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言葉は感情の近似値である。その感情と言葉 の誤差を最小化しよう 〜 コミュニケーションにおけるアナログ/デジタル変換の課題に立ち向かう 〜 株式会社インターネットイニシアティブ Naoki Kitagawa 2024/9/14 1

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私はすごく伝えるのが下手 三河の運営会議でも「tamagoさんの言っていることわからんっす」といわれることが多い 頭の中にあるイメージが正確に伝わらない 2 はじめに

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こんな経験ありませんか? 会話が盛り上がっていたのに正確に伝わっていなかった ちょっとしたやり取りで誤解を招いて関係が悪化した はじめに 3

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こちらの想いとは異なる意図で伝わる そんなつもりはなかったのに… どうしてそんな風に解釈したの? その誤差をどう最小化するかを考えたい 4 はじめに

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自己紹介 北河 直樹 株式会社インターネットイニシアティブ 名古屋支社 組織運営、営業、広報活動、SM、PM、なんでも屋 生粋な東三河人 スクラムフェス三河実行委員 SNSでは tamago で活動 X : @nk_tamago 5

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IIJ Engineers Blog で情報発信 しています 名古屋開発チームのアジャイルな日々 https://eng-blog.iij.ad.jp/ngy-agile 6

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アジェンダ コミュケーション 言葉 アナログとデジタル 言葉になるものとならないもの 言葉の表現力 コミュケーション != 会話 コミュケーションの誤差を最小化 7

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コミュケーション 8

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コミュニケーションとは? 社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを 媒介として行われる 出典: デジタル大辞泉 意思や感情、思考を 伝達し合うこと 言葉、文字、身振り を媒体とする 9 コミュケーション

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アジャイル開発におけるコミュニケーションの印象 対面でのコミュニケーション アジャイルソフトウェア開発宣言 12の原則では、フェイス・トゥ・フェイスの対話が最も効果的 頻繁なコミュニケーション (スクラムを例に出すと) スクラムイベントやチーム開発など 透明性の高いコミュニケーション 進捗状況や課題、リスクなどチーム全体で隠さず伝える フィードバックを前提としたコミュニケーション レビューやふりかえりなど、フィードバック (戻り) が多い 顧客やステークホルダーとのコミュニケーション 開発者だけではなく顧客やステークホルダーも巻き込んで伝える コミュニケーションを取る機会は多い 10 コミュケーション

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コミュニケーションの手段 どのような手段をとっているか? 会話 チャット ドキュメント リアクション テレパシー? ニュータイプは人類には早すぎるか 多くの手段に "言葉" が関係してくる コミュケーション 11

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コミュニケーションの プロセス 思考・感情 から 言葉 に変換するプロ セスが重要 コミュケーション 12

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コミュニケーション のまとめ 意思や感情、思考を 伝達し合うこと アジャイル開発ではコミュニケーションの機会が多い コミュニケーションの多くの手段に会話が関係している 思考・感情 から 言葉 に変換するプロセスが重要 13 コミュケーション

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言葉 14

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思考・感情とは? 思考 1 考えること。経験や知識をもとにあれこれと頭を働かせること。 「—を巡らす」 「—力が鈍る」 2 哲学で、広義には、人間の知的精神作用の総称。狭義には、感覚や表象の内容を概念化し、判断し、推理 する知性の働きをいう。 3 心理学で、感覚や表象の内容を概念化し、判断し、推理する心の働きや機能をいう。 出典: デジタル大辞泉 知識や経験を基に頭を働かせ、判断し、推論する 概念を作り、問題解決に導くプロセス 感情 物事に感じて起こる気持ち。外界の刺激の感覚や観念によって引き起こされる、ある対象に対する態度や価 値づけ。快・不快、好き・嫌い、恐怖、怒りなど 出典: デジタル大辞泉 物事に対する気持ち 好き嫌いや快・不快など、外的刺激によって起こる反応 15 言葉

