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TMI夏学期講義⾦曜2限 知識社会マネジメント Innovation management in the knowledge society 7⽉1⽇ 第12回 システム思考とシステム原型 佐々木一 Hajime Sasaki Ph.D. 特任准教授 東京大学 未来ビジョン研究センター

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 事前準備と授業内ワークのアナウンス •筆記⽤具と⽩紙(できればA4⽤紙)を⽤意しておいて ください。 •授業内ワークの提出があります(課題とは別です) •授業中に説明する3つの練習問題を⼿元で実施し、そ の場で写真もしくはスキャンしてitc-lmsへ提出してく ださい。(模範解答と⼀致している必要はなく、正誤は問いません。) •講義資料を予めストアしてあります( ITC-LMSおよびgoogle drive) •練習問題を解く際に参考にしてください。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB SDG1 • 貿易制限の撤廃により、短期的に政策の範囲を制 限し、貧困層向け政策の恩恵が制限される可能性 がある。 SDG3 • ⼟壌や⽔質の汚染を増加、有害化学物質による死 亡や疾病の増加。 • 低栄養でカロリーに焦点を当てた農業の⽣産性増 は、(⾮伝染性)疾患を促しうる。 • 農業の拡⼤による森林破壊。⽔を媒介とする病気 の発⽣増加、マラリアなどの伝染性疾患の増加。 SDG7 • 従来型の集中的な農業が、安全な飲料⽔、適切な 衛⽣設備、⽔不⾜対応を制約。場合によっては逆 効果に。 • 持続不可能な農業による汚染が、⽔質汚染の削減 や⽔と関連する⽣態系の保護・回復を制約。 SDG13 • ⾷糧の安全保障が、バイオエネルギー⽣産を犠牲 に、⽔と⼟地の利⽤を制約。 SDG15 • ⽣産性のみに焦点を当てた持続不可能な農業が、 気候変動を増加させる。 Goal2と他のゴールへのトレードオフ Griggs, D. J., Nilsson, M., Stevance, A., & McCollum, D. (2017). A guide to SDG interactions: from science to implementation. International Council for Science, Paris.

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB • 農業⽣産の増加による、新たな病原体の⽣息地、 動物と⼈との間での疾病伝播のリスク、⽣態系の 破壊、病原体の抗菌抵抗性や殺⾍剤抵抗性の促進、 飲料⽔の汚染など。 • 危険な化学物質にさらされた農作物からの健康影 響。 Goal3と他のゴールへのトレードオフ • 経済成⻑による、⽔・⼤気・⼟壌汚染や⽣態系の 変化、環境への悪影響。伝染病や病気、死亡のリ スク増加。 • 国が気候変動対策政策を組み込む際に⽣じるコス トによる影響。 • 排出量の削減に関わる政策が、産業によっては雇 ⽤の喪失につながり、経済に悪影響を与え、間接 的に医療に影響を与える可能性がある。 Griggs, D. J., Nilsson, M., Stevance, A., & McCollum, D. (2017). A guide to SDG interactions: from science to implementation. International Council for Science, Paris.

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB • 燃料価格の上昇から貧困層を保護する政策がない限り、 再⽣可能エネルギーや脱化⽯燃料化が、ゴール1の達成 を制約しうる。 • 世界的に⼤規模なエネルギー作物の⽣産が⾏われると ⾷糧価格が上昇し、貧困層の飢餓を終わらせることが できなくなる。 • 「アクティブ・トラベル」(徒歩や⾃転⾞)による省 エネ対策は、応じたインフラが⼗分でない限り、交通 事故による死傷者を増加させ得る。 • 安全な淡⽔供給を満たすための選択肢が増えると、選 択肢にエネルギー集約度の⾼いもの(例︓海⽔淡⽔ 化)が含まれた場合、再⽣可能エネルギーの展開に制 約。 • 再⽣可能エネルギーや脱炭素化が各国の経済成⻑を制 約する可能性。 • 化⽯燃料(⽯炭とタールサンド)の段階的廃⽌が、鉱 業地域での永久的な雇⽤喪失につながる。 Goal7と他のゴールへのトレードオフ Griggs, D. J., Nilsson, M., Stevance, A., & McCollum, D. (2017). A guide to SDG interactions: from science to implementation. International Council for Science, Paris.

