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© SAKURA internet Inc. 論⽂の書き⽅ 主に「メンタル⾯」の対処⽅法を中⼼として 2021/10/01 さくらインターネット研究所 菊地 編

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© SAKURA internet Inc. この資料は 初めて「論⽂」を書こうとしている⼈向けの、 主にメンタル⾯(気持ち)の対処をメインにした、 書き⽅の指南書、です。 (メンタル⾯だけでなく書き⽅全般についても説明しています。) 2

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© SAKURA internet Inc. 著者:菊地 俊介 さくらインターネット研究所 上級研究員

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. 全体の構成 • はじめに(前提の定義) • ストーリーの⽴て⽅、作り⽅ • 執筆テクニック • メンタル⾯での対処⽅法(メインテーマ!) • おわりに 4

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. はじめに (本資料著者の⼼からの願い) • この資料は、論⽂(査読付き論⽂)を書きたい⼈を「励ましたい!」と考えて、論⽂執筆初⼼者が陥る であろう⾟いポイントへの対処法を記録したものです。 • 論⽂を書きたいと思う/思った⼈は多くいるでしょう。しかし書けなくて挫折した⼈もいるでしょう。こ の資料は、まだトライしていない⼈、トライしたけどだめだった⼈向けに「こうするともう少しいいか も」という著者なりの対処法をお伝えするものです。 • 査読付き論⽂は、規定のフォーマットに従って書けていなければ、査読を通すことはできません。この 規定のフォーマットとは、⽂書の書式のことではありません。中⾝の書き⽅が決まっているのです。 • 論⽂の中⾝の書き⽅は、様々な⽂書(最近では動画なども)公開されています。それをしっかり読んで、 そこで求められている事項を満たせば、査読を通せる論⽂を書くことはきっとできるでしょう。 • しかし、筆者が査読付き論⽂を書くときに経験した、最も⼤変だった(⾟かった)ことは、研究の中⾝ や書き⽅⾃体ではなく、諦めずに論⽂を書き上げて提出しようという意思を保ち続けること、つまり モチベーションの維持でした。 • モチベーションの維持は、個⼈の気持ちの持ちよう、というような具合に⽚付けられがちに感じます。 しかし、対処⽅法は少しながらあるように思うのです。 • 本資料が、論⽂を書こうとしているが諦めてしまおうとしている/諦めてしまった過去がある、そういう ⼈向けの励ましになることを期待しています。 5 本資料の内容は、筆者が査読論⽂を書いた際にレビュアーを務めてくれた、さくらインター ネット研究所の松本亮介⽒の指導内容と、さくらインターネット研究所の同僚各位のコメン トを参考にしています。深く感謝いたします。

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. はじめに (前提の定義) • 本資料でいう「論⽂」とは、国際会議やジャーナル論⽂などの「査 読付き論⽂」のことです。 • 本資料で扱う論⽂の書き⽅が対象とする領域は、主にコンピュータ サイエンスです。学会としては情報処理学会や電⼦情報通信学会に なります。違う領域であれば違う書き⽅(流儀)があります。 • 本資料は⽇本語の論⽂を対象としています。英語の論⽂を書く場合 にはまた別の書き⽅、テクニックがあります。 • 論⽂を書こうとしている著者当⼈(ファーストオーサー)の他に、 それを添削指導してくれるレビュアーがいることを前提としていま す。(たった⼀⼈で論⽂を書くのはとても⼤変なことです。) • レビュアーとの間で原稿を共有します。1⾏単位でコメントが付け られる環境が良いでしょう。著者はGithubを利⽤しています。 6

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© SAKURA internet Inc. 論⽂は、決まった書き⽅に従わなければなりません。 あなたが研究した内容に価値があるのか、それを査読者に 判断してもらえるように書く必要があるのです。 論⽂のストーリーをどう作るか

