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東京北医療センター 総合診療科 南郷栄秀 診療ガイドライン作成における スコープとCQ作成 ~Analytic frameworkとは

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 総合診療医(病院総合診療医)  EBMer,EBM-Tokyo代表,pES club主宰  市中教育病院教育専任,東京医科歯科大学医学部臨床教授,東京医科大学臨床 研修地域医療指導教授  日本プライマリ・ケア連合学会理事・認定医,日本内科学会総合内科専門医  診療ガイドライン方法論者,日本医療機能評価機構 診療ガイドライン作成支援専門 部会部員,コクラン日本支部監事,各種診療ガイドライン作成委員・外部評価委員  従事した研究:糖尿病,肺炎,脳梗塞,医学教育(PBL),診療ガイドライン  厚生労働省 医師国家試験委員  研究資金:第23回地域保健医療に関する研究助成賞(地域医療振興協会)  UpToDate®の日本語タイトル監訳に対して,2011~2013年にWolters Kluwer Health 社より報酬を得ていました  羊土社Gノート編集ボード  公演に関連しないものも含めて、弁当やボールペンを含めたCOI関係にある製薬企業 は一切ありません 利益相反COIの開示 演者:南郷栄秀 学術的COI 経済的COI

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ね ら い • 診療ガイドライン作成の最初のステップである スコープとCQの作成について理解する • 診療ガイドラインの最終形をイメージして スコープを作成できる • CQ → KQ → SR → 推 奨 の 流 れ を 理 解 し , Analytic frameworkを活用できる

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システマティックレビュー作成 P I C O アウトカム アウトカム アウトカム アウトカム 重⼤ 重要 重⼤ Evidence Profile 全体的なエビデンスの確実性の評価 (overall quality of evidence across outcomes) 重⼤(critical) なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中で 最も低いものとする A 「⾼」/B 「中」/C 「低」/D 「⾮常に低」 RCTは「⾼」から、観察研究は「低」から開始し,エビデンスの確実性を評価する 1.研究の限界(risk of bias) 2.⾮⼀貫性(inconsistency) 3.⾮直接性(indirectness) 4.不精確さ(imprecision) 5.出版バイアス(publication bias) グレードを下げる5要因 グレードを上げる3要因 1.⼤きな効果(large magnitude) 2.⽤量反応(dose response gradient) 3.交絡因⼦(confounders) アウトカムごとに集めた研究の risk of biasを評価 効果推定値の⼤きさとアウトカムごとのエビデンスの確実性 ⾼(High)/中(Moderate)/低(Low)/⾮常に低(Very low) 診療ガイドライン完成 アウトカムごとのエビデンス(body of evidence)の質を評価 Risk of bias summary Risk of bias graph 各アウトカムに 関する効果推定値 と結果の要約 =メタアナリシス (Forest plot作成) 推奨︓抗凝固療法の適応がない癌患者に対して、 ⾮経⼝的抗凝固療法を⾏うことを提案する (推奨の強さ「弱い推奨」/エビデンスの確実 性「中」) Summary of Findings(SoF) 様々な介⼊に 対する推奨を 盛り込む 推奨作成 SRの 結果の 評価 1.ランダム割り付け順番の⽣成 2.割り付けの隠蔽化 3.研究参加者と治療提供者の盲検化 4.アウトカム評価者の盲検化 5.不完全なアウトカムデータ 6.選択されたアウトカムの報告 7.その他のバイアス Evidence-to-Decisionテーブル 診療ガイドラインパネル会議 あらゆるステークホルダーが参加する 推奨の⽅向と強さの決定 ・・・しないことを推奨する ・・・しないことを提案する ・・・することを提案する ・・・することを推奨する Clinical Question(CQ) (Analytic Frameworks) 推奨⽂の決定 COI申告 必要に応じて投票を⾏う パネル会議前に1回⽬投票 パネル会議でディスカッ ション 必要に応じてもう1回投票 推奨の作成:以下を考慮して判断 エビデンスの質(確実性) 利益と害のバランス 価値観と意向 資源の利⽤(コスト・実現可能性) 推奨の⽅向︓ する/しない 推奨の強さ︓ 強い/弱い(条件付き)

