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CONTENTS ● リサーチプロセス ● キャリアに関する3つの発⾒ 1. キャリア観は7タイプに⼤別できる 2. それぞれのタイプは互いに否定的な 態度を取る 3. キャリア観は変化するが、変化を受 け⼊れづらい ● モヤモヤを乗り越える3つのヒント 今や転職は当たり前の選択肢になりましたが、 キャリアの悩みを全て解決する銀の弾丸には なりませんでした。エン・ジャパンの調査による と、転職者の87%が仕事内容や職場の雰囲気 にギャップを感じ、そのうち67%が再転職を考 えています。私が受ける相談でも「転職しても このままでいいのかわからない」「とりあえず転 職してみたけど、苦しさが変わらない」という声 が後を絶ちません。
 なぜ環境を変えても違和感が残るのか。本レ ポートではこの問いを起点に“自分の中の矛 盾”に焦点を当て、この悩みを乗り越えるヒント を探ります。


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既存のキャリア理論 とレポートのDL リサーチプロセス 定性データの収集 仮説設計と検証、 修正 ● 既存のキャリア理論学習 ● 各社のレポート読み込み ● 10名に対するデプスイン タビュー ● インサイトの抽出 ● 仮説検証インタビュー

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キャリア観は7タイプに⼤ 別できる キャリアに関する3つの発⾒ それぞれのタイプは互い に否定的な態度を取る キャリア観は変化するが、 変化を受け⼊れづらい キャリア観(キャリアに対する価値 観)は多種多様だが、社会との距離 感と動機の⽅向性から⼤きく7つのタ イプに分類できる。 1
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 キャリア観はその⼈のこれまでの経験 により作られたアイデンティティと密 接に関係しているため、他のキャリア 観が脅威に感じられ、許容しづらい。 キャリア観はライフステージにより⼤き く変化する。しかし⾃分のこれまでの キャリア観との⼀貫性を保とうとするあ まり、⾃⾝の変化を受け⼊れられない。

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7タイプのキャリア観 社 会 と の 距 離 感 動機の⽅向性 同⼀ 独⽴ 外発的 内発的 ⾃⼰ 商品化 利潤 ハンター 物語 主⼈公 公共 奉仕 没頭 職⼈ チルライフ 最優先 コミュニティ エンジョイ

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キャリア観の考え⽅ ● 各タイプに正誤や優劣はない ● ひとつのタイプでキャリア観が形成されることは稀で、⼤抵は複数の タイプが組み合わさってキャリア観が形成されている ● そのため、「⾃分のキャリア観はどのタイプの組み合わせでできてい るか」「どのタイプが⼀番強いか」という観点から⾃⼰理解を深める

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⾃⼰商品化タイプ ⾃分を商品として磨き上げ、社会に重 宝されたい 社会的に需要のある⼈間として成⻑し、社会の望む機能を 果たすことを⽬指す。「⾃分の市場価値が上がるか」が物 事の判断軸になっており、⾃⼰評価が社会からの評価と同 ⼀化している。 動機の源泉 上司や社会からの評価 価値指標 ステータスとしての年収/職位/所属組織のブランド 起業しようと思えばできるが、それよりも⾃分の能⼒を活 かせる場所で活躍したい(40代 経営企画) 年収がその⼈の社会的価値である以上、キャリアアップを ⽬指すのは当然(30代 商品開発)

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利潤ハンタータイプ ルールよりリターン。今の利益の最⼤ 化だけを考えたい あらゆる⼿段で富と権⼒を得て、のし上がることを⽬指 す。儲けるためならなんでもやる実⾏⼒とフットワークの 軽さを持ち、規制ギリギリのラインを読んで勝負すること にも躊躇がなく、必要なら独⽴起業もする。 動機の源泉 ⾦銭的報酬/勝利感 価値指標 裁量権/短期指標/キャッシュフロー 儲かるならどんな事業でもやるが、ネームバリューとか肩 書き、キャリアプランには興味がない(30代 経営者) 客を仕留めて数字を上げれば給料が上がる。それ以外考え る必要はなく、シンプルでいい(50代 営業)

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コミュニティエンジョイタイプ 気の合う仲間とワイワイ楽しく働いて いたい 価値観の近い仲間で集まり、友⼈のように仲良く働くこと を求める。プライベートの時間も⼀緒に過ごすことも多 く、チームの結束を第⼀に考え、チームメンバーとの衝突 や不和を起こさないように⽴ち振る舞う。 動機の源泉 仲間との情緒的充⾜ 価値指標 仲間同⼠の絆/雑談の量/共有できる思い出 起業したおかげでこの歳になって⻘春を過ごせた。社員に もこの会社で⼀⽣の友⼈を作ってほしい(40代 経営者) 今のメンバーととても仲がいいので、絶対に異動したくな いと思っている(20代 エンジニア)

