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デフスポーツにおける支援技術 〜競技特性・ルールと技術との関係〜

デフスポーツにおける支援技術 〜競技特性・ルールと技術との関係〜

このスライドは日本音響学会第151回研究発表会での招待講演にて発表されたものです.

日本音響学会第151回研究発表会:https://acoustics.jp/annualmeeting/program/
日本音響学会第151回研究発表会 講演論文集:http://hdl.handle.net/10460/0002000113

要旨:
デフスポーツは,ろう・難聴者のみが参加するスポーツのことを指し,聴覚的な合図に代えて視覚的な合図を使用する点を除き,一般的なスポーツと同様に行われている.また,ろう・難聴者がスポーツに参加する際の支援技術については,数は多くないものの,研究開発がなされている.しかしながら,代替技術としての支援技術がほとんどであり,各スポーツのルールや場面に特化した技術とは何かを考慮して開発された事例は我々が知る限り存在しない.そこで,我々は陸上競技短距離走のルールと使用場面に特化した方法として,スタート合図を触覚情報で直接提示するシステム“HaptStarter”を2016 年から開発している.

今回はデフスポーツにおける支援技術を複数の事例を取り上げるとともに,競技特性,ルール,技術との関係に着目しつつデフスポーツとはなにかを聴講者一同と共に考えていきたい
引用形式:
白石 優旗,設楽 明寿,デフスポーツにおける支援技術 〜競技特性・ルールと技術との関係〜,日本音響学会講演論文集,Vol. 2024春季,pp. 1353 - 1354,2024

Shiraishi Lab

March 07, 2024
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Transcript

  1. Shiraishi Lab 4 http://www.dea fl ympics.com/ 1924年 初めて開催(名称:国際ろう者競技大会) ※ パラリンピック(1948年)よりも歴史があると言われている

    1967年 世界ろう者競技大会(World Games of the Deaf)に変更 2001年 国際オリンピック委員会(IOC)の承認で,デフリンピックに変更 夏季 2021年:ブラジル カシアスドスル 2017年:トルコ サムスン 2013年:ブルガリア ソフィア 2019年:イタリア ヴァルテッリーナ 2015年:ロシア ハンティマンシースク 2011年:スロバキア ハイタトラス(中止) 冬季 2025年,東京にて開催 2024年,トルコ アンカラにて開催 Deafymics (デフリンピック)
  2. Shiraishi Lab 5 Deafymics (デフリンピック) “Participation in the Deaflympics is

    restricted to persons who are: 9. deaf, defined as a hearing loss of at least 55dB in the better ear (3 tone frequency average of 500, 1,000 and 2,000 Hertz, ANSI 1969 standard); 10. citizen of a nation member of the ICSD; and 11. not using hearing aids or external cochlear implant aids during any Deaflympics event.” デフリンピックの規則 Approved at the 42nd ICSD Congress – September 2009 in Taipei, Chinese Taipei DG2. GENERAL INFORMATION - 8 DG23. AUTHORITY & JURISDICTION (REFEREES, UMPIRES, & JUDGES) - 3 “The competition rules for each sport shall be those of the International Federations as amended where visual cues are to be used in place of auditory cues.” http://https://www.dea fl ympics.com/icsd/dea fl ympics-regulations
  3. Shiraishi Lab 6 株式会社ニシ・スポーツ, 光刺激スタート発信装置, https://www.nishi.com/category/track-and- fi eld/post.html デフスポーツと支援技術・テクノロジーとの関連 光刺激スタートシステム

    2011年 開発・普及活動が始まる1 [1] 青山利春,竹見昌久,岡本三郎,「光刺激スタートシステム」の開発・普及活動の取り組み,   聴覚障害,Vol. 67, No. 743, pp. 21-26, 2013 2021年 World Athletics2, 日本陸上競技連盟3の競技規則に追記 [2] World Athletics,15. Starting Blocks,World Athletics Technical Rules,pp. 19-20,2024 [3] 公益財団法人日本陸上競技連盟,TR 15. スターティング・ブロック,日本陸上競技連盟競技規則, 第3部 トラック競技,pp. 129-131,2023 
  4. Shiraishi Lab 7 デフスポーツと支援技術・テクノロジーとの関連 その他 試合中に使用) 穂苅らの報知・通知システム4 [4] 穂苅他,聴覚障害者スポーツのための報知・警告システムの開発,スポーツ産業学研究,Vol. 25,

