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R&Dチームが歩む スクラム守破離ジャーニー 株式会社ナビタイムジャパン 小田中 育生

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小田中 育生 (おだなか いくお) (株)ナビタイムジャパン VP of Engineering ACTS(研究開発) ルートグループ責任者 経路探索の研究開発部門責任者としてGPGPUを活用した超高 速エンジンやMaaS時代にフィットしたマルチモーダル経路 探索の開発を推進 移動体験のアップデートに携わりながら、VPoEとしてアジ ャイル開発の導入推進、支援を行う。 著書「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」インプレス

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Learning Outcome ・チームが機能するまでに何を行うべきか ・内発的動機を生み出すには Target Audience ・自分の現場にはスクラムは向いていないと思っている人 ・過去に失敗した経験のある人 ・アジャイルが、スクラムが当たり前だという 文化を作りたい人

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千利休 1522~1591 “規矩作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても本を忘るな” 利休道歌より 型を徹底的に守り(守)、 自分に合ったより良いと思われる型を模索し(破)、 精通することで既存の型に囚われなくなる(離)。

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とあるチームの守破離プロセスを通じて学ぶ

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今日のお話に出てくるチーム

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こんなものを作っています

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スプリント プランニング スプリント レビュー スプリント レトロスペクティブ デイリー スクラム 2 Week 1 Day 2週間スプリントのスクラム 15 min. 120 min. 60 min. 90 min.

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「スクラムとは、複雑な問題に対応する適応 型のソリューションを通じて、人々、チーム、 組織が価値を生み出すための軽量級フレーム ワークである。」ースクラムガイド2020年版 スクラムの定義より

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R&Dチームが向き合うもの

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 ココ。

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 研究開発を進めながら 課題を明確にしていく 研究開発を進めながら 実現方法を 明確にしていく

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 研究開発を進めながら 課題を明確にしていく 研究開発を進めながら 実現方法を 明確にしていく 曖昧なところから自分たちで ゴールを定め、成果を出すことが 求められる

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これは、私たちが歩む道の物語。

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Our Journey 1. このチームはまだ「守」に辿り着いていない 2. 形から入る 3. チームでハンドルを握る 4. 長い踊り場の時期を超えて 5. 自分たちの意思で進む

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Our Journey 1. このチームはまだ「守」に辿り着いていない 2. 形から入る 3. チームでハンドルを握る 4. 長い踊り場の時期を超えて 5. 自分たちの意思で進む

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2年前

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今のチームにジョイン

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スプリント プランニング スプリント レビュー スプリント レトロスペクティブ デイリー スクラム 2 Week 1 Day 一見すると「スクラム」。 15 min. 12030 min. 6030 min. 9030 min.

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スプリントバックログ スプリントプランニングは タスクリストを共有するだけ スプリントレトロスペクティブは 事前記入式、なかなか改善につながらない

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透明性 検査 適応 透明性を担保する仕組み、検査の仕組みはあるが 活用されていない。適応がない。

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 実現方法が適切でない ときの手戻りが 大きかった

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 作り上げたものが 課題とズレていて リリースできない

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あれ?このやり方って…

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空白の二年 さらに2年前も同じチームに在籍

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スプリントバックログ 私が始めたやり方が、2年間冷凍保存されていた

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今度こそ、機能するチームに。 内発的動機に駆動され、変化していけるチームに。

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Our Journey 1. このチームはまだ「守」に辿り着いていない 2. 形から入る 3. チームでハンドルを握る 4. 長い踊り場の時期を超えて 5. 自分たちの意思で進む

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「守」を徹底する

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透明性 検査 適応 検査と適応を機能させ、 スクラムを身に着けてゆく。「守」の段階。

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ふりかえり そのために「ふりかえり」を機能させる

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しばらく中断していたふりかえりを再開。 事前記入方式から、リアルタイム記入方式へ

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カンバンとファイブフィンガー スキルマップを作成 チームとして 足りないスキル みんな薄くしか 知らない 5本を出しているが カンバンが進んでいない時は 周囲が「指を折る」