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No content

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診療ガイドラインパネル会議パネリストが 集まってパネル会議を行う 専門医 総合医 患者代表 薬剤師 福祉担当者 行政 法律家 CPG専門家 看護師 スコープ(=全体像)を作成し 臨床現場で重要なClinical Question(CQ)を あらゆるステークホルダーが集まって抽出する 必要に応じてAnalytic Frameworksを作成

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診療ガイドラインのスコープは そのまま出版時の原稿になる

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スコープの内容 1.タイトル 2.これまでの改訂状況 3.目的 4.診療ガイドラインの利用対象 (想定される利用者,場所) 5.利用に当たっての注意 6.対象となる患者 7.既存の診療ガイドラインとその 推奨 8.重要臨床課題 9.CQ(Clinical Question)一覧 10.作成スケジュール 11.診療ガイドライン利用促進の 工夫 12.推奨の適用モニタリングの ための指標 13.診療ガイドライン作成 グループの構成 1)診療ガイドライン統括 委員会 2 ) シ ス テ マ テ ィ ッ ク レビュー委員 3)診療ガイドラインパネル 会議パネリスト 4)診療ガイドライン作成 方法専門家 5)外部評価委員 14.透明性の確保 15.資金および支援組織 16.利益相反 17.改訂予定

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P I C O アウトカム アウトカム アウトカム アウトカム 重大 重要 重大 スコープを決めたら、SRする Clinical Question(CQ) (Analytic Frameworks)

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CQをPICOで 定式化する P: Patient I: Intervention C: Comparison O: Outcome

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is Outcome-based

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重要臨床課題とは クリニカルクエスチョンの土台となる 臨床上の課題 たとえば… 長年の慣行によって複数の治療方法が混在し、患者 アウトカムに無視できない格差が存在する課題 新しい治療方法が登場してアウトカムの大きな改善が 見込まれる課題

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クリニカルクエスチョンとは 重要臨床課題に基づいて、 その構成要素を明確に抽出したもの 疑問文の形式で表現される 重要臨床課題とCQの関係性 重要臨床課題 ① 重要臨床課題 ② CQ ① CQ ② CQ ③ ※必ずしも重要臨床課題とCQ が1対1の対応とは限らない 1つの重要臨床課題から複数の CQが作成されることもある

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重要臨床課題からCQを作成する手順 (1) 重要臨床課題からCQの構成要素(PICO)を抽出する (2) 上で抽出したアウトカムの相対的な重要性を評価する (3) 抽出した構成要素を用いてCQを疑問文で表現する この後に行うシステマティックレビューや推奨決定 のためにテンプレートにまとめておく

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重要臨床課題の数を絞ってください! システマティックレビューを行って • 集めた論文を評価して • メタアナリシスして効果推定値を計算して • 利益と害のバランス,患者の価値観,エビデンスの 確実性、コストやリソースを見積もって パネル会議でディスカッションして推奨文を作成する CQを設定したら… と膨大な作業を行わないといけません

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CQ作成にはパネル会議が必要 専門医 総合医 患者代表 薬剤師 福祉担当者 行政 法律家 CPG専門家 看護師 何が重要臨床課題か、それを解決する ために必要なCQが何かを決めるのは、 専門家だけでなく、あ ら ゆ る ス テ ー ク ホルダーが意見を出して決めるべき

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CQは臨床現場で選択に迷う ようなものを設定する 例えば糖尿病の診療ガイドラインなら… CQ1:健常人に対して糖尿病のスクリー ニングを行うべきか? CQ2:どの検査項目を指標として治療 するべきか? CQ3:糖尿病治療の第一選択薬は何に するべきか?

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好ましくないCQ例 CQ4:糖尿病とはどんな病気か? CQ5:糖尿病の原因は何か? CQ6:糖尿病の頻度は? 判断を問うような疑問ではない (=Background question)

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好ましくないCQ例 CQ7:肺炎を診断するために胸部X線単純 写真を撮るべきですか? CQ8:関節脱臼したら整復するべきですか? CQ9:スカイダイビングを行うときにパラシュート を付けるべきですか? SRを行うまでもなく自明

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推奨が求められる臨床課題 医療技術 エ ビ デ ン ス の 量 古い← →新しい

