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図書館LT 「あなたの人生の物語」 (Story of Your Life) - テッド・チャンのメッセージを読む -

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「あなたの人生の物語」(Story of Your Life)のあらすじ 基本設定 地球に突如として現れたエイリアン種族、ヘプタポッドとのコミュニケーションを試みる 言語学者ルイーズ・バンクス博士を主人公としています。 異星人との接触 ヘプタポッドは地球に12の宇宙船を送り、各国政府はその意図を解明しようとする。 アメリカ政府は言語学者のルイーズと物理学者のイアンを招き、ヘプタポッドとのコミュニケーショ ンを試みる。 言語と時間認識 ルイーズはヘプタポッドの非線形言語を解読する過程で、その言語が持つ特性に気づく。 ヘプタポッドの言語は、時間を線形にではなく、全体として一度に認識する特性を持っていた。

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地球人
 異星人


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(異なる文化言語の解析)は、いつも二言語併用による手順だった。
 
 ポルトガル語という、わたしにもつかえる言語を被調査者たちが多少は知っているか、もしくは、わたしがあらかじめ現地の宣 教師から彼らの言語について手ほどきを受けているか。これはわたしがはじめて手がける、真の意味での単一言語による正し い文法の発見の手順の試みになるだろう。
 (通常の)言語解析とは 「それを母語とする相手と話すことによって習得されるものであるとするなら、〝それら〟に英語を教えることなしにそれを習得 することはできないとなるのでは?」
 「それは、その言語を母語とする相手がどれくらい協力的であるかにかかってくる。こちらが〝それら〟の言語を学習している あいだに、〝それら〟のほうもあれこれと断片的に学ぶのはほぼ確実だけど、〝それら〟が進んで教えてくれるようであれば、 それほどたいへんなことにはならないでしょう。逆に、〝それら〟がわたしたちに〝それら〟の言語を教えるのではなく、英語を 習得しようとするようであれば、事態ははるかに困難なものになるでしょう」


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言語の比較 異星人の言語
 地球人の言語
 こんにちは。今日は晴れです。 順方向の一次元配列 三次元のベクトル配列

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 〈ヘプタポッドB〉における語形論的および文法的手順についての新たな発見だった。
 
 表義文字の語形変化規則によれば、屈折はある線の曲率や太さやうねりぐあいをさまざまに変えることによって、
 また、ふたつの語根の相対的サイズや、別の語根との相対的距離や、それらの方向づけによって、あるいはまたその他の多様 な手法によって表される。
 これらの要素は非文節的書記素であり、一個の表義文字中の他の部分から分離することはできない。
 異星人の言語特徴

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イアン「外国語にどっぷり染まると、脳が書き換わるというね」
 
 
 ルイーズ「サピア=ウォーフの仮説ね。話す言語が考え方を規定するっていう」
 
 
 イアン「ああ。すべての見方に影響を与える」


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言語の比較 異星人の言語
 地球人の言語
 こんにちは。今日は晴れです。 順方向の一次元配列 三次元のベクトル配列

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人類は物理法則を考えるとき、因果的記述としてとりあつかうのを好む。
 それは、わたしにも理解できた。
 
 人類が直感的に見いだす、運動エネルギーや加速度といった物理的属性はすべて、時間の所与の瞬間において物質が有す る固有の性質だ。そして、それらは事象の時系列的、因果律的解釈へと導かれる。ある瞬間から生じる、つぎの瞬間。原因と 結果は、過去から生じる未来という連鎖反応をつくりだす。
 逐次発展的世界観 結果 原因 過去 未来 現在の情報がその次の一瞬である未来の情報を決定し、その未来の情報がまた次の瞬間の未来を決定していく……因果関 係が時間的に連鎖される世界観。地球人の認識は、この「逐次発展的世界観」にあたる。