    No. 1, 2015 ・スポーツ全般に用いる笛の音を識別,選手へ振動提示 いずれも「代替技術」としての支援技術の事例 練習中に使用) 聴覚障がい者向けスポーツ上達支援デバイス5 [5] 2020年度未踏IT人材発掘・育成事業: 2020年度採択プロジェクト(森田・籾山・栃本PJ), 聴覚障がい者向けスポーツ上達支援デバイス, https://jinzaiipedia.ipa.go.jp/mitou_ipedia/ development_result/post/4651 ・卓球を対象,ラケットにボールが当たった際の触覚提示  (当たった場所によって振動パターンが変わる) 各スポーツの試合中のルールや場面に特化した技術は考慮されていない?
  5. Shiraishi Lab 8 1) 反応時間では,不利6 約30ms程遅れる(記録上でも差が出やすい数値) [6] 伊福部達,発音訓練における感覚代行,人間工学,Vol.16,Nno.1,pp.5-17,1980 Haptic T(Time)

    Auditory Visual 10ms T=0 (Standard) 20ms 30ms About 5ms slower About 30ms slower 課題(陸上競技短距離走の場合) 2) 視覚刺激提示における目瞬きの考慮7 [7] 吉田茂,朴寅圭,瞬目による握力反応時間の遅延,筑波大学体育科学系紀要, Vol. 22,pp. 109-117, 1999 3) ウェアラブルデバイスの着用行為は「助力行為」に該当?
  6. Shiraishi Lab 10 HaptStarter 2016年-2017年 2017年-2018年 2018年-2019年 振動モーター固定方式 振動モーター固定方式 ソレノイド活用方式

    ソレノイド活用方式 研究開発の過程 研究として取り組み始めたのは,設楽が学部3年次の冬の時(2016年)
  7. Shiraishi Lab 13 Olympics Paralympics ? ? 「ユニバーサルデザイン」とは? デフスポーツの意義とは? https://www.joc.or.jp/sports/athletics_track.html

    https://www.yomiuri.co.jp/olympic/ paralympic2020/20210902-OYT1T50235/ https://www.nikkansports.com/olympic/tokyo2020/ paralympic/news/202108300000311.html
  8. Shiraishi Lab 15 1) 身体能力(体力診断テスト・運動能力テスト)は聴覚障害の影響を受けているとは 言えない8 [8] 斉藤まゆみ, 聴覚障害者の体力・運動能力と視機能, 障害者スポーツ科学,

    Vol.9, No.1, pp.3-14, 2011 2) ろう・難聴選手の走行中の接地音等の環境音情報欠落問題9 [9] 榎本優子,斉藤まゆみ,棒高跳びにおいてデフアスリートが活用できる情報の検討:デフポールボルターを 対象としたケーススタディ,アダぷテッド体育・スポーツ学研究,Vol. 1, No. 1, pp. 34-37, 2015 3) ろう・難聴選手のコミュニケーションの問題10 [10] Trish Palmer, Kathleen M Weber, The Deaf Athlete, Current Sports Medicine Report, Vol. 5, No. 6, pp. 323-326, 2006 一般スポーツ パラスポーツ デフスポーツ ルール (基準) 一部改変 同等 補助具の使用 原則禁止 一部許可 原則禁止 競技環境の整備 (基準) 一部変更 同等 差異の視認性 (基準) あり ほぼなし デフスポーツ再考
  9. Shiraishi Lab 16 デフスポーツ再考 ྫɿσϑόεέͷऔΓ૊Έ 1) αΠϯόεέοτϘʔϧ11 [11] B-BALLY’d(ビバリード),サインバスケとは,サインバスケットボール(sign basketball),