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 従前の課題解決の⽅法 SDGsの課題解決の⽅法 SDGSの本質は、 17個別のゴール達成ではなく、 相互のつながりをシステムとして捉えた上での⾏動変容。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 現実・ 課題 問題に対する姿勢 状態1:傍観者(批評家) 自分には関係ないことにしている 状態2:課題解決型 状態3:主体者(私も起点) 問題を分析し、解決する ただし、外側から対処する 問題を作り出している 可能性があるところに立つ 問題をシステムと捉え全体を俯瞰し、 自分もその問題に加担している(一部 を担っている)という所に立ち、自分の あり方(Being)からその問題自体に変 化を与える 問題を分析し解決する。ただし、問題 は絡み合って益々高度化し、次から 次へと新たな課題が発生する 飲み屋で会社の悪口を言ったり 、うちもトップが変わってたらいい のだけどね、と言う状態 ■旨み: 責任を取らなくていい、安心、居心地が いい、傷つかなくていい ■代償: ・現状は何も変わらない ・今の環境を生き続ける ・成長しない ■旨み: 達成感、成長・能力が上がる、頼られる、 承認される、自己効力感、自己価値の証 明 ■代償: ・分断が起こる可能性がある ・どこかむなしさを感じる ・孤軍奮闘、自分だけが頑張る ・責任ばかり上がる セルフ リーダーシップ 現実・ 課題 現実・ 課題

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 出展︓SDGs市⺠社会ネットワーク MDGsとSDGsの関係 Copyright © 2019 Imacocollabo. All rights reserved.

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 分析的思考 ︓直線的/論理的/個別最適 システム思考 ︓循環的/統合的/全体最適 中途⼊社 がやめる 中途社員の フォローを⼿厚くする 従来社員の 不公平感増⼤ 従来社員 の退職増 社員の⼈間関係が 希薄化する 「原因と結果が直線的」 「原因と結果が循環的 (全体でひとつのシステム)」 社員の⼈間関係が 希薄化する 中途⼊社 がやめる ここしか⾒えていない

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 従来思考とシステム思考 分析的思考 システム思考 因果関係は直接的かつ明⽩である。 因果関係は間接的で、明⽩ではない。 問題は組織内外に居る他者のせいであり、 変わるべきはその他者である。 私達は無意識のうちに⾃分たち⾃⾝の問題 を⽣み出しており、⾃分たちの挙動を変え ることで問題解決のための⼿綱を握ったり、 影響を及ぼしたりすることが出来る。 短期的な成功を得るために設計された施策 は、⻑期的な成功も約束する。 応急処置はたいてい予期せぬ結果をもたら す。⻑期的には何も変わらないか、事態が 悪化する。 全体を最適化するためには、部分を最適化 しなければならない。 全体を最適化するためには、部分と部分の 関係を改善しなければならない。 多くの個別の取り組みに、同時並⾏して、 積極果敢な対処をしなければならない。 いくつかの、変化への鍵となる協働的な取 り組みを⻑期に渡って持続させることで、 システム全体の⼤きな変化を⽣み出せる。 Source: Innovation Associates Organizational Learning

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB Donella H. Meadows, 1972「成⻑の限界」