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. ストーリーの⽴て⽅、作り⽅(1/2) 論⽂のストーリーは以下の構造に従って構築します。 はじめに(背景) どういう領域の話なのか、この研究ではなにを⽬指そうとしているのか(⽬的)、それがなぜ重要 なのか(この研究のスコープを定義する)。その上で、この論⽂ストーリー全体の簡潔なまとめ。 既存⼿法(関連研究) 背景で説明したスコープについて、これまでにはどういう取り組みがあったか。 問題点・課題 既存⼿法の問題点。既存⼿法は⽬的を達成するのに何が⾜りないか。どういう点に問題点があるか。 問題点を解消するには、なにが難しいのか(=課題) 提案⼿法 課題を解決するための⾃分の提案⼿法。 評価 提案⼿法の有効性を説明するための評価について。評価の⽬的、意味。 評価の環境。実際に評価をした結果。 この評価によって提案⼿法が有効であることの説明。 まとめ ストーリーを振り返り、⾃⾝の提案の貢献について明らかにする。 今後の検討の予定について書く。 8

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. ストーリーの⽴て⽅、作り⽅(2/2) • ストーリーの⽴て⽅に例外はありません。背景を説明せずに⾃分の 提案⼿法を説明することなどはできません。(⽂章を書くことはで きますが、査読は通りません。) • 書いていく⽅法には幾通りかのやり⽅があります。レビュアーの好 みなどもありますので相談して決めて進めます。以下は⼀例です。 • まず⾻⼦を作ります。⾻⼦とは、論⽂のストーリー構造(前ページ)の各項 ⽬の内容を1⾏程度で書き下したものです。 • ⾻⼦ができたら、概要とはじめにを書きます。 • この段階で⼀度レビューをしてもらいます。 • レビュー結果を反映させながら、既存⼿法以降の全体を通しで書きます。 • 以降レビューを繰り返します。 • (先に通り⼀遍書いてしまってレビューしてもらうやり⽅などもありそうで す。) • 最初から⾼い完成度を⽬指して書こうとしないほうが良いです。概 要やはじめにの執筆段階で詰まります。レビュアーとのやり取りを 通じて議論をしながら完成度を上げていく進め⽅をとったほうがい いでしょう。 9

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. 論⽂の書き⽅ - 参考⽂献 論⽂には、書かなければならない内容や決まった書き⽅ (フォーマット)、評価の観点などがあります。以下は参 考⽂献です。よく読みましょう。 • 電⼦情報通信学会(BPlus)論⽂の書き⽅講座 • https://www.ieice.org/~cs- edit/magazine/ronbun_kouza.html • 情報処理学会 - 研究報告原稿作成について - LaTeXスタ イルファイル • https://www.ipsj.or.jp/journal/submit/style.html • (スタイルファイル内の説明ドキュメントが、論⽂の書き⽅指 南になっています) 10

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© SAKURA internet Inc. 執筆テクニック 実際に論⽂を書くときのあれこれ

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. 執筆テクニック(1/3) • いきなり論⽂を書こうと決意しても、気持ちだけで書けるものではありません。 • 学⽣や研究職(研究を業務とする⽴場)であるなら、年間の執筆スケジュールを 決めましょう。どの会議や論⽂誌をターゲットにし、締切はいつで、いつから執 筆を始めるかを決めます。レビュアー(指導教員)と相談しながら決めましょう。 • 研究会→国内査読付き研究会→国際会議→ジャーナル論⽂、のように⼀般的には投稿のステッ プがあります。これに沿った計画をたてるのが良いでしょう。研究内容を少しづつブラッシュ アップしていけますし、無理のない⽇程をたてることができます。(無理のない⽇程をたてな ければいけません。) • 専業でない⼈でも、当該論⽂を提出するまでの執筆スケジュールを決めましょう。 • 初めて論⽂を書く場合は、⾃分が原稿を書くスピードやレビュアーからの指摘の 速さや指摘の量などがわからないので、どれくらい時間がかかるか読みにくい です。レビュアーから助⾔をもらったりして⾒積もりましょう。2回⽬以降に なってくると前回までの経験を踏まえて調整していけます。 • この計画がないまま思い⽴って直前になって論⽂を書こうとすると、かなり厳 しい道になります。 • レビュアーがいない、論⽂執筆期間が取れないなどの場合は、環境を整備しま しょう。主業務の⽚⼿間に論⽂を執筆するのは厳しい道です。 • 趣味の論⽂書き(⼀⼈でコツコツすすめる)は、進歩の早いコンピュータサイエンス領域では かなり⾟いと考えたほうが良いでしょう。 12 論⽂執筆のための環境整備