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思考や感情の量 思考のバリエーション 認知スタイル 分析的思考、直感的思考、創造的思考 思考パターン(6つの帽子) 感情的、楽観的、批判的、創造的、事実的、プロセス的 その他の要因 感情、経験、文化的背景、遺伝的要因により、多様な思考が生まれる 感情のバリエーション 基本感情 喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐れ、嫌悪 複合感情 基本感情の組み合わせにより、無限のバリエーションが生まれる 例: 切なさ(喜び + 悲しみ) 、絶望感(恐怖 + 悲しみ ) 思考・感情のバリエーションは 無限 に存在し、個々の経験などに応じて多様化する 16 言葉

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言葉とは? 1 人が声に出して言ったり文字に書いて表したりする、意味のある表現。言うこと。 「友人の— を信じる」 2 音声や文字によって人の感情・思想を伝える表現法。言語。 「日本の—をローマ字で書く」 3 文の構成要素をなす部分。単語。また、語句。 「—が豊富だ」 「一々の—を吟味して話す」 4 言い方。口のきき方。口ぶり。言葉遣い。 「荒い—」 「—に注意しなさい」 出典: デジタル大辞泉 感情・思想を伝える表現法 言葉の数 日本語には約50万語の語彙が存在する (出典:日本国語大辞典) 17 言葉

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人が覚えれる言葉の量 アクティブボキャブラリー (積極語彙) 日常生活で使うことが出来る言葉 2万〜3万語 パッシブボキャブラリー (消極語彙) 意味は理解できるが積極的に使わない言葉 4万〜6万語 人が覚えれる言葉の量は 有限 である 言葉 18

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思考や感情を言葉にするということ 「無限 な思考や感情を 有限 な言葉の枠に収める」ということ 思考や感情をすべて正確に表現することは難しい 19 言葉

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無限を有限に 何かに似ている? それってアナログからデジタルへの変換なのでは? アナログ (感情) は連続的で無限 デジタル (言葉) は離散的で有限 感情はアナログ、言葉はデジタル 言葉への変換を デジタルへの変換 として考えることが出来る 感情への変換を アナログへの変換 として考えることが出来る 言葉 20

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言葉 のまとめ 感情や思考の量は 無限 人が言葉を覚えれる量は 有限 感情はアナログ、言葉はデジタル 21 言葉

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アナログとデジタル 22

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言葉は感情や思考の「近似値」 言葉はデジタル画像やデジタル音源と同じ リニアな感情を 近似値な言葉 で表現している 言葉は感情や思考の一部しか表現できない そもそも 正しく近似値に変換できているのか? アナログとデジタル 23

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正しく変換するとは 感情や思考を 正しく言葉に変換できているか? そもそも 正しく言葉にする ってどんな状態 思考や感情を正しく理解している 思考や感情を適切な言葉で選択している "怒っている" のか "いらいらしている" なのか 文脈や状況にあった表現をしている "だるー" 、"疲れました" 思考や感情の強度は適切か 激おこ、微おこ ↑ のパラメータは一例 正しく言葉にするには多数のパラメータが必要 アナログとデジタル 24

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感情から言葉への変換プロセス 話手 感情・思考 →変換→ 言葉 →伝達→ 言葉 →変換→ 感情・思考 聞手 言い換えてみると 話手 アナログ →A/D変換→ デジタル →伝達→ デジタル →D/A変換→ アナログ 聞手 A/D変換(ADC) … サンプリング → 量子化 → 符号化 D/A変換(DAC) … 復号化 → 平準化 A/D変換は 必ずどこかの情報が捨てられ、D/A変換にて近い形に復元される 変換は完ぺきではない 25 アナログとデジタル

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(問)デジタル機器から再生されている音楽は正確なのか? 音声や動画などのA/D変換、D/A変換を含む仕組みを コーデック と呼ぶ AAC サンプリングレート … 48kHz 量子化ビット数 … 16bit ビットレート … 320kbps 情報が捨てられるため正確ではない A/D変換とD/A変換のコーデックが異なっていたら?パラメータが異なっていたら? 別の音 原音を知っていたら違うと気付くが、知らなかったら初見で違うと気付けるのか? 言葉にも言えるのでは? 26 アナログとデジタル

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個人差がある言葉への変換 思考や感情やどの言葉で表現するのかは個人に依存する 教育などで共通認識を持っているが、個々のパラメータの影響が大きい パラメータ アクティブボキャブラリー、パッシブボキャブラリーの量 自身の感情や思考の理解度 言葉への理解度 個々の背景 など 話し手と聞き手のパラメータが合わないと正しく伝わらない 27 アナログとデジタル

