n ここまで人工知能の概観や,計算機の仕組みを
ざっと見てきた
n そもそも,人間の持っている(と,思われる)知能を,
計算機で模倣しようという試みが “人工知能”
n 人間は 知能だけ の存在ではない
u 物理的な体をもっていて,知能も体の中にある
n マシンとしての人間はどのように動いているのか?
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本節の参考書
n イラストで学ぶ 認知科学
u 北原 義典(著)
p 講談社 (2020/11/30)
p ISBN-10: 4065215188
p ISBN-13: 978-4065215180
u 基本的に見開きの半分が絵なので
読み進めやすいと思います
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ニューロン: 神経細胞
n 刺激を受けると活動電位を変化させて情報を伝達
u 例えば,つつかれるとか何かされると電気を流し,
他の神経細胞に “なんか起きた” という情報を伝える
p 例えば,軽くつつかれたときは情報は伝えず,
ある程度強くつつかれて初めて伝える…のような閾値も
u 脳はこの情報伝達の連鎖で情報処理している
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サーモスタット
n 環境の変化で動作するスイッチ
u 熱膨張率の異なる2枚の金属を貼り合わせて実現
熱でそんなに変化しない素材A
熱で膨張する素材B
加熱
回路のスイッチをサーモスタットにすれば,
ある温度になったときに自動で ON/OFF
温度が下がると自動で OFF/ON させられる
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鹿威し
n 環境の変化で動作するスイッチ
u 水の流入より作動する音響装置
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脳の消費電力
n 脳 で 色々考えているときの 消費電力
n スパコン 京 の 消費電力
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1W
12.6MW
一般家庭3万世帯分に相当
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感覚の閾値はいくらか?
n 正直,その辺は個体性能による…
u 刺激閾
p 感覚が検出できる最小強度
u 弁別閾
p 2つの異なる感覚刺激が判別できる最小強度
• ほんのり暖かい2つのヒーター,片方の温度をだんだんと
上げていったときに,温度差がどのくらいになったら,
違うと気づくか?
右の方が
暖かい??
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感覚の閾値はいくらか?
n ウェーバーの法則
u 刺激の強度に対して弁別閾は一定
p 100→110 で変化に気づくとき,200→210ではなく220で気づく
n フェヒナーの法則
u 心理的な感じ方は対数
p 100→200 と同じくらいの増加を
感じるには 200→400 が必要
感覚量 R
刺激強度 S
弁別閾 ΔS
刺激強度 S
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人間はどのように情報を処理するか?
n 今のところ答えはない
u まだ構成概念の段階で,正解を判断できる状態にない
n モデルの例
u ACT*
p 1970年代のモデル,知識の観点からモデル化したもの
u ACT-R
p コンピュータを意識して,ACT*を発展させたもの
u モデルヒューマンプロセッサ
p 同じくコンピュータを意識した人間の情報処理モデル
u 行為の7段階モデル
p PDCAサイクル,OODAサイクル的に捉えた情報処理モデル
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人間の認知情報処理に関する振る舞い
n 基本は3種類:入力・演算(処理)・出力
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f(x)
入力 演算 出力
いったんまとめ
n いろいろモデルはあるものの基本は同じ
u とりあえず,ACT* 位の認識で良い
p 外から何かの入力が来る
p ワーキングメモリでちょこっと作業
p 必要性・重要性に応じて長期記憶へ
p 必要性に応じてアクチュエータを動かす命令など
短期記憶とワーキングメモリは
ここではとりあえず似たものと考えてOK
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忘却
n 長期記憶した情報は失われないのか??
n そんなことは全くあり得ないということを,
我々は大変よく知っている…
n 記憶はどんな感じに消えていくのか?
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エビングハウスの忘却曲線
n 時間の経過と記憶の忘却の関係 = 忘却曲線
u 著名なもののひとつが エビングハウスの忘却曲線
p ランダムな文字列を,どれだけの期間 覚えていられるか
100%
記憶保持量
経過日数
無意味な文字列を覚えていられるのは…
1時間で 44.2%, 1日後 33.7%, 1週間で 25.4%
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忘却は無駄な機能か?
n なんで忘却なんて言う機能があるのか…
u なければ,受験勉強の一部はとっても効率化されるのに
u 人体の欠陥なのでは!?
n 別の回で出てくる 機械学習 でも重要な機能
u 古いモデルを使い続けると新しい状況に対処できない
u ストレージは無限ではないし,無限でも探索コストの
問題があるので,よく使うものは近くに置きたい
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注意
n 脳が対象物に感覚や意識を向けること
u 選んだ対象以外の情報入力は抑制される(選択的注意)
u 注意の総量はほぼ一定で,何かに注意すると他が減る
(処理資源有限説)
左図はハーバードの有名な実験
白いシャツの人たちは
バスケットボールを何回パスするか?