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム論経緯 • 有機体説(1940’s) • ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィ(Ludwig von Bertalanffy)理論⽣物学者 • 機械論では⽣命の本質をつかめない→⽣体をシステムとして考察する • ⼈間組織や社会システムなどの構造と同型「⼀般システム論」 • システムダイナミクス(1950’s) • ジェイ・W・フォレスター(MITスローン教授︓⾃動制御,コンピュータサイエンス分野) • 企業のオペレーション上の意思決定が構造問題にどう関係しているかを理解する⽅法。 • 適⽤範囲︓企業・産業分析、エンジニアリング、医学、⼼理学、経済学 • ローマクラブが、⼈⼝爆発などの“⼈類の難問”に懸念を表明し、その問題解明⼿段としてフォ レスターの⼿法に注⽬。 • ベルンの会合に招待。︓⾃⾝の⼿法が⼈類の難問に適⽤可能であると答える。 • 帰りの⾶⾏機の中で⼈⼝-経済-環境ダイナミックスに関するモデルの草案。 • システムズシンキング(システム思考)(1970’s) • ピーター・センゲ(MITスローン組織学習センター責任者) • ⼀般の⼈にわかりやすい、因果ループ図(Causal-Loop Diagram)を提案 • システム・ダイナミクスの定性的⽅法 • 学習する組織

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システムにおける氷⼭ 出来事 (創られる現実) 系時パターン (過去の傾向性) システム構造 (因果関係) 何が起き たのか︖ これまで何 が起こって きたのか︖ なぜそれが起 きたのか︖ 問い 焦点 ⾏動/反応 • 反応 • ⽕消し • 予期する • 予測する 仕組みを • 変える • 創造する レバレッジの強さ システムは出来事、パターン、構造のレベルで捉えられる 。 最も持続的な変化をもたらすのは、出来事やパターンの レベルの変化ではなく、構造レベルの変化で ある。 出典︓バージニア・アンダーソン/ローレン・ジョンソン(2001)『システム・シンキング』 例)⽕事への対処 できるだけ早く消⽕する 過去の⽕事の傾向を調べて、 次の⽕事がどこで起こりそ うか を予測する パターンの原因を調べて、⽕ 事 の発⽣を未然防⽌したり、 被害 を少なくしたりする (防⽕設備の 改善、建築材 料の⾒直し、⼈間 の⾏動⼼ 理に基づいた防⽌策 など)

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム思考のツール︓因果ループ図 ⼈⼝ + + 死亡数 + ー R 出⽣ループ B 死亡ループ 出⽣数 同じ⽅向に変化する変数なら「+」を付記 反対⽅向に変化する変数なら「-」を付記 閉じたループ内の「-」が偶数ならReinforced loop︓「R」を付記、 奇数ならBalanced loop︓「B」を付記

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB ループ図の基本ルール • 変数(名詞)AやBにあたるもの。︓その問題のある状況において重要な変数 「発⽣したこと」問題の症状、需要、ニーズ、副作⽤、業績、成⻑、成功、結果など 「実施すること」応急措置、根本的解決策、努⼒、⾏動、投資、資源配分など 「⽬標や制約」業績⽬標、品質⽬標、制約、限界など 「ギャップや違い」⽬標と現状のギャップ、相⼿と⾃分の⽴場の違いなど 「保有しているもの」資源や能⼒など Aが変化するとBも同じ⽅向に 変化する + ー Aが変化するとBは逆の⽅向に 変化する A B A B Aが変化するとBは遅れを⽣じて変化する (逆⽅向にも適⽤) A B

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 基盤1︓⾃⼰強化ループ(Reinforce) 睡眠時間 疲れ 仕事の能率 仕事時間 • 好循環や悪循環のストーリ基盤。 • 指数関数的な成⻑(衰退)を及ぼす • ループ中の (-)の因果は偶数。 • ループの中にRと記⼊しておくとわかりやすい。 R 疲労と能率 ループ 例 - - - - 成果 やる気 + + R 成果ループ

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 基盤2︓バランス型ループ(Balance) • 矯正・反転のストーリ基盤。 • ⾃⼰調整・抑制を及ぼす。 • ループ中の (-)の因果は奇数。 • ループの中にBと記⼊しておくとわかりやすい。 例 死亡数 鶏の数 ー + B 鶏ループ ノルマへの不⾜分 ノルマ達成 の⾒通し 販売努⼒ 売上実績 B ノルマループ - - + -