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アナログとデジタル のまとめ 言葉は感情や思考の近似値 話し手と聞き手の A/D-D/A変換 が合わないと正しく伝わらない 28 アナログとデジタル

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言葉になるものとならないもの 29

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何が言葉になるのか? 言葉にするには、そのものを認知していないといけない 認知するには、言葉を知っている必要がある 卵が先か鶏が先か問題 言葉を知らないと、認知出来ない 言葉の網に引っかかったものが認知される 例えば虹は何色? 7色 … 赤・橙・黃・緑・青・藍 ・紫 国によっても何色か違う アメリカは6色 … 赤・橙・黃・緑・青 ・紫 ドイツは5色 … 赤・橙・黃・緑・青 実際は連続しているので7色や6色ではない 言葉を学ぶことで認知でき、利用可能となる 言葉になるものとならないもの 30

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言葉を知らない場合はどうなる? モヤモヤする か 全く認知できない モヤモヤの場合 「うまく言語化できない」となる 全く認知できない場合 「スクラムフェス三河」を知らないので参加できない 言葉を知らないとコミュニケーションの難易度が上がる 31 言葉になるものとならないもの

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言葉になるものとならないもの のまとめ 言葉を知ることで認知可能となる 32 言葉になるものとならないもの

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言葉の表現力 33

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リテラルの言葉とアートな言葉 言葉にはリテラルな表現とアートな表現がある リテラルな言葉 言葉が持つ本来の情報をそのまま伝える 例 プロダクトバックログアイテムが3つ完了した スクラムフェス三河は豊橋で開催 アートな言葉 言葉以上の意味を持ち、感情やイメージを与えて聞き手の解釈に委ねる 例 彼の心は閉ざされたドアのようだ スクラムフェス三河の参加者は尊い 状況によってリテラルとアートを使い分ける必要がある 言葉の表現力 34

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言葉の二面性 同じ言葉でも、聞き手の立場や視点によって解釈が異なる 例 革命家 社会をより公正で自由なものに変えようとする「英雄」 秩序を破壊する「反逆者」や「暴徒」 アジャイル 柔軟でユーザニーズに素早く答えることが出来る 計画が立てづらく終わりが見えない 視点の違いが対立を生む要因となる 言葉の表現力 35

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言葉の表現力 のまとめ 言葉にはリテラルな表現とアートな表現がある 言葉は立場や視点によって解釈が異なる 36 言葉の表現力

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コミュケーション != 会話 37

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日常生活のコミュニケーション 日常で変換など気にしているか? 常に意識していたら疲れちゃう 普段の生活では誤差のある近似値で問題がない よほど外れなければ、日常会話では大きな問題は生じない しかし外れた時はトラブルに発展する 会話出来ても コミュニケーション が取れているのではない コミュケーション != 会話 38

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仕事でのコミュニケーション 例:プロジェクトマネージャーと若手エンジニアのやりとり Aさん … ごりごりのSIer出身、エンタープライズ領域のPMが得意 Bさん … 最近配属された若手、フロントエンドエンジニア 会話 Aさん … 基本設計書書いた経験ある? (0から基本設計書を書いてもらいたい) Bさん … ありますよ (プログラムから設計書っぽい何かに追記した経験がある) Aさん … 書いてほしいんだけど書けそう? (人がいないから任せたい) Bさん … わかりました (ベースがあれば何とかなりそう) ここでの問題 それぞれが歩んできた領域の違い 基本設計書 の認知の相違 一つ一つの言葉の深さの相違 会話出来ても コミュニケーション が取れているのではない コミュケーション != 会話 39

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チーム開発におけるコミュケーション チーム開発ではコミュニケーションが特に重要視される コミュニケーションの量と質を求められる 異なるロール、歩んできた領域によって言葉のコーデックは異なる プロダクトオーナー スクラムマスター 開発者 ステークホルダー 会話出来ても コミュニケーション が取れているのではない コミュケーション != 会話 40

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コミュケーション != 会話 のまとめ 会話出来ていても正確に伝わっているわけではない 会話している == コミュニケーションが取れている ではない 41 コミュケーション != 会話

