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2023.02.09 島田 哲朗 株式会社ディー・エヌ・エー + 株式会社 Mobility Technologies EBPM Evidence Based Policy Making

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2 参考資料 EBPM エビデンスに基づく 政策形成の導入と実践 https://bookplus.nikkei.com/atcl/ catalog/22/09/20/00395/ EBPMガイドブック 内閣官房 https://www.gyoukaku.go.jp/ebp m/img/guidebook1.0_221107.pdf ナッジとEBPM 環境省 https://www.env.go.jp/eart h/ondanka/nudge/EBPM.pdf

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3 01 EBPMとは?

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4 人間は社会的動物である

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5 ▪ 原始的な社会でも、労働力を供与して利益を得ることで 社会が発展した 人間は一人では生きられない 狩り 子育て 食料 多子

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6 ▪ 階層化し多様化しながら社会は発展した 社会は複雑化した 税金 公務員 インフラ 社会保障

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7 ▪ 社会で調整できない問題を解決するために、 為政者は政策を実行する 社会の問題を解決するための施策 問題 政策 為政者 (独裁者、政治家、AI)

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8 ▪ 政策実行後に、問題解決に因果効果があったのかを 計測するプロセスがEBPM EBPMは政策の効果測定をすること 問題 政策 為政者 (独裁者、政治家、AI) データ 因果効果

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9 02 政策立案プロセス

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10 ▪ 1999年3月にModernising Governmentが公表 ▪ 政府は、真に問題に対処する政策を生み出すためにその行動を常 に再評価しなくてはならない。そしてその政策は、短期的な圧力 への応答では無く、将来を見通したものであり、エビデンスによ って基礎づけられたものでなくてはならない ▪ 政府は政策立案者により多くのものを求める。それは、より多く の新しいアイデア、より積極的に従来のやり方を問い直す態度、 政策形成におけるエビデンスとリサーチのより良い活用、長期的 目標をもたらす政策へのより多くの集中である ブレア政権におけるEBPMの取り組み

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11 ▪ EBPMでは、エビデンスは因果関係の根拠という 狭義で使用される EBPMにおけるエビデンス 政策を行う大義名分や状況証拠の 説明のためのデータやファクト 政策とその効果の間の因果関係を 示唆する根拠

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12 ▪ 英国財務省の政府エコノミストを中心にThe Green Book が策定された(1991年第1版、2020年第6版) ▪ キャメロン政権の2011年に、事後評価の詳細を提供するThe Magenta Bookが公表 EBPMのガイドライン The Green Book:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1063330/Green_Book_2022.pdf The Magenta Book: https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/879437/Magenta_Book_supplementary_guide._Handling _Complexity_in_policy_evaluation.pdf

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14 ▪ 政策介入の根拠を明示し、その介入によって政府が達成し ようとする目標(アウトカム)を確定すること ▪ 根拠としては ▪ 公害対策など、市場メカニズムが健全に働くことを保証する介入 ▪ 公平な教育機会など、分配的目標を達成するための介入 ▪ 防衛などの公共財を提供するための介入 1. 政策介入の根拠の明示

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15 ▪ 政策目標を達成するためのオプションを並べたロングリス トを作成する ▪ ロングリストから経済学的な分析を行いショートリストを 作成する 2. 政策オプションの生成とロングリストの評価

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16 ▪ 期待される費用と効果を推計し、両者を比較する ▪ Social Cost Benefit Analysis:Social CBA ▪ 介入有無で、社会、経済、環境、財政へのインパクトを比較する ▪ 金銭化不可能な価値についても十分に考慮するべき 3. ショートリストの評価 The Green Book上は評価手法としてSocial CBAを採用しているが、RCTや準実験手法も選択肢に入る

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17 ▪ 社会的価値を最大限に実現するオプションを特定する ▪ 以下の要素が考慮される ▪ Net Present Social Value(NPSV):割引された便益から費用を 引いたもの。正であることが必要 ▪ Benefit Cost Ratio(BCR):便益を費用で除したもの。1以上で あることが必要 ▪ リスクとその他の考慮(金銭価値化できない費用と便益など) 4. 望ましいオプションの選択