        https://b-bally-d.com/signbasketball/ 2) ੠ग़͠όΠΦϨʔγϣϯ12 [12] 特定非営利活動法人日本バスケットボール協会,声出しバイオレーション動画(最新),     https://youtu.be/7DS1hBhZWOY?si=OGWWElD4S6NnPxLA Ի͕͋·Γग़ͳ͍όεέοτϘʔϧ13 [13] Wilson Sporting Goods, Airless Gen1 Basketball, https:// www.wilson.com/en-us/explore/basketball/airless-prototype
  10. Shiraishi Lab 17 おわりに まとめ σϑεϙʔπͷݱঢ়ʹ͍ͭͯ ௌ֮తͳ߹ਤʹ୅͑ͯʮࢹ֮తͳ߹ਤΛ࢖༻ʯ͢Δ఺Λআ͖ɺ Ұൠతͳεϙʔπͱಉ༷. ఏҊ1) ڝٕಛԽࢧԉٕज़ɿσϑεϙʔπͷ৽ͨͳඪ४΁

    ʮ୯ͳΔ୅ସٕज़ʯ͚ͩͰ͸ෆे෼Ͱ͋Γɺ ֤εϙʔπͷࢼ߹தͷϧʔϧ΍৔໘ʹಛԽ͢Δඞཁ͕͋ΔͷͰ͸ ఏҊ2) จԽͱ਎ମੑʹجͮ͘ڝٕ؀ڥ࠶ઃܭɿσϑεϙʔπͷະདྷ Ζ͏ऀͷจԽ΍਎ମੑʹదͨ͠ڝٕ؀ڥ΍ϧʔϧͱ͸Կ͔Λ ʮ౰ࣄऀͱͱ΋ʯʹվΊͯߟ͍͑ͯ͘ඞཁ͕͋ΔͷͰ͸
  11. Shiraishi Lab 18 おわりに 音響学の視点からデフスポーツへ貢献への提案 1) Ζ͏ऀͱௌऀͱͷ਎ମੑͷࠩҟ Ի੠৘ใͷ༗ແʹΑΔ਎ମಈ࡞ߦҝ΁ͷӨڹ etc. 2)

    τϨʔχϯάʹ͓͚ΔϑΟʔυόοΫ ਎ମಈ࡞εΩϧͷ޲্΁ͷԻ੠৘ใͷ୅ସखஈ etc. 3) εϙʔπʹ͓͚ΔԻ৘ใ͕༩͑Δҙຯ ؀ڥԻ͕΋ͨΒ͢৘ใ etc. ྫ1ʣഎޙ͔Βഭͬͯ͘ΔͷΛ଍ԻͰ൑அ ྫ2ʣଧͬͨϘʔϧͷԻͰ൑அ 4) ڝٕ؀ڥ΁ͷݟ௚͠ Ի৘ใͷ༗ແʹΑͬͯɼϧʔϧ΁ͷӨڹͷ༗ແ etc.
  12. Shiraishi Lab 20 • 先天性ろう(混合性難聴) • ろう文化や手話は大学入学から • 陸上競技歴13年(小5〜修士2) •

    筑波技術大学大学院 技術科学研究科 産業技術学専攻 修了(工学) • 金メダリスト(4×100m Relayメンバー) in the 2017 Dea fl ympics in Samsun 設楽 明寿 したら あきひさ *Dea fl ympics ௌ֮ো֐ऀͷͨΊͷΦϦϯϐοΫ ʲϓϨεϦϦʔεʳ29೔ͷڝٕ݁Ռɾࣸਅɼ ୈ23ճՆقσϑϦϯϐοΫڝٕେձ αϜεϯ2017ɼ શ೔ຊΖ͏͋࿈ໍεϙʔπҕһձɼ https://www.jfd.or.jp/sc/samsun2017/arc/2431 
  13. Shiraishi Lab 21 ろう・難聴者向け アクセシビリティワークショップ HaptStarter 手話認識 手話ユーザーインターフェース 警告音認識 機械学習を活用したワークショップ

    See-Through Captions 音声認識活用事例の紹介 Smartphone Drum Air Talk-Starter 博士課程学生            研究員
  14. Shiraishi Lab 23 HaptStarter 1) ソレノイド ・立ち上がり時間: 平均 8.7ms (標準偏差