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医療技術 古い← →新しい 推奨が求められる臨床課題 エ ビ デ ン ス の 量 古い医療技術は 効果が明らかなので 質の高い研究が行われなかった →推奨を作る必要がない

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医療技術 古い← →新しい 推奨が求められる臨床課題 エ ビ デ ン ス の 量 新しい医療技術は まだ研究が行われていない →推奨を作りにくい

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医療技術 古い← →新しい 推奨が求められる臨床課題 エ ビ デ ン ス の 量 研究が多く行われている 医療技術は効果が不定 →この部分の推奨を作る

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推奨が求められる臨床課題 医療技術 エ ビ デ ン ス の 量 古い← →新しい 時代とともに新しい医療技術へエビデンスがシフトする

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CQをPICOで定式化する 検索しやすいように,重要臨床課題からCQの 構成要素をPICOの形で定式化する P(patient):対象となる患者集団 I(Intervention):治療や検査などの介入 C(Comparison):比較となる介入 O(Outcome):介入による影響 Outcomeは患者にとって重要なものを7つまで

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先ほどの糖尿病のCQの場合 P(Patient):新規発症糖尿病患者 I(Intervention):血糖を厳格にコントロール C(Comparison):緩やかにコントロール O(Outcome):? Outcomeは最終的に患者にとって重要なもの を7つまでに絞る 新規発症糖尿病患者の血糖コントロールは どのようにするのがいいのか・・・?

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アウトカムの重要性 重 ⼤ 重 要 重 要 で な い 9 8 7 6 5 4 3 2 1 アウトカム の重要性は 相 対 的 に 決める 検査値などは患者が 効果を実感できない ので「重要でない」 に分類される 死亡 ⼼筋梗塞,脳卒中 低⾎糖,乳酸アシドーシス 網膜症,腎症,下肢切断 糖尿病関連⼊院 HbA1c 体重 SRしない SRする

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アウトカムの重要性 重 ⼤ 重 要 重 要 で な い 9 8 7 6 5 4 3 2 1 アウトカム の重要性は 相 対 的 に 決める 検査値などは患者が 効果を実感できない ので「重要でない」 に分類される 死亡 ⼼筋梗塞,脳卒中 低⾎糖,乳酸アシドーシス 網膜症,腎症,下肢切断 糖尿病関連⼊院 HbA1c 体重 SRしない SRする 原則として,推奨の作成の 際に考慮するのは 重大なアウトカムのみである

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CQの文を決定 新規発症糖尿病患者において,血糖を 厳格にコントロールするのと緩やかにコン トロールするのはどちらが推奨されるか? 原則として… ・『?』で終わる疑問文形式とする ・I/Cは列挙する ・OはCQの文に含めない

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CQが確定したら… PICOをもとに システマティックレビューへと進む

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Clinical Question と 推奨 との関係

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世界の診療ガイドラインでの「CQと推奨」の関係 JRC蘇生ガイドライン2015: 本邦に多い,CQと推奨が1対1関係のQ&A形式

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世界の診療ガイドラインでの「CQと推奨」の関係 AHA 診療ガイドライン2015: CQが明記されておらず、題名としての項目のみ AHA 診療ガイドライン2015の日本語版

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世界の診療ガイドラインでの「CQと推奨」の関係 AHA診療ガイドライン2015: CQが明記されておらず, 題名としての項目のみ JRC蘇生ガイドライン2015: 本邦に多い,CQと推奨が 1対1関係のQ&A形式 どちらも,国際蘇生連絡委員会(ILCOR)による2015 Consensus on Science with Treatment Recommendations (CoSTR)という国際的にGRADEアプローチによる エビデンス集から作成している

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世界の診療ガイドラインでの「CQと推奨」の関係 海外では,ほとんどがCQが明記されておらず, 題名としての項目のみ その理由は? 骨粗鬆症のスクリーニングの 診療ガイドラインの具体例で説明 AHA診療ガイドライン2015: CQ が 明 記 さ れ て お ら ず , 題名としての項目のみ

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骨粗鬆症のスクリーニングの診療ガイドライン 「包括的な疑問」が一つのみという 診療ガイドラインです Key Question(KQ)1:リスク因子評価または 骨測定検査により,骨折に関連する疾患や 死亡が減少するか この疑問を解決するために,どのように診療 ガイドラインを作成したか?