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18 ▪ モニタリングは政策執行途中と事後におけるデータ収集 ▪ 事後評価は、政策介入の設計、執行、アウトカムの体系的 な評価 ▪ 政策介入は有効か? ▪ 費用と便益は予想通りだったか? ▪ 副作用など他の影響はあったか? 5. モニタリングと事後評価

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19 ▪ 複雑な施策であれば、因果関係を整理して共通認識を作る ロジックモデルによる政策と因果効果の整理が有効

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20 ▪ 長期的なアウトカムに対してどこがボトルネックになって いるのか判別する測定指標を設定 多段階の測定指標を設定する

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21 03 因果推論の事例

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22 ▪ 公立高校8校で、AIドリルを使用する9クラス(637名)、 使用しない10クラス(340名)をランダムに割り当て検証 ▪ AIドリルは生徒の習熟度に合わせて問題が出される ▪ 学力テストのスコアが約4.5%向上(1%有意水準) ▪ 就学支援金受給世帯では18.5%高い結果で、経済状況による学力 格差の縮小をもたらす可能性 AI型教材の学力への効果検証 https://qubena.com/blog/pr-20210427/

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23 ▪ 補償の損害額を算定する手法として差分の差分法を検討 ▪ 事故が生じなかった場合の地価の対照群として盛岡市を選 定し、基準地価が4.11%下落したと推定 ▪ 地価変動が事故以外に無いという強い仮定を置いている 福島第一原子力発電所事故による放射能汚染の損害推定 森田果[2011] 放射能汚染による損害賠償におけるヘドニック・アプローチ(上) NBL (965):2011.11.15 p.28-37 福島市 盛岡市 差分 2009→2010 -3.41% -7.08% 3.67pp 2010→2011 -7.02% -6.58% -0.44pp 差分 -3.61pp 0.50pp -4.11pp

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24 ▪ 2014年4月から70歳になる者の70〜74歳の自己負担割合 が1割から2割へ引き上げ ▪ その時点で70〜74歳になっている者は自己負担割合が1割のまま で同質ながら負担額が違う集団ができた ▪ 医療サービス需要を引き下げたものの、健康状態の悪化は 起こらなかった 医療費の自己負担と医療サービス需要の関係 患者負担が医療サービスの利用及び健康状態に中期的に及ぼす影響:https://www.kier.kyoto-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/DP1902.pdf 人口あたり外来患者数 人口あたり死亡者数

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25 ▪ RCTなど実施プロセスへの関与のしやすさと、対象者数の 多さに加え、データ取得コストやSUTVAの考慮など影響 EBPMに適した政策領域 大企業支援 基礎研究の 大規模支援 安全保障 外交 中小企業振興策 輸出促進策 イノベーション支援 農業振興施策 犯罪抑止 政府開発援助 インフラ整備 公害 法人向け税制 貿易協定 教育 児童福祉・子育て支援 医療・介護・健康 就労支援 税などの滞納予防 3R 福祉(生活保護など) 減税措置 CO2排出抑制 大気汚染抑制 個人向け税制 財政政策・金融政策 対象者数 少ない 中程度 多い 低 実施プロセスへの 関与可能性 中 高 容易

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26 05 EBPMを浸透させるには?

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27 ▪ トップダウンで実行 ▪ ESSA法により補助金の支給要件に4段階のエビデンスレベルが設定 ▪ 現場への手厚い支援 ▪ 教育現場に対し、エビデンスレベルを満たす教育手法とエビデンス 提供可能な事業者をリスト化し、マッチングイベントを開催 ▪ エビデンスの需要と供給を保つ ▪ 学校側から「御社の手法がうちの学校でも有効であることをどのよ うに評価する予定ですか?」と聞いてくるようになった ▪ このエビデンスの需要に対し、評価デザインや評価業務をアウトソ ースするエコシステムが形成された ネバダ州教育省の事例 Every Student Scceeds Act:ESSA法は社会的弱者にエビデンスに基づく教育を提供するための法律