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システムループ図のつくりかた ̍ɽม਺ΛϦετΞοϓ͢Δɻʢม਺நग़ʣ ̎ɽϦετΞοϓͨͦ͠ΕͧΕͷม਺ؒͰɺҼՌؔ܎͕͋Δ͔Ͳ͏͔Λௐ΂ΔɻʢҼՌநग़ʣ 出⽣数→⼈⼝︓+ ⼈⼝→死亡数︓+ 死亡数→⼈⼝︓− ̏ɽҼՌؔ܎͕͋Δม਺ͷؒΛ໼ҹͰͭͳ͙ɻ࿦ཧʹඈ༂͕͋Γͦ͏ͳΒɺͦͷؒʹద੾ͳม਺ Λ෇͚Ճ͑Δɻ ̐ɽϧʔϓ͕Ͱ͖Ε͹ɺࣗݾڧԽܕϧʔϓ͔όϥϯεܕϧʔϓ͔൑அͯ͠ɺه߸ 3 # Λهೖɻ ʢ༨ྗ͕͋Ε͹ϧʔϓਤ͕ࣝผͰ͖ΔΑ͏ͳ໊લΛ͚ͭΔɻʣ ʮʢʴʣ͕૿͑Δʢʔʣ͕ݮΔʯ ͱߟ͑Δͱؒҧ͑΍͍͢ɻ มԽ͕ಉ͡ํ޲ʢʴʣ͔ٯํ޲ ʢʔʣ͔Ͱߟ͑Δɻ ⼈⼝→出⽣数︓+ ⼈⼝→医療の発展︓+ 医療の発展→死亡数︓−

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 練習問題1︓机の乱雑ループ Step1, 変数のリストアップ • 机の乱雑さ • 資料を探す時間 • 机を整理する時間 • 仕事にかけられる総時間 出典︓チェンジ・エージェント 現象 机の上が乱雑だと、仕事に必要な資料を探すのに時間がかかる。机に向か える総時間が限られているなか、資料探しに時間がかかると、机を整理す る時間がなくなってしまう。そうして机の上はますます乱雑に。。 Step2, 因果関係の抽出 • 机の乱雑さ→(+)資料を探す時間 • 資料を探す時間→(-)机を整理する時間 • 机を整理する時間→(-)机の乱雑さ • 机に向かえる総時間→(+)机を整理する時間

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 練習問題1︓机の乱雑ループ Step1, 変数のリストアップ • 机の乱雑さ • 資料を探す時間 • 机を整理する時間 • 仕事にかけられる総時間 机に向かえる総時間 机の乱雑さ 資料を探す時間 机を整理する時間 - + - + R 机の乱雑ループ 出典︓チェンジ・エージェント 現象 机の上が乱雑だと、仕事に必要な資料を探すのに時間がかかる。机に向か える総時間が限られているなか、資料探しに時間がかかると、机を整理す る時間がなくなってしまう。そうして机の上はますます乱雑に。。 Step2, 因果関係の抽出 • 机の乱雑さ→(+)資料を探す時間 • 資料を探す時間→(-)机を整理する時間 • 机を整理する時間→(-)机の乱雑さ • 机に向かえる総時間→(+)机を整理する時間