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数か月放置されたPBIの整理、 優先順位つけ チームで課題と向き合う 「モブ相談」の時間開始 毎日、朝会のあと 30分程度実施

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全員で インセプションデッキを作成 全員で スクラムガイド読み合わせ

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ふりかえりから出てきた施策は 対話を促すもの、透明性をもたらすものが 目立った。

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カンバン 5本指 PBI整理 モブ相談 ふりかえりから、徐々にチームが機能していった スプリントの外側にも 意識が向く プロダクト ゴール スクラムガイド 読み合わせ インセプションデッキ

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透明性を担保し、 検査と適応を繰り返しながらカイゼンしていく。 「守」の段階に辿り着いた。

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Our Journey 1. このチームはまだ「守」に辿り着いていない 2. 形から入る 3. チームでハンドルを握る 4. 長い踊り場の時期を超えて 5. 自分たちの意思で進む

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過去のベロシティをもとにしたプランニング スプリント スプリント スプリント スプリント スプリント スプリント スプリント スプリント スプリント スプリント ベロシティ(実績) ベロシティ(実績から予測)

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これまでの スプリント 次の スプリント 現在地から未来を予測。 「できること」ベースの プランニングになりやすい

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AEPを読む。 「ベロシティ駆動」 これは今の自分たちだ。 「コミットメント駆動」 これを試す!

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これまでの スプリント 次の スプリント 次の スプリント スプリント ゴール 「達成したいこと」に主眼を置いたプランニングへ

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スプリントの積み重ねの先にある リリースとプロダクトを意識する スプリント リリース プロダクト

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メンバーからは… 達成しなきゃ、という 圧を感じる。 これまでより キツくなるのでは

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「できるところまで」から「達成したいことを達成する」に転換。 なかなかDONEに辿り着かない

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確かにキツい

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スプリントバックログ スプリントのなかばで「リプランニング」を実施 前半戦でわかったことから後半の計画を修正 〇〇のストーリーが 手ごわいので、 誰か手伝ってほしい XXのストーリーを 落として〇〇に 集中しよう

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だんだんと「DONE」できるようになってきた

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なんか、みんな疲れてない?

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コミットメントを死守するために 残業するようになっていた

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コミットメントを減らしてみた

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コミットメントが減り 残業が減らない最悪の事態へ

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なぜこうなったのか、ふりかえった XXだ YYかな いやーつらいね これをよくするには

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なぜこうなったのか、ふりかえった XXだ YYかな いやーつらいね これをよくするには お互いの状況が また見えづらくなっていた 対話が不足していた

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ふりかえりを1時間半に延ばす スキルマップの更新 ふりかえり 「対話の欠如」に対しての新たなアプローチ

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対話の機会が増えることで またチームの状況は改善していった。 そこに、また事件は起こる

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突然のリモートワーク

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急激なリモートワークへの移行で噴出する課題 ・顔を合わせての朝会 ・ホワイトボードかこんでふりかえり 得意技を封じられる 弱点に気づかされる ・言語化していない暗黙のルールが存在 ・カンバンからは読み取れない情報がある

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さらに、初めてのビデオ通話に対する戸惑い コミュニケーションのスタートラインに立てない ザザ ザ・・・ 「こ の%$(&」 04 SOUND ONLY 音質がとても悪い Muteになってる ことに気づかない 顔が出てないし 無言なので いるかどうか不明

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リモート移行後の初スプリントレトロスペクティブで リモートの課題について話し合いカイゼンしていった

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コミットメント駆動に悪戦苦闘したり 突然のリモートワークと向き合ったりする中で 自分たちなりのやり方が見えてきた。 「破」の段階に入った、のかもしれない。

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Our Journey 1. このチームはまだ「守」に辿り着いていない 2. 形から入る 3. チームでハンドルを握る 4. 長い踊り場の時期を超えて 5. 自分たちの意思で進む

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 明確にした課題が ずれていることが 少なくなった

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課題が明確 課題が曖昧 実現方法が 明確 実現方法が 曖昧 少しづつ作りながら 実現方法を明確にするようになり 手戻りが起こりづらくなっていた

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コロナ禍で進めた研究開発で、それを実感

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ステークホルダーの期待に先んじて 研究開発を進めていることが増え、 周囲の期待値を上回るようになってきた 求められる 成果 目指す 成果

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バーンダウンしない問題

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小田中 心の声 コロナ禍の影響による環境の激変があるから 仕方ないよな… ステークホルダーの期待は越えてるし、 まあいいか

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バーンダウンしないのが 当たり前になってます。 これじゃあ よくないですよね?