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. 執筆テクニック(2/3) • ⾃分で抱え込まないで、レビュアーの助けを借り ましょう。 • 「ストーリーをきちんと書かないと、あるいはレビュ アーの指摘事項を完璧に満たさないと、次のレビューを 依頼できない」と抱え込むと進まなくなります。 • 逆に、何度も同じことをレビュアーに指摘される場合は、 主執筆者として考えるべきことをまだ⼗分に考えられて いないということです。 • そのため、レビュアーに依頼する⽬安を意識しておきま しょう。 • レビュアーとの信頼関係の構築が重要です。(こ れについては本資料メンタル⾯も参照のこと) 13 序盤・中盤での執筆の進め⽅

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. 執筆テクニック(3/3) • 最後の追い込みは⻑くても2⽇くらい(48h)と考えましょう。 • 残り時間でどれくらいの分量を修正できるのか、の⽬安を持ってお きましょう。 • 最後に執筆に集中していると時間はあっという間に過ぎます。全然直していな いうちに、残り時間が〜、ということになります(必ず)。 • この段階では、優先度の⾼いところ(重要なところ)から直します。 • エディトリアルな修正は先に対処します。 • フォーマットの間違い、字句の間違いなどが致命的になる場合もあります。こ の段階では全体は⼀応書けているはずなので、細かい表現を直すより致命的な ミスを修正しておくべきです。 • 締め切り直前は投稿サイトが混雑して重くなる場合もあるので、最 終稿は早めに(締め切り30分前くらい)投稿しましょう。 • 投稿が終了したら、編集したファイルをきちんと保存しておきま しょう。 14 終盤の執筆の進め⽅

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© SAKURA internet Inc. 論⽂執筆時のメンタル対処 論⽂執筆時、(本資料筆者にとって)⼀番⾟かったのは、 もう論⽂提出するのを諦めよう、という気持ちから再度 ⼼を奮い⽴たせて執筆を続けることでした。

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. メンタル⾯での対処⽅法(1/4) 書いていくうちに、以下のように感じられて執筆を諦めようと思ってし まうことがよくあります。でも諦めずに書きましょう!対処⽅法はあり ます。 ⾃分のやっていることは⾃明であって、なにも貢献がない、と感じら れることがよくある。 • →論⽂の書き⽅に従ってストーリーを整理するだけでも意味はあり、貢献は何 らか必ずひねり出せるので、そう信じて書く。 • 当初は「提案⽅式の有効性を評価で⽰そう」と考えていたが、書いているうちに「⾃分がやって いることは実は⾃明なことでしかなかったのでは?」という気分になってくる。しかしまずは課 題を整理できるだけでもよく、課題を理解するために定量的に評価できるようにした、というだ けでも価値があるかもしれない。何かは⾔えるので、諦めずに書く。 • →⼩さな差分を⾒出してそこに貢献を⾒出して書く、そしてその修⾏をしてい るんだ、という気持ちで書く。 • 課題を⾒つけ出してそれをきちんと書いていくこと⾃体が研究そのもの。それが研究者の仕事。 16 論⽂を仕上げる、という気持ちを維持する戦い