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 練習問題2︓交通渋滞と道路 現象 •渋滞が繰り返し発⽣すると、市⺠から渋滞緩和の要望が出され、⾏政や政治 家は道路建設によって、渋滞緩和を図る。 •ところが、それまで通勤圏でなかったところも通える範囲(通勤圏の広が り)となり、開発業者が郊外に宅地開発を⾏います。そこに、新たに⼈⼝が 流⼊、郊外の住⺠がマイカー通勤を⾏うことによって、交通量が増加。 •こうして、中⻑期には容量の増加分以上に交通量が増⼤し、都市部での渋滞 はますます悪化。 • 渋滞 • 渋滞緩和の要望 • 道路建設 • 通勤圏の広がり • 郊外の宅地開発 • 交通量 Step1, 変数リストアップ 出典︓チェンジ・エージェント Step2, 因果関係の抽出 道路渋滞→(+)渋滞緩和の要望 渋滞緩和の要望→(+)道路建設 道路建設→(-)道路渋滞 道路建設→(+)通勤圏の広がり 通勤圏の広がり→(+)郊外の宅地開発 郊外の宅地開発→(+)交通量

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 解答例 道路建設 交通量 道路渋滞 渋滞緩和の要望 通勤圏の広がり 郊外の宅地開発 B すいすい通れるループ R ⾞が増えるループ - + + + + + +

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム原型 •システムに於いて繰り返し起こる、⼀般的、象徴的、典 型的ストーリー。 •⾃⼰強化ループとバランスループの特定の組み合わせで 表現される頻出パターン。 働いている構造に⽬を向け、構造の中のレバレッジに気 づけるよう⾃分の認識を修正することができるようにな る。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 代表的なシステム原型 •「うまくいかない解決策」 •「問題のすり替わり」 •「成⻑の限界」 •「強者はますます強く」 •「共有地の悲劇」 •「遅れのある調整」 •「外部者への依存」 •「ずり落ちる⽬標」 •「エスカレート」 •「卵かニワトリか」 etc

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム原型1︓うまくいかない解決策Fix That Fail 問題状況を解決しようと対策を打つが、その対策が、意図しない結果を (ときに時間遅れを伴って)、問題状況がかえって悪くなるケース。 ⼀つの⾃⼰強化ループと⼀つのバランスループで成り⽴つ。 問題の症状 対策 もともとの問題を悪化 させる意図しない結果 システム原型 解決策 B − R 対策による改善 問題の症状 現象の例 国家経済と⾚字国債 地⽅財政の原発への依存 + + +

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB うまくいかない解決策に対する介⼊原則 ・急がば回れ 例)道路建設をすることによる道路渋滞への影響を考えてみる。 ・評価の時間軸を変える 例)複数の評価点を設ける。 対策による改善 問題の症状 短期的な評価 に固執しない

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 「うまくいかない解決策」のポイント •なぜ起こるのか •できるだけその痛みや問題を取り除こうと考えるため、根本的な原因へ の対処についてはつい後回しにしてしまう。 •悪循環の拡張プロセスに陥ると、安定したいというニーズを ⽣み出し、 応急処置を施すことで問題の症状を許容可能な レベルに戻そうとする。 •意図しない結果の予測はなぜ難しいか •応急処置を実施してから効果が表れるまでの時間的間隔 がかなり⻑い場 合、原因と結果の因果関係が⾒えにくい。 •⼈間は、直接的な脅威にはすぐに対応するが、⻑期間にわたって少しず つ蝕んでいくような脅威には反応が鈍い。 •⽀配的なループの変化 •応急処置を繰り返し⾏った結果、応急処置のループ(バラン スループ) から意図しない結果のループ(拡張ループ)へと、 システムを⽀配する ループが変わる。 →悪循環(デス・スパイラル)

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 代表的なシステム原型 •「うまくいかない解決策」 •「問題のすり替わり」 •「成⻑の限界」 •「強者はますます強く」 •「共有地の悲劇」 •「遅れのある調整」 •「外部者への依存」 •「ずり落ちる⽬標」 •「エスカレート」 •「卵かニワトリか」 etc