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ごめんなさい

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「仕方ないよね」と現状に甘える 私に喝を入れてくれたのは、 新卒2年目のエンジニアでした。

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毎朝バーンダウンと向き合う

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バーンダウンした!!

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「バーンダウンさせる」…当たり前のことだが 自分たちにとっては重要な意味を持つ達成だった

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Our Journey 1. このチームはまだ「守」に辿り着いていない 2. 形から入る 3. チームでハンドルを握る 4. 長い踊り場の時期を超えて 5. 自分たちの意思で進む

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新卒1年目が1人と、他チームからの異動が1人。 またチームに変化が訪れようとしていた。 よろしく おねがいします よろしく おねがいします

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このとき、私たちは朝会で ひとりづつ状況を報告していた。 あるふりかえりの場で、新人曰く

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今の朝会は一人ひとり話してるから、 結局個人で仕事やってる感じがしますね。 こんなもんなんだな、 って思いました

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言い方ちょっとキツいけど そのとおりだなぁ?

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スプリントバックログ 「人」ではなく、期待するインクリメントにフォーカスして 朝会をするようになった

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チームの動きが安定。 また、サイロ化を防ぐ役割も果たした。 メンバーからも好評。 自分以外も自分のタスクを 見ているから安心 だいぶチーム感が 出てきた

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それにしても、なぜ 何度となく「元の状態」に 戻ってしまうのだろうか

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個人とチームとのせめぎあい プランニングも全員でやる、 というのが息苦しく感じる。 でもスクラムガイド的にはよさそうだし、 成果につながってるから、言い出しづらい チームで成果を出すには 今のやり方がいいと思うけど、 個人の成長と どう折り合いをつけるか

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組織における評価は「個人」単位 評価者A 評価者B 評価者C

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成果優先 成長優先 個人主体 チーム主体 チームの 基本ポジション 個人の意識や組織の要請が、引き戻す力になる

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透明性 検査 適応 だからこそ検査する。適応する。 そのために透明性を担保する。基本が大事。

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そのために、うまくいったパターンの記録を始めた

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そんな中…

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スクラムガイドが更新

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読み合わせを実施

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スクラムに馴染んでいる自分たちに気づく 去年読んだときは ピンとこなかったけど 今回はスッと入る 2017より シンプルだね 改訂された部分が 今やってることと 似てるかも!

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eNPSスコア 29 (推奨者2, 中立者5, 批判者0) いつのまにか、 透明性・検査・適応のあるチームになった 状況が見える化されているから チーム全体として モチベーションが高まっている みんなで考えて 改善していける環境。 少しずつチームが機能していく 属人化が少なくなった

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これが、私たちが歩んだ道の物語。

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スプリントバックログ そのころ、手さぐりで始めた 「スクラムのようなもの」がそのまま残っていた 形骸化してしまった スクラムから始まり

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カンバン 5本指 PBI整理 モブ相談 ふりかえりから、徐々にチームが機能していった スプリントの外側にも 意識が向く プロダクト ゴール スクラムガイド 読み合わせ インセプションデッキ ふりかえりを軸に チームを変化させていった

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数多くの実験の中に 数多くの失敗があった

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それでも、いくつかの成功が さらなる実験への勇気をくれた

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スクラムの「守」。 確約・集中・公開・尊敬・勇気。 ふりかえりが機能し対話が生まれることで、 「守」は実践されていった。

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メンバーには内発的動機が芽生え、 自分たちで自分たちのやり方を 「破」っていった。

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2年間弱火で煮込み続けたチームは、やがて 「離」にたどりつくだろう。

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これからも、私たちの物語は続く。 Fin.