なんとか数えられるが,
では黒いシャツのパス回数は…??
込み入った状況下で,
いろいろなことに注意を向けるのは難しい
https://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo
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より複雑な認知活動
n ハードウェアから始まって,いろいろな仕組みで
人間が動いてそうなことはみてきた
n 関連する概念として,限定合理性があげられ,
それに基づいて(一見不合理な)人間行動の
説明・解釈なども行われている
何でお札を
燃やしてるんだ?
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合理的経済人
n 古典的経済学などにおける仮定のひとつ
u 社会は複雑であるが故に,“仮定”をおいて議論
n “人は(客観的に見て)合理的に行動する”
u 特定のスマホを購入するとして,その機種の取り扱いのある
世界のあらゆるお店の値段を比較し,コスト最小のモノを購入
n もちろん…
u 手計算の時代は,むしろこのくらいでないと無理
p データを観測するのも,記述するのも,分析するのも大変
• ヒトが万能の神を模して作られている以上,本質的にはヒトは誤らない,
or 神ならこうなさる…といった文化・宗教観的文脈も?
u ただし仮定が強いので乖離もそこそこ…
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限定合理性
n ヒトは認知的な限界などから,
限定的な合理性しか有し得ない
u あらゆる選択肢を列挙して比較することは不可能
u 確保できたリソース(情報や記憶容量などもろもろ)の中で,
=限定された条件の中で,合理的な選択を行う
u H.サイモン の提唱した概念
p 最初期の人工知能研究者
• 政治学者・認知心理学者・経営学者・情報科学者
• ノーベル経済学賞,チューリング賞などを受賞
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限定合理性を通じて見る世界
n 世界には不可解で非合理的な選択があふれている
n 一見,不可解であってもヒトを含む動物が主体的に
意思決定する時,そこには根拠や理由があるはず
u 各主体にとっては不可解なことはなく合理的
u おかしく見えるのは,限定条件が異なるから
n 同じ条件下であれば,自分も同じ行動をするかも?
u 決定論的,行動主義的な世界観
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返報性
n ヒトは何か良いことをしてもらうと,
それとおなじことをお返ししたくなる傾向がある
n 例
u 挨拶をされると,挨拶を仕返してしまう。
u お菓子をもらってから頼まれごとをされると,
依頼を断りづらい(お菓子の借りを返したい。)
u 家族の話など自己開示されると,自分も家族の話など
自己開示をしてしまう。
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知能のバグ?生存の知恵?
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公平性の追求:負の返報性
n 自分が損をするとしても,相手に得をさせない
と,いう行動をとる傾向がある
n 設定
u 10万円を2人で分ける
p ランダムに,分ける係と最終決定係に割り付け
p 分ける係:10万円の分配額を好きに決める
• 自分が9万円,相手に1万円など
p 最終決定係:分配額に従うかどうかを決める
• 従えば分配額通りにもらえる。従わないと2人とも分配なし。
n 結果
u たとえ1円でもゼロ円よりましなのに,額が不均衡だと
オファーを断る被験者が多い
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(最後通牒ゲーム)
知能のバグ?生存の知恵?
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一貫性とコミットメント
n ヒトはいったんコミットメントを表明すると,
あとで意見を変更することを避けやすい
n 例
u 「辛いものが好き」と行った後,自分の好きなレベルを
超えたものすごく辛いお菓子を勧められても,それを
断りにくい
u 「100円貸してほしい」と言われて承認した後,
「やっぱり1000円いる」と言われても断りにくい
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Asheの同調実験
n ヒトは,それが明らかに間違いとわかっていても,
多数派の意見に同調してしまう傾向がある
n 設定
u 3本の異なる長さの線A,B,Cと,1本の教示線がある。
u 教示線とおなじ長さの線を答える。
u 参加者8人中7人はサクラで,あきらかな間違いを選択。
n 結果
u 被験者50人の1/3が,サクラとおなじ間違った選択。
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価値割引
n すぐにもらえる報酬は,後からもらえる報酬より
よりよく見える(価値が高い)傾向がある
n 設定の例
u 今すぐもらえる1万円と,10年後にもらえる10万円※。
前者を選ぶ人の方が多い。
n 応用など
u 明らかな長期的利益であっても,目先の利益を追求する
現象をうまく説明できる.