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. メンタル⾯での対処⽅法(2/4) スコープ定義や課題定義においてロジックの抜けを感じて、このストー リーではだめだ、と感じられることがよくある。 • →それでも良い!ボロボロだと思ってもとりあえず最後まで書く。そして今後の 検討⽅針のところに、抜けていると思う内容について書いておく。 • →まだ時間があるようなら、⼀旦書いてからストーリーの補強に取り掛かる。 • 完全なストーリーを構築できなければだめ、ではなく、とりあえず(とにかく)書く事が重要。抜け があっても抜けていると明⽰されているのならそれはそれで価値がある。 • ロジックの抜けを明らかにしそれを埋めていく作業こそが研究そのもの。それが研究者の仕事。 • 現実的には関連研究の全てを網羅することはできない。既存研究間の⽐較は本来理想と考える内容よ り少なくなってしまっても仕⽅がないとして、その旨は今後の検討のところに書いておく。 • コンピュータサイエンスの領域では、このあたりは結構厳しい。そう知っているだけでも慰めになる。 17 論⽂を仕上げる、という気持ちを維持する戦い

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. メンタル⾯での対処⽅法(3/4) まだ全然検討が⾜りていなくて、書いても書いても深まらない、最終 的な結論にたどり着けない、と感じられることがよくある。 • →時間との兼ね合いで割り切る(あきらめる)しかない。検討が⾜りていない ことを今後の検討⽅針に書いておく。 • はっきりさせられていないという事実が明確になった、今後はっきりさせなければいけないこと が明確になった、そのこと⾃体に価値がある。 締切が迫ってくると、焦燥感にかられて(特に理由がなくても)諦め の気持ちになってしまうことがよくある。 • →出さないという選択肢はない。クオリティを下げてでも必ず出す。 • 出してリジェクトだったとしてもそれは⼩さな業績。積み重ねることに意味がある。出さなけれ ば0である。 18 論⽂を仕上げる、という気持ちを維持する戦い

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© SAKURA internet Inc. © SAKURA internet Inc. メンタル⾯での対処⽅法(4/4) レビューコメントが⾃分の能⼒不⾜を指摘されているように感じられ て、⾟く悲しい気持ちになってしまうことがある。 • →レビュアーは、論⽂の内容をもっと良くするためにコメントしているので あって、あなたができないことを責めているのではない。そう信じる! レビュアーの指摘事項が多すぎて/難しくて、⾃分には対応できない と絶望的な気分になってしまうことがある。 • →残り時間があるうちはできるだけ対応する。そしてどうしてももう書けない、 詰まった状態になったらレビュアーに応答する。レビュアーは怒らない。 • →残り時間が少なくもう全部には対応できない、という状態になったら、重要 度順の対応に切り替える。 レビュアーとの信頼関係が構築されていることが極めて重要です。⽇常的によく話をして お互いの⼈となりや考え⽅を共有しておけば、レビューのやり取りの中で相⼿の意図を 攻撃的に解釈しなくて済みます。 もう⼀つ、論⽂を書いているあなたは優秀です!今執筆中の論⽂を書くのには苦労してい るかもしれないが、それはあなたの能⼒に不⾜があるからではありません。その状態に たどり着いている時点であなたには⼗分な能⼒があります。⾃分に⾃信を持ちましょ う!そうして今この時は耐えるのです。これこそが研究で、皆この道を通ったのです。 論⽂を仕上げる、という気持ちを維持する戦い 19

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© SAKURA internet Inc. おわりに

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© SAKURA internet Inc. おわりに (再び本資料著者からの戯⾔) • 論⽂は、決まった書き⽅に従わなければなりません。あなたが研究 した内容に価値があるのか、それを査読者に判断してもらえるよう に書く必要があるのです。 • 論⽂を書くためには準備が必要です。レビュアーと環境を⽤意しま しょう。 • 論⽂を書くときに最もエネルギーを使うのは、⾃分の気持ちを維持 し、諦めずに書ききることです。戦いと⾔ってもいいでしょう。 • 当初思っていたような内容にならなくても、もうダメだと思う内 容でも、ゼロよりはずっと良いのです。 • つらい気持ちになるのは理解できることです。あなたは頑張った! • きっとあなたは論⽂を書けます。応援します。 21