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企業における研究・開発から、学生が研究をする利点についてと研究生活について (Part 1) 株式会社 Gunosy 関 喜史 2021年3月19日 スタートアップの開発サイクルに学ぶ 研究活動の進め方 言語処理学会第27回年次大会ワークショップ 若手研究者交流のニューノーマルを考える 企業における研究・開発から、 学生が研究をする利点についてと研究生活について(Part 1)

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 2 ■ 関 喜史 – 1987年生まれ – 富山商船情報工学科 -> 東大システム創成->東大技 術経営 – 工学博士(2017年3月) – 2011年未踏クリエイター – 未踏ジュニア メンター(2017年~) – 東大、早稲田で非常勤講師 (2019前期, 2020前期) ■ 株式会社Gunosy – Gunosy Tech Lab 研究開発チーム – 上席研究員 – 共同創業者 ■ 専門領域 – 推薦システム – ユーザ行動分析 ■ 趣味 – 野球、テニス – アイドル、アニメ、漫画 – 謎解き、将棋、ボードゲーム 自己紹介

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 3 今日の話 自分の研究者としての振り返り ● 起業家×研究者としてのいきあたりばったりのキャリア ● 企業研究チームの立ち上げで見えてきたこと ● スタートアップと研究の類似性 若い研究者へのメッセージ ● スタートアップの環境で生きてきた身として、いま世の中に必要とされ ていること ● これからの研究者に求められること、やっていってほしいこと 自分の研究者とのしての振り返りと、これから研究者という職能に期待されることに 対する私見

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. ぼくの話

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 5 ■ 修士1年のときにGunosyを作り始める – 夏休みになにか面白いものを作ろうと集まった – 当時映画ソーシャルネットワークとかの影響で「ウェブサービスで起 業!!!やっていき!!」みたいなブームがあった ■ 2012年11月創業、2015年4月マザーズ上場 – 現行制度史上最短 ■ 2017年3月に博士号取得、研究開発チームの立ち上げ – 創業時から研究ができるウェブサービス企業をつくりたかった – 2019年、査読付き国際会議3本採択 (投稿3本) – 2020年、査読付き国際会議3本採択, 1件受賞 大まかな経歴

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 6 ■ あんまり研究は力を入れてやっていなかった – 人工知能学会全国大会発表2回のみ ● 1回速報論文推薦をもらったがリジェクト ■ インターンに力をいれていた – サイバーエージェント ● 分析結果を人工知能学会全国大会で発表 ● CA社としては初めての学会発表 – リクルート ● インターンで推薦システムの構築、後に実装されたらしい – DeNA ● ゲームのデータ分析、ツールの納入 ■ 修士論文時期に創業をしたので修論は突貫工事 – Gunosyでやったことは創業社長の修論になったので – 修士課程の学生として

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 7 ■ 初期は推薦システムアルゴリズムを作っていた – 福島(現LayerX CEO)から誘われてプロジェクトに参加 ● すでにニュースを推薦しようというアイデアはあり ● データマイニング・推薦システムまわりの研究を学部時代からし ていたので、アイデアを求められた – アルゴリズム構想・実装、およびその効果計測あたりを担当 ■ 成長期はデータ分析とそれに伴う機能開発が中心 – アルゴリズムよりプロモーション最適化や、サービスの課題発見のほ うが価値が高いフェーズ ● CM分析ツールなどの内製 ● ニュース記事取り込みのバグ修正とか – 創業者として外部登壇や採用広報に注力した時期もあった Gunosyでやっていたこと ~ 上場まで ~

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 8 ■ 上場して余裕がでてきたので博士号取得に舵をきる – セーフティネット的に進学していた側面があった ● 元々就職予定のときに指導教員に誘われて ● 起業をきめてもとりあえず籍はおいていた – 会社に交渉して、給与を落として大学に行く時間を作る ■ Gunosyでやっていたことを論文化する作業 – すごい研究をするぞ!って初期は意気込んでいたけれど、、 ● 仕事との両立の難しさ ● 時間制限(博士課程に本気に向き合ったのは実質一年半ぐら い) – 博士号をとることは「良い研究をする」ことではなく「研究のプロセスを 身につける」ということだなぁと今になって思う – なぜ博士をとらなければならないのかと思い悩む ■ 2017年3月に博士号取得 – あんまり記憶がない – 取ったあとに何をするかが大事 Gunosyでやっていたこと ~ 博士課程 ~