    0.64ms) ・振動強度(加速度): 平均 1223.7mg (標準偏差 64.10mg) 加速度測定(加速度センサ ADXL345),1ms単位で測定,10回測定値の平均 ・ストローク距離: 2mm 10ms T=0 (Standard) 20ms 100ms 110ms 120ms 130ms 10500ms 10510ms 10520ms 5ms 30ms T(Time) Start Signal Visual Stimulus (Light Stimulus) Haptic Stimulus (Proposed System) Auditory Stimulus (Pistol Sound) Visual Stimulus (Light Stimulus) Haptic Stimulus (Proposed System) Auditory Stimulus (Pistol Sound) Response Time Reaction Time
  15. Shiraishi Lab 24 HaptStarter 2) インターフェース ・3種類をボタン押しによる反応時間計測で比較 (a1) (b) (c)

    Contact Surface 2.0 mm Core of Solenoid 9.0 mm 0.0 mm 2.0 mm 4.0 mm Solenoid (a2) Contact Interface * * * * * * * * Types of stimulus Push-type (2 mm) Time (ms) 196.3 (37.9) 177.9 (33.6) 183.5 (42.3) 178.9 (37.1) 178.2 (32.1) 183.9 (35.3) 192.6 (49.1) 0 50 100 150 200 250 400 300 350 450 Push-type (0 mm) LED-type Push-type (4 mm) Pad Joint Pad Joint Pad Joint
  16. Shiraishi Lab 25 HaptStarter 3) クラウチングスタートによる反応時間計測 0 10 20 30

    40 50 100 | 109 110 | 119 120 | 129 130 | 139 140 | 149 150 | 159 160 | 169 170 | 179 180 | 189 190 | 199 200 | 209 210 | 219 220 | 229 230 | 239 240 | 249 250 | 259 260 | 269 270 | 279 280 | 289 290 | 299 300 | 309 310 | 319 320 | 329 330 | 339 340 | 349 350 | 359 360 | 369 370 | 379 380 | 389 390 | 399 400 | 409 410 | 419 420 | 429 430 | 439 440 | 449 450 | 459 0 | 9 10 | 19 20 | 29 30 | 39 40 | 49 50 | 59 60 | 69 70 | 79 80 | 89 90 | 99 Reaction time (ms) Number Push LED Mean Standard deviation 206.0 5.9 221.1 6.9 [ms]
  17. 今後の展開(案) ৽͍͠ΞΠσΞ͕ੜ·ΕΔՄೳੑ ৽͍͠σϑεϙʔπ΋…ʁ • ໌੖ֶԂɼ5005ͱͷ࿈ܞʁ 明晴学園,https://www.meiseigakuen.ed.jp/ 視覚で世界を捉える人々のためのワーキング・プレイス 5005, https://5005place.com/ 明晴学園:

     バイリンガル・バイカルチュラルろう教育  日本手話と日本語,ろう文化と聴文化 ろう者の身体性を一般人と比較した上で 競技環境やルールを 当事者と話し合いながら設計する場 ろう児が集まる場で自然と生まれた遊びを 見つけ出すフィールドワーク
  18. Shiraishi Lab 27 身体性に関する話題 xDiversity ͷεϐϯΦϑγϯϙδ΢Ϝاը xTalk ʹͯɼ ख࿩ͰޠΓ߹͏ձΛ2ճ࣮ࢪɽ ͲͪΒ΋਎ମੑʹؔ͢Δ࿩୊͕ڍ͕͍ͬͯͨ

    ʲxTalk #32ʳ ຀ݪґཬ×Ꮠݟཅࢠ×ઃָ໌ण / JST CREST xDiversity (ख࿩௨༁͋Γ), https://www.youtube.com/watch?v=31-B fl CxReU&t=37s ʲxTalk #28ʳ খ໺޿༞×ಹਢөཬ×ઃָ໌ण / JST CREST xDiversity (ख࿩௨༁͋Γ), https://www.youtube.com/watch?v=K9zcorbhW5M&t=27s
  19. Shiraishi Lab 28 社会背景とテクノロジーとの関係 ろう・難聴者 聴文化 文化的慣習行為 口話 人工内耳 /

    補聴器 音声認識 政策,教育,医学等でマジョリティに偏りがち テクノロジーもそれらの背景に影響をもろ受けてしまっている?