Slide 1

Slide 1 text

魚が手に入らない! シェフによる水産資源の回復に向けた提言 2024.05.27 一般社団法人 Chefs for the Blue 魚が手に入らない! 〜シェフによる水産資源の回復に向けた提言〜

Slide 2

Slide 2 text

● 「和食」が2013年にユネスコ無形文化遺産として登録されて、10年。日本の伝統的食文化は、名実 ともに世界に誇れる魅力的なコンテンツです。四方を海に囲まれた日本において、地域ごと、季節 ごとに特色のある魚介類を使用した様々な料理は、私達日本人の食生活や健康を豊かにしてきたと ともに、訪日外国人にとっても日本を訪れる大きな目的となっています。 [参考資料1, 2] ● そのような日本料理にとってはもちろん、また日本の食文化の厚みともいえるフランス料理•イタ リア料理•中国料理など様々なジャンルのレストランにとっても、重要な食材である日本の水産物 が今、手に入りにくくなっています。市場に入荷する魚が激減し、また価格が他の食材に比べても 極端に高騰しているのがその理由です。 ○ これまでイカ、サンマ、サケ、ウナギなどの記録的な不漁が大きく報じられていますが、そ の他の魚種にも甚大な影響が出ています。例えば江戸前寿司の花形のネタである良質なコハ ダが手に入りにくくくなっているほか、地域の食文化において重要なアマダイ、トラフグ、 マアナゴ、クロアワビ、なども漁獲量が減り続けています。そして和食にとって不可欠な出 汁をとるためのコンブの生産量も激減。また、大型のカツオが少なくなったために、良質な 鰹節も減少の一途です。 ● 日本の漁業・養殖業の生産量は、1980年代の3分の1以下になりました。沿岸漁業だけでも6割以上 減少し、魚介類の自給率は56%。すでに私たちの食文化を維持することが困難な、危機的な状況に あります。日本が水産大国であった時代はとっくに過去となり、国民への安定的な水産物の供給も 危ぶまれる状況です。 [参考資料3, 4, 7] 2
 背景・問題意識(1) 一般社団法人 Chefs for the Blue

Slide 3

Slide 3 text

● 漁業生産量の減少の要因は複合的なもので、遠洋漁業の縮小、環境要因によるマイワシ資源の減 少、近年の温暖化の影響、藻場・干潟の減少などの沿岸の環境変化、そして不十分な資源管理など が指摘されています。 ● いずれの場合であっても、水産資源がなくては、漁業も、関連産業も、漁村も、日本の食文化も成 り立たないことに鑑みれば、水産資源の回復に向けて適切な管理を推進することが不可欠です。 [参考資料5] ● 現在、2020年に70年ぶりに大きく改正された漁業法に基づき資源管理強化の取組が行われています が、資源管理とその前提となる資源調査・評価に必要な人員体制と予算の強化は十分に図られず、 そのために取組が大きく遅れています。 [参考資料6] ● また、日本周辺は世界有数の恵まれた漁場であるにも関わらず、漁業が魅力的で持続可能な産業と なっていないことも大きな課題です。 3
 こうした中で、日本の食文化と食料安全保障にとって不可欠な水産資源の回復と、持続 可能な海、漁業や流通構造の確立に向けて、私たちChefs for the Blue(シェフス・ フォー・ザ・ブルー)は次の提言を行います。 背景・問題意識(2) 一般社団法人 Chefs for the Blue

Slide 4

Slide 4 text

4
 1. 水産資源の回復に向けて、資源調査・評価と管理のための人員体制強化と予算拡充を行うこと。 2. マイワシやマサバ、スケソウダラ等水揚げ量の多い多獲性魚種だけでなく、水揚げ量多寡に関わ らず、地域経済・食文化にとって重要な沿岸魚種の資源調査・評価と管理の高度化に取組むこと。   例:アオリイカ、マダコ、コンブ、クロアワビ、タチウオ、アサリ、アマダイ、トラフグ、マアナゴ、     コノシロ(コハダ)、キンメダイ、カワハギ、アカムツ(ノドグロ)等) 3. 日本料理の根幹である出汁に必須のカツオについて、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)に おける資源保全の国際合意を急ぐこと。 4. 世界有数の恵まれた漁場や固有の魚食文化・技術を有する我が国の漁業・水産業やマーケットの ポテンシャルを活かし、補助金に依存せずとも採算のとれる「魅力ある産業構造の構築に向けた 漁業の将来ビジョン」を描くこと。 5. 持続可能な国産水産物の普及に向けて、事業者や消費者が持続可能な水産物を購入する判断の参 考となるよう、トレーサビリティの推進や、水産物の資源状況・生産状況に関する情報の発信体制 強化を図ること。 一般社団法人 Chefs for the Blue シェフによる水産資源の回復に向けた提言