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 9 ■ 研究をするチームを作るぞと決意 – 創業時のブログに3年以内にWWWに通すと書いてた ● FacebookやGoogleの出す論文に憧れた学生時代 ● 会社でやり残した仕事 ■ 査読付き国際会議を目指すもののうまくいかない – なぜならそういう研究をこれまでやっていなかったから – 大学の研究室は(当時)博士学生があまりいなくて、サイクルが回っ ていなかった – さらに社内で一人なので、報告する先や議論する相手がいない ■ 若手研究者と共同研究をはじめる – 定期的なミーティングとマイルストーンの設定をやってもらう – 国際会議論文を一緒に書く ■ 2018年の夏にはじめて国際会議に投稿(2本) – 落ちたけど一度書き上げたという自信ができた – WSで発表もして、国際会議参加の心的ハードルを下げた Gunosyでやっていたこと ~ 研究開発チーム作り ~

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 10 ■ 限られたリソースで業績をあげるために、研究のやり方を変える – 社内で出た技術的成果を論文化する ● 執筆と論文化のための実験に注力 – 学生インターンの採用と育成 ● どうしても事業目線に引っ張られてしまったり、事務手続きに時 間がかかる ● トレンドの技術は若い人のほうが詳しい ■ 2019年に論文が採択ができてくる – KDD2019は学生インターンとの共著 ● いま思えば順調すぎた ● これが大きな自信になった – Recsys, WIにも採択 ■ チームとしてある程度形ができてきた – 学生インターンは博士課程に進んで共同研究者になり、Recsysの 1stは社会人博士として研究チーム専属になった – 制度づくりとかに注力 – 共同研究先増やしてデータ提供などをより進めている ■ 2020年は1stで1本、またBest Paperの受賞もした Gunosyでやっていること ~ 研究開発チーム作り ~

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 11 ■ いや本当に運が異常に良いという感想しかない – 高専の5年制のおかげで挽回が効いた – 好きだったものが時代にたまたま合っていただけと思っている ■ 目の前にある面白いことにとりあえず取り組んでいた – とりあえずある程度高い目標を立てる => がんばる – わかりやすい結果を出すことに注力 – 締め切りドリブンでしか頑張れないタイプ ■ 小さい結果の積み重ねがあった – 作ったもの、やったことがあるとそれで次にやることのレバレッジが効 く – 信用があるので無理が効くようになる – やりたいことがやりやすくなる – 過去にやったことがどんどんつながってくる – 組み合わせで個性がでてくる 振り返り

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 12 スタートアップ的研究活動 あるいは自分が学生だったらこうするという話 (1) リーンスタートアップ (Lean Startup)という考え方がある ● スタートアップビジネスは不確実性が高い ● そのために「失敗しない」ではなく、「うまく失敗する」ことが求められる ● Minimum Viable Product (MVP) を作り、市場に投入しながら方針を 修正していく タスクと評価指標をまず決める ● スタートアップにおいては、市場とKPIを決めること ● 論文の価値は評価指標で決めるので、手法ができてからタスクを決 めるのは困難になる ● この2つはいつでも変えていい。これが決まっていないことが問題。タ スクは海で評価指標はコンパス。 ● 海にでないまま船をスクラップビルドすることに価値がないし、コンパ スがないと遭難する

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 13 スタートアップ的研究活動 あるいは自分が学生だったらこうするという話 (2) 研究会などを活用し、発表の機会を増やす ● アジャイルな開発、プロダクトアウトの機会を増やす ● 原稿にまとめるという作業は、タスクが一気通貫して回ること、考察が 言語化されるというメリットがある ● ビジネスと違って失敗がないので、出すだけアド ● もしかしたら、フィードバックがもらえるかもしれない 英語論文はとりあえず書いて出す。締め切りドリブンでよい。 ● 国内の研究会でたくさん発表していればあとめて翻訳するだけで出 せる、もしかしたら通るかもしれない。 ● 通らなくても、特にデメリットはないし、次の論文は強くてニューゲーム になる ● 国際会議を目指さないと国際会議には通らない ゴールを明確にすること チャレンジの回数を最大化すること チャレンジの結果を踏まえて臨機応変にゴールをアップデートすること

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. 若い研究者の皆さんへ

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 15 ソフトウェアを作ることは世界を変えるということ Software Eating the World ● 2011年にウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿されたエッセイ ● マーク・アンドリーセン ● 「すべての産業がソフトウェア化する」 ● 2019年、現実になりつつあった ● 2020年、with コロナがより世の中のソフトウェア化を加速させる 我々のタッチポイントすべてがソフトウェアになっている ● 24時間インターネットにつながったデバイスを持つ ● 多くのコミュニケーションがソフトウエアの上に乗る ● 情報以外のものもソフトウェア化しつつある ● 一方でソフトウェア化するだけではだめで、良いものを作らなければなら ない時代 世の中はソフトウェアでできている