p ex.麻薬中毒:明らかに体に悪いのでやめたいが,やめられない
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(※ 価値調整済み)
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価値割引 contd.
n 価値は線形で低減する訳ではないのがポイント
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t
価値
A B
ア
イ
u ア:お酒をのむことで得られる楽しさ
u イ:お酒をのまない場合に得られる健康
n Aの区間では,イの価値が高いと認識して,飲まないつもり
n Bの区間では価値割引で選好が逆転し,お酒を飲む
※ 低減曲線のきつさは,年齢とともに穏やかに
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プロスペクト理論
n ヒトは損の価値を過大にみつもる
n 古典経済学の視点
u 1万円をもらう嬉しさと,失う悲しさは釣り合う
p 価値は同じなので,自然な仮説に見える
n 実際
u 1万円を失う悲しみは,もらう嬉しさを上回る
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損 得
価値
損する場合は価値が急落
得する場合は価値の上昇は
緩やかにしか行われない
知能のバグ?生存の知恵?
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勝者の呪い
n 一度,競争がはじまってしまうと,
その競争から降りることは難しい
n 設定
u 100ドル札を1ドルからオークション
u 一番高値のヒトはその値段で競り落とせる
u 2番目に高値のヒトは,その値段を払う必要はあるが
100ドル札はもらえない(払い損)
n 結果
u 価格が100ドル以上になっても,上位2名の競争が続く
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知能のバグ?生存の知恵?
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フレーミング(枠組み効果)
n いわゆる“常識”・“マインドセット”の活用が暴走し,
正しい判断を曇らせてしまうことがある
n 設定
u 珍しい病で600人が死ぬ。どの計画を採用するか?
p A:確実に200人助かる。
p B: 1/3 の確率で600人助かるが,2/3 の確率で誰も救われない。
p C:確実に400人死ぬ。
p D:1/3 の確率で誰も死なず,2/3 の確率で600人死ぬ。
n 結果
u A,Bを提示した場合7割がAを,C,Dでは8割弱がDを選択
p 意味的には,A=C,B=Dなのに,言い方だけで逆の結果に
p A,Bは「利益枠組」,C,Dは「損失枠組」
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知能のバグ?生存の知恵?
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提示順序と印象
n どの順番で情報が提示されるかで,
同じ情報でも,受ける印象が異なる
n 例題
u A:明るい、素直、頼もしい、用心深い、短気、嫉妬深い
u B:嫉妬深い、短気、用心深い、頼もしい、素直、明るい
n 解説
u A,Bともに単語のセット(全体の情報)は同じ
u だが,うける印象は大きく異なる
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知能のバグ?生存の知恵?
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連言錯誤
n ヒトは簡単に間違える
n 設定
u リンダは独身で、とても頭がよくはっきりとものを言う
性格です。大学では哲学を専攻していて、人種差別や民
族差別などの社会問題に深く関わりました。
n 問題
u リンダの職業はどちらである可能性が高いでしょうか?
p 銀行員の窓口係
p 政治活動を行っている銀行の窓口係
n 解説
u 後者は条件が増えるので,その分確率が落ちるはずだが,
多くの場合に後者が選ばれる
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知能のバグ?生存の知恵?
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パタン抽出の魅惑
n ヒトはパタンのないところにもパタンを求める
n 設定
u 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21 という数列の規則を答える
n 正解
u 一つ前の数字より大きい
n 結果
u 多くの人がフィボナッチ数列など,より複雑で高度な
パタンを回答してしまう
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知能のバグ?生存の知恵?
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ランダムネスの知覚
n ヒトが思うランダムは,意外と非ランダム
n 設定
u AとB,どちらがランダムか?
p A 010001111010011100010
p B 010101110010101100010
n 結果
u 数学的にはAの方がランダムだが,Bが多く選ばれる
n その他
u ランダム性にかかわらず,統計的な判断について,
ヒトの直観は間違うことも多い
u ランダムなのに,パターンを見出すことも…
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知能のバグ?生存の知恵?
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弱い紐帯の強さ
n グループ内で交換される情報は,
ほとんどが互いに知っている情報
n 有益な情報は,少し遠い知り合いからもたらされる
n 解説
u コミュニティの社会調査では,就職に有用な情報は,
多くの場合,普段よく合うヒトではなく,すこし遠い
知り合いからもたらされる
u 別の合意形成に関する調査では,グループ内で交わされ
る情報は基本的に相互に知っているものばかり
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知能のバグ?生存の知恵?