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物語主⼈公タイプ 仕事を通じて⼈⽣をひとつのドラマ ティックなストーリーにしたい 情熱的で夢のあるビジョンを掲げ、⾃分や他⼈を⾼揚させ て仕事に取り組む。⾃分の⼈⽣に⼤義を求め、失敗や挫折 も⼤きな物語の⼀部として乗り切るレジリエンスがある。 動機の源泉 ⼤きな物語の中にいる感覚/成⻑の実感 価値指標 明快で共感できるパーパス/体験のドラマ性 ⼟佐に⽣まれたからには、⿓⾺みたいに⽇本を救って歴史 に名前を残したい(30代 エンジニア) 強烈な挫折や原体験を乗り越えてきたイノベーターたちに 憧れて起業した(20代 経営者)

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公共奉仕タイプ 社会の役に⽴ち、社会の秩序を守るた めに働きたい ⽬の前の⼈を助け、⾃分の所属する社会をより良くしたい と⼼から願い、公共の福祉のため強い正義感と⾼い倫理観 を持って働く。 動機の源泉 社会的使命感/社会正義の実現/共同体への愛 価値指標 社会秩序の維持/社会課題の是正 ⽇本の司法を正して、この国をまともにするのも俺たち弁 護⼠の仕事だと思っている(40代 弁護⼠) 休⽇出勤も当たり前だし、この街の⼈たちを好きじゃない と続かない仕事だと思う(20代 公務員)

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没頭職⼈タイプ 作っている時間、研究している時間そ のものが何より⾄福 仕事上発⽣するタスクそのものに喜びを⾒出し、没頭する 時間を楽しむ。卓越した専⾨性と仕事への質のこだわりを ⾒せ、プライベートと仕事の境⽬が曖昧になることも。 動機の源泉 創作、研究意欲/タスク没頭の快感 価値指標 フロー状態でいる時間/技術の磨き込み/新たな発⾒ 好きなことをずっと考えているだけでお⾦がもらえる。こ んないい仕事はない(50代 ⼤学教授) ⾃分らしいデザインを作り続けられればそれでいい。それ 以外はやらなくて済む環境にいたい(30代 デザイナー)

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チルライフ最優先タイプ 仕事は最低限のお⾦のため。プライ ベートが⼈⽣の本番 仕事を⽣活費のためと割り切っていて、キャリアアップや 社内との⼈間関係の構築には消極的。できるだけストレス なく働ければそれでよく、プライベートの時間を⼤切にし たいと考えている。 動機の源泉 余暇/趣味/⼼理的安定 価値指標 可処分時間/ストレスの有無/ドライな⼈間関係 私はただの労働者なんだから、キャリアプランとかやりた いこととか聞かないで欲しい(40代 経理) 休みが取れて、⽣活費と推し活ができるだけの給料がもら えれば仕事はなんでもいい(20代 サービス職)

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2.それぞれのタイプは互いに否定的な態度を取る ⾃分のキャリア観こそ正しいと信じたい ⾃分と異なるキャリア観に対して否定的な態度を取る背景 には、いくつかの⼼理メカニズムが確認できる。 1. 内集団バイアス 同じキャリア観を持つ⼈たちで形成された組織にいる と、異なるキャリア観を⽰す他者を無意識に警戒する 2. 認知的不協和 もし他のキャリア観を受け⼊れると、過去の選択が誤 りだった可能性が浮上する。これを避けるために他の キャリア観を否定する 3. 存在脅威管理理論 他のキャリア観が成功すると「⾃分の世界」が脅かさ れるため、他のキャリア観の意義そのものを否定し、 ⾃⼰と⾃分の世界観を防衛しようと試みる ⾃⼰ 商品化 利潤 ハンター チルライ フ最優先 「近視眼的で 浅はか」 「意識⾼い系」 「⾦の亡者」 「競争社会か らの脱落者」 「⽣産性が 低い⼈材」 「思想がなく つまらない」 インタビューで⾒られたコメント(抜粋)

