースマキナで管理画面のSaaS を開発中 Go でGraphQL サーバー (gqlgen) や TypeScript でフロント エンドを書いています Software Design 2023 年12 月号から2025 年2 月号まで Cloudflare Workers の連載をしました Twitter ( 現𝕏): @__syumai Website: https://syum.ai 

今日話すこと WebAssembly について Go のWebAssembly の特徴 Go のWebAssembly の現在のユースケース Go のWebAssembly の将来のユースケース 

注意 今回の内容は、主にアプリケーション実装者観点での話です WebAssembly 自体の仕様には深く踏み込みません 

WebAssembly について 

WebAssembly について 主にブラウザを動作環境としたバイナリ形式の言語 バイナリ形式に対応するテキスト形式もある 略称はWasm 最近では、ブラウザ以外の動作環境も増えている 

WebAssembly の特徴 ポータブル あらゆるところで動く ブラウザ JS ランタイム (Node.js, Deno, Cloudflare Workers 等) 各言語向けライブラリ (Wasmtime, Wasmer 等) CLI ツール (Wasmtime, Wasmer 等) Docker (WasmEdge) 安全 サンドボックス化された環境内で実行 素の状態ではOS の機能を触れない 

WebAssembly 関連の重要な技術 WebAssembly System Interface 略称はWASI WebAssembly がシステム (OS 等) とやりとりするためのインタフェース 例えば、以下のようなシステムへの機能呼び出しインタフェースを実装できる ファイルアクセス HTTP 通信 

WebAssembly 関連の重要な技術 WebAssembly Component Model WASI 0.2 の一部 WebAssembly 製のコンポーネントが実装するインタフェース定義を自由に行える インタフェース定義用の言語であるWIT (Wasm Interface Type) が追加 ファイルアクセス、HTTP 通信等のインタフェースもWIT で書かれるように プログラミング言語を跨いだ機能呼び出しが可能に 

WIT の例 wit/component.wit package docs:[email protected]; interface add { add: func(x: u32, y: u32) -> u32; } world adder { export add; } Go - The WebAssembly Component Model より http://component-model.bytecodealliance.org/language-support/go.html 

Go のWebAssembly の特徴 

Go のWebAssembly の特徴 ビルドが簡単 普段のビルドコマンドに GOOS=js GOARCH=wasm を付けるだけでビルド可能 CGO を使っていなければ大体どんな実装でもビルドが通る バイナリサイズが大きい Go のランタイムのサイズ自体が大きいので、簡単に数MB のバイナリになる 一応TinyGo という道具も使える ( かなり小さくなる) ブラウザ用途では考慮が必要 

Go のWebAssembly の現在のユースケース 

Go のWebAssembly の現在のユースケース ブラウザでの実行 プラグイン機構の構築 CDN Edge での実行 npm でのコマンド配布 

ブラウザでの実行 Go で実装したロジックをブラウザ上のJavaScript から呼び出す Go の充実した標準ライブラリの機能をブラウザで活用可能 暗号関係のライブラリなど DOM 操作などのブラウザAPI の操作用途にはあまり向かない JS のエコシステムに最適化されているため バイナリサイズが大きいので、トラフィックの多いサイトには向かない 

ブラウザでの実行パターン 1. syscall/js.Global() の利用 2. go:wasmexport の利用 3. TinyGo & Wasm Component の利用 

1. syscall/js.Global() の利用 以下のように js.Global().Set("compress", ...) とすると、JS 側からグローバル な compress 関数を呼べる // 受け取ったUint8Arrayをgzip圧縮して返す関数 var compressFunc = js.FuncOf(func(this js.Value, args []js.Value) any { /* 中略 */ r, _ := compressor.Compress(src) var buf bytes.Buffer io.Copy(&buf, r) ua := newUint8Array(buf.Len()) js.CopyBytesToJS(ua, buf.Bytes()) return ua }) func main() { js.Global().Set("compress", compressFunc) select {} } https://github.com/syumai/go-wasm-gzipper/blob/master/main.go 

2. go:wasmexport の利用 Go 1.24 でサポート http://go.dev/blog/wasmexport 以下のようにすると、export されたadd 関数をJS 側から呼べる シグニチャに使える型が限られている点が課題 main 関数の select {} のおまじないは不要になった package main //go:wasmexport add func add(x, y int32) int32 { return x + y } func main() {} https://github.com/syumai/til/blob/main/go/wasmexport/main.go 

3. TinyGo & Wasm Component の利用 WIT からGo 向けのインタフェースを生成、それを実装してビルドするとWasm Component 化できる Wasm Component はbytecodealliance/jco でTS/JS から利用可能になる 今のところ、TinyGo でしか使えない 

3. TinyGo & Wasm Component の利用 WIT の例 package calculator:[email protected]; interface calculator { add: func(a: f64, b: f64) -> f64; subtract: func(a: f64, b: f64) -> f64; /* ... */ } world calculator-world { include wasi:cli/[email protected]; export calculator; } https://github.com/syumai/go-wasm- playground/blob/master/components/calculator/wit/world.wit 

3. TinyGo & Wasm Component の利用 Go 側の実装例 func init() { calculator.Exports.Add = func(a, b float64) float64 { return a + b } calculator.Exports.Subtract = func(a, b float64) float64 { return a - b } /* ... */ } https://github.com/syumai/go-wasm- playground/blob/master/components/calculator/main.go 

3. TinyGo & Wasm Component の利用 TS からの利用例 import { calculator } from '../js-output/calculator.js'; function main() { console.log(calculator.add(1, 2)); // 3 console.log(calculator.subtract(5, 4)); // 1 } https://github.com/syumai/go-wasm- playground/blob/master/components/calculator/src/sample.ts 

プラグイン機構の構築 Wasm がポータブルな実行可能バイナ リであることを活用 Go 製のコマンドに、後付けで機能を 追加する github.com/knqyf263/go-plugin が代 表例 図はknqyf263/go-plugin の README から引用 Plugin のインタフェースだけを Protobuf で記述し、その実装は 後から追加できる wazero などで自前構築も可能 

CDN Edge での実行 JS / Wasm のみをサポートする、CDN のEdge Function での実行に利用 軽量なランタイムで動作するので、一般的なFaaS と比べてコストが低い傾向にある インフラコストを抑える目的での利用が可能 Fastly Compute はGo をサポートしている (Wasm ランタイム) Cloudflare Workers はgithub.com/syumai/workers などで利用可能 Fermyon のSpin も注目されつつある 

CDN Edge での実行 https://syum.ai は実際にTinyGo の Wasm on Cloudflare Workers で動い ている 

npm でのコマンド配布 コマンドの配布チャネルを増やせる 以下は github.com/syumai/cli/xidgen の例 

Go のWebAssembly の将来のユースケース 

Go のWebAssembly の将来のユースケース 他言語から呼び出すライブラリとしての利用 アプリケーション実行コンテナとしての利用 

他言語から呼び出すライブラリとしての利用 jco の例が発展した先の未来 WIT により、実装言語を気にしないライブラリ開発が行えるようになるかもしれない 

アプリケーション実行コンテナとしての利用 WASI (WIT) を通じてシステム連携ができるWasm をビルドできれば、Wasm バイナリ 単体をコンテナとして扱える可能性がある WasmEdge によって実証されつつある Docker image のビルドが不要になって、 go build で出力したWasm をデプロイする だけで済む日がいつか来るかも… ？ 

まとめ Wasm によって、動作環境に縛られずにGo の機能を活用できる Wasm ビルドの簡単さはGo の大きな特徴 Go を採用する理由の一つとして有力 

ご清聴ありがとうございました！