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 16 ソフトウェアの時代はすべての研究者のものである ものやサービスが飽和した時代 ● 多くの単純なアイデアは「もうあるよ」と言われる ● 解けていないものは難しい問題しかなくなった 研究者は解くべき問題を探すスペシャリストである ● 我々は常に問題を探して解いてきた ● いまの時代に問題を見つけられることは必要な技術の一つ 情報と価値が高速に流通していく ● 最新技術がすぐに実装され流通する ● 技術の進展が事業や社会にあたえる影響が大きい ● 最新の技術を正しく知っていることの価値が高くなっている ソフトウェア産業は常に解くべき問題を探している

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 17 アイデアを形にすることが大事 アイデアを形にすることはなによりも大きな学びになる ● 作るために新しいことを学ぶ ● 作っているうちに過去学んだことがつながってくる ● だれかに使ってもらうことはさらに大きな学びになる Done is the better than Perfect ● 完璧より、まず終わらせよう ● Facebookのマーク・ザッカーバーグが言ったとされている ● 完成しないソフトウェアはどんなにだめな完成したソフトウェアよりもだめ である ● ソフトウェアは誰か(自分を含む)が使って初めて価値を生む 形にするコストはどんどん安くなっている 学ぶだけでなく、形にして世の中に出していこう

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 18 これから芸を身につけようとする人が、「下手くそなうちは、人に見られたら恥 だ。人知れず猛特訓して上達してから芸を披露するのが格好良い」などと、よ く勘違いしがちだ。こんな事を言う人が芸を身につけた例しは何一つとしてな い。  まだ芸がヘッポコなうちからベテランに交ざって、バカにされたり笑い者に なっても苦にすることなく、平常心で頑張っていれば才能や素質などいらな い。芸の道を踏み外すことも無く、我流にもならず、時を経て、上手いのか知 らないが要領だけよく、訓練をナメている者を超えて達人になるだろう。人間 性も向上し、努力が報われ、無双のマイスターの称号が与えられるまでに至 るわけだ。  人間国宝も、最初は下手クソだとなじられ、ボロクソなまでに屈辱を味わっ た。しかし、その人が芸の教えを正しく学び、尊重し、自分勝手にならなかっ たからこそ、重要無形文化財として称えられ、万人の師匠となった。どんな世 界も同じである。 学ぶだけでなく作って世に問うていくのが大事なのはいつの時代でも一緒 徒然草 第百五十段より (吾妻利秋氏現代語訳) https://tsurezuregusa.com/150dan/

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 19 これからの世界 ますます世界は複雑化していく ● 生活はより便利になり、背後で技術はより高度になっていく ● 専門家以外の人間が実装や機能を想像できなくなる ● 高度なので価値がどこにあるかを想像しづらい ● 技術のユースケースと現実世界の乖離が大きくなる ● いまの時代に自動車はつくれない。 自分がなにを分かっていて・なにを分かっていないか ● 自分が分かっていることを共有する ● 人が分かっていることを知る ● その中で手段を決めて行動する ● その結果から新たな学びを獲得する 専門性・好奇心・(真の意味での)協調性が世の中を良くしていく

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 20 これから研究者に求められること 価値が高速にデリバリーされる時代 ● 多くの技術の進展が社会を高速に変革しうるようになっている ● 多くの人がわかっていないままに、その技術が社会を変えていく 高い専門性と広い視野と柔軟な思考 ● 素人の考えを否定しない ● 「もうある」ではなく「なぜ普及していないか」を考える ● 他人の領域に関心をもち、理解をするように務める ● 複合領域を分担するのではなく協調して作り出していく ● 積極的に互いに手を動かして汗をかけるパートナーを見つけ出す 先端技術がどんどん身近になっていく時代

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(C) Gunosy Inc. All Rights Reserved. PAGE | 21 まとめ あくまで今の考え ● 明日には全く違うことを言っている可能性もある ● 自分の人生のベクトルの構成要素であり、日々パラメータは更新されて いる ● 今までやってきたことに囚われない、サンクコストに縛られない、やりた いことをやるのが結果的によかった 目標をたてて、目の前のことに取り組んでいこう ● 小さな成功体験が自らの成長につながる ● チャレンジし続けることで、自分の価値を高めて、それがより大きなチャ ンスをもたらしてくれる やりたいことをやるべきかはやってから考えましょう ● 人生は短いが、一度の失敗でだめになるほど短くもない ● 人生が運ゲーなら、試行回数がすべてなので、低リスクで高速に試行し たほうがいい。試行回数は共通ではないので。 ○ もし成功するための方法なんてものがあるなら、これが唯一の答え だと思う。 ぼくのキャリア、研究スタイル、研究者のありかた

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