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異星人の同時的認識様式 登場する異星人のヘプタポッドは、時間を非線形的に認識する種族。 彼らの言語は非線形的な時間認識を反映しており、一つの文を書く際にはその文全体が同時に存在すると考える。 このため、未来や過去も現在と同じように「存在」していると感じることになる。 ヘプタポッドの同時的認識様式は、人間の線形的な時間認識、言語構造、因果関係の理解と根本的に異なる。 観点 地球人 異星人 時間認識 線形に認識。 未来は予測、過去は記憶。 非線形に認識。 未来、過去、現在が同時に存在。 言語構造 線形的な時間に基づく。単語が連なる。 非線形的な時間に基づく。文全体が同時に存在。 因果関係 過去の原因が未来の結果をつくる。 因果の考え方。 因果関係を超越した認識。 未来は過去に干渉しうる。

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この話は、物理学の変分原理に対する興味から生まれた
 -テッド・チャン(著者)-


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変分原理 光は液体の中を通る時屈折して進む。 直進して最短距離をとる(と結果的に時間がかかる)のでなく、屈折することで 空気中から水中へ最短時間で進む。(これを「フェルマーの最小時間の定理」と呼ぶ)

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光は"2点間の最短距離の経路を進む" というより, 最短距離の経路を進むものを“光”と 定義します。 
 - アインシュタイン 一般相対論 


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一般相対性理論 重力が強いというのは,つまり,時空の曲がりが大きいこと。 重力のある所では空間が曲がっているので,光の軌跡も曲がる。 これは船舶や航空機の最短航路が,地球表面という球面の上では曲線になるのと同じ。

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解析力学 - 経路積分 の考え 経路積分の特性 経路積分では、始点と終点を任意に選び、その間を結ぶ無数の経路にそれぞれ「実現しうる確率」が 割り振られます。この確率は、作用が極値(最小または最大)に近い経路に集中します。 効率の良い経路とその周辺 最も「効率の良い」経路は最大の実現可能性を持ちますが、その周辺の「僅かにズレた」経路もある 程度の確率で存在します。これにより、経路は単一の線ではなく、不確定性の「厚み」を持つように なります。

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なぜ
 過去を思い出すことはできても未来を思い出すことはできないのか
 - 理論物理学者 カルロ・ロヴェッリ -


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 〈ヘプタポッドB〉を習得してのちの新たな記憶は、それぞれが数年単位の期間に相当する巨大なブロック群がばらばらと所定 の場所に落ちてきたようなもので、順序だって到来したとか連続的に到着したとかではないものの、それらはすぐに五十年にお よぶ期間の記憶を形成した。
 
 これは、わたしが〈ヘプタポッドB〉を、それでものを考えられるまでに習熟することを含む期間であり、フラッパーやラズベリーと の面談の最中にはじまって、わたしの死をもって終わる。
 
 通常、〈ヘプタポッドB〉はわたしの記憶にのみ作用する。意識は以前と同じく、時を追ってじりじりと燃えていく一本の煙草であ り、そこにあるちがいは、記憶の灰が後方と同じく前方にもあることだ。
 過去と未来の記憶をもつ 過去の記憶 未来の記憶

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彼らの言葉を学ぶと、彼らと同じ感覚で”時”を理解できるようになる。
 未来が見えるのよ。
 - (作中) ルイーズ・バンクス -


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ときおり〈ヘプタポッドB〉が真の優位を占めるとき、わたしはひらめきを得て、過去と未来を一挙に経験する。
 わたしの意識は、時の外側で燃える半世紀の長さの 燠 となる。そして、ありとあらゆるできごとを──そのひらめきを得ている あいだは──同時に知覚する。それは、わたしの残りの人生を包含する期間であり、あなたの全人生を包含する期間でもあ る。
 過去と未来を同時に知覚する something phenomenon… ?

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未来が過去に干渉する

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未来についての情報を得られた場合、人間がどうふるまうか
 -テッド・チャン(著者)-