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28 ▪ 行政内部でEBPM関連の雇用機会が存在する ニューヨークのService Design Studio https://www.nyc.gov/site/opportunity/portfolio/service-design-studio.page

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29 04 EBMのハイジャック

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30 ▪ EBMはEvidence-Based Medicineの略で医療で発展し、 EBPMと繋がった ▪ エビデンスを操作して都合の良い結論を導くEBMのハイジ ャックを取り上げ、悪しき前例に続かないようにしたい EBMのハイジャック問題

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▪ EBMではNGOのコクランがRCTのシステマティックレビュ ー(コクランレビュー)を策定している ▪ リサーチクエスチョンに対し、複数の 研究をメタ解析し、全体としての効果を 明らかにする 31 エビデンスのピラミッド RCTの システマティック レビュー RCT 他のコントロールされた 臨床試験 観察研究 (コホート、ケースコントロール研究) ケーススタディ、 体験談(anecdote)、個人的意見

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32 ▪ 高血圧治療薬ディオバン関連の5つの臨床研究論文不正事件 ▪ うち1件は薬事法違反疑いで2017年東京地裁判決、2018年東京高 裁判決、2021年最高裁判決 ▪ 主要な循環器疾患の発生件数が水増し ▪ ディオバン群で1517人中83人、非ディオバン群で1514人中155人 ▪ 実際には非ディオバン群は1514人中115人で薬事法の誇大広告違 反の疑い ▪ データ改ざんの不正行為は認めたが、誇大広告は無罪 ディオバン事件 https://www.m3.com/news/open/iryoishin/935178

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33 ▪ 臨床研究で効果が無かった結果は医学雑誌に掲載されない 公刊バイアスが存在する ▪ コクランがインフルエンザ薬のタミフルについてシステマティッ クレビューを実施しようとした際に、製薬会社が全体の60%のデ ータを非公開にしていた ▪ システマティックレビューの結果、タミフルはインフルエ ンザらしき症状を1日未満減少させたものの、入院を減ら す効果は確認されず、肺炎のような合併症を減らすかにつ いては、肺炎の定義が不明で分からなかった ▪ 有害事象として、吐き気、嘔吐、精神的症状が見られた タミフルの公刊バイアス

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34 ▪ 健康診断のコクランレビューでは、症状が無い人を対象と した健康診断に総死亡率を減らす効果は無く、がんや循環 器疾患による死亡率を減らす効果も無い ▪ 特定健診に近いデンマークの大規模なRCT(Inter99)で10年間 の追跡結果、主要なアウトカム(総死亡率、心臓疾患、脳卒中) で有意差無し ▪ 厚生労働省が特定健診・保健指導に効果があるという説明 はEBPMに則っていない可能性 特定健康審査・特定保健指導の効果

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35 ▪ 無誤謬性 ▪ 行政に間違いはあってはならないので、当該施策に効果があるように 見せるというインセンティブが働く ▪ 確証バイアス ▪ 健康診断は効果があるという共通認識に反したエビデンスを無視する ▪ リソース不足 ▪ 現状を維持しても大きな問題が生じない案件についての取り組みは劣 後し、現状が維持されることになる なぜエビデンスが尊重されないのか?

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36 05 EBPMを推進すべき?

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37 ▪ どんな存在で何を必要としているかのデータを生み出す ▪ 課題に対して即座に施策を実行し、強化学習などで最適化 ▪ 全てのデータを集める仕組みはできているか? 最大の障壁はDX? 問題 政策 為政者 (独裁者、政治家、AI) データ 因果効果

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38 ▪ 何を解くべきかの共通認識を作ることが重要で大変 ▪ ここの精度とスピードをどうやって上げるか? ▪ 説明責任、ラーニングアジェンダ、学習する組織 ▪ EBPMで得られた因果関係を理解しやすい形で広める必要 ▪ EBPMはツールであり、実現できれば何でも良い 課題同定のためのEBPM 問題 為政者 (独裁者、政治家、AI) 課題の共通認識