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3.キャリア観は変化するが、変化を受け⼊れづらい 昔の⾃分を⼿放すことを、過去が許し てくれない スーパーのライフスパン理論によれば、キャリアは〈成 ⻑―探究―確⽴―維持―解放〉という五つのライフステー ジを巡り、その都度価値観の初期化が起きるとされる。 ところが私たちは、⾃分という物語に⼀貫性を求める本能 (ナラティブ‧アイデンティティ)をもち、⾮連続的な変 化が⽣じると強い混乱や不安を覚える。加えて、新しい価 値観を受け⼊れることは過去の選択を否定する痛みと直結 し、認知的不協和によって変化そのものを拒みがちだ。 さらに現代社会には「⼀貫性がないと攻撃される」という 外的圧⼒もあり、この内外の圧⼒により、キャリア観の変 化を頭で理解しても⼼が受け⼊れにくい状況が⽣まれる。 「走り続けるのに疲れたと思う時もある が、前職の人たちに落ちぶれたと笑わ れたくない」
 「本当はちゃんと考えたほうがいいとわ かっているが、あんなに貶していた人た ちの世界に今更入れない」
 (40代 経営企画) (20代 サービス職)

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モヤモヤを乗り越える3つのヒント キャリア観のズレがモヤモヤを⽣み、⾃覚するだけではズレを直せないのだとしたら、どうすれば乗り越えられるのか。 リサーチの中で、キャリア観の変化を可能にする3つのヒントが⾒えてきた。 1
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 解決を急がない 成り⽴ちを⾒つめる “試着”してみる 無理に解決を急いで⾏動に移し てもモヤモヤは消えない。まず は数ヶ⽉かけて理性と感情の⾜ 並みを揃えることを優先する 今のキャリア観を持つに⾄った 過去の体験に⽬を向ける。⾃分 の⼈⽣を客観視し、変化を受け ⼊れる受容体を作る 気になるキャリア観を持つ⼈た ちがいる環境に⾝を置いてみ る。体験を通じて理解を深め、 キャリア観のズレを解消する

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解決を急がない 1
 モヤモヤを乗り越える3つのヒント キャリアの悩みは仕事のように期限を作って答えを出すものでは ない。無理に頭で考えを変えようとアクセルを踏んでも、深層⼼ 理がブレーキを踏み続けている限り解決されることはまれで、多 くの場合は⼼にひずみを⽣む結果にしか繋がらない。 慌てて⾏動に移る前に、まずは意思を持って答えを保留すると決 め、焦りを⼿放すことから始める。

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成り⽴ちを⾒つめる 2 モヤモヤを乗り越える3つのヒント 今⾃分が持っているキャリア観がどこで作られ、強化されたかを 洗い出す。それは幼少期にかけられた⼀⾔かもしれないし、学⽣ 時代過ごしてきた環境かもしれない。印象的な成功体験や挫折か もしれない。 ポイントは⾃分⾃⾝に嘘をつかず、欲望や恐怖も⽣々しく書き留 めること。「当時の⾃分はそう考えないと⽣き抜けなかった」 「今はもう違う」と、過去と今の両⽅の⾃分を肯定できたとき、 キャリア観の変化を受け⼊れる⼟台が整う。

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“試着”してみる 3 モヤモヤを乗り越える3つのヒント キャリア観の変化を受け⼊れられる状態になったら、⼩さな⾏動 を通じて異なるキャリア観を”試着”してみる。副業、社内越境プ ロジェクト、ボランティア活動、コミュニティへの参加など、異 なるキャリア観が根付いている環境に⾝を置いてみる。 合わなければいつでも戻れる状態で複数のキャリア観を”試着”し て、今の⾃分に最もフィットするキャリア観を探す。

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次につなげるための問い 本リサーチは「なぜ転職しても「このままでいいのか」が消えないのか」という 問いを出発点に、7タイプのキャリア観を可視化し、変化を前に苦しむ背景を解 きほぐしました。 この結果を起点に様々な領域、視点から更に問いが⽴てられ、チームや事業、社 会をより良くする⾜がかりになれば幸いです。 問いの例: ‧⽣成AIが業務を代替する局⾯で、公共奉仕タイプの使命感をどう再定義すると離職を防げるか ‧⽣成AIとの共創の中で、没頭職⼈タイプが喜ぶ⼿触り感はどのように変化するのか ‧各キャリア観ごとの⾦融資産への価値観、リテラシーはどのようになっているのか ‧異なるキャリア観を持つメンバーに対して⼀定の納得度がある報酬設計はどのようなものか