Slide 5

Slide 5 text

• 2023年の訪日外国人旅行者数は2,500万人を超え、コロナ禍前の2019年の8割程度まで回復。2024年1 月〜2月の数字は2019年より3.4%増加しており、2024年の訪日外国人旅行者数はコロナ禍前の2019年 を上回ると予測されている。 • 訪日外国人旅行者によるインバウンド消費は4.6兆円であり、自動車に次ぐ産業規模として、日本経 済をけん引する存在と位置付けられている。 5
 (兆円) *1出所:観光庁HP「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」 訪日外国人旅行者数の推移*1 *2出所:経済産業省「通商白書 2023」第Ⅱ部第2章 図表第 Ⅱ-2-3-3 (万人) 訪日外国人旅行消費額と 主要品目別輸出額の比較(2019年)*2 参考資料1:訪日外国人旅行者数の推移と経済効果 一般社団法人 Chefs for the Blue

Slide 6

Slide 6 text

*出所:観光庁「訪日外国人の消費動向 2023年1-3月期報告書」図表6-1、6-2 訪日外国人が訪日前に期待して いたことを尋ねた調査では、複 数回答、単一回答ともに「日本 食を食べること」が最も多く、 訪日外国人観客の80%以上が日 本食を食べることを訪日の目的 としている。 6
 参考資料2:訪日外国人の「日本食」への関心 一般社団法人 Chefs for the Blue

Slide 7

Slide 7 text

• 我が国の漁業生産量はピーク時の1/3に減少。1990年代にかけては遠洋漁業の縮小と沖合漁業におけ るマイワシの資源変動による漁獲量の減少が大きいが、以降はそれらが落ち着き、近年はマイワシの 漁獲量が増えているにも関わらず、全体量の減少は続いている。 • 沿岸漁業の生産量だけを取り上げてもピーク時の半分以下に減少しており、その要因は魚種や地域に よって異なるものの、埋め立て等による藻場・干潟の減少などの沿岸環境変化、地球温暖化の影響、 不十分な資源管理などが挙げられる。 • いずれの場合においても、減少した水産資源を回復させるためには、環境・生態系の保全を図り、水 産資源の適切な管理を行うことが必要である。 7
 漁業・養殖業の生産量の推移*1 *1出所:水産庁「令和4年度水産白書」図表 2-1 沿岸漁業の生産量の推移*2 *2:水産庁「令和4年度水産白書」図表 2-1を基に作成 万t 年 227万t (1985年) 94万t (2021年) 一般社団法人 Chefs for the Blue 参考資料3:漁業生産量の推移

Slide 8

Slide 8 text

• 2022年度の食用魚介類の自給率は56%であり、ピークの113%から半減している。 • 世界第6位の排他的経済水域を有し、多くの寒流と暖流がぶつかる世界有数の好漁場を有する我が国 では、海洋生態系の保全と水産資源の適切な管理を行うこと、持続可能な国産水産物の消費の振興な どによって、水産物の自給率の向上を図ることが可能と考えられる。 *出所:農林水産省「食料需給表」 参考資料4:水産物の自給率 一般社団法人 Chefs for the Blue 8


Slide 9

Slide 9 text

• SDGsウェディングケーキモデルは、持続可能な開発の三側面を図式化したもので、環境なくして社 会は成り立たず、社会なくして経済の発展はないことを表す。 • 水産分野においても、海の生態系と水産資源の保全が全ての基盤であり、豊かな海がなければ、漁 村や地域社会の維持、漁業や関連産業の発展を図ることができない。 SDGsウェディングケーキモデル 水産分野に当てはめた場合 水産資源の保全・管理 海洋環境・海の生態系の保全 気候変動への対応など 環 境 社 会 漁村や地域社会の維持・活性化 漁村における公平性や教育機会など 経 済 漁業や関連産業の発展 漁業者の所得向上など ステークホルダーの連携により目標を達成 13:気候変動対策 14:海の豊かさを守ろう 15:陸の豊かさも守ろう など 4: 質の高い教育 5: ジェンダー平等 11:住み続けられる まちづくり 16:平和と公正をすべて の人に など 社 会 経 済 8:働きがいも 経済成長も 9:産業と技術革新の基盤をつ くろう など 環 境 17:パートナーシップで目 標を達成
 9
 参考資料5:SDGsウェディングケーキモデル 一般社団法人 Chefs for the Blue