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム原型2︓問題のすり替わりShifting the Burden • 根本的解決法を知っていても、対症療法を施すことによって⼀時的に問題が軽減する ため、根本的な解決を図る意欲が低下する。しばらくすると問題が再燃、そして対症 療法、の繰り返し。対症療法の依存。 • ⼀つの⾃⼰強化ループと2つのバランスループで成り⽴つ。 短期的な対症療法の解決策が、副作⽤として根 本的な解決策の能⼒を損なってしまう 問題の症状 対症療法の場合 根本解決の場合 システム原型図 問題の症状 根本的解決 対症療法 B B 副作⽤ R + + ー ー ー +

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 問題のすり替わりに対する介⼊原則 1. 対症療法を避け、根治に徹する。 例 疲労 睡眠 コーヒー B B 覚醒効果 R + + ー ー ー +

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 「問題のすり替わり」のポイント •システム構造の特徴 •「問題のすり替わり」のシステム構造は、「うまくいかない解決 策」を発展させたものであり、不安やプレッシャーを緩和し楽にな る ことが⽬的となったときに働き始める。 • 「うまくいかない解決策」との違いは、根本的解決策が明⽰的に 組み込まれて描かれることである。 • 構造把握の困難さ •根本的解決策として、唯⼀絶対の正しいものがあるとは限らない。 ⼈の⽴場や考え⽅によって捉え⽅が異なる。 • 副次効果を特定することも難しいことがある。 •他者への依存 • 「問題のすり替わり」は、他者への依存という事態を招くことが 多 い。他者への依存が進んでいくと、中毒という最悪の状態に 陥 ることになる。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 代表的なシステム原型 •「うまくいかない解決策」 •「問題のすり替わり」 •「成⻑の限界」 •「強者はますます強く」 •「共有地の悲劇」 •「遅れのある調整」 •「外部者への依存」 •「ずり落ちる⽬標」 •「エスカレート」 •「卵かニワトリか」 etc

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム原型3︓成⻑の限界 Limits to Growth • 成功するが、成功によってシステムの限界に達し、それ以上良い結果が⽣まれなくなる。 その後、成功そのものが成功を妨げようとする。 • ⼀つの⾃⼰強化ループと⼀つのバランスループで成り⽴つ。 成績(パフォーマンス) 成績(パフォー マンス) または状況 抑制する⾏動 促進する⾏動 R B + + + ➖

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 成⻑の限界に対する介⼊原則 ポイント • 無理に成⻑を加速させない • 制約要因を⾒出し、弱める • 事前予約の仕組み • ⼀回あたり制限時間の設定 • 新規マシンの導⼊ etc… 介⼊例 総会員数 マシン利⽤者 売上 R B 販促活動 新規⼊会者 待ち時間 不満 退会者数 • 急激な成⻑は、急激な崩壊を招く可能性があることを認識する。 • 「成⻑の限界」の展開パターンを理解し、限界に達する前に対策を⽴てる。 • 成⻑の限界を仮定し、その限界を引き起こす要 因のすべてを明らかにする。 • 限界に達したら、それまで効果のあった⽅法を いったん打ち切ってみる。 あるスポーツクラブの 総会員数の伸び悩み。 + + + ー

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 成⻑の限界のポイント •システム構造の特徴 •「成⻑の限界」には拡張ループとバランス・ループの2段 階 の構造がある。 • 成⻑期においては拡張ループが機能し、その後バラン ス・ ループが⽀配的となり、成⻑する⼒が低下する。 •成⻑の限界の⽐喩的表現の例 •「アクセルを踏みながら同時にブレーキを踏む」 • 「庭の⼿⼊れをしながら雑草の種を蒔く」 •バランス・ループの発動 •成⻑が停滞し始めると、本能的に「アクセルを強く踏み込 む」ような対応が⾏われるが、これは同時に「知らずにブ レーキも踏む」こと、すなわちバランス・ループの発動に つな がる。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 代表的なシステム原型 •「うまくいかない解決策」 •「問題のすり替わり」 •「成⻑の限界」 •「強者はますます強く」 •「共有地の悲劇」 •「遅れのある調整」 •「外部者への依存」 •「ずり落ちる⽬標」 •「エスカレート」 •「卵かニワトリか」 etc