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本リサーチについて 本調査の⽬的とスタンス 本リサーチは「当事者の声」にフォーカス し、キャリアに悩む個⼈、組織づくりに取り 組むリーダー、そしてプロダクト開発に携わ る⽅々へ“変化の兆し”をお届けすることを⽬ 的として実施しました。インタビューと⽂献 レビューを組み合わせインサイトを抽出して います。 本リサーチは筆者個⼈のプロジェクトであ り、所属団体、雇⽤主、クライアント各位と は⼀切関係ありません。資料内の⾒解や提⾔ は所属団体の公式な⽴場を⽰すものではあり ません。 データの限界 本リサーチは都市部のホワイトカラー⽐率に サンプルが偏っています。また、回答は⾃⼰ 申告であるため社会的望ましさバイアスが含 まれる可能性があります。 理論の出典 本資料レポートで⽤いた七つのキャリア観 は、以下の理論を参照しつつ筆者が再構成し たものです。 各理論の原典や主要論⽂は巻末 参考⽂献に⽰しておりますので、詳細をご確 認ください。 ‧フロムの性格類型―特に市場的性格を「⾃ ⼰商品化タイプ」のベースとしました。 ‧スーパーのライフスパン∕ライフスペース 理論―ライフステージによる価値観の変化を 捉える枠組みとして採⽤しました。 ‧サビカスのキャリア構築理論―物語による ⾃⼰再定義の視点を「物語主⼈公タイプ」に 反映しました。 ‧⾃⼰決定理論―外発‧内発動機の軸として 全体マップを設計しました。 ‧存在脅威管理理論―他のキャリア観を拒む ⼼理メカニズムの説明に使⽤しました。 倫理‧匿名化⽅針 インタビュー参加者には事前に調査⽬的と公 開範囲を説明し、同意を得ています。録⾳ データと逐語録は筆者の責任で管理し、第三 者には提供しません。 引⽤‧⼆次利⽤ルール 本レポートは常識の範囲内で⾃由にご活⽤く ださい。事後でも結構ですので「使ったよ」 と⼀⾔ご連絡いただけると⼤変励みになりま す。

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出典‧参考⽂献 書籍 ‧フロム,E.〈1984〉『⾃由からの逃⾛〔新版〕』東京創元社 ‧全⽶キャリア発達学会〈2013〉『D‧E‧スーパーの⽣涯と理論 ──キャリアガイダンス‧カウンセリングの世界的泰⽃のすべて』図 書⽂化社 ‧⽔野修次郎 編〈2023〉『ライフデザイン‧カウンセリングの⼊⾨ から実践へ──社会構成主義時代のキャリア‧カウンセリング』⾦ ⼦書房 ‧デシ.E. L.〈1999〉『⼈を伸ばす⼒―内発と⾃律のすすめ』新曜社 ‧シャイン,E. H.〈2003〉『キャリア‧アンカー──⾃分のほんと うの価値を発⾒しよう』⽩桃書房 ‧エドモンドソン,A. C.〈2021〉『恐れのない組織――「⼼理的安 全性」が学習‧イノベーション‧成⻑をもたらす』英治出版 ‧⽊村 周,下村 英雄〈2022〉『キャリアコンサルティング理論と実 際6訂版』雇⽤問題研究会 Web/レポート理論 ‧20代‧30代のビジネスパーソン900⼈に聞いた「⼊社後ギャッ プ」調査 エン‧ジャパン(2025) https://corp.en-japan.com/newsrelease/2025/38619.html (2025/06/09 参照) ‧年代別転職理由の本⾳ リクルート (2025)https://www.r-agent.com/data/survey/reason/(2025/06/09 参照) ‧Works Review2024 特集:変わり始めた個と組織の関係 リク ルートワークス研究所 (2024)https://www.works-i.com/research/report/2024.html (2025/06/09 参照) ‧正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績) マイナビ (2024)https://www.mynavi.jp/news/2025/04/post_48642.html (2025/06/09 参照) ‧排斥や格差の問題を防衛性という視点から考える(2024) 明治⼤学 Meiji.net https://www.meiji.net/life/vol20_ryutaro-wakimoto (2025/06/09 参照) イラスト ‧ Storyset https://storyset.com/celebration

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筆者紹介と本資料に関するお問い合わせ先 筆者 お問い合わせ先 UXデザイナー‧リサーチャー 通信会社でデザイン組織の⽴ち上げに参画。クライアント との共創サービスデザインをメインに実施。 その後、⼈材サービス企業に転じ、既存事業のグロースを 担当。 キャリア観:没頭職⼈タイプ、公共奉仕タイプ、コミュニ ティエンジョイタイプを7:2:1でブレンドしたもの。 X(Twitter):https://x.com/thin_valley note:https://note.com/thin_valley 細⾕ 岳広 takehiro.hosoya■gmail.com (■をアットマークにしてご連絡ください)