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コミュケーションの誤差を最小化 42

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どうすればよいのか? 自分を知る 相手を知る 相手に多くを期待しない ボキャブラリーを増やす 言葉以外の媒体を使う 43 コミュケーションの誤差を最小化

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自分を知り自分のコーデックを確立する コミュニケーションは 1(自分) 対 n(相手) 全ての相手のコーデックを知ることが出来ない 自分のコーデックは確立できる 自分を客観的に深く知る 育ってきた環境 自分の当たり前が当たり前じゃないかもしれない 言葉に対する解釈は自分の環境が影響しているかもしれない どんなところに興味があり、ないのか 興味がある分野の言葉はアクティブボキャブラリーになりやすい 興味がない分野の言葉はパッシブボキャブラリーにもならない。知らなくて当然 自分の感情や思考に対する理解 どんな時にうれしいのか?悲しいのか? 相手に共感出来る、出来ないかを言葉に出来る 自分を知れば相手が比較可能となり、誤差の理由を知るこ とが出来る コミュケーションの誤差を最小化 44

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相手を知る努力をする 「あの人何を考えているかわからない」と切り捨てるのは簡単 なんでそういう思考になるのか、知る努力をする 立場、育ってきた環境、経歴や過去対応してきた案件を知れば思考を 追体 験 できる 彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず 相手を知り、自分も知れば、何度戦っても敗れることはない、という中国の ことわざ 自分と相手のこと理解することで誤差に対して対処可能と なる コミュケーションの誤差を最小化 45

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誤差の修正を相手に任せない 認知していない人にお願いしたり期待するのは無理な話 認知している自分が相手に合わせていく必要がある 相手に合わせさせるのではなく、自分が合わせにいく コミュケーションの誤差を最小化 46

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ボキャブラリーを増やして認知できるよ うする 自他共にボキャブラリーを増やしていく 自分であれば、興味の領域を増やしたり本を読んだり 相手であれば、言葉をインプットして認知できるようする 会話の中でサラッと「こういう言葉知っている?」とインプットさせる 「最近流れてきた情報で知ったんだけど…」 やりすぎと、マウントは絶対ダメ 言葉を知ることでパッシブボキャブラリーとなる 興味を持てばアクティブボキャブラリーとなる コミュケーションの誤差を最小化 47

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伝える媒体は言葉だけではない コーデックが異なるのであれば、言葉以外の情報を増やす 表情 ジェスチャー トーン ビジュアルや図解 異なる媒体で情報の伝達を補完する コミュケーションの誤差を最小化 48

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意識して取り組んでいること 組織 チームビルディング お互いの背景を知る工夫を入れている ライトニングトーク大会 毎週行うことで、話し手の興味や背景を知る パッシブボキャブラリーを増やす カメラ顔出し 言葉以外の情報を増やす 個人 話を聞く。最後まで聞く 相手の知る 確認質問やパラフレーズ 伝えたかったことが相手に正しく伝わっているか 相手の言ったことを自分が正しく理解しているか 相手の追体験 なぜこういう考えに至ったのかを、追体験してもらうことで理解を深める 49 コミュケーションの誤差を最小化

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コミュケーションの誤差を最小化 のまとめ 自分を知る 相手を知る 相手に多くを期待しない ボキャブラリーを増やす 言葉以外の媒体を使う 50 コミュケーションの誤差を最小化

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まとめ 51

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コミュニケーションは 意思や感情、思考を 伝達し合う こと 会話が成立していても正確に伝わっているわけではない 言葉は感情の「近似値」 感情はアナログ、言葉はデジタル、話し手と聞き手のコーデックを意識しよう 言葉を知ることで認知が可能となる 言葉の網に引っかかるように アクティブボキャブラリー、パッシブボキャブラリーを増やそう 言葉は立場や視点によって解釈が異なる 自分を知って、相手も知ることで解釈の誤差をなくそう 言葉以外の媒体を活用して情報の伝達を補完する 様々な表現で豊かなコミュニケーションを目指そう 52 まとめ

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誤差を最小化する道のりは始まったばかり 透明性・検査・適応 でコミュニケーションを良くしよう 53 まとめ