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB システム原型4︓強者はますます強くSuccess to Successful •限られた資源を求めて競争関係にあるときに⼀⽅が他⽅よりも成功 し始めるとより多くの資源を得るようになり結果として成功が続き やすく。 •2つの⾃⼰強化ループで成り⽴つ。 成功数 Aの成功 Bの成功 Aの活動 の成功 BではなくAに配分 されるリソース Bの活動 の成功 R R

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 強者はますます強くに対する介⼊原則 多様性を⾼める 例)特定のプレイヤに固定されないよう新規参⼊障壁を下げる 機会の平等を確保する 例)敗者復活戦制度の導⼊ 成功数 Aの成功 Bの成功 選⼿Aの 強化体制 A選⼿への資⾦ Bの成績 R R 選⼿Aの成績 選⼿Bの 強化体制

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 練習問題3 次のシナリオのシステムループ図を作成し、 背後にあるシステム原型を特定せよ。 • ある電⼦機器メーカーが新製品を発売した。この製品は他社の既存製品とは⼀線を画す画 期的な製品であったため、⾶ぶように売れていった。 • 同社は得た利益をもとに機器の性能向上や製品の販売努⼒を重ね、さらに売上は上昇して いったが、その反⾯、製品のサポートや製造が追いつかなくなってきた。 • そこで、サポート体制や⽣産体制強化の必要性を感じ、対応を始めたが、それが実現する までには時間がかかるという事実を⽢く⾒ていたため、その間に商品の売れ⾏きは悪化し ていった。 • その結果、投資を削減することに決めたが、この決定が他社との競争に負け、企業の衰退 へと繋がることになってしまった。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 成⻑の限界 売上 サポート体制/⽣産 体制への対応 機器の性能向上や 製品の販売努⼒ R B 売上 投資 ループ図例 介⼊例 機器の性能向上や製品の販売努⼒ サポート/⽣産体制の時間遅れの改善 サポート/⽣産体制への投資 利益

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 本⽇の授業内ワーク提出 •以上、授業中に説明した3つの練習問題を、写真もしく はスキャンして提出してください。 •練習問題なので、正解と⼀致している必要はありません。 •講義参加状況の把握にも⽤います。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 全ての原型において共通する介⼊原則 •因果関係の背後にあるメンタルモデルを疑う。 •なぜこの因果の発想が⽣まれたのだろうか。 •他の関係は思いつかなかったのだろうか。だとしたらその背後にあるメ ンタルモデルはなにか。 •そもそもこの関係は普遍的に成り⽴つのだろうか。 市⺠(渋滞を緩和させるには 政治に訴える以外に⽅法はな いはずだ) 政治家(市⺠の希望をそ のまま無批判に実⾏すれ ば次の選挙も勝てるに違 いない)

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB まとめ •⾃然界はもとより⼈間による仕組みもすべてシステムで、 ⽬に⾒えない構造でつながっている。 •⼈は全員システムの中の⼀員(評論家でなく当事者)で ある。 •当事者意識を持たないと組織(システム)に悪循環を与 え続ける。 ⾃分の⼩さな⾏動がシステムに影響を与えていることを ⾃覚する。

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB 課題 •2つ以上のシステム原型の組み合わせから構成される、 社会問題or⾝の回りの現象をループ図で表現せよ。 •またその介⼊策(レバレッジポイント)を提案せよ。 •分量︓スライド(PPT or Google スライド) 1枚。 •提出締切︓2022年7⽉7⽇23:55 JST • (来週講義冒頭で発表いただくかもしれません。)

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講義資料: https://bit.ly/37rqoPB •次回(第13回︓最終回)は7/8 (⾦) 10:25- です。 •これまでの本講義についての感想/コメントなど、メー ルをいただけると嬉しいです。 •良い週末をJ 講義資料︓https://bit.ly/37rqoPB 連絡先︓[email protected] 47