Slide 10

Slide 10 text

• 水産関係予算のうち、漁業経営安定対策関係が26%、水産公共事業等が36%を占める。資源評価・管 理に関連する予算は、水産研究・教育機構(FRA)の運営、水産業のスマート化の推進等を合わせて も10%ほど。 *水産庁「令和6年度水産予算の概要」「令和 5年度水産関係補正予算の概要」「令和 6年 度農林水産省所管予算各目明細書」を基に作成 10
 参考資料6:日本の水産予算の全体像 一般社団法人 Chefs for the Blue 漁業経営安定対策関係 資源評価・管理、FRA運営費等 • 沿岸漁業の競争力の強化(漁船リース等) 105億円 • 沖合・遠洋漁業の競争力の強化(もうかる漁業等)87億円 • 養殖業の成長産業化 ・ 捕鯨対策 51億円 、他 水産業の成長産業化の実現 外国漁船対策等 水産庁共通費、他 •水産庁共通費(人件費、庁費等) 84億円 •その他 水産公共事業等 • 水産基盤整備事業 1,030億円 • 農山漁村地域整備交付金(水産庁分)36億円 • 海岸堤防等の対策 36億円 • 漁港の機能増進・海業の振興 、他 水産関係予算(令和6年当初・令和5年補正合計) • 漁業収入安定対策事業 427億円 • 漁業経営セーフティネット構築事業(燃 油対策等) 384億円 • 水産金融総合対策事業 8億円 • 水産資源調査・評価推進事業 52億円 • 新たな資源管理システム構築促進 7億円 • 漁業調査船「蒼鷹丸」の代船建造 49億円 • 内水面・さけ・ます等栽培資源対策 14億円 • 水産研究・教育機構運営費 170億円 • 水産業のスマート化の推進 10億円 食料安全保障強化 への構造転換 漁村の活性化の推進 • 浜の活力再生・成長促進交付金 65億円 • 水産多面的機能の発揮等 54億円 3,170億円 26% 10% 6% 9% 4% 36% 8% • 漁業取締・密漁監視体制の強化等 202億円

Slide 11

Slide 11 text

11
 参考資料7:漁獲高上位魚種の漁獲量の推移 (1960〜2022年)① 一般社団法人 Chefs for the Blue *出所:農林水産省「海面漁業生産統計調査」(漁獲高は農林水産省「令和 3年主要魚種別海面漁業産出額」 2.かつお類 1.ほたてがい 4.さば類 3.さけ類 5.きはだ 6.めばち 7.くろまぐろ 8.まいわし 10.ぶり類 9.しらす 12.その他いか類 11.まあじ

Slide 12

Slide 12 text

12
 14.たこ類 13.するめいか 16.ずわいがに 15.なまこ類 17.その他のえび類 18.びんなが 19.こんぶ類 20.かれい類 22.さんま 21.みなみまぐろ 24.まだら 23.うに類 *出所:農林水産省「海面漁業生産統計調査」(漁獲高は農林水産省「令和 3年主要魚種別海面漁業産出額」 一般社団法人 Chefs for the Blue 参考資料7:漁獲高上位魚種の漁獲量の推移 (1960〜2022年)②

Slide 13

Slide 13 text

13
 26.その他のかに類 25.たい類 28.かたくちいわし 27.その他の貝類 29.さわら類 30.すけとうだら 31.かじき類 32.あわび類 34.ひらめ 33.べにずわいがに 36.いせえび 35.その他の海藻類 *出所:農林水産省「海面漁業生産統計調査」(漁獲高は農林水産省「令和 3年主要魚種別海面漁業産出額」 一般社団法人 Chefs for the Blue 参考資料7:漁獲高上位魚種の漁獲量の推移 (1960〜2022年)③

Slide 14

Slide 14 text

14
 38.うるめいわし 37.たちうお 40.ほっけ 39.あさり類 41.さめ類 42.すずき類 43.さざえ 44.きちじ 46.ふぐ類 45.あまだい類 48.いさき 47.あなご類 *出所:農林水産省「海面漁業生産統計調査」(漁獲高は農林水産省「令和 3年主要魚種別海面漁業産出額」 一般社団法人 Chefs for the Blue 参考資料7:漁獲高上位魚種の漁獲量の推移 (1960〜2022年)④

Slide 15

Slide 15 text

15
 50.あかいか 49.がざみ類 52.むろあじ 51.ます類 53.いかなご 54.にしん 55.はたはた 56.くるまえび 58.にぎす類 57.おきあみ類 60.その他のまぐろ類 59.このしろ 一般社団法人 Chefs for the Blue *出所:農林水産省「海面漁業生産統計調査」(漁獲高は農林水産省「令和 3年主要魚種別海面漁業産出額」 参考資料7:漁獲高上位魚種の漁獲量の推移 (1960〜2022年)⑤

Slide 16

Slide 16 text

一般社団法人 Chefs for the Blue 1 0 0 年 後 の 豊 か な 海 と 食 の た め に