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「スポーツで経済学」から「スポーツによる経済学」へ presented by TJ

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いんとろだくしょん

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 なまえ: TJ (てぃーじぇー)  1995年生まれ(森友哉・松井裕樹世代)  肘は痛めたことないです  本職: 大学院生  西の方にある大学で経済学を研究してます(労働経済学・行動経済学)  今回のテーマも本職から引っ張ってきました  Twitter(@11_tjr)で野球のツイートしたり、noteでなんか書いたり  お股ニキ(@omatacom)さんの著書 『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』 でネットアシスタントを担当、分析や図表の作成をお手伝い

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野球と経済学は親和性が(かなり)高い  Ballgame Economicsの可能性 ストライクゾーンから見る「差別」 学問分野としての ”野球○○学” が生き残っていくためには

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ぼーるげーむえこのみくす!

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景気や株価の予測をするのが経済学の本質ではない! (ミクロ)経済学とは「人がモノを決める」 :意思決定プロセスの理論・実証分析である!

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2点リードの最終回、2アウト1塁でカウント0-2 ➡バッテリーはスライダーを選択  フォーシームやカーブではなくスライダーを選ぶ理由は? ←ここを(数学の技術を使って)定式化

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価値判断の構成要素 選択肢を総合的な 評価指標に変換 (見えない) 最もポイントの高い 選択肢を実行 • ここまで2球ともスライダー • カウントに余裕あり、1塁ラン ナーは返してもOK • 追い込まれているのでストライ クならスイングしそうだ • 今日はカーブの調子が悪い • フォーシーム:30点 • スライダー:60点 • カーブ:5点 ➡スライダーが一番安全! スライダーを 投げる

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「人がどうモノを決めているか」 ➡「選択肢をどうポイント化するか」  ポイント化された価値基準で比較可能な選択肢 :「お金」じゃなくてもOK 野球はこの経済学のフレームワークが使いやすい!  「ポイント」= 得点貢献、勝利貢献  選手が「何を選んだのか」が見やすい  起こったイベントを成績指標で観察できる  (セイバーメトリクス)  経済学の知見を使って野球の分析をやる暇な集団: #Ballgame_Economics 界隈

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あんぱいあでぃすくりみねーしょん

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野球の現場における「差別」の存在を検証 急にテーマが重い… アメリカで盛んな差別と野球の分析  経済学における野球と差別の研究は1974年から存在 今回はその中でも「ストライクゾーン」に注目

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一般化加法モデル(GAM) ➡左右ともにコールの割 合はほぼ同じ  ストライクゾーンの 端っこで確率が連続的 に下がる  完全に公平な球審なら、 どの打者についてもこ の確率でコールがなさ れるはず

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投球の通過位置 + 試合の状況、打者、投手の出身地域 ボールの通過位置以外の情報も評価? ストライクコール

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審判と投手・打者 が同じ地域出身 審判と投手・打者 が異なる地域出身 全く同じ投球でもストライクコール の割合に差が存在するのか?

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 実際のストライクコールの割合に、 投球位置の座標以外のどの要素が絡んでくるのか見たい  ストライクを1,ボールを0とするダミー変数を左辺に、 残りの事前情報を右辺に放り込んでOLS回帰 GAMの予測値 球審と投手・打者の出身地域 異なるとき1, 一緒なら0 を取る変数 その他:カウント、イニング、捕手

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投球データ from Baseball Savant • 投球の通過位置 • 試合の日付・チーム • 投手、打者、シート • 投球の結果 N = 379,289 打者がスイングし た投球 使用しない 選手の属性データ from Baseball Reference • 選手の出身地域 (アメリカ、ラテン、アジア…) 審判の属性データ from MLB official & Baseball Reference 試合のデータ from Retrosheet • 各試合の球審 選手・審判ID from Chadwick Baseball Bureau

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ストライクコールの確率 審判と打者の 出身地域が不一致 審判と打者の出身地 域が一致しないとス トライクが増える :球審のジャッジに バイアスが存在! (Robust Standard error) 係数値 +0.4% (t = 4.196, s.e. = 0.09%)

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今回の分析対象となるサンプルは「見送った投球」のみ ➡スイングするかどうかって適当に決めてるの? 差別の存在を認識しているマイノリティの打者は、少々難し いボールでもスイングするよう行動を変える可能性がある その結果凡打・空振りが増えているなら、これもバイアスの 影響と言える

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 GAMの予測値の係数は99.7%(t = 1010.2883, s.e. = 0.9%) :投球の通過位置がコールの決定的な要素であることは間違いない  キャッチャーの効果 :係数は統計的に有意でない選手が多い(効果がコースに依存するので、もうちょっ と詳しく見る方法を考えた方がよさげ  カウント・イニングの効果  カウントがめちゃくちゃ大きく効いてくる(±3%前後コールの確率が変わる) :投手有利のカウントで打者有利なコール、逆の場合は逆。  イニングも結構影響アリ:終盤に向けてコールの確率が上がる。9回は1.2%程度

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人間の目による判定➡社会的によしとされないバイアスが存在 :何らかの方法で是正されなければいけない MLBでは2015年からビデオ判定が導入  自動化によってストライクコール以外の差別の影響を取り除くアクション  ストライクコールによって打者が被った不利益を得点貢献の尺度で数値化できる ➡成績指標を評価する側のバイアスと、球審のバイアスとが識別できる、すなわち 「差別をなくすために、どこにアプローチすればいいのか」に対するヒント

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すぽあなみーつあかでみあ

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 「差別がありました!」だけでは「野球の経済学」止まり  「スポーツの分析」から「スポーツを用いた学問」へ  Ballgame Economicsは、野球の分析が経済学自体に 与えるフィードバックも大切にしたい  野球だからこそできる分析・野球をきっかけに生まれる仮説  大統領交代の影響 :長期的なデータ取得・蓄積により、広く一般社会のイベントが 人々に与える影響を検証した分析が可能になるかも

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 ふんわりしたまとめ  Sports × Economicsで社会問題に斬り込め  ストライクコールを用いた差別の分析  出身地による分析:どうも差別があるらしい  それによって打者側がどう反応するか? ➡さらに経済学の手法を活かすチャンス  政治情勢との関わりまで見れば、それはもはや 「スポーツの経済学」に止まらない

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Papers  Nardinelli and Simon (1990) Customer Racial Discrimination In The Market For Memorabilia: The Case Of Baseball  Parsons, Sulaeman, Yates and Hemermesh (2011) “Strike Three: Discrimination, Incentives, and Evaluation”  Scully (1974) “Pay and Performance in Major League Baseball”  Tainsky, Mills and Winfee (2012) “Further Examination of Potential Discrimination Among MLB Umpires”

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Data  MLB https://www.mlb.com/  Baseball Savant https://baseballsavant.mlb.com/  Baseball Reference https://www.baseball-reference.com/  Retrosheet https://www.retrosheet.org/  Chadwick Baseball Bureau http://chadwick-bureau.com/