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ステップ1:Analytic frameworkを作成し,複数の疑問に分けます ●KQ1:包括的疑問 「リスク因子評価または骨測定検査により,骨折に関連する疾患や死亡が減少するか」 ●KQ2:その患者は骨折に関連する疾患や死亡に関して「低リスク」か,それとも「高リス ク」か ●KQ3:患者が骨折に関連する疾患と死亡の「高リスク」患者の場合,骨測定検査結果は 正常か,それとも異常か ●KQ4:患者が骨折に関連する疾患と死亡の「高リスク」の場合,骨測定検査に伴う害は 利益を上回るか ●KQ5:患者の骨測定検査結果が異常の場合,治療によって骨折が減少するか ●KQ6:患者の骨測定結果が異常の場合,治療の害は利益を上回るか

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ステップ2:複数の疑問(KQ)に対して,複数のシステマティック レビューを行います たとえば、KQ5に対しては、5つのSRを行なっている。 ●KQ5:患者の骨測定検査結果が異常の場合,治療によって骨折が減少するか SR1:女性のBisphosphonates: 15 研究を集めている SR2:女性のParathyroid hormone: 1研究を集めている SR3:女性のRaloxifene: 2研究を集めている SR4:女性のEstrogen: 2研究を集めている SR5:男性のParathyroid : 1研究を集めている ステップ3:複数の疑問(KQ)をまとめて,包括的な疑問の推奨文 をまとめます 得られたエビデンスより,男女 で分けて推奨を作成 しかも,女性は65歳以上との 条件を付けている

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したがって,CQと推奨というQ&A形式では作りにくい 骨粗鬆症のスクリーニングの診療ガイドライン 包括的な疑問1つ→KQ6個→SR10個→推奨2つのみ AHA 診療ガイドライン2015:例Recognition of Arrest タイトル1つ→SR2個→推奨4つ JRC蘇生ガイドライン2015: 本邦に多いQ&A形式に,後から編集 している

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海外でよくある包括的な疑問→KQ→SR→ 推奨と数が変わる,題名としての項目のみ で,推奨が並ぶ形式 従来型のCQと推奨が1対1関係のQ&A 形式 どちらの形式にするかを考える

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治療の場合 リスクの ある患者 疾患の 早期発見 スクリー ニング ③ 中間 アウトカム 治療 ④ 関連 ⑥ 死亡率低下 合併症予防 ① ⑤ 治療の害 診断の害 ⑦ ⑧ ② Analytic Framework Clinical QuestionからKey Questionに分解する ①この疾患のスクリーニングが死亡や合併症を減らすか. ②ハイリスクのグループを同定することができるか. ③スクリーニング検査は正確か(すなわち,感度や特異度). ④早期発見されたりスクリーニングで発見されたりするときに,行える治療が中間アウトカムを変えるか. ⑤早期発見されたりスクリーニングで発見されたりするときに,行える治療が死亡や合併症を変えるか. ⑥中間アウトカムと患者のアウトカムの間の関連はどれくらい強いか. ⑦スクリーニングの害は何か. ⑧治療の害は何か. 8種類のKey Question

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治療の場合 30歳以上 男女 糖尿病 早期発見 スクリー ニング ③ 血糖改善 治療 ④ 関連 ⑥ 死亡率低下 合併症予防 ① ⑤ 低血糖 診断の害 ⑦ ⑧ ② Analytic Framework CQ:健診で血糖検査を行うべきか ①糖尿病のスクリーニングが死亡や合併症を減らすか. ②ハイリスクのグループを同定することができるか. ③糖尿病のスクリーニング検査は正確か(すなわち,感度や特異度). ④糖尿病が早期発見されたら,行える治療が血糖を改善するか. ⑤糖尿病が早期発見されたら,行える治療が死亡や合併症を変えるか. ⑥血糖の改善と患者のアウトカムの間の関連はどれくらい強いか. ⑦スクリーニングの害は何か. ⑧治療の害は何か. 8種類のKey Question

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まとめ • 最初に完成形を想像しながらスコープを 作る • 重要臨床課題からCQを作る • Analytic Frameworkで分解する • 包括的な疑問→KQ→SR→推